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蒼の皇国 編
開戦前夜
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国家間戦争。
それは全世界で生中継される世界最大のエンターテイメント。
対戦国家や内容にもよるが、その興行収益は大国の年間国家予算を上回ると言われるカーニバルである。
世界最悪の吸血鬼セツナが率いる夜の帝国による宣戦布告時点では国家とおう体を成していなかった蒼龍皇アオの率いる蒼の皇国の国家間戦争は、過去に類を見ない一大イベントとなった。
互いに歴史に名を連ねるようなビックネームである事は間違いないが、通常であればこの2人が争う事は人類にとっては迷惑千万だ。下手をすれば戦いの余波だけで人類は滅びかねないのだから。
それ故にアオが国を所有する事に殆どの国が首を縦に振らなかった。くしゃみをしたら人が死ぬような化け物に国を持たせるなど二度とあってはならないからだ。
しかし、国家間戦争の情報が公開された直後から、その状況は一変した。
戦争の内容、その報酬の詳細に誰もが目を光らせたのだった。
報酬:コウイチ=クロガネの所属
補足情報:晶石鍛治スキルEX
現在判明しているスキルの詳細データ。
ありえない破格の性能に誰もが欲した。
予定では準備出来次第すぐに開戦する予定たっだが、公開直後から両国に問い合わせが殺到して混乱。収集が付かなくなり、戦争は1ヶ月延期になった。
収集が落ち着いた頃には蒼の皇国側には世界の半数程の国が同盟関係となり、誰もがアオの目的を支援する様になっていた。
夜の帝国はその悪名だかさから協力する者は少なく、手を挙げた者がいてもセツナが拒否していた。
この状況はセツナの計画の内なのかとコウイチが尋ねると「こんなのは過程にすぎないよ。コウくんを私の物だって認めさせるのが目的なんだから」などと言っていった。
1ヶ月という時間を貰ったコウイチは自分の出来る事に取り組み、その成果を何とか形にする事が出来た。
砂浜に大の字で寝転がるコウイチにガイコツが手を差し伸べながら言う。
「これならば対等に戦えるだろう」
「ありがとうございます。リョウタさん」
コウイチはガイコツーーリョウタ=アヅチの手を掴んで立ち上がると大きく伸びをしてから右手に握った刀身のない剣を振るう。
「戻れ」
周囲に散らばっていた小さな破片が集まり氷のような美しい刀身を作り上げた。
千変万化・氷花。以前からコウイチが作っていた可変式の機械武具で、セツナが錬金術用の素材として溜め込んでいた希少素材を存分に使用し、更にセツナの錬金術、タリアの魔術刻印まで利用している。
タリアに可変の制御の中核となっている魔術刻印を刻んで貰う際、そのあまりの難解さから射殺されそうな視線で睨まれ続けたのは一生忘れない。
「“千変万化”。ようやくその名の通り扱えるようになったな」
「超過駆動は皆んなの力を借りて30分くらいですけどね」
「上位駆動でもオレと十分に渡り合えるのだから誇って良いと思うぞ?」
「それも結局は3時間が限度っすよ」
時間制限付きではあるが、剣士としては最強と謳われるリョウタと互角に渡り合う事が可能になった。
最も本人の体力が乏しいという点が継戦能力に影響を及ぼしてはいるが。
「それでもオレと戦って生きてる時点で誇っていい。今までに本気でやり合って生きてた奴は数える程度しかいないからな。まして、上位駆動で張り合えてるのだから将来が楽しみだ」
「いやいや、俺は剣士とかなる気ないですからね?」
「鍛冶師が戦ってはいけないと誰が決めた!」
あはは、とリョウタが骨をカタカタを鳴らす。
そんなリョウタを見てコウイチはため息を吐きつつ、確認する様に問う。
「リョウタさんは、本当に元の世界に帰りたいんですか?」
その問いにリョウタは笑うのを辞めて静かに返してくる。
「ああ、帰りたい。この世界で俺がやったことが許されるとは思っていない。それに、こんな身体だしな。
ただ、妹にちゃんと別れを告げたい。それだけが、向こうの世界での唯一の心残りだ」
「こっちの世界では……まだ復讐をするんですか?」
