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夜天の主 編
第一回大切なことを決める会議!①
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翌日、コウイチは早朝に館内放送で午後に緊急会議を行うと放送をして乗組員全員を艦橋の隣の部屋にあるブリーフィングルームに集めた。
コウイチ、ハク、メアリ、ヴァドス、ミリアの五人全員が揃ったところで、
「あのよ。オレら最終調整の途中で忙しい訳なんだが? ……痴話喧嘩に巻き込むなよ、たくっ」
「こんなの犬も食べないですよ」
ヴァドスとミリアが溜息交じりに悪態吐いた。
二人ともごめんなさい。でも本当に少しだけでいいので居てください。既にハクはメアリに反抗できない様に調教されてるし、絶対に一人じゃ勝ち目がないんです。
コウイチは心の中で謝りながらメアリと向き合う。
「今日、皆を呼んだのは今後の予定について話し合う為です」
当たり障りのない口上を述べて会議を始めた。
半分はメアリの件だが、他にも話し合いたい事があるのも事実だ。
「名付けて、第一回大切なことを決める会議!」
わー、と物事を理解していないハクが一人だけ拍手をしてくれる。
その行為が逆に場を凍り付かせるとは知らずに……。
「わたしに文句が言いたいのなら直接言えば良いのではないかしら?」
「ぐっ……」
全部知っていますよ、と言わんばかりの口調でメアリがニコニコと笑顔で紅茶の入ったティーカップを優雅に口に運ぶ。
メアリは優秀な冒険者であったという過去を持ち、現在は冒険者ギルドの人気の看板嬢かつ組織の幹部として大部分の取りまとめも担い、その上で彼女は自らの意志でこの戦艦の乗組員に志願し、船の管制を一手に引き受けてくれている。二人とは存在しない超優秀な逸材なのだ。
故に物理的にも精神的にも真正面からではメアリに勝つことは難しい。
だが、そもそも勝ち負けという発想が間違いだとコウイチは気づいた。ヴァドスの言う通り、仮に彼女の好意が打算的や計画的なものであったとしてもだ、受け入れてしまえば大抵のことは片付いてしまう。それどころか彼女の持つ人脈など得られる恩恵は計り知れない。むしろ、今後の状況次第――緑葉石の生成において彼女の援助を得られる関係を作っておいた方が良いとさえある。
そして可愛い系の美人さんで男の子にとって憧れのエルフっ娘ともあってコウイチのストライクゾーンである。
だからこそ、コウイチは今、答えを出したくなかった。
コウイチは一つ深呼吸をして真っすぐにメアリと視線を合わせる。
恥ずかしさだとか、プライドだとか、他人の視線だとか、そんなものを気にせず本音を伝えよう。
「メアリの事が本題と言えば間違いない。それを隠すつもりはないよ。これからの事もあるからはっきりさせておきたい。でも、それ以外に二つ話し合いたい事もあるのも事実なんだ」
「ふうん……そう」
不意にメアリの瞳に陰りが落ちた。
情勢が劣勢だと判断したのだろう。
「俺が異世界から転移してきたってのは皆知ってるよな? 俺のいた世界には魔法とかドラゴンとか空飛ぶ船や空中都市、それ以外の化物や人間以外の人型種族ってのもいない。ケモ耳とかエルフとかゲームとか漫画の中だけの憧れの種族なんだ!」
ただひたすらにコウイチは、自分がこっちの世界に来ようと決めた思いの丈を並べていく。
「もふもふケモ耳!? 超絶美人の金髪碧眼エルフ!? 合法ロリのドワーフ!? それに何あのエロさしか感じない九尾のお狐様とか!! それにあれだろ? 吸血鬼とかいるんだろ? ドラゴンも人化して美少女になったりするんだろ!? あとは――」
「ちょっと待って! 何が言いたいのか分からないわ」
メアリが頭を抱えてコウイチの言葉を遮った。
分かるはずもないだろう。これは今まで状況に巻き込まれるばかりで本音を話せる機会が無かったのだから。
……まあ、コウイチがヘタレ童貞野郎なだけなのだが。
それをメアリの執拗なアプローチが吹っ切らせたのだ。
「何って、めっちゃ重要なことだから聞いててくれ!?」
「は、はい!」
鬼気迫る表情で熱弁するコウイチにメアリは口を紡ぐしかなかった。
そして人生相談を持ち掛けた結果、この先の内容に薄々勘付き始めたのか、ミリアが白い目をしてコウイチから距離を取り始めた。
「俺は元居た世界で子犬だったハクを助けようとして川に飛び込んで溺れ死んだ後、アメノマって神様に助けられたんだけどな。未練とか無かったし、最初は記憶とか真っ新にして通常通りの転生をしようと思ってたんだけど、そこは神様の都合があってこっちの世界に転移して欲しいみたいな流れになったのよ。でも、平凡以下のガキが転移したって生きてける訳ないじゃん。嫌に決まってるじゃん。そこでアメノマが出して来たのが晶石鍛冶スキル!」
次第にヴァドスとハクからも冷たい視線を向けられる。
そんなの関係ねぇ!?
