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出陣
しおりを挟む漫画の世界では、パーシヴァル様19歳の時にイスパニアがランスに侵攻を開始した。ここから、十年戦争の幕が切って落とされる。
彼は国境に向かい、類いまれなる武力に加え魔力と知力を尽くして戦う。ここから彼の華々しい戦歴が始まることになるのだ。
でも、十年も戦争が続くと国も国民も疲弊するし、女王が独身なのも理解できる。
きっとそれどころじゃなかったのよね。
出陣する部隊をミランダと見送りに来た。
漫画の世界と異なる事を願っていたけれど…。
戦争は始まってしまったしパーシヴァル様は国境へ出陣する。漫画との一致が恐ろしい。
ただ我が国には、大きな魔力を持つ華やかで健康な王太子がいるし、お父様は国王の息子とはいえ魔力を持たず臣籍降下していて病弱だ。
それに健康で少ないながら魔力を持つ王子がまだ二人もいる。万が一にも、私が女王となる可能性は低い。
なのに、なんだか胸騒ぎがした。
ミランダは、彼女の持つ妹ポジを存分に生かしてジャンに抱きついて泣いている。
周りも素敵な家族愛だな、きっとお兄ちゃん子なのねっと微笑ましく見ているが、妹の本性を知る私としては、今日も感服するしかない。
しかし、私にはあれは不可能だ。
今日はさすがに模倣犯は止めよう。
「パーシヴァル様、こちら私のポートレートと刺繍したハンカチです。ケガなく無事に…。」
もう、それ以上言葉が続かない。
パーシヴァル様はそんな私の涙を隠すように、私の顔をその鍛え上げた厚い胸に抱き込んでくださった。
「無事戻ってくる。休暇には必ず顔を見に行くから。エスメラルダ、泣かないで。笑顔が見たい。」
パーシヴァル様は、私の差し上げたハンカチでそっと私の涙を拭うと、胸ポケットにしまった。
これから、出陣とは思えないくらい落ち着いた笑顔を浮かべてくれるから、つられて笑ってしまう。
「エスメラルダの涙は、私の胸に閉じ込めたから、休暇で次に会うまでは泣いてはいけないよ。」
約束のしるしとして、パーシヴァル様は、私の額にキスをしてくださった。身体中に多幸感が溢れる。
かーっと頭に血が上り顔面が真っ赤になったのがわかる。
もう、額は洗えないわ。
パーシヴァル様は、颯爽と馬に乗り込んで隊列についた。私は部隊が出陣するのをミランダと城門の上から見送る。マリー先生が無言で双眼鏡を私に渡した。
出陣のファンファーレが鳴り響く。
勇ましいその音色が惜別の時を告げる。
パーシヴァル様と約束したのに、双眼鏡に隠れて涙が溢れるのを止めることが出来なかった。
前を向いて出発するパーシヴァル様には見えない筈。でもその瞬間、パーシヴァル様が騎乗した馬からこちらを振り返った。
私を見ると、胸ポケットをこぶしでとんと叩いた。泣いてるのバレたかな。約束を破ってごめんなさい。私の涙は全てパーシヴァル様の胸の中に閉じ込めたのに…。
私は隊列が見えなくなるまで、ずっとそこに立ち尽くしていた。
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