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「……ガルディア王国の第二王子?」
私の口から自然と問いがこぼれた。
「そうだが、それがどうかしたか?」
レオン・ガルディアと名乗ったその青年は、漆黒の髪を風に揺らしながら盗賊たちを見下ろしている。片手には血の滴る長剣。彼が駆けつけてきたことで、先ほどまで勢いづいていた盗賊たちは完全に戦意を喪失していた。
「ひ、ひいいっ! 王族なんて聞いてねえぞ!」
「や、やばい! 逃げるぞ!」
盗賊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。レオン王子は彼らを追うこともなく、ただ呆れたように肩をすくめた。
「まったく……最近、こういう連中が増えたな」
彼はそうぼやきながら剣を鞘に収めると、改めて私の方に向き直った。
「それで、お前は誰だ?」
その問いに、私は小さく息を整え、静かに頭を下げた。
「アリシア・リシュリーと申します」
「リシュリー……ルヴェンティア王国の公爵家か?」
「はい。しかし、私はもうその身分を失いました」
そう言うと、レオン王子はわずかに目を細める。
「……なるほどな。国外追放か?」
「……お察しの通りです」
その言葉を聞いた途端、彼は「はぁ」とため息をついた。
「まったく、ルヴェンティアの王族はどうしようもないな。あれほどの名門の令嬢を追放するとは」
呆れたように言う彼の言葉に、私は少し驚いた。彼がルヴェンティア王国の政治に関心を持っていることは理解できるが、私の家名についてもそれなりに知っているとは思わなかった。
「アリシア、今後の予定は?」
「まずはガルディア王国で宿を探し、生活の基盤を整えるつもりです」
「ふむ……」
彼は私をじっと見つめ、しばらく考え込んでいたが、やがて「よし」と何かを決めたように口を開いた。
「なら、俺のところに来い」
「――え?」
「お前を保護してやると言ってるんだ」
思いもよらぬ申し出に、私は思わず目を見開いた。
それから数日後――
「……本当にここに住んでいいのですか?」
私は、ガルディア王宮の一角にある美しい離宮の一室で、途方に暮れていた。
レオン王子は私を助けた後、そのまま王都まで連れて行き、王宮の離宮の一つを私の住居として提供してくれたのだ。
普通ならありえない話だ。隣国の元公爵令嬢を保護することは、政治的な問題を生む可能性がある。しかし、レオン王子はまるで気にしていない様子で、私にここでの生活を勧めてきた。
「お嬢様! お部屋が広すぎます!」
侍女のマリアは目を輝かせながら、室内を歩き回っている。
「お風呂も大理石ですし、ベッドもふかふかですし……夢のようですわ!」
「……マリア、はしゃぎすぎよ」
とはいえ、彼女の気持ちはよくわかる。国外追放された身としては、これほどの待遇を受けることなど想像もしていなかった。
しかし――
(なぜ、レオン王子はここまでしてくれるのだろう……?)
そんな疑問が頭から離れないまま、私は自室の窓辺に立ち、外を眺めた。
そこには、美しく整えられた庭園と、青く澄んだ空が広がっている。
「……とにかく、今はこの状況を受け入れるしかないわね」
「お前が来てから、城の中が随分と賑やかになったな」
ある日の午後。私は王宮の庭園でレオン王子とお茶をしていた。
「それは……ご迷惑ではありませんか?」
「いや、むしろ歓迎するべきことだ」
彼はティーカップを傾けながら、静かに笑った。
「ルヴェンティアでは、お前は悪役令嬢として扱われていたんだろう?」
「……その通りです」
「だが、実際のお前は――」
彼はそこで言葉を区切り、じっと私を見つめた。
「冷静で、聡明で、そして何より、国を守るための力を持っている」
「……?」
彼の言葉の意図を理解できず、私は首を傾げる。
「アリシア、お前はルヴェンティア王国の内部事情について、かなり詳しいのではないか?」
「……ええ、まあ」
私は公爵家の令嬢として、政治や経済の知識を叩き込まれてきた。当然、ルヴェンティア王国の問題点や弱点も理解している。
それを察したように、レオン王子は意味深に微笑んだ。
「……お前の知識と才覚、俺のために使ってみる気はないか?」
彼の言葉に、私は驚いた。
「それは……つまり、私をガルディア王国のために働かせるということですか?」
「そういう言い方もできるが……俺はお前に、俺の右腕になってほしいと思っている」
「右腕……?」
レオン王子は真剣な目で私を見つめる。
「ガルディア王国は、今後ますます力をつけなければならない。そのためには、優れた人材が必要だ。アリシア、お前なら俺を支えることができるはずだ」
彼の言葉に、私は戸惑いを覚えた。
(私は、ただ国外追放された令嬢だったはず……なのに、なぜこんな展開に?)
しかし、レオン王子の言葉には、確かな説得力があった。
このまま隠れて生きるよりも、彼のもとで新しい道を歩むほうが、私にとっても意味のあることかもしれない――。
そう思い始めた、その時だった。
「――殿下、大変です!」
突然、騎士が駆け込んできた。
「どうした?」
「ルヴェンティア王国からの使者が到着しました!」
その言葉に、私は思わず息をのんだ。
ルヴェンティア王国が、私を追放した国が――今さら何の用なのだろう?
まさか、私を取り戻そうとしているのか?