「……ああ。まだ、殺さなければならない奴が残っている」
「それが終わったら?」
「奴を殺す以外にも、二度とオレのような者を生み出さない為にこの世界を変えなければならん。その為に必要であれば殺す。だが、不要な命はもう奪いたくは無い」
その言葉を聞いてコウイチは改めて、元の世界に帰る為に協力する事を決意するのだった。
「本当に俺に出来るか分からないですが、全力で協力させてもらいます!」
「助かる。そうであれば明日の戦い意地でも勝って貰わねばな」
リョウタが骨の拳を前に突き出してくる。対してコウイチも拳を作って答えた。
「お前は帰るに乗り気ではないのか?」
不意にリョウタがコウイチに疑問を投げかける。
「どっちでもいいかなぁ」
コウイチにとって、今が最も充実していると言っていい。
「ぶっちゃけ、元の世界に戻ってもやる事がないんですよね」
「家族は?」
「居ますけど……」
「歯切れが悪いな。仲が悪いのか?」
「普通かなぁ」
「では何故だ? 唯一の肉親であろう?」
「……分からないんですよ。何て言ったらいいのかな。えーっと……俺は確かに鐡光一なんですけど、向こうで生きてた鐡光一とは違う存在みたいな?」
「ふむ。……なるほど。よく分からんが、言いたい事は分かった。つまり、家族を他人の様に感じているということだな」
「そんな感じっすね。だから、帰りたいかって言われると別にそんなでも無いんですよね」
「そういう事ならば良かった」
「どうしてっすか?」
「お前が単に親不孝者なら喝を入れようと思っていたんだがな。別の事情があって良かった」
「それは……俺としても良かったっす」
コウイチは苦笑しつつ、本気で良かったと安堵した。
コウイチとリョウタが戦闘訓練を行なっている浜辺とは正反対の浜辺。
人気のない真っ暗闇の浜辺に海中から複数の人影が顔を出す。慣れた手つきで水中装備を脱ぎ捨て、それぞれが武装を始めた。
その数は7人。屈強な男ばかりだ。
甘く見られたものだ、とセツナは嘆息する。
どこの国の刺客かは分からない。
ただし、目的は分かる。
コウイチの誘拐だ。
賞品だけを横から強奪しようとするゴミ屑共。
今後の行動を確認していたであろう男たちにセツナは声をかける。
「その程度で私から小石一つでも奪えると思ってるのかな?」
「っ!? いつの間に!?」
男たちは驚きながらも流れる様な動作で、それぞれ武器を構えて臨戦態勢をとった。
荒事に慣れた集団である事は一目で分かる。普段であれば、彼らは応戦し、殲滅、作戦行動を修正しつつ再開するのだろう。
セツナが相手でなければ。
「ねえ、何処の国に雇われたのかな?」
セツナの質問に対して、先頭にいた男がナイフを片手に腰を低くする。
「お前たちは先に行け!?」
それだけ言うと男は砂浜を蹴り、地面低く駆けた。
狙いはセツナの首筋。
男のナイフが正確にセツナの頸動脈を目掛けて突き出される。
セツナは冷めた目をしたまま微動だにせず、男の姿を視線だけ動かして追う。
「馬鹿なっ!?」
男は目の前で起きた現象に目を見開いて驚く。
応戦するだけ無駄な労力である。
「そんな鈍で私の皮膚を切り裂けると思ってるなんて、過小評価されたものね」
男のナイフはセツナの頸動脈を見事に捉えていた。だが、皮膚に当たった所でナイフは止まっていた。
魔法障壁などで防いだのではない。
純粋にセツナの皮膚が強靭なのだ。
セツナに傷を付けようとするなら聖剣や魔剣のような伝承に出てくる武器や空間を切り裂くような魔法を持ち出してこないと行けない。
人間が敵うはずのない化物が相手だと理解していないおバカな国が雇い主の様だ。
男の両腕が宙に舞う。傷口から血飛沫が噴出するが、男は痛みを感じていないはずだ。
セツナは男の喉元を鷲掴みにして持ち上げる。
「ねえ、答えてくれないかな? もう、あなたしか生きて無いんだから、言ってくれないと困るんだけど?」
「あがっ!?」
男は首を絞められながら視線を背後に向ける。
そこには真っ暗闇の海の中にゴロゴロと大きな塊が無数に転がっていた。それらは人の形を保ってはいない。
肉塊。
いつの間に?
男はそんな事を考えているのだろうか?
