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王都を離れて三日。
私――リリアンは、アステリア王国の国境を越える馬車の中にいた。
窓の外には、見渡す限りの緑。
広がる丘陵地帯に、光がゆっくりと降り注ぐ。
冬の始まりだというのに、アステリアの空気はどこか柔らかくて、心がほぐれていくようだった。
「この景色を見ると、ようやく実感が湧くわね……」
隣で馬車の揺れに合わせて書類を整理していたレオン殿下――いえ、今は“レオン様”が、顔を上げて微笑んだ。
「ようやく、君が自由になる場所だ。
この国では、貴族の身分よりも、実力がすべて。君の力はきっと高く評価される」
「そうだといいけれど……少し、緊張しますね」
「大丈夫。俺がついている」
その言葉に、胸の奥がかすかに熱くなった。
あの日、王の前で毅然と立った私を守るように隣に立ってくれた彼の姿――あの時から、何かが変わった気がする。
私は彼を“殿下”ではなく、“レオン”と呼ぶようになり、
彼もまた私を“ウィンスレット嬢”ではなく、“リリアン”と呼ぶようになった。
少しずつ、少しずつ。
距離が近づいていく。
アステリア王立魔導研究院。
白い大理石の塔が連なり、中央に巨大な魔力結晶が浮かぶ光景は、まるで異世界のようだった。
魔導技術ではこの国が最も進んでいると聞いてはいたけれど――実際に目にすると、言葉を失う。
「ようこそ、ウィンスレット嬢。いや、“リリアン博士”とお呼びすべきかな?」
出迎えてくれたのは、研究院長のシエル博士。
柔らかな笑みと知的な眼差しの女性で、噂に聞いていた通り、アステリア随一の頭脳を持つ人だった。
「博士だなんて……そんな、私はまだ――」
「謙遜は不要よ。あなたの魔導器《ルミナ・ハート》の論文は、こちらでも話題になっているわ。
魔力の波形を“感情”に反応させるなんて、従来の理論を根底から覆した。あれは、王宮でも絶賛されているの」
「……そう、ですか」
胸の奥がじんわりと温かくなる。
あの日、王都で“危険な研究だ”と罵られ、婚約を破棄された研究が――
この国では“称賛”されている。
それだけで、涙が出そうだった。
「リリアン、君の研究室はこの棟の二階だ。案内しよう」
と、レオンが微笑む。
私が王国では“異端”だったように、レオンもまた、アステリアでは少し異端な存在らしい。
王族でありながら政治ではなく魔導技術を学び、研究院に籍を置いている。
だからこそ、私のような存在を理解してくれたのだろう。
研究室に案内され、机に並んだ魔導具を見渡す。
すべてが整えられ、歓迎の意がこもっていた。
「……本当に、ここに来てよかった」
「それは俺のセリフだ。君が来てくれて、アステリアの未来は明るい」
レオンが微笑む。
その笑みが、どこか寂しげに見えたのは気のせいだろうか。
「レオン様?」
「いや……少し気がかりなことがあってね。
国境で、“不審な影”がいくつか報告されている。もしかすると、君を追って――」
「……アルフレッド?」
その名前を口にした瞬間、胸がきゅっと締めつけられる。
もう終わったはずの名前なのに。
けれどレオンは、静かに頷いた。
「彼は、君を失ってから急速に行動を起こしている。
自国の許可もなく王都を離れ、今は消息不明。……恐らく、君のいるこの国へ」
「……そんなこと、してどうするつもりなの」
「後悔は、時に人を狂わせるものだ。特に――君のような存在を手放した男ならね」
レオンの言葉が低く響く。
私は唇を噛んだ。
ざまあ、という言葉では言い表せない複雑な感情が胸に渦巻く。
もう関わりたくない。
でも、もし彼が“自分の過ちを知らないまま”なら――それも癪だった。
「……来るなら、来ればいいわ。
私はもう、“誰かの影”で生きるつもりはないから」
その決意に、レオンが目を細めた。