コウイチはもう我慢をしないと決めたのだ。
「この世界では晶石加工のスキルは重宝されてるって話だ。実際、アイリスの晶石で作った指輪でも国宝級だとか言われたし、クロとか置いてあるだけで危険だし、今じゃ国家存亡の危機みたいなのに引きずり込まれてる訳で……本当に色んな意味で重宝されてて困っている感じでさ。このまま上手く転がって良ければ富に名声ガッポガッポじゃん! てことはハーレムだって作れる訳じゃん! 俺の目的はココ!? ハーレム作ること!」
とひとしきり熱弁した結果、その場にいた各々から冷たい視線、呆れた視線、軽蔑の視線、汚物を見るような視線を向けられていた。
そんなの関係ねぇ! それでも俺はやってやる!?
コウイチはよくある異世界転生物語らしい生き方をしたいのだ。ただ巻き込まれて、なあなあな日常なんていう生殺しは誰も得しないし、何よりも自分が楽しくない。折角の第二の人生、誰に何を言われようが自由気ままに謳歌した者勝ちだ。
呆れた視線を送っていたメアリが、こほん、と一つ咳払いをして口を開く。
「つまり、わたしの要望は受け入れて頂けると?」
「そもそもの所、それがよく分かってない」
「というと?」
「アイリスからレアなスキルを持ってる転移者ってのはギルトとかで囲われて飼い殺しにされるって聞いたけど……メアリの目的はそれで合ってるのか?」
コウイチが聞き返すとメアリは少し驚いたように目を見開いてから口元を綻ばせた。
「わたしの目的を理解しているものだと思っていましたが違うんですね。貴方が残念な本音を打ち明けてくれたのですから、わたしも本音を話しましょう。というか、そうしないとこの会議は終わらないんですよね?」
「もち。その為の会議だからな!」
コウイチは腹の探り合いとか戦略やら策略ってのは苦手だ。その上、今までは他人と争いたくないから思ったことも言葉にせず、流れに任せて静かにしていることばかりだった。
それは昨日までであり、今日からは違うのだ!
やれやれ、とため息をついてメアリは本音を打ち明け始め、
「アイリスが貴方に伝えていた通り、ギルドで囲って良い様にコキ使える人材にすることがわたしの目的」
開口一番に想像通りの内容を歯に衣着せぬ言葉で並べたて、その後にアイリスは「でした」と言葉を付け加えた。
「これは当初の話です。今は状況が変わったんです。切っ掛けはアヴァロンの空を覆いつくした魔獣の群れでした。あの後直ぐにアヴァロンの統括議会……つまり、上層部の一人であるタマモ様に呼び出され、先だって今後の予想される情勢を説明されました。そしてタマモ様から貴方を支えて欲しいとお願いされたんです」
コウイチも含め、一同がメアリの口から伝えられた真実に驚きを隠せなかった。
三皇の襲撃やヒュレイン大樹海に三皇の求める手掛かりがあるのも全てはタマモは予想の範囲内で、大樹海に三皇の1匹がいるのも折込済みだそうだ。
ただ一つ、誤算だったのは三皇にコウイチの事が既に知られており、ハクが瀕死の重傷を負ってしまったことだ。
それらが事実だとしても、ギルドで囲うという理由を否定している時点でメアリがコウイチに迫る理由に見当がつかない。
「じゃあ、メアリがコウイチに言い寄る理由ってなにっ!」
痺れを切らせたかのように静かにしていたハクがテーブルに手をついて襲い掛かりそうな勢いで身を乗り出した。ばんばんばん、と地団太を踏むかのようにテーブルを叩く。
「メアリのあれはハクの嫌なヤツ! 支えるとかそんなレベルじゃない!?」
