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扉が勢いよく開かれ、王太子アレクシスが現れる。
「レティシア! 話がある!」
彼は険しい表情で私を見つめた。いやいや、あなた、私を断罪したばかりでは? 今さら何の用なのかしら。
カイルは王太子を一瞥し、私の前に立つようにして腕を組む。
「なんの用だ? 王太子殿下」
「貴様こそ、なぜレティシアと親しげにしている?」
「……お前には関係ないだろう」
カイルの冷たい声に、王太子は苦い顔をする。いや、ほんとうに、なんのつもりなのかしらね?
「私に話があるとのことですが、いったい何のご用件でしょうか?」
私が静かに問いかけると、王太子は視線をさまよわせ、しばらく黙り込んだ。そして、ようやく口を開く。
「……リリアが、お前に謝罪したいと言っている」
――はい?
一瞬、私の思考が止まる。リリアが? 私に謝罪?
「……本気で言っておられますの?」
「ああ。昨日の夜、急に『やはり私はレティシア様にひどいことをしました』と言い出してな……。お前に許しを乞いたいそうだ」
ありえない。
あのリリア・エヴァンスが? 泣きながら私を悪者に仕立て上げたあのリリアが?
「ご冗談でしょう。断罪された翌日にそんなことを言われても、信じられるわけがありませんわ」
「俺も最初は信じられなかった。だが、リリアは本当に苦しんでいるようだった……。それに、お前に冤罪を着せたのは彼女だけではなかった。何者かが裏で糸を引いていたのかもしれん」
王太子は真剣な目で私を見る。彼の言葉を聞いて、私は昨日のカイルの言葉を思い出した。
(お前を陥れたのは、王太子とリリアだけじゃない。背後にもっと大きな勢力がいる)
王太子の態度が急変したのは、その「背後の勢力」が何かしらの動きを見せたからかもしれない。
しかし、だからといって、はいそうですかと許すつもりはない。
「残念ながら、私はもう貴族社会の表舞台に立つつもりはございませんわ。リリア嬢が謝罪しようと何をしようと、関係のないことです」
「だが……!」
「王太子殿下、あなたはすでに私との婚約を破棄なさいました。つまり、私はあなたに従う義務はございません。お引き取りくださいませ」
きっぱりと告げると、王太子は苦々しい顔をしながらも、何か言いたげに口を閉じた。
「……分かった」
そう言い残し、彼は踵を返す。
扉が閉まった瞬間、私は思わずため息をついた。
「レティシア」
カイルが優しく私の肩に手を置く。
「……私はもう関わりたくないのに」
「そう言うな。どうやら、お前は思った以上に深い陰謀に巻き込まれているらしい」
「……分かっていますわ」
婚約破棄されたはずなのに、元婚約者は未練がましく絡んでくる。挙句の果てには、断罪の中心人物であるリリアが謝罪? 一体、何が起きているのかしら。
まるで、私が逃れられないかのように――。
翌日、私は社交界で思わぬ人物と再会した。
「これは驚いたな、レティシア」
微笑みながら声をかけてきたのは、隣国の第二王子、エドワード・フォン・ルーベンハルトだった。
「……エドワード殿下」
彼は優雅に手を差し出し、私の手を取る。その目には、はっきりとした興味が宿っていた。
「まさか、王太子との婚約が破棄されるとはな。君のような美しい淑女を手放すとは、アレクシスも愚かだ」
「お世辞が上手ですこと」
「お世辞ではないさ」
エドワードは私の手の甲に軽く口づけを落とす。すると、すぐそばで低い唸り声が聞こえた。
「……レティシア、お前はこいつとどういう関係だ?」
振り向けば、カイルが険しい表情でエドワードを睨んでいた。
「なんだ、騎士団長殿。そんなに警戒しなくてもいいだろう?」
「貴様がレティシアに近づく理由は分かっている。手を引け」
カイルの鋭い声に、エドワードは涼しげに微笑む。
「そうもいかないな。私は彼女に正式な求婚を申し込むつもりだから」
その言葉に、私もカイルも目を見開いた。
「求婚、ですか?」
「ああ。君はもう自由の身だ。ならば、私の隣に来ないか?」
エドワードの瞳は真剣だった。しかし、その裏に何か別の意図があることを、私は感じ取る。
「急な話ですわね」
「そうでもない。実は、君の婚約破棄の報を聞いて、すぐに動いたのさ」
エドワードの目が細められる。
「君が狙われているのは分かっている。だからこそ、私の庇護下に入らないか?」
――狙われている?
その言葉に、私の背筋が冷たくなる。
「私が……狙われている?」
「そうだ。君を陥れた勢力は、まだ動いている。婚約破棄は始まりにすぎない。次は――命を狙われる可能性もある」
私の指先がわずかに震える。
「レティシア」
カイルが私の肩を抱き寄せる。その手は温かく、安心感を与えてくれる。
「お前を守るのは俺だ。こいつの誘いに乗る必要はない」
「ふむ、そうか。それなら……俺も本気を出さざるを得ないな」
エドワードが妖艶に微笑む。
婚約破棄されたはずが、なぜか次々と求婚される状況に、私は深くため息をついた。
(……私の平穏は、一体どこへ行ってしまったのかしら?)
「レティシア! 話がある!」
彼は険しい表情で私を見つめた。いやいや、あなた、私を断罪したばかりでは? 今さら何の用なのかしら。
カイルは王太子を一瞥し、私の前に立つようにして腕を組む。
「なんの用だ? 王太子殿下」
「貴様こそ、なぜレティシアと親しげにしている?」
「……お前には関係ないだろう」
カイルの冷たい声に、王太子は苦い顔をする。いや、ほんとうに、なんのつもりなのかしらね?
「私に話があるとのことですが、いったい何のご用件でしょうか?」
私が静かに問いかけると、王太子は視線をさまよわせ、しばらく黙り込んだ。そして、ようやく口を開く。
「……リリアが、お前に謝罪したいと言っている」
――はい?
一瞬、私の思考が止まる。リリアが? 私に謝罪?
「……本気で言っておられますの?」
「ああ。昨日の夜、急に『やはり私はレティシア様にひどいことをしました』と言い出してな……。お前に許しを乞いたいそうだ」
ありえない。
あのリリア・エヴァンスが? 泣きながら私を悪者に仕立て上げたあのリリアが?
「ご冗談でしょう。断罪された翌日にそんなことを言われても、信じられるわけがありませんわ」
「俺も最初は信じられなかった。だが、リリアは本当に苦しんでいるようだった……。それに、お前に冤罪を着せたのは彼女だけではなかった。何者かが裏で糸を引いていたのかもしれん」
王太子は真剣な目で私を見る。彼の言葉を聞いて、私は昨日のカイルの言葉を思い出した。
(お前を陥れたのは、王太子とリリアだけじゃない。背後にもっと大きな勢力がいる)
王太子の態度が急変したのは、その「背後の勢力」が何かしらの動きを見せたからかもしれない。
しかし、だからといって、はいそうですかと許すつもりはない。
「残念ながら、私はもう貴族社会の表舞台に立つつもりはございませんわ。リリア嬢が謝罪しようと何をしようと、関係のないことです」
「だが……!」
「王太子殿下、あなたはすでに私との婚約を破棄なさいました。つまり、私はあなたに従う義務はございません。お引き取りくださいませ」
きっぱりと告げると、王太子は苦々しい顔をしながらも、何か言いたげに口を閉じた。
「……分かった」
そう言い残し、彼は踵を返す。
扉が閉まった瞬間、私は思わずため息をついた。
「レティシア」
カイルが優しく私の肩に手を置く。
「……私はもう関わりたくないのに」
「そう言うな。どうやら、お前は思った以上に深い陰謀に巻き込まれているらしい」
「……分かっていますわ」
婚約破棄されたはずなのに、元婚約者は未練がましく絡んでくる。挙句の果てには、断罪の中心人物であるリリアが謝罪? 一体、何が起きているのかしら。
まるで、私が逃れられないかのように――。
翌日、私は社交界で思わぬ人物と再会した。
「これは驚いたな、レティシア」
微笑みながら声をかけてきたのは、隣国の第二王子、エドワード・フォン・ルーベンハルトだった。
「……エドワード殿下」
彼は優雅に手を差し出し、私の手を取る。その目には、はっきりとした興味が宿っていた。
「まさか、王太子との婚約が破棄されるとはな。君のような美しい淑女を手放すとは、アレクシスも愚かだ」
「お世辞が上手ですこと」
「お世辞ではないさ」
エドワードは私の手の甲に軽く口づけを落とす。すると、すぐそばで低い唸り声が聞こえた。
「……レティシア、お前はこいつとどういう関係だ?」
振り向けば、カイルが険しい表情でエドワードを睨んでいた。
「なんだ、騎士団長殿。そんなに警戒しなくてもいいだろう?」
「貴様がレティシアに近づく理由は分かっている。手を引け」
カイルの鋭い声に、エドワードは涼しげに微笑む。
「そうもいかないな。私は彼女に正式な求婚を申し込むつもりだから」
その言葉に、私もカイルも目を見開いた。
「求婚、ですか?」
「ああ。君はもう自由の身だ。ならば、私の隣に来ないか?」
エドワードの瞳は真剣だった。しかし、その裏に何か別の意図があることを、私は感じ取る。
「急な話ですわね」
「そうでもない。実は、君の婚約破棄の報を聞いて、すぐに動いたのさ」
エドワードの目が細められる。
「君が狙われているのは分かっている。だからこそ、私の庇護下に入らないか?」
――狙われている?
その言葉に、私の背筋が冷たくなる。
「私が……狙われている?」
「そうだ。君を陥れた勢力は、まだ動いている。婚約破棄は始まりにすぎない。次は――命を狙われる可能性もある」
私の指先がわずかに震える。
「レティシア」
カイルが私の肩を抱き寄せる。その手は温かく、安心感を与えてくれる。
「お前を守るのは俺だ。こいつの誘いに乗る必要はない」
「ふむ、そうか。それなら……俺も本気を出さざるを得ないな」
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