つまらない、とセツナは落胆する。
男がナイフを構えた時には既にお仲間達は肉塊になっていた。
セツナを敵に回して、1秒と生きていられる生物がこの世にどれだけいるか?
恐らくは、数えた方が早いのは間違いない。
男は仲間が全滅している事実を知っても口を割る気配なく、ただもがき続ける。
どうでも良くなったセツナは、男の首を握りつぶして胴体から切り離した。
「これで何組目だったかな。私を敵に回してでもコウイチのスキルは欲しいんだね」
============================
夜が明け、水平線から太陽が顔を覗かせる。
開戦は正午。
まだ6時間ほどあるが、防衛側である夜の帝国改め【異世界連合】陣営は既に配置に付いた。
今回の戦争は一部ルールが変更になっている。
戦争形式:防衛戦
参加人数:異世界連合5人、蒼の皇国6人
制限時間:24時間
戦闘内容:生死問わず自由
勝敗条件:エリア内に隠された結界石1つの破壊又は防衛
戦争参加者
『異世界連合軍』
セツナ=リュウザキ
リョウタ=アヅチ
タリア=マーガレット
コウイチ=クロガネ
エイジ=アイザワ
『蒼の皇国』
蒼龍皇
ハク
メアリ=レーン
白龍皇
紅龍皇
アイリス
「アイリスまで参加するのは予想外だったな。てか、互いにやりたい放題じゃね?」
今まで国を持つのがどうとか、規格外な者同士が結託するのがダメとか言っていたはずなのに……何でもありになってしまっている。
「まあ、アイリス以外が来る事を祈るばかりだな。相性的にアイリスだけはマジで厳しいからなぁ、ふわぁ」
コウイチは大きな欠伸をして地面に敷いた布団に入る。
「あ、俺、時間まで寝るんで誰か起こして貰ってもいいですか?」
“自分で起きろ” ブチっ
“はぁ” ブチっ
“あー、こちらエイジですが、あー、ちょっと電波の調子が” ブチっ
“目覚まし掛けなさいよ” ブチっ
全員から繋いであったグループ通話を切断された。
「ま、6時間もあるし大丈夫でしょ。おやすみなさい」
こうしてコウイチは睡眠に入るのだが、全員の予想を裏切らず……起きる事なく戦争は開幕するのであった。
それは全世界で生中継される世界最大のエンターテイメント。
対戦国家や内容にもよるが、その興行収益は大国の年間国家予算を上回ると言われるカーニバルである。
世界最悪の吸血鬼セツナが率いる夜の帝国による宣戦布告時点では国家とおう体を成していなかった蒼龍皇アオの率いる蒼の皇国の国家間戦争は、過去に類を見ない一大イベントとなった。
互いに歴史に名を連ねるようなビックネームである事は間違いないが、通常であればこの2人が争う事は人類にとっては迷惑千万だ。下手をすれば戦いの余波だけで人類は滅びかねないのだから。
それ故にアオが国を所有する事に殆どの国が首を縦に振らなかった。くしゃみをしたら人が死ぬような化け物に国を持たせるなど二度とあってはならないからだ。
しかし、国家間戦争の情報が公開された直後から、その状況は一変した。
戦争の内容、その報酬の詳細に誰もが目を光らせたのだった。
報酬:コウイチ=クロガネの所属
補足情報:晶石鍛治スキルEX
現在判明しているスキルの詳細データ。
ありえない破格の性能に誰もが欲した。
予定では準備出来次第すぐに開戦する予定たっだが、公開直後から両国に問い合わせが殺到して混乱。収集が付かなくなり、戦争は1ヶ月延期になった。
収集が落ち着いた頃には蒼の皇国側には世界の半数程の国が同盟関係となり、誰もがアオの目的を支援する様になっていた。
夜の帝国はその悪名だかさから協力する者は少なく、手を挙げた者がいてもセツナが拒否していた。
この状況はセツナの計画の内なのかとコウイチが尋ねると「こんなのは過程にすぎないよ。コウくんを私の物だって認めさせるのが目的なんだから」などと言っていった。
1ヶ月という時間を貰ったコウイチは自分の出来る事に取り組み、その成果を何とか形にする事が出来た。
砂浜に大の字で寝転がるコウイチにガイコツが手を差し伸べながら言う。
「これならば対等に戦えるだろう」
「ありがとうございます。リョウタさん」