「ええ、勿論。でも、それはハクちゃんに関係ないわよね?」
「ひっ!?」
メアリも対抗するかのように身を乗り出してハクに視線を合わせて不敵な笑みを浮かべるとハクが声にならない悲鳴を上げて目尻に涙を浮かべた。咄嗟にコウイチに腕にしがみ付いて顔を埋める。
ハクの敗北。
「それで、今のメアリの目的は?」
代わりにコウイチが聞き返す。
「正直な所、自分でも分からないんです」
「はい?」
「恋愛感情で言うと正直微妙です」
「「「「えっ!?」」」」
メアリ以外の全員が声を裏返した。
ミリアとヴァドスがひっそりと部屋の隅に移動して、
「何ですか、この特殊な職場環境は!? 労働環境の改善要望はどこに出せばいいんですか?」
「オレが知るワケねぇだろ! むしろ、女同士なんだからお前何とかしろよ」
「絶対に嫌です! 色恋沙汰ですらない何かに首を突っ込むなんて自殺行為以外の何物でもないですから!? 人生経験豊富なヴァドスさんが適任でしょう」
「あれは男には無理だって……しゃあない、大人しく見守るか」
「……そうしましょう」
ぶつぶつと会話のやりとりをした挙句、最終的に動向を見守るという結論に至ったようだ。
メアリは自分の想いを纏めるかのように少し考えてから、
「恋愛というとゼロではないと思います。ですが、今の大部分を占めているのは打算と興味本位ですね。貴方の力は類稀で、そんな人を旦那様に出来れば将来安泰なのは間違いないでしょ? エルフは長命の種族ですからお金は沢山あって困りませんからね」
「聞かなきゃよかったって思うレベルの酷い話だな! それで興味本位ってのは?」
「んー、これ言っちゃっていいのかしら……」
メアリはしばしば逡巡した後、
「ま、いっか。アイリスがね、貴方のこと好きなのよ」
コウイチ、ハク、メアリ、ヴァドス、ミリアの五人全員が揃ったところで、
「あのよ。オレら最終調整の途中で忙しい訳なんだが? ……痴話喧嘩に巻き込むなよ、たくっ」
「こんなの犬も食べないですよ」
ヴァドスとミリアが溜息交じりに悪態吐いた。
二人ともごめんなさい。でも本当に少しだけでいいので居てください。既にハクはメアリに反抗できない様に調教されてるし、絶対に一人じゃ勝ち目がないんです。
コウイチは心の中で謝りながらメアリと向き合う。
「今日、皆を呼んだのは今後の予定について話し合う為です」
当たり障りのない口上を述べて会議を始めた。
半分はメアリの件だが、他にも話し合いたい事があるのも事実だ。
「名付けて、第一回大切なことを決める会議!」
わー、と物事を理解していないハクが一人だけ拍手をしてくれる。
その行為が逆に場を凍り付かせるとは知らずに……。
「わたしに文句が言いたいのなら直接言えば良いのではないかしら?」
「ぐっ……」
全部知っていますよ、と言わんばかりの口調でメアリがニコニコと笑顔で紅茶の入ったティーカップを優雅に口に運ぶ。
メアリは優秀な冒険者であったという過去を持ち、現在は冒険者ギルドの人気の看板嬢かつ組織の幹部として大部分の取りまとめも担い、その上で彼女は自らの意志でこの戦艦の乗組員に志願し、船の管制を一手に引き受けてくれている。二人とは存在しない超優秀な逸材なのだ。
故に物理的にも精神的にも真正面からではメアリに勝つことは難しい。
だが、そもそも勝ち負けという発想が間違いだとコウイチは気づいた。ヴァドスの言う通り、仮に彼女の好意が打算的や計画的なものであったとしてもだ、受け入れてしまえば大抵のことは片付いてしまう。それどころか彼女の持つ人脈など得られる恩恵は計り知れない。むしろ、今後の状況次第――緑葉石の生成において彼女の援助を得られる関係を作っておいた方が良いとさえある。