「君は本当に強い。……けれど、気をつけて。俺は、君を失いたくない」
その言葉が、まるで告白のように響いた。
胸が熱くなって、目を逸らすことしかできなかった。
数日後――。
研究院での生活は想像以上に充実していた。
魔導器の理論について自由に語れる仲間がいて、実験を手伝ってくれる助手もいる。
中でも、若手研究員のノエルは明るくて親切な青年で、よく私に質問をしてくる。
そんな彼の存在もあって、研究室はいつも活気に満ちていた。
「博士、この魔力の偏り、もう少し右側の水晶を調整すれば安定すると思います!」
「いいわね、ノエル。その発想、すごくいいわ」
「本当ですか!? やった!」
無邪気に笑うノエルを見て、思わず頬が緩む。
ふと、ガラス越しに視線を感じて振り向くと――。
廊下の奥に、レオンの姿があった。
彼は黙ってこちらを見ていた。
けれどその表情は、どこか複雑で、少しだけ険しい。
私とノエルが楽しそうに話していたのが気に入らなかったのだろうか。
扉を開けて入ってきた彼の声は、いつになく低かった。
「リリアン、話がある。……少し外に出よう」
研究員たちが息を呑む。
私は戸惑いながらも頷き、レオンに連れられて研究棟の外へ出た。
夜風が頬を撫でる。
静かな中庭。
レオンはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと口を開いた。
「……君は、誰にでもそうやって笑うのか?」
「え?」
「ノエルと話しているときの君の顔……俺が見たことのない顔だった」
「……嫉妬してるの?」
冗談めかして言うと、レオンの瞳が一瞬だけ揺れた。
「もし、そうだとしたら?」
「――困ります。だって、私はまだ誰のものでもありませんから」
そう返すと、レオンは苦笑した。
けれど、その瞳の奥には、確かに“独占欲”が宿っていた。
「君は本当に残酷だ、リリアン。
そんな瞳で微笑んで、平然と俺の理性を試すなんて」
そう言いながら、一歩、距離を詰めてくる。
心臓が跳ねる。
彼の指先が頬に触れそうになった瞬間――。
「――リリアン様っ!!」
息を切らせたノエルが駆け込んできた。
その表情は、青ざめている。
「国境警備隊から連絡が……“王国の使者”を名乗る者が、無断でこの国に侵入しました!
しかも、彼が――彼が“リリアン・ウィンスレットを連れ戻す”と叫んでいるそうです!」
「……!」
空気が凍りついた。
レオンが一瞬で表情を変える。
「やはり来たか……!」
「アルフレッド……!」
胸の奥に、燃えるような感情が込み上げた。
恐怖でも不安でもない。
――闘志だった。
「いいわ。逃げも隠れもしない。
彼が来たなら、今度こそ、全部終わらせてあげる」
その決意を込めて、私は研究院の上着を脱ぎ捨てる。
背中に光る《ルミナ・ハート》の魔導器が淡く輝いた。
それは、私を“釣り合わない”と言った男が捨てたもの。
そして今、私を“認めた”世界で最も美しく光っている。
夜。国境の砦。
炎のように揺れる松明の中、アルフレッドは荒れた表情で剣を握っていた。
髪は乱れ、瞳には焦燥が滲む。
「リリアン……リリアンはどこだ……!」
彼の声に、誰も答えない。
そこへ、ゆっくりと歩み出たのは――レオン。
「ここにいるのは“王国の裏切り者”だけだ。帰れ、グレイス侯」
「黙れ! お前にリリアンを渡すものか!」
「“渡す”だと? ――彼女は、もう誰の所有物でもない」
静かな声。
それが、炎の音に溶けていく。
そして、夜空を裂くように光が走った。
塔の上。
魔導器を展開した私が、月光の中で立っていた。
「アルフレッド・グレイス。
あなたに釣り合うために努力してきた私を、
“無価値”と切り捨てたあの日――私の中の何かは、確かに死んだの。
でもね、
あの時死んだのは、“あなたに縋る私”だけよ」
「リリアン……っ!」
その声に、私は微笑んだ。
どこまでも冷たく、どこまでも強く。