コウイチはガイコツーーリョウタ=アヅチの手を掴んで立ち上がると大きく伸びをしてから右手に握った刀身のない剣を振るう。
「戻れ」
周囲に散らばっていた小さな破片が集まり氷のような美しい刀身を作り上げた。
千変万化・氷花。以前からコウイチが作っていた可変式の機械武具で、セツナが錬金術用の素材として溜め込んでいた希少素材を存分に使用し、更にセツナの錬金術、タリアの魔術刻印まで利用している。
タリアに可変の制御の中核となっている魔術刻印を刻んで貰う際、そのあまりの難解さから射殺されそうな視線で睨まれ続けたのは一生忘れない。
「“千変万化”。ようやくその名の通り扱えるようになったな」
「超過駆動は皆んなの力を借りて30分くらいですけどね」
「上位駆動でもオレと十分に渡り合えるのだから誇って良いと思うぞ?」
「それも結局は3時間が限度っすよ」
時間制限付きではあるが、剣士としては最強と謳われるリョウタと互角に渡り合う事が可能になった。
最も本人の体力が乏しいという点が継戦能力に影響を及ぼしてはいるが。
「それでもオレと戦って生きてる時点で誇っていい。今までに本気でやり合って生きてた奴は数える程度しかいないからな。まして、上位駆動で張り合えてるのだから将来が楽しみだ」
「いやいや、俺は剣士とかなる気ないですからね?」
「鍛冶師が戦ってはいけないと誰が決めた!」
あはは、とリョウタが骨をカタカタを鳴らす。
そんなリョウタを見てコウイチはため息を吐きつつ、確認する様に問う。
「リョウタさんは、本当に元の世界に帰りたいんですか?」
その問いにリョウタは笑うのを辞めて静かに返してくる。
「ああ、帰りたい。この世界で俺がやったことが許されるとは思っていない。それに、こんな身体だしな。
ただ、妹にちゃんと別れを告げたい。それだけが、向こうの世界での唯一の心残りだ」
「こっちの世界では……まだ復讐をするんですか?」
「……ああ。まだ、殺さなければならない奴が残っている」
「それが終わったら?」
「奴を殺す以外にも、二度とオレのような者を生み出さない為にこの世界を変えなければならん。その為に必要であれば殺す。だが、不要な命はもう奪いたくは無い」
その言葉を聞いてコウイチは改めて、元の世界に帰る為に協力する事を決意するのだった。
「本当に俺に出来るか分からないですが、全力で協力させてもらいます!」
「助かる。そうであれば明日の戦い意地でも勝って貰わねばな」
リョウタが骨の拳を前に突き出してくる。対してコウイチも拳を作って答えた。
「お前は帰るに乗り気ではないのか?」
不意にリョウタがコウイチに疑問を投げかける。
「どっちでもいいかなぁ」
コウイチにとって、今が最も充実していると言っていい。
「ぶっちゃけ、元の世界に戻ってもやる事がないんですよね」
「家族は?」
「居ますけど……」
「歯切れが悪いな。仲が悪いのか?」
「普通かなぁ」
「では何故だ? 唯一の肉親であろう?」
「……分からないんですよ。何て言ったらいいのかな。えーっと……俺は確かに鐡光一なんですけど、向こうで生きてた鐡光一とは違う存在みたいな?」
「ふむ。……なるほど。よく分からんが、言いたい事は分かった。つまり、家族を他人の様に感じているということだな」
「そんな感じっすね。だから、帰りたいかって言われると別にそんなでも無いんですよね」
「そういう事ならば良かった」
「どうしてっすか?」
「お前が単に親不孝者なら喝を入れようと思っていたんだがな。別の事情があって良かった」
「それは……俺としても良かったっす」
コウイチは苦笑しつつ、本気で良かったと安堵した。
コウイチとリョウタが戦闘訓練を行なっている浜辺とは正反対の浜辺。
人気のない真っ暗闇の浜辺に海中から複数の人影が顔を出す。慣れた手つきで水中装備を脱ぎ捨て、それぞれが武装を始めた。
その数は7人。屈強な男ばかりだ。
甘く見られたものだ、とセツナは嘆息する。
どこの国の刺客かは分からない。
ただし、目的は分かる。
コウイチの誘拐だ。
賞品だけを横から強奪しようとするゴミ屑共。
今後の行動を確認していたであろう男たちにセツナは声をかける。