そして可愛い系の美人さんで男の子にとって憧れのエルフっ娘ともあってコウイチのストライクゾーンである。
だからこそ、コウイチは今、答えを出したくなかった。
コウイチは一つ深呼吸をして真っすぐにメアリと視線を合わせる。
恥ずかしさだとか、プライドだとか、他人の視線だとか、そんなものを気にせず本音を伝えよう。
「メアリの事が本題と言えば間違いない。それを隠すつもりはないよ。これからの事もあるからはっきりさせておきたい。でも、それ以外に二つ話し合いたい事もあるのも事実なんだ」
「ふうん……そう」
不意にメアリの瞳に陰りが落ちた。
情勢が劣勢だと判断したのだろう。
「俺が異世界から転移してきたってのは皆知ってるよな? 俺のいた世界には魔法とかドラゴンとか空飛ぶ船や空中都市、それ以外の化物や人間以外の人型種族ってのもいない。ケモ耳とかエルフとかゲームとか漫画の中だけの憧れの種族なんだ!」
ただひたすらにコウイチは、自分がこっちの世界に来ようと決めた思いの丈を並べていく。
「もふもふケモ耳!? 超絶美人の金髪碧眼エルフ!? 合法ロリのドワーフ!? それに何あのエロさしか感じない九尾のお狐様とか!! それにあれだろ? 吸血鬼とかいるんだろ? ドラゴンも人化して美少女になったりするんだろ!? あとは――」
「ちょっと待って! 何が言いたいのか分からないわ」
メアリが頭を抱えてコウイチの言葉を遮った。
分かるはずもないだろう。これは今まで状況に巻き込まれるばかりで本音を話せる機会が無かったのだから。
……まあ、コウイチがヘタレ童貞野郎なだけなのだが。
それをメアリの執拗なアプローチが吹っ切らせたのだ。
「何って、めっちゃ重要なことだから聞いててくれ!?」
「は、はい!」
鬼気迫る表情で熱弁するコウイチにメアリは口を紡ぐしかなかった。
そして人生相談を持ち掛けた結果、この先の内容に薄々勘付き始めたのか、ミリアが白い目をしてコウイチから距離を取り始めた。
「俺は元居た世界で子犬だったハクを助けようとして川に飛び込んで溺れ死んだ後、アメノマって神様に助けられたんだけどな。未練とか無かったし、最初は記憶とか真っ新にして通常通りの転生をしようと思ってたんだけど、そこは神様の都合があってこっちの世界に転移して欲しいみたいな流れになったのよ。でも、平凡以下のガキが転移したって生きてける訳ないじゃん。嫌に決まってるじゃん。そこでアメノマが出して来たのが晶石鍛冶スキル!」
次第にヴァドスとハクからも冷たい視線を向けられる。
そんなの関係ねぇ!?
コウイチはもう我慢をしないと決めたのだ。
「この世界では晶石加工のスキルは重宝されてるって話だ。実際、アイリスの晶石で作った指輪でも国宝級だとか言われたし、クロとか置いてあるだけで危険だし、今じゃ国家存亡の危機みたいなのに引きずり込まれてる訳で……本当に色んな意味で重宝されてて困っている感じでさ。このまま上手く転がって良ければ富に名声ガッポガッポじゃん! てことはハーレムだって作れる訳じゃん! 俺の目的はココ!? ハーレム作ること!」
とひとしきり熱弁した結果、その場にいた各々から冷たい視線、呆れた視線、軽蔑の視線、汚物を見るような視線を向けられていた。
そんなの関係ねぇ! それでも俺はやってやる!?