「……ふん。面白いな」
レオン王子は不敵に笑い、私の方をちらりと見た。
「どうやら、お前の過去が追いかけてきたようだぞ?」
私は拳を握りしめ、静かに覚悟を決めた。
(私はもう、ルヴェンティア王国の令嬢ではない……でも、向き合わなければならない)
――これは、私の人生の新たな幕開けなのだから。
私の口から自然と問いがこぼれた。
「そうだが、それがどうかしたか?」
レオン・ガルディアと名乗ったその青年は、漆黒の髪を風に揺らしながら盗賊たちを見下ろしている。片手には血の滴る長剣。彼が駆けつけてきたことで、先ほどまで勢いづいていた盗賊たちは完全に戦意を喪失していた。
「ひ、ひいいっ! 王族なんて聞いてねえぞ!」
「や、やばい! 逃げるぞ!」
盗賊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。レオン王子は彼らを追うこともなく、ただ呆れたように肩をすくめた。
「まったく……最近、こういう連中が増えたな」
彼はそうぼやきながら剣を鞘に収めると、改めて私の方に向き直った。
「それで、お前は誰だ?」
その問いに、私は小さく息を整え、静かに頭を下げた。
「アリシア・リシュリーと申します」
「リシュリー……ルヴェンティア王国の公爵家か?」
「はい。しかし、私はもうその身分を失いました」
そう言うと、レオン王子はわずかに目を細める。
「……なるほどな。国外追放か?」
「……お察しの通りです」
その言葉を聞いた途端、彼は「はぁ」とため息をついた。
「まったく、ルヴェンティアの王族はどうしようもないな。あれほどの名門の令嬢を追放するとは」
呆れたように言う彼の言葉に、私は少し驚いた。彼がルヴェンティア王国の政治に関心を持っていることは理解できるが、私の家名についてもそれなりに知っているとは思わなかった。
「アリシア、今後の予定は?」
「まずはガルディア王国で宿を探し、生活の基盤を整えるつもりです」
「ふむ……」
彼は私をじっと見つめ、しばらく考え込んでいたが、やがて「よし」と何かを決めたように口を開いた。
「なら、俺のところに来い」
「――え?」
「お前を保護してやると言ってるんだ」
思いもよらぬ申し出に、私は思わず目を見開いた。
それから数日後――
「……本当にここに住んでいいのですか?」
私は、ガルディア王宮の一角にある美しい離宮の一室で、途方に暮れていた。
レオン王子は私を助けた後、そのまま王都まで連れて行き、王宮の離宮の一つを私の住居として提供してくれたのだ。
普通ならありえない話だ。隣国の元公爵令嬢を保護することは、政治的な問題を生む可能性がある。しかし、レオン王子はまるで気にしていない様子で、私にここでの生活を勧めてきた。
「お嬢様! お部屋が広すぎます!」
侍女のマリアは目を輝かせながら、室内を歩き回っている。
「お風呂も大理石ですし、ベッドもふかふかですし……夢のようですわ!」
「……マリア、はしゃぎすぎよ」
とはいえ、彼女の気持ちはよくわかる。国外追放された身としては、これほどの待遇を受けることなど想像もしていなかった。
しかし――
(なぜ、レオン王子はここまでしてくれるのだろう……?)
そんな疑問が頭から離れないまま、私は自室の窓辺に立ち、外を眺めた。
そこには、美しく整えられた庭園と、青く澄んだ空が広がっている。
「……とにかく、今はこの状況を受け入れるしかないわね」
「お前が来てから、城の中が随分と賑やかになったな」
ある日の午後。私は王宮の庭園でレオン王子とお茶をしていた。
「それは……ご迷惑ではありませんか?」
「いや、むしろ歓迎するべきことだ」
彼はティーカップを傾けながら、静かに笑った。
「ルヴェンティアでは、お前は悪役令嬢として扱われていたんだろう?」
「……その通りです」
「だが、実際のお前は――」
彼はそこで言葉を区切り、じっと私を見つめた。
「冷静で、聡明で、そして何より、国を守るための力を持っている」
「……?」
彼の言葉の意図を理解できず、私は首を傾げる。
「アリシア、お前はルヴェンティア王国の内部事情について、かなり詳しいのではないか?」
「……ええ、まあ」
私は公爵家の令嬢として、政治や経済の知識を叩き込まれてきた。当然、ルヴェンティア王国の問題点や弱点も理解している。
それを察したように、レオン王子は意味深に微笑んだ。
「……お前の知識と才覚、俺のために使ってみる気はないか?」
彼の言葉に、私は驚いた。
「それは……つまり、私をガルディア王国のために働かせるということですか?」
「そういう言い方もできるが……俺はお前に、俺の右腕になってほしいと思っている」
「右腕……?」
レオン王子は真剣な目で私を見つめる。
「ガルディア王国は、今後ますます力をつけなければならない。そのためには、優れた人材が必要だ。アリシア、お前なら俺を支えることができるはずだ」
彼の言葉に、私は戸惑いを覚えた。
(私は、ただ国外追放された令嬢だったはず……なのに、なぜこんな展開に?)
しかし、レオン王子の言葉には、確かな説得力があった。
このまま隠れて生きるよりも、彼のもとで新しい道を歩むほうが、私にとっても意味のあることかもしれない――。
そう思い始めた、その時だった。
「――殿下、大変です!」
突然、騎士が駆け込んできた。
「どうした?」
「ルヴェンティア王国からの使者が到着しました!」
その言葉に、私は思わず息をのんだ。
ルヴェンティア王国が、私を追放した国が――今さら何の用なのだろう?
まさか、私を取り戻そうとしているのか?
「……ふん。面白いな」
レオン王子は不敵に笑い、私の方をちらりと見た。
「どうやら、お前の過去が追いかけてきたようだぞ?」
私は拳を握りしめ、静かに覚悟を決めた。
(私はもう、ルヴェンティア王国の令嬢ではない……でも、向き合わなければならない)
――これは、私の人生の新たな幕開けなのだから。
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