「――さあ、思い知りなさい。
“釣り合わない”とは、こういうことよ」
私――リリアンは、アステリア王国の国境を越える馬車の中にいた。
窓の外には、見渡す限りの緑。
広がる丘陵地帯に、光がゆっくりと降り注ぐ。
冬の始まりだというのに、アステリアの空気はどこか柔らかくて、心がほぐれていくようだった。
「この景色を見ると、ようやく実感が湧くわね……」
隣で馬車の揺れに合わせて書類を整理していたレオン殿下――いえ、今は“レオン様”が、顔を上げて微笑んだ。
「ようやく、君が自由になる場所だ。
この国では、貴族の身分よりも、実力がすべて。君の力はきっと高く評価される」
「そうだといいけれど……少し、緊張しますね」
「大丈夫。俺がついている」
その言葉に、胸の奥がかすかに熱くなった。
あの日、王の前で毅然と立った私を守るように隣に立ってくれた彼の姿――あの時から、何かが変わった気がする。
私は彼を“殿下”ではなく、“レオン”と呼ぶようになり、
彼もまた私を“ウィンスレット嬢”ではなく、“リリアン”と呼ぶようになった。
少しずつ、少しずつ。
距離が近づいていく。
アステリア王立魔導研究院。
白い大理石の塔が連なり、中央に巨大な魔力結晶が浮かぶ光景は、まるで異世界のようだった。
魔導技術ではこの国が最も進んでいると聞いてはいたけれど――実際に目にすると、言葉を失う。
「ようこそ、ウィンスレット嬢。いや、“リリアン博士”とお呼びすべきかな?」
出迎えてくれたのは、研究院長のシエル博士。
柔らかな笑みと知的な眼差しの女性で、噂に聞いていた通り、アステリア随一の頭脳を持つ人だった。
「博士だなんて……そんな、私はまだ――」
「謙遜は不要よ。あなたの魔導器《ルミナ・ハート》の論文は、こちらでも話題になっているわ。
魔力の波形を“感情”に反応させるなんて、従来の理論を根底から覆した。あれは、王宮でも絶賛されているの」
「……そう、ですか」
胸の奥がじんわりと温かくなる。
あの日、王都で“危険な研究だ”と罵られ、婚約を破棄された研究が――
この国では“称賛”されている。
それだけで、涙が出そうだった。
「リリアン、君の研究室はこの棟の二階だ。案内しよう」
と、レオンが微笑む。
私が王国では“異端”だったように、レオンもまた、アステリアでは少し異端な存在らしい。
王族でありながら政治ではなく魔導技術を学び、研究院に籍を置いている。
だからこそ、私のような存在を理解してくれたのだろう。
研究室に案内され、机に並んだ魔導具を見渡す。
すべてが整えられ、歓迎の意がこもっていた。
「……本当に、ここに来てよかった」
「それは俺のセリフだ。君が来てくれて、アステリアの未来は明るい」
レオンが微笑む。
その笑みが、どこか寂しげに見えたのは気のせいだろうか。
「レオン様?」
「いや……少し気がかりなことがあってね。
国境で、“不審な影”がいくつか報告されている。もしかすると、君を追って――」
「……アルフレッド?」
その名前を口にした瞬間、胸がきゅっと締めつけられる。
もう終わったはずの名前なのに。
けれどレオンは、静かに頷いた。
「彼は、君を失ってから急速に行動を起こしている。
自国の許可もなく王都を離れ、今は消息不明。……恐らく、君のいるこの国へ」
「……そんなこと、してどうするつもりなの」
「後悔は、時に人を狂わせるものだ。特に――君のような存在を手放した男ならね」
レオンの言葉が低く響く。
私は唇を噛んだ。
ざまあ、という言葉では言い表せない複雑な感情が胸に渦巻く。
もう関わりたくない。
でも、もし彼が“自分の過ちを知らないまま”なら――それも癪だった。
「……来るなら、来ればいいわ。
私はもう、“誰かの影”で生きるつもりはないから」
その決意に、レオンが目を細めた。
「君は本当に強い。……けれど、気をつけて。俺は、君を失いたくない」
その言葉が、まるで告白のように響いた。