コウイチはよくある異世界転生物語らしい生き方をしたいのだ。ただ巻き込まれて、なあなあな日常なんていう生殺しは誰も得しないし、何よりも自分が楽しくない。折角の第二の人生、誰に何を言われようが自由気ままに謳歌した者勝ちだ。
呆れた視線を送っていたメアリが、こほん、と一つ咳払いをして口を開く。
「つまり、わたしの要望は受け入れて頂けると?」
「そもそもの所、それがよく分かってない」
「というと?」
「アイリスからレアなスキルを持ってる転移者ってのはギルトとかで囲われて飼い殺しにされるって聞いたけど……メアリの目的はそれで合ってるのか?」
コウイチが聞き返すとメアリは少し驚いたように目を見開いてから口元を綻ばせた。
「わたしの目的を理解しているものだと思っていましたが違うんですね。貴方が残念な本音を打ち明けてくれたのですから、わたしも本音を話しましょう。というか、そうしないとこの会議は終わらないんですよね?」
「もち。その為の会議だからな!」
コウイチは腹の探り合いとか戦略やら策略ってのは苦手だ。その上、今までは他人と争いたくないから思ったことも言葉にせず、流れに任せて静かにしていることばかりだった。
それは昨日までであり、今日からは違うのだ!
やれやれ、とため息をついてメアリは本音を打ち明け始め、
「アイリスが貴方に伝えていた通り、ギルドで囲って良い様にコキ使える人材にすることがわたしの目的」
開口一番に想像通りの内容を歯に衣着せぬ言葉で並べたて、その後にアイリスは「でした」と言葉を付け加えた。
「これは当初の話です。今は状況が変わったんです。切っ掛けはアヴァロンの空を覆いつくした魔獣の群れでした。あの後直ぐにアヴァロンの統括議会……つまり、上層部の一人であるタマモ様に呼び出され、先だって今後の予想される情勢を説明されました。そしてタマモ様から貴方を支えて欲しいとお願いされたんです」
コウイチも含め、一同がメアリの口から伝えられた真実に驚きを隠せなかった。
三皇の襲撃やヒュレイン大樹海に三皇の求める手掛かりがあるのも全てはタマモは予想の範囲内で、大樹海に三皇の1匹がいるのも折込済みだそうだ。
ただ一つ、誤算だったのは三皇にコウイチの事が既に知られており、ハクが瀕死の重傷を負ってしまったことだ。
それらが事実だとしても、ギルドで囲うという理由を否定している時点でメアリがコウイチに迫る理由に見当がつかない。
「じゃあ、メアリがコウイチに言い寄る理由ってなにっ!」
痺れを切らせたかのように静かにしていたハクがテーブルに手をついて襲い掛かりそうな勢いで身を乗り出した。ばんばんばん、と地団太を踏むかのようにテーブルを叩く。
「メアリのあれはハクの嫌なヤツ! 支えるとかそんなレベルじゃない!?」
「ええ、勿論。でも、それはハクちゃんに関係ないわよね?」
「ひっ!?」
メアリも対抗するかのように身を乗り出してハクに視線を合わせて不敵な笑みを浮かべるとハクが声にならない悲鳴を上げて目尻に涙を浮かべた。咄嗟にコウイチに腕にしがみ付いて顔を埋める。
ハクの敗北。
「それで、今のメアリの目的は?」
代わりにコウイチが聞き返す。
「正直な所、自分でも分からないんです」
「はい?」
「恋愛感情で言うと正直微妙です」
「「「「えっ!?」」」」
メアリ以外の全員が声を裏返した。
ミリアとヴァドスがひっそりと部屋の隅に移動して、
「何ですか、この特殊な職場環境は!? 労働環境の改善要望はどこに出せばいいんですか?」
「オレが知るワケねぇだろ! むしろ、女同士なんだからお前何とかしろよ」
「絶対に嫌です! 色恋沙汰ですらない何かに首を突っ込むなんて自殺行為以外の何物でもないですから!? 人生経験豊富なヴァドスさんが適任でしょう」
「あれは男には無理だって……しゃあない、大人しく見守るか」
「……そうしましょう」
ぶつぶつと会話のやりとりをした挙句、最終的に動向を見守るという結論に至ったようだ。
メアリは自分の想いを纏めるかのように少し考えてから、
「恋愛というとゼロではないと思います。ですが、今の大部分を占めているのは打算と興味本位ですね。貴方の力は類稀で、そんな人を旦那様に出来れば将来安泰なのは間違いないでしょ? エルフは長命の種族ですからお金は沢山あって困りませんからね」
「聞かなきゃよかったって思うレベルの酷い話だな! それで興味本位ってのは?」
「んー、これ言っちゃっていいのかしら……」
メアリはしばしば逡巡した後、
「ま、いっか。アイリスがね、貴方のこと好きなのよ」
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