悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)

ほーみ

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――王城の訓練場、その翌日。

 私は訓練場の片隅で、剣を両手に持ちながら静かに深呼吸をした。昨日の出来事がまだ頭から離れない。

 カイルの真剣な眼差し。エドワードの優雅な微笑み。そして――カイルが私の額にそっと口づけた瞬間のこと。

 私は今まで、自分が誰かに愛されるなんて思ってもみなかった。婚約破棄され、悪役令嬢として扱われ、常に誰かの憎悪の的にされてきた私が……。

 しかし、そんな私を、カイルもエドワードも大切に思ってくれている。それは、胸が締め付けられるほどに嬉しいことだった。

「レティシア」

 その声に、私は顔を上げた。

 そこにいたのは、エドワードだった。

「少し話がしたい。いいか?」

「……ええ」

 彼は私の手を取ると、訓練場の隅にあるベンチに私を座らせた。そして、自分も隣に腰を下ろす。

「昨日のこと……カイルに言われた言葉、気にしているのか?」

「……」

 私は、黙っていた。だが、その沈黙が答えになってしまったのだろう。エドワードは静かに微笑んだ。

「……君が誰を選ぶかは、君の自由だ」

「……エドワード」

「けれど、俺は君に後悔してほしくない。だから……」

 彼は私の手を優しく握った。

「俺は、君が望む限り、ずっと君のそばにいる」

 その言葉に、胸が温かくなる。

 しかし――

「おやおや、ずいぶんと仲が良さそうですわね」

 聞き慣れた声が響いた。

 私はその声の主に顔を向ける。

「……リリア」

 そこには、私から婚約者を奪った少女――リリアが立っていた。そして、その隣には王太子であるアルベルトの姿もある。

「婚約破棄されたはずのあなたが、どうしてまだ王城にいるのかしら?」

「……そんなこと、あなたには関係ないでしょう?」

「関係ない? まあ、そうですわね。でも、あなたの居場所はもうないはずでしょう?」

 リリアは嘲笑を浮かべる。

 だが、私は動じなかった。

「それは、あなたが決めることではありませんわ」

「何ですって……?」

「あなたがどれほど私を追い詰めようと、私は負けません」

 リリアの顔が、歪む。

「――あなたなんか、いなくなればいいのに!」

 その瞬間、彼女は手に隠し持っていた短剣を抜いた。

「レティシア!」

 エドワードの声が響く。しかし、私はその場から動けなかった。

 ――刃が、私の目の前に迫る。

 しかし、そのとき――。

「――甘い!」

 カイルが飛び込んできた。

 彼の剣がリリアの短剣を弾き、そのまま彼女を突き飛ばす。

「きゃっ……!」

 リリアは地面に転がり、驚愕の表情を浮かべた。

 カイルは鋭い目つきで彼女を睨む。

「……王城で騎士の目を盗んで暗殺を試みるとはな」

「う、うるさい……!」

 リリアは震えながら立ち上がる。しかし、彼女の背後からゆっくりと足音が聞こえてきた。

「……アルベルト?」

 王太子が、冷ややかな視線をリリアに向けていた。

「リリア、お前……レティシアを殺そうとしたのか?」

「ち、違いますわ! 私はただ……!」

「もういい」

 アルベルトは静かに、そしてはっきりと言った。

「俺は、お前との婚約を破棄する」

「――え?」

 リリアの顔が青ざめる。

「そんな……いや! 嘘でしょう!? 私を愛しているはずじゃ……!」

「違ったようだな」

 アルベルトの声は冷たかった。

 リリアはその場に崩れ落ちる。

「……お前は、ただの妄想に溺れていただけだ」

 そして――彼女は衛兵に連れて行かれた。

 その場に残った私は、ただ静かに息を吐く。

 そして、そっとカイルとエドワードを見つめた。

「……ありがとう」

 彼らは私を守ってくれた。最後の最後まで。

「お前が無事で良かった」

 カイルが私の肩を抱く。

「君が生きていて、本当に良かった」

 エドワードもまた、私の手を握る。

 そして――

 私は、彼らのうちの一人を選ぶことにした。

――私は、カイルの手を取った。

「カイル……私は……」

「レティシア……」

 彼は私を強く抱きしめ、そっと囁いた。

「ずっと、お前を守りたかった」

「私も……あなたに守られるだけじゃなく、あなたと一緒にいたい」

 カイルは微笑み、そして――。

 彼の唇が、私の唇にそっと重なった。

 静かで、けれど確かなぬくもりのあるキスだった。

 私は、もう悪役令嬢ではない。

 私は、私として――愛されることを選んだのだから。

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