胸が熱くなって、目を逸らすことしかできなかった。
数日後――。
研究院での生活は想像以上に充実していた。
魔導器の理論について自由に語れる仲間がいて、実験を手伝ってくれる助手もいる。
中でも、若手研究員のノエルは明るくて親切な青年で、よく私に質問をしてくる。
そんな彼の存在もあって、研究室はいつも活気に満ちていた。
「博士、この魔力の偏り、もう少し右側の水晶を調整すれば安定すると思います!」
「いいわね、ノエル。その発想、すごくいいわ」
「本当ですか!? やった!」
無邪気に笑うノエルを見て、思わず頬が緩む。
ふと、ガラス越しに視線を感じて振り向くと――。
廊下の奥に、レオンの姿があった。
彼は黙ってこちらを見ていた。
けれどその表情は、どこか複雑で、少しだけ険しい。
私とノエルが楽しそうに話していたのが気に入らなかったのだろうか。
扉を開けて入ってきた彼の声は、いつになく低かった。
「リリアン、話がある。……少し外に出よう」
研究員たちが息を呑む。
私は戸惑いながらも頷き、レオンに連れられて研究棟の外へ出た。
夜風が頬を撫でる。
静かな中庭。
レオンはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと口を開いた。
「……君は、誰にでもそうやって笑うのか?」
「え?」
「ノエルと話しているときの君の顔……俺が見たことのない顔だった」
「……嫉妬してるの?」
冗談めかして言うと、レオンの瞳が一瞬だけ揺れた。
「もし、そうだとしたら?」
「――困ります。だって、私はまだ誰のものでもありませんから」
そう返すと、レオンは苦笑した。
けれど、その瞳の奥には、確かに“独占欲”が宿っていた。
「君は本当に残酷だ、リリアン。
そんな瞳で微笑んで、平然と俺の理性を試すなんて」
そう言いながら、一歩、距離を詰めてくる。
心臓が跳ねる。
彼の指先が頬に触れそうになった瞬間――。
「――リリアン様っ!!」
息を切らせたノエルが駆け込んできた。
その表情は、青ざめている。
「国境警備隊から連絡が……“王国の使者”を名乗る者が、無断でこの国に侵入しました!
しかも、彼が――彼が“リリアン・ウィンスレットを連れ戻す”と叫んでいるそうです!」
「……!」
空気が凍りついた。
レオンが一瞬で表情を変える。
「やはり来たか……!」
「アルフレッド……!」
胸の奥に、燃えるような感情が込み上げた。
恐怖でも不安でもない。
――闘志だった。
「いいわ。逃げも隠れもしない。
彼が来たなら、今度こそ、全部終わらせてあげる」
その決意を込めて、私は研究院の上着を脱ぎ捨てる。
背中に光る《ルミナ・ハート》の魔導器が淡く輝いた。
それは、私を“釣り合わない”と言った男が捨てたもの。
そして今、私を“認めた”世界で最も美しく光っている。
夜。国境の砦。
炎のように揺れる松明の中、アルフレッドは荒れた表情で剣を握っていた。
髪は乱れ、瞳には焦燥が滲む。
「リリアン……リリアンはどこだ……!」
彼の声に、誰も答えない。
そこへ、ゆっくりと歩み出たのは――レオン。
「ここにいるのは“王国の裏切り者”だけだ。帰れ、グレイス侯」
「黙れ! お前にリリアンを渡すものか!」
「“渡す”だと? ――彼女は、もう誰の所有物でもない」
静かな声。
それが、炎の音に溶けていく。
そして、夜空を裂くように光が走った。
塔の上。
魔導器を展開した私が、月光の中で立っていた。
「アルフレッド・グレイス。
あなたに釣り合うために努力してきた私を、
“無価値”と切り捨てたあの日――私の中の何かは、確かに死んだの。
でもね、
あの時死んだのは、“あなたに縋る私”だけよ」
「リリアン……っ!」
その声に、私は微笑んだ。
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