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入場料は無く誰にでも開かれてるクロイツライトガーデン。
今の時期は白薔薇と赤薔薇に埋め尽くされたエリアから、可愛らしい見た目のカルミアのエリア、赤いアザレアと白いアザレアの対比が綺麗なエリアと様々なエリアがあった。
多くの恋人達は薔薇のエリアに留まっていたが女はアザレアのエリアで立ち止まった。


「悪くないな」
「ですね。ユートさんが隣にいるのも相まってアザレアが一層綺麗に見えます」


心から思ってるのか女の声は柔らかい。だがどこか哀愁を漂う雰囲気を持つ表情に、ユージンの手は思わず顔にかかってる女の髪に伸びていた。


「ユートさん?」
「…花に拐われるのかと思った」
「えっ……ユートさんどうかしましたか?!」
「……いや、気にするな。俺も変なこと言った自覚ある」


普段は思った事は一度留めて言葉にするかどうか判断するが、スルリと思わず出てしまっていた。出会って僅かの女がユージンの言動が可笑しいと思う程に現実的で無い表現をしていたのも。
女に少しだけ触れた指は不可思議な熱を帯びていたが、それを上回る自分らしく無い言葉に打ち消されてしまった。


「ふふっ花の妖精さんに化かされたんですかね?」
「喧嘩なら喜んで買うが?」
「ちょっとした冗談に決まってるじゃ無いですか!こういう時は心広くして"そうだな"て男前に受け流してくれれば良いんですって」
「敢えて聞くが俺の真似をしたのか?」
「渾身な男前のユートさんでしょ?」
「全く似てない」
「今度は肩っ!デートっぽい雰囲気で肩に手を置いてくれたと思ったのにぃただだっ!?」


茶化された事に不思議と怒りは無かった。彼女の言動はどこか憧れていた気の許せる友人同士のやり取りに似たものを彷彿させた。
ユージンは王太子という立場上、同性の者達も気安く自分へ話す者は居なかった。常に上司と部下として一枚板を挟んだような距離を置かれた対応。勿論ユージンは割り切っていたが、それでも憧れは消える事はなく奥深く燻っていた。
まさかそれを今日出会ったばかりの女に意図も簡単に掘り起こされるとは思いもしなかった。


「お前は変な女だな」
「改めて言われると傷付きますが?てか、人に言われると何故か苛立ちますねソレ」
「ククッそれは良かった」
「うわっユートさんわっるい顔。でも顔が良いからそれすら眼福っていうの狡いわ」


ちっとも悔しそうに見えない彼女に更に笑いが深まる。声を出して王太子らしくなく笑うのはいつぶりだろうか。笑いの絶えないユージンに少しだけ女は引いてるように見えた。でもユージンが女の肩を掴んだままのため距離を置く事はできず。


「もう少し雰囲気を感じたかったな…」
「それは悪かった。今度は違うエリアに行って思う存分堪能すれば良い」
「そうします」
「ではそこまで俺がエスコートさせて頂いても?」
「…っぐ、顔が良いからとても様になる」


女の肩から手を離して向かい合うように立ちダンスを申し込むようかのように手を差し出せば返ってきた言葉にまた笑いが込み上げる。
正真正銘ユージンがアーデルライトの王太子であると彼女が知ったらどんな反応が返ってくるだろうか。驚くだろうかそれとも恐れ慄くか。


「で、どうなんだ?」
「宜しく、お願いします」
「喜んで貰えて何よりだ」


令嬢の手入れが行き届いた綺麗な手とは違って少し荒れた小さな手。その手を自身の口元に持って口付けたら彼女はどうなるだろうか。そう思いつつも行動に移さないのは顔をほんのり赤くしてる彼女を困らせたく無いと思ったから。


「そういえば花園の次はどこに行く予定なんだ?」
「お洒落なカフェです。お勧めを聞いた中で最も気になった三カ所を回りたいと思います!」
「忙しいな」
「コーヒーが美味しい店、紅茶が美味しい店、ケーキが美味しい店を選んだんです。コーヒーの所はパスタもお勧めらしく昼食はそこでとりたいと思ってるんですがユートさんは平気ですか?」


ユージンが薄々良いところの人だと気付いての言葉だった。女に気を遣われたことにユージンは足を止めた。


「無理だと言ったら?」
「予定を変えますね!」


試すように問えば女は一切の躊躇いもせず言い切った。


「食事系を除外したらわたしが行きたいのは最後にしてたジェルフェの泉になるんです。少し離れた所に多種多様の魚の鑑賞が出来る小さな施設があるようで。もちろんお金はわたしが支払うので気にしないでもらえたら…」
「いい、悪かった。食事は問題ない。当初の予定通り三カ所回った後ジェルフェの泉に行こう」
「えっと食事系統は気を使う所なんで無理してませんか?わたしは大丈夫なので…」
「俺が問題ないと言ったんだ。それを信じれば良い」
「ユートさんがそう言うなら……お言葉に甘えますね」


喜びを噛み締めて笑う女のチグハグ感に出会った時に感じなかった漠然とした焦燥感を抱く。素直に生きると言った彼女はこれまで嘘偽りのない言動ではあったが、随所で人を気遣う度合いがユージンがこれまであった誰よりも突飛してるように感じた。
それはまるで穢れなき聖女のような清廉さを感じさせるほどに。
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