婚約破棄された悪役令嬢、なぜか隣国で溺愛されてます

ほーみ

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「これで、お前との婚約は破棄する!」

 婚約者である王太子エドワード殿下が高らかに宣言した瞬間、広間はざわめきに包まれた。

 ここは王宮の大広間。私はこの国、ルヴェンティア王国の名門貴族・リシュリー公爵家の令嬢、アリシア・リシュリー。幼い頃から王太子妃として相応しい教育を受け、礼儀作法も完璧に叩き込まれてきた。だが、今日をもってその立場を失うことになるらしい。

 なぜなら、エドワード殿下は今、私の目の前で涙を浮かべる可憐な少女――男爵令嬢リリィ・エヴァンズの手を握り、熱く見つめているのだから。

「お前はこれまでリリィに対し、執拗に嫌がらせを行い、彼女を陥れようとした! もはや王太子妃として相応しくない!」

 身に覚えのない罪を並べ立てられ、私はそっとため息をついた。

「アリシア・リシュリー、お前には国外追放を命じる。明日の朝までに荷物をまとめ、この国を出て行け!」

 ざわめく貴族たち。中には同情のまなざしを向ける者もいたが、私はそんな視線を意に介さず、静かにエドワード殿下を見据えた。

「わかりました。ですが、一つだけ確認させてください」

「なんだ?」

「私が行ったというリリィ様への嫌がらせの証拠はございますか?」

 エドワード殿下は一瞬言葉に詰まり、隣にいたリリィが慌てて口を開く。

「わ、私を信じてくださらないのですか!? 私は本当に、アリシア様にひどい目に遭わされて……」

 すがるような目でエドワード殿下を見つめるリリィ。そんな彼女に、殿下は優しく微笑みかけた。

「もちろん信じているとも、リリィ。証拠などなくとも、お前がそう言うのなら、それが真実だ」

 ――はあ。

 もう、どうでもいい。

「では、私は失礼いたします」

 私は一礼し、振り返ることなくその場を後にした。



 そして翌朝、私は身の回りの荷物だけを持ち、馬車に乗せられて王都を後にした。向かう先は隣国、ガルディア王国。ルヴェンティア王国とは友好関係にあるものの、文化や価値観が大きく異なる国だ。

「お嬢様……!」

 御者台に座るのは、幼い頃から私に仕えてくれている侍女のマリアだ。私が国外追放になったと知るや否や、自らも同行を申し出てくれた。

「マリア、あなたまで巻き込んでしまって……」

「とんでもありません! 私はお嬢様に仕えております。どこへ行こうとも、ずっとお側におりますわ」

 彼女の温かい言葉に、私は少しだけ救われる思いがした。

 それにしても――

(これから、どうしようかしら)

 行き先は決まっているものの、これからの生活の保障はない。だが、落ち込んでいても仕方がない。私はリシュリー公爵家の令嬢として、誇りを持って生きてきた。今さら泣き言を言うつもりはない。

「とにかく、隣国に着いたら宿を探して、それから……」

 そんなことを考えていると、不意に馬車が急停止した。

「な、何事?」

「お、お嬢様、大変です!」

 御者台からマリアが顔を出し、怯えた表情で叫ぶ。その視線の先には――

「……盗賊?」

 道の真ん中に立ちはだかる十数人の男たち。粗末な革鎧に剣や棍棒を持ち、明らかにこちらを狙っている。

「おい嬢ちゃん、この馬車には貴族様が乗ってるんだろ?」

 ニヤニヤと笑う男の一人が、いやらしい視線を向けてくる。

「おとなしく金目の物を差し出しな! さもねえと……痛い目見るぜ?」

 マリアが怯え、私の腕を握る。その手を優しく叩いて宥めながら、私は静かに馬車を降りた。

「ふん、ずいぶんと度胸のあるお嬢様だな」

「そうですね。でも、私には貴方たちの要求に従うつもりはありません」

「なんだと?」

「それに――」

 私は、腰の小さなナイフを抜いた。そして、その刃先をまっすぐ盗賊たちに向ける。

「あなたたちのような連中に屈するほど、私は弱くありません」

 盗賊たちが一瞬動揺する。しかし、それを嘲笑うように、リーダー格らしき男が口を開いた。

「へえ、面白え。なら、俺たちが手取り足取り、可愛いお嬢ちゃんに現実を教えてやるよ!」

 男たちが武器を構え、こちらへ迫ってくる。

 ――その瞬間。

「――そこまでだ」

 鋭い声が響き渡る。

 次の瞬間、何者かが馬を駆けて現れ、盗賊たちの間を駆け抜けた。

 その者は長剣を振るい、一瞬のうちに盗賊たちを薙ぎ倒す。

「な、なんだこいつ……!」

 盗賊たちが後ずさる。私もまた、呆然とその姿を見つめた。

 ――美しい、漆黒の髪。引き締まった体躯。そして、鋭い蒼色の瞳。

 彼は、私を一瞥すると言った。

「貴族の令嬢がこんな場所で何をしている?」

 その問いかけに、私はわずかに眉をひそめる。

「あなたこそ、どなたです?」

 すると彼は、ふっと微笑んだ。

「俺か? 俺はガルディア王国の第二王子、レオン・ガルディアだ」

 ――え?

 私は思わず息をのんだ。

 まさか、隣国の王子に助けられるなんて――!?

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