「その程度で私から小石一つでも奪えると思ってるのかな?」
「っ!? いつの間に!?」
男たちは驚きながらも流れる様な動作で、それぞれ武器を構えて臨戦態勢をとった。
荒事に慣れた集団である事は一目で分かる。普段であれば、彼らは応戦し、殲滅、作戦行動を修正しつつ再開するのだろう。
セツナが相手でなければ。
「ねえ、何処の国に雇われたのかな?」
セツナの質問に対して、先頭にいた男がナイフを片手に腰を低くする。
「お前たちは先に行け!?」
それだけ言うと男は砂浜を蹴り、地面低く駆けた。
狙いはセツナの首筋。
男のナイフが正確にセツナの頸動脈を目掛けて突き出される。
セツナは冷めた目をしたまま微動だにせず、男の姿を視線だけ動かして追う。
「馬鹿なっ!?」
男は目の前で起きた現象に目を見開いて驚く。
応戦するだけ無駄な労力である。
「そんな鈍で私の皮膚を切り裂けると思ってるなんて、過小評価されたものね」
男のナイフはセツナの頸動脈を見事に捉えていた。だが、皮膚に当たった所でナイフは止まっていた。
魔法障壁などで防いだのではない。
純粋にセツナの皮膚が強靭なのだ。
セツナに傷を付けようとするなら聖剣や魔剣のような伝承に出てくる武器や空間を切り裂くような魔法を持ち出してこないと行けない。
人間が敵うはずのない化物が相手だと理解していないおバカな国が雇い主の様だ。
男の両腕が宙に舞う。傷口から血飛沫が噴出するが、男は痛みを感じていないはずだ。
セツナは男の喉元を鷲掴みにして持ち上げる。
「ねえ、答えてくれないかな? もう、あなたしか生きて無いんだから、言ってくれないと困るんだけど?」
「あがっ!?」
男は首を絞められながら視線を背後に向ける。
そこには真っ暗闇の海の中にゴロゴロと大きな塊が無数に転がっていた。それらは人の形を保ってはいない。
肉塊。
いつの間に?
男はそんな事を考えているのだろうか?
つまらない、とセツナは落胆する。
男がナイフを構えた時には既にお仲間達は肉塊になっていた。
セツナを敵に回して、1秒と生きていられる生物がこの世にどれだけいるか?
恐らくは、数えた方が早いのは間違いない。
男は仲間が全滅している事実を知っても口を割る気配なく、ただもがき続ける。
どうでも良くなったセツナは、男の首を握りつぶして胴体から切り離した。
「これで何組目だったかな。私を敵に回してでもコウイチのスキルは欲しいんだね」
============================
夜が明け、水平線から太陽が顔を覗かせる。
開戦は正午。
まだ6時間ほどあるが、防衛側である夜の帝国改め【異世界連合】陣営は既に配置に付いた。
今回の戦争は一部ルールが変更になっている。
戦争形式:防衛戦
参加人数:異世界連合5人、蒼の皇国6人
制限時間:24時間
戦闘内容:生死問わず自由
勝敗条件:エリア内に隠された結界石1つの破壊又は防衛
戦争参加者
『異世界連合軍』
セツナ=リュウザキ
リョウタ=アヅチ
タリア=マーガレット
コウイチ=クロガネ
エイジ=アイザワ
『蒼の皇国』
蒼龍皇
ハク
メアリ=レーン
白龍皇
紅龍皇
アイリス
「アイリスまで参加するのは予想外だったな。てか、互いにやりたい放題じゃね?」
今まで国を持つのがどうとか、規格外な者同士が結託するのがダメとか言っていたはずなのに……何でもありになってしまっている。
「まあ、アイリス以外が来る事を祈るばかりだな。相性的にアイリスだけはマジで厳しいからなぁ、ふわぁ」
コウイチは大きな欠伸をして地面に敷いた布団に入る。
「あ、俺、時間まで寝るんで誰か起こして貰ってもいいですか?」
“自分で起きろ” ブチっ
“はぁ” ブチっ
“あー、こちらエイジですが、あー、ちょっと電波の調子が” ブチっ
“目覚まし掛けなさいよ” ブチっ
全員から繋いであったグループ通話を切断された。
「ま、6時間もあるし大丈夫でしょ。おやすみなさい」
こうしてコウイチは睡眠に入るのだが、全員の予想を裏切らず……起きる事なく戦争は開幕するのであった。
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