1 / 7
1
「これで、お前との婚約は破棄する!」
婚約者である王太子エドワード殿下が高らかに宣言した瞬間、広間はざわめきに包まれた。
ここは王宮の大広間。私はこの国、ルヴェンティア王国の名門貴族・リシュリー公爵家の令嬢、アリシア・リシュリー。幼い頃から王太子妃として相応しい教育を受け、礼儀作法も完璧に叩き込まれてきた。だが、今日をもってその立場を失うことになるらしい。
なぜなら、エドワード殿下は今、私の目の前で涙を浮かべる可憐な少女――男爵令嬢リリィ・エヴァンズの手を握り、熱く見つめているのだから。
「お前はこれまでリリィに対し、執拗に嫌がらせを行い、彼女を陥れようとした! もはや王太子妃として相応しくない!」
身に覚えのない罪を並べ立てられ、私はそっとため息をついた。
「アリシア・リシュリー、お前には国外追放を命じる。明日の朝までに荷物をまとめ、この国を出て行け!」
ざわめく貴族たち。中には同情のまなざしを向ける者もいたが、私はそんな視線を意に介さず、静かにエドワード殿下を見据えた。
「わかりました。ですが、一つだけ確認させてください」
「なんだ?」
「私が行ったというリリィ様への嫌がらせの証拠はございますか?」
エドワード殿下は一瞬言葉に詰まり、隣にいたリリィが慌てて口を開く。
「わ、私を信じてくださらないのですか!? 私は本当に、アリシア様にひどい目に遭わされて……」
すがるような目でエドワード殿下を見つめるリリィ。そんな彼女に、殿下は優しく微笑みかけた。
「もちろん信じているとも、リリィ。証拠などなくとも、お前がそう言うのなら、それが真実だ」
――はあ。
もう、どうでもいい。
「では、私は失礼いたします」
私は一礼し、振り返ることなくその場を後にした。
そして翌朝、私は身の回りの荷物だけを持ち、馬車に乗せられて王都を後にした。向かう先は隣国、ガルディア王国。ルヴェンティア王国とは友好関係にあるものの、文化や価値観が大きく異なる国だ。
「お嬢様……!」
御者台に座るのは、幼い頃から私に仕えてくれている侍女のマリアだ。私が国外追放になったと知るや否や、自らも同行を申し出てくれた。
「マリア、あなたまで巻き込んでしまって……」
「とんでもありません! 私はお嬢様に仕えております。どこへ行こうとも、ずっとお側におりますわ」
彼女の温かい言葉に、私は少しだけ救われる思いがした。
それにしても――
(これから、どうしようかしら)
行き先は決まっているものの、これからの生活の保障はない。だが、落ち込んでいても仕方がない。私はリシュリー公爵家の令嬢として、誇りを持って生きてきた。今さら泣き言を言うつもりはない。
「とにかく、隣国に着いたら宿を探して、それから……」
そんなことを考えていると、不意に馬車が急停止した。
「な、何事?」
「お、お嬢様、大変です!」
御者台からマリアが顔を出し、怯えた表情で叫ぶ。その視線の先には――
「……盗賊?」
道の真ん中に立ちはだかる十数人の男たち。粗末な革鎧に剣や棍棒を持ち、明らかにこちらを狙っている。
「おい嬢ちゃん、この馬車には貴族様が乗ってるんだろ?」
ニヤニヤと笑う男の一人が、いやらしい視線を向けてくる。
「おとなしく金目の物を差し出しな! さもねえと……痛い目見るぜ?」
マリアが怯え、私の腕を握る。その手を優しく叩いて宥めながら、私は静かに馬車を降りた。
「ふん、ずいぶんと度胸のあるお嬢様だな」
「そうですね。でも、私には貴方たちの要求に従うつもりはありません」
「なんだと?」
「それに――」
私は、腰の小さなナイフを抜いた。そして、その刃先をまっすぐ盗賊たちに向ける。
「あなたたちのような連中に屈するほど、私は弱くありません」
盗賊たちが一瞬動揺する。しかし、それを嘲笑うように、リーダー格らしき男が口を開いた。
「へえ、面白え。なら、俺たちが手取り足取り、可愛いお嬢ちゃんに現実を教えてやるよ!」
男たちが武器を構え、こちらへ迫ってくる。
――その瞬間。
「――そこまでだ」
鋭い声が響き渡る。
次の瞬間、何者かが馬を駆けて現れ、盗賊たちの間を駆け抜けた。
その者は長剣を振るい、一瞬のうちに盗賊たちを薙ぎ倒す。
「な、なんだこいつ……!」
盗賊たちが後ずさる。私もまた、呆然とその姿を見つめた。
――美しい、漆黒の髪。引き締まった体躯。そして、鋭い蒼色の瞳。
彼は、私を一瞥すると言った。
「貴族の令嬢がこんな場所で何をしている?」
その問いかけに、私はわずかに眉をひそめる。
「あなたこそ、どなたです?」
すると彼は、ふっと微笑んだ。
「俺か? 俺はガルディア王国の第二王子、レオン・ガルディアだ」
――え?
私は思わず息をのんだ。
まさか、隣国の王子に助けられるなんて――!?
婚約者である王太子エドワード殿下が高らかに宣言した瞬間、広間はざわめきに包まれた。
ここは王宮の大広間。私はこの国、ルヴェンティア王国の名門貴族・リシュリー公爵家の令嬢、アリシア・リシュリー。幼い頃から王太子妃として相応しい教育を受け、礼儀作法も完璧に叩き込まれてきた。だが、今日をもってその立場を失うことになるらしい。
なぜなら、エドワード殿下は今、私の目の前で涙を浮かべる可憐な少女――男爵令嬢リリィ・エヴァンズの手を握り、熱く見つめているのだから。
「お前はこれまでリリィに対し、執拗に嫌がらせを行い、彼女を陥れようとした! もはや王太子妃として相応しくない!」
身に覚えのない罪を並べ立てられ、私はそっとため息をついた。
「アリシア・リシュリー、お前には国外追放を命じる。明日の朝までに荷物をまとめ、この国を出て行け!」
ざわめく貴族たち。中には同情のまなざしを向ける者もいたが、私はそんな視線を意に介さず、静かにエドワード殿下を見据えた。
「わかりました。ですが、一つだけ確認させてください」
「なんだ?」
「私が行ったというリリィ様への嫌がらせの証拠はございますか?」
エドワード殿下は一瞬言葉に詰まり、隣にいたリリィが慌てて口を開く。
「わ、私を信じてくださらないのですか!? 私は本当に、アリシア様にひどい目に遭わされて……」
すがるような目でエドワード殿下を見つめるリリィ。そんな彼女に、殿下は優しく微笑みかけた。
「もちろん信じているとも、リリィ。証拠などなくとも、お前がそう言うのなら、それが真実だ」
――はあ。
もう、どうでもいい。
「では、私は失礼いたします」
私は一礼し、振り返ることなくその場を後にした。
そして翌朝、私は身の回りの荷物だけを持ち、馬車に乗せられて王都を後にした。向かう先は隣国、ガルディア王国。ルヴェンティア王国とは友好関係にあるものの、文化や価値観が大きく異なる国だ。
「お嬢様……!」
御者台に座るのは、幼い頃から私に仕えてくれている侍女のマリアだ。私が国外追放になったと知るや否や、自らも同行を申し出てくれた。
「マリア、あなたまで巻き込んでしまって……」
「とんでもありません! 私はお嬢様に仕えております。どこへ行こうとも、ずっとお側におりますわ」
彼女の温かい言葉に、私は少しだけ救われる思いがした。
それにしても――
(これから、どうしようかしら)
行き先は決まっているものの、これからの生活の保障はない。だが、落ち込んでいても仕方がない。私はリシュリー公爵家の令嬢として、誇りを持って生きてきた。今さら泣き言を言うつもりはない。
「とにかく、隣国に着いたら宿を探して、それから……」
そんなことを考えていると、不意に馬車が急停止した。
「な、何事?」
「お、お嬢様、大変です!」
御者台からマリアが顔を出し、怯えた表情で叫ぶ。その視線の先には――
「……盗賊?」
道の真ん中に立ちはだかる十数人の男たち。粗末な革鎧に剣や棍棒を持ち、明らかにこちらを狙っている。
「おい嬢ちゃん、この馬車には貴族様が乗ってるんだろ?」
ニヤニヤと笑う男の一人が、いやらしい視線を向けてくる。
「おとなしく金目の物を差し出しな! さもねえと……痛い目見るぜ?」
マリアが怯え、私の腕を握る。その手を優しく叩いて宥めながら、私は静かに馬車を降りた。
「ふん、ずいぶんと度胸のあるお嬢様だな」
「そうですね。でも、私には貴方たちの要求に従うつもりはありません」
「なんだと?」
「それに――」
私は、腰の小さなナイフを抜いた。そして、その刃先をまっすぐ盗賊たちに向ける。
「あなたたちのような連中に屈するほど、私は弱くありません」
盗賊たちが一瞬動揺する。しかし、それを嘲笑うように、リーダー格らしき男が口を開いた。
「へえ、面白え。なら、俺たちが手取り足取り、可愛いお嬢ちゃんに現実を教えてやるよ!」
男たちが武器を構え、こちらへ迫ってくる。
――その瞬間。
「――そこまでだ」
鋭い声が響き渡る。
次の瞬間、何者かが馬を駆けて現れ、盗賊たちの間を駆け抜けた。
その者は長剣を振るい、一瞬のうちに盗賊たちを薙ぎ倒す。
「な、なんだこいつ……!」
盗賊たちが後ずさる。私もまた、呆然とその姿を見つめた。
――美しい、漆黒の髪。引き締まった体躯。そして、鋭い蒼色の瞳。
彼は、私を一瞥すると言った。
「貴族の令嬢がこんな場所で何をしている?」
その問いかけに、私はわずかに眉をひそめる。
「あなたこそ、どなたです?」
すると彼は、ふっと微笑んだ。
「俺か? 俺はガルディア王国の第二王子、レオン・ガルディアだ」
――え?
私は思わず息をのんだ。
まさか、隣国の王子に助けられるなんて――!?
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました
黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。
古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。
一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。
追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。
愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!
家族に家から追い出されたので、悪役令嬢を矯正します!
雲乃琳雨
恋愛
「お前、悪魔が憑いているぞ」 はあ? 失礼な!
母が亡くなりすっかり我儘に育った子爵令嬢のピニオンは、社交界では悪役令嬢と呼ばれている。最近になって父が平民の再婚相手と、亡くなった母と髪と目の色が同じ義妹を連れて来た。ピニオンが反発してさらに荒れると、婚約者から婚約破棄され、義妹には怪我をさせてしまう。父に修道院で行儀見習いとして暮らすように命じられた。戻れる条件は令嬢らしくなること。
ある日、修道院で暮らすピニオンの前に、悪魔祓いの聖騎士カイゼルが現れた。悪魔が憑いていると言われる。なんて失礼な奴!
修道院から連れ戻されることもなく、放置されて3年が過ぎてしまった。すっかり平民らしくなったピニオンの前に、またカイゼルが現れた。
平民化した悪役令嬢と、悪魔のような聖騎士と、本物の悪魔が絡む恋愛未満な二人のロマンチックラブコメディ。
一章で一旦終了します。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!