夜空とカラクリ奇譚帳

桐生渚

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狙われた令息

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……夜の闇が、体にまとわりつくようだ。

ネバネバとした感触が少し気味悪くて、思わず手を振り払う。
そこでハッとして、僕は左手を少し抑えた。

 もちろん、左手が痛む訳では無い。そこには、無情な黒い鉄の塊…邪悪なカラクリ爆弾が括り付けられていた。

「…チッ」

 時は1時間ほど前に遡る。

 頭に鈍い痛みを感じて目を覚ますと、そこは辺り一面真っ暗な草原であった。

なんだ?

 何が起こっているのかを理解しようとして、記憶を反芻する。
今日は朝からいつも通り劇場で仕事だった。映画の撮影をして、広告の前撮りをして、飛ぶようにすぎる時間に振り回されながら、帰路につくころにはすっかり日が陰り始めていた。

「雨宮君。馬車を呼んだからそれに乗りたまえ」

劇場の支配人の好意に甘えて馬車に乗ったことまでは覚えている。
 馬車に乗り、ふうっとため息を着くと、僕はそこに見知らぬ相席人がいることに気がついたのだ。

真っ黒なコートにシルクハットの奇天烈な出で立ち。異常なまでに長身なせいで、ハットが天井に擦れてゆれている。

「……」

 なんとも不気味な人間だが、支配人の御客かもしれない。そう思い、僕は軽く会釈をした。

「どうも」

すると、相席人はムクリと顔を上げ、こちらをじっと見つめだした。

 ……その表情は、吸い込まれそうな無表情だった。

「アッマミィヤルゥイ様ですねェ?」

 男は突然口を開くと、不明瞭な発音で僕の名前を呼ぶ。

「アッアッア……マミィヤルイ様ですね?」

 まるでカラクリ人形のように同じ言葉を繰り返す相席人。オマケに、繰り返しているのは僕の名前だ。

 気味が悪くなったが、家に着くまではコイツと一緒に過ごさねばならない。

 馬車から蹴り出してやりたいくらいの気持ちだったが、グッと堪える。

「雨宮ですが、何か」

答えると、シルクハット男は無表情のまま、いきなり手をたたき出した。

 まるで、新しい玩具を見つけた子供のように。

「アマミヤァ!ルイィ様。ご主人様から、オズカリモノ、デス」

 そういうと、男はポケットから小さな黒い箱を取り出した。

「カラクリ師から、アナタに贈り物デス」

「カラクリ師?」

 聞きなれない言葉に戸惑いながらも、僕は男が差し出した箱を見るために目線を下にずらす。

その時だった。

ガンッ

頭に重い、鉛のような衝撃が走り、僕は一瞬気を失いかける。

「なん……」

 急いで目線を上げると、そこには、トンカチを手に振りかぶる男と、ガスマスクをつけた馬車の御者の姿があった。

「ク、クスリ、流すます。でも効かないと困るルから、これも使いマスね」

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