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秘め事
しおりを挟むルシアは自分の立場をわきまえているつもりだった。
ルシアは魔界最底辺の淫魔でアズランは魔界の頂点に君臨する魔王だ。
だからいつかは側にいられなくなることもわかっていた。
甘美な魔力を毎夜貰えることで充分幸せな筈だった。
しかし、最近ルシアの淫魔としての衝動が抑えられなくなってきてしまったのだ。
夜半に渇きを覚えて目覚めたルシアは自分を抱いて眠るアズランの寝顔に押さえつけていた欲望が暴走するのを感じた。
欲しい。
友人としての立場を崩したくなくて、抱いてほしいなんて口に出した事はなかったが、心の奥底ではアズランが欲しくてたまらなかった。
優しい口づけだけでは足らない。淫魔の性が目覚めて囁く。身体の奥深くにアズランの全てを受け入れたいと。
魔が差した俺は淫魔の唯一の特技を使い、俺を抱きしめて眠るアズランの自由を奪った。
己の罪深さに慄きながらも、淫魔の俺に心を許して抱きしめて眠るアズランが悪いんだと自身に言い聞かせた。
罪悪感はやがてアズランを独り占めに出来た優越感と驚くほど満たされた淫魔の本能にすり替わる。
一度も誰とも身体を重ねたことなどないはずのルシアなのに、淫魔の本能ゆえか身体が勝手に動いていた。
初めてだというのにルシアの後孔はアズランの巨大なそれを難なく受け入れた。
まるで誂えたように身体に馴染む感覚に夢中になった。
アズランと一つになったというその事実がルシアをさらに酔わせた。
意識が飛んでいるであろうアズランにいつもなら絶対に言えない言葉を呟いた。
「アズラン愛してる。」
誓うようにアズランの無防備な唇を奪う。毎日何度も重ねる口づけとは違う異質さに身体が酔う。
だが、アズランは目覚めない。
微動だにしないアズランに虚しさと哀しさが募る。
いつものように、優しく口づけされたい。その瞳で見つめて欲しい。名前を呼んで。
身体の欲望は満たされたのに心が凍るように冷たかった。
翌朝いつものように優しく微笑みかけてくるアズランに罪悪感で胸が痛んだ。
「ルシア、おはよう。疲れているのかな。」
ルシアに心を許しているアズランはルシアの昨夜の罪に気付くことなく、労わるように抱き締めて優しくルシアのちいさな羽の付け根を撫でながら口づけを落とす。身体に優しく染み渡るアズランの魔力。
アズラン、お願いだからこれ以上優しくしないで。期待してしまいそうだ。
悪魔にとって羽の付け根と尻尾は性感帯だ。伴侶か家族以外には触らせないくらいデリケートな部分だ。
アズランにとって俺は家族のひとりなのかもしれないが、俺はアズランのことを家族とは思えない。
瞳が潤む。
「ルシア、熱があるようだ。今日は一日ここで休みなさい。」
アズランは額に口づけると執務室に向かっていった。
けれど身体は本能には勝てず、夜半に目覚めてしまう度、バレはしないとだんだん大胆になっていった。
夜眠る前に、優しく抱き締められながら与えられる魔力に満たされているはずなのに……。
あさましくも夜中に淫魔の性に苛まれ目覚めてはアズランの身体を求めた。
淫魔として当然の欲求。恥ずべき行為ではない。相手に正直に話して、了承を得ていれば……。
快楽を好む悪魔達ならば喜んで応じてくれただろう。
現に、城に働く悪魔たちの中には必要があればいつでも言ってねとルシアに提案してくるものも多かった。
だが、ルシアにはアズランだけだった。アズラン以外は欲しくなかった。
そして、ルシアの最期に残った矜持があさましい淫魔の本能を認めたくなかった。
打ち明ければ、優しいアズランの事。笑って応じてくれたかもしれない。
でも、それで今まで築き上げてきた関係が崩れてしまいそうで、自分の醜さをさらけ出したくなくてルシアはひっそりと騙すようにアズランを貪った。
バチが当たったんだ。ルシアがアズランに対して抱いている感情は友人で良いなんてそんな生易しいものