7 / 7
7
しおりを挟む
――王城の訓練場、その翌日。
私は訓練場の片隅で、剣を両手に持ちながら静かに深呼吸をした。昨日の出来事がまだ頭から離れない。
カイルの真剣な眼差し。エドワードの優雅な微笑み。そして――カイルが私の額にそっと口づけた瞬間のこと。
私は今まで、自分が誰かに愛されるなんて思ってもみなかった。婚約破棄され、悪役令嬢として扱われ、常に誰かの憎悪の的にされてきた私が……。
しかし、そんな私を、カイルもエドワードも大切に思ってくれている。それは、胸が締め付けられるほどに嬉しいことだった。
「レティシア」
その声に、私は顔を上げた。
そこにいたのは、エドワードだった。
「少し話がしたい。いいか?」
「……ええ」
彼は私の手を取ると、訓練場の隅にあるベンチに私を座らせた。そして、自分も隣に腰を下ろす。
「昨日のこと……カイルに言われた言葉、気にしているのか?」
「……」
私は、黙っていた。だが、その沈黙が答えになってしまったのだろう。エドワードは静かに微笑んだ。
「……君が誰を選ぶかは、君の自由だ」
「……エドワード」
「けれど、俺は君に後悔してほしくない。だから……」
彼は私の手を優しく握った。
「俺は、君が望む限り、ずっと君のそばにいる」
その言葉に、胸が温かくなる。
しかし――
「おやおや、ずいぶんと仲が良さそうですわね」
聞き慣れた声が響いた。
私はその声の主に顔を向ける。
「……リリア」
そこには、私から婚約者を奪った少女――リリアが立っていた。そして、その隣には王太子であるアルベルトの姿もある。
「婚約破棄されたはずのあなたが、どうしてまだ王城にいるのかしら?」
「……そんなこと、あなたには関係ないでしょう?」
「関係ない? まあ、そうですわね。でも、あなたの居場所はもうないはずでしょう?」
リリアは嘲笑を浮かべる。
だが、私は動じなかった。
「それは、あなたが決めることではありませんわ」
「何ですって……?」
「あなたがどれほど私を追い詰めようと、私は負けません」
リリアの顔が、歪む。
「――あなたなんか、いなくなればいいのに!」
その瞬間、彼女は手に隠し持っていた短剣を抜いた。
「レティシア!」
エドワードの声が響く。しかし、私はその場から動けなかった。
――刃が、私の目の前に迫る。
しかし、そのとき――。
「――甘い!」
カイルが飛び込んできた。
彼の剣がリリアの短剣を弾き、そのまま彼女を突き飛ばす。
「きゃっ……!」
リリアは地面に転がり、驚愕の表情を浮かべた。
カイルは鋭い目つきで彼女を睨む。
「……王城で騎士の目を盗んで暗殺を試みるとはな」
「う、うるさい……!」
リリアは震えながら立ち上がる。しかし、彼女の背後からゆっくりと足音が聞こえてきた。
「……アルベルト?」
王太子が、冷ややかな視線をリリアに向けていた。
「リリア、お前……レティシアを殺そうとしたのか?」
「ち、違いますわ! 私はただ……!」
「もういい」
アルベルトは静かに、そしてはっきりと言った。
「俺は、お前との婚約を破棄する」
「――え?」
リリアの顔が青ざめる。
「そんな……いや! 嘘でしょう!? 私を愛しているはずじゃ……!」
「違ったようだな」
アルベルトの声は冷たかった。
リリアはその場に崩れ落ちる。
「……お前は、ただの妄想に溺れていただけだ」
そして――彼女は衛兵に連れて行かれた。
その場に残った私は、ただ静かに息を吐く。
そして、そっとカイルとエドワードを見つめた。
「……ありがとう」
彼らは私を守ってくれた。最後の最後まで。
「お前が無事で良かった」
カイルが私の肩を抱く。
「君が生きていて、本当に良かった」
エドワードもまた、私の手を握る。
そして――
私は、彼らのうちの一人を選ぶことにした。
――私は、カイルの手を取った。
「カイル……私は……」
「レティシア……」
彼は私を強く抱きしめ、そっと囁いた。
「ずっと、お前を守りたかった」
「私も……あなたに守られるだけじゃなく、あなたと一緒にいたい」
カイルは微笑み、そして――。
彼の唇が、私の唇にそっと重なった。
静かで、けれど確かなぬくもりのあるキスだった。
私は、もう悪役令嬢ではない。
私は、私として――愛されることを選んだのだから。
私は訓練場の片隅で、剣を両手に持ちながら静かに深呼吸をした。昨日の出来事がまだ頭から離れない。
カイルの真剣な眼差し。エドワードの優雅な微笑み。そして――カイルが私の額にそっと口づけた瞬間のこと。
私は今まで、自分が誰かに愛されるなんて思ってもみなかった。婚約破棄され、悪役令嬢として扱われ、常に誰かの憎悪の的にされてきた私が……。
しかし、そんな私を、カイルもエドワードも大切に思ってくれている。それは、胸が締め付けられるほどに嬉しいことだった。
「レティシア」
その声に、私は顔を上げた。
そこにいたのは、エドワードだった。
「少し話がしたい。いいか?」
「……ええ」
彼は私の手を取ると、訓練場の隅にあるベンチに私を座らせた。そして、自分も隣に腰を下ろす。
「昨日のこと……カイルに言われた言葉、気にしているのか?」
「……」
私は、黙っていた。だが、その沈黙が答えになってしまったのだろう。エドワードは静かに微笑んだ。
「……君が誰を選ぶかは、君の自由だ」
「……エドワード」
「けれど、俺は君に後悔してほしくない。だから……」
彼は私の手を優しく握った。
「俺は、君が望む限り、ずっと君のそばにいる」
その言葉に、胸が温かくなる。
しかし――
「おやおや、ずいぶんと仲が良さそうですわね」
聞き慣れた声が響いた。
私はその声の主に顔を向ける。
「……リリア」
そこには、私から婚約者を奪った少女――リリアが立っていた。そして、その隣には王太子であるアルベルトの姿もある。
「婚約破棄されたはずのあなたが、どうしてまだ王城にいるのかしら?」
「……そんなこと、あなたには関係ないでしょう?」
「関係ない? まあ、そうですわね。でも、あなたの居場所はもうないはずでしょう?」
リリアは嘲笑を浮かべる。
だが、私は動じなかった。
「それは、あなたが決めることではありませんわ」
「何ですって……?」
「あなたがどれほど私を追い詰めようと、私は負けません」
リリアの顔が、歪む。
「――あなたなんか、いなくなればいいのに!」
その瞬間、彼女は手に隠し持っていた短剣を抜いた。
「レティシア!」
エドワードの声が響く。しかし、私はその場から動けなかった。
――刃が、私の目の前に迫る。
しかし、そのとき――。
「――甘い!」
カイルが飛び込んできた。
彼の剣がリリアの短剣を弾き、そのまま彼女を突き飛ばす。
「きゃっ……!」
リリアは地面に転がり、驚愕の表情を浮かべた。
カイルは鋭い目つきで彼女を睨む。
「……王城で騎士の目を盗んで暗殺を試みるとはな」
「う、うるさい……!」
リリアは震えながら立ち上がる。しかし、彼女の背後からゆっくりと足音が聞こえてきた。
「……アルベルト?」
王太子が、冷ややかな視線をリリアに向けていた。
「リリア、お前……レティシアを殺そうとしたのか?」
「ち、違いますわ! 私はただ……!」
「もういい」
アルベルトは静かに、そしてはっきりと言った。
「俺は、お前との婚約を破棄する」
「――え?」
リリアの顔が青ざめる。
「そんな……いや! 嘘でしょう!? 私を愛しているはずじゃ……!」
「違ったようだな」
アルベルトの声は冷たかった。
リリアはその場に崩れ落ちる。
「……お前は、ただの妄想に溺れていただけだ」
そして――彼女は衛兵に連れて行かれた。
その場に残った私は、ただ静かに息を吐く。
そして、そっとカイルとエドワードを見つめた。
「……ありがとう」
彼らは私を守ってくれた。最後の最後まで。
「お前が無事で良かった」
カイルが私の肩を抱く。
「君が生きていて、本当に良かった」
エドワードもまた、私の手を握る。
そして――
私は、彼らのうちの一人を選ぶことにした。
――私は、カイルの手を取った。
「カイル……私は……」
「レティシア……」
彼は私を強く抱きしめ、そっと囁いた。
「ずっと、お前を守りたかった」
「私も……あなたに守られるだけじゃなく、あなたと一緒にいたい」
カイルは微笑み、そして――。
彼の唇が、私の唇にそっと重なった。
静かで、けれど確かなぬくもりのあるキスだった。
私は、もう悪役令嬢ではない。
私は、私として――愛されることを選んだのだから。
143
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
一体何のことですか?【意外なオチシリーズ第1弾】
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【あの……身に覚えが無いのですけど】
私は由緒正しい伯爵家の娘で、学園内ではクールビューティーと呼ばれている。基本的に群れるのは嫌いで、1人の時間をこよなく愛している。ある日、私は見慣れない女子生徒に「彼に手を出さないで!」と言いがかりをつけられる。その話、全く身に覚えが無いのですけど……?
*短編です。あっさり終わります
*他サイトでも投稿中
悪役令嬢カタリナ・クレールの断罪はお断り(断罪編)
三色団子
恋愛
カタリナ・クレールは、悪役令嬢としての断罪の日を冷静に迎えた。王太子アッシュから投げつけられる「恥知らずめ!」という罵声も、学園生徒たちの冷たい視線も、彼女の心には届かない。すべてはゲームの筋書き通り。彼女の「悪事」は些細な注意の言葉が曲解されたものだったが、弁明は許されなかった。
【完結】悪役令嬢なので婚約回避したつもりが何故か私との婚約をお望みたいです
22時完結
恋愛
悪役令嬢として転生した主人公は、王太子との婚約を回避するため、幼少期から距離を置こうと決意。しかし、王太子はなぜか彼女に強引に迫り、逃げても追いかけてくる。絶対に婚約しないと誓う彼女だが、王太子が他の女性と結婚しないと宣言し、ますます追い詰められていく。だが、彼女が新たに心を寄せる相手が現れると、王太子は嫉妬し始め、その関係はさらに複雑化する。果たして、彼女は運命を変え、真実の愛を手に入れることができるのか?
公爵令嬢の一度きりの魔法
夜桜
恋愛
領地を譲渡してくれるという条件で、皇帝アストラと婚約を交わした公爵令嬢・フィセル。しかし、実際に領地へ赴き現場を見て見ればそこはただの荒地だった。
騙されたフィセルは追及するけれど婚約破棄される。
一度だけ魔法が使えるフィセルは、魔法を使って人生最大の選択をする。
悪役令嬢は間違えない
スノウ
恋愛
王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。
その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。
処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。
処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。
しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。
そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。
ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。
ジゼットは決意する。
次は絶対に間違えない。
処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。
そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。
────────────
毎日20時頃に投稿します。
お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~
希羽
恋愛
「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」
才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。
しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。
無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。
莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。
一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。
気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました
みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。
前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。
同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。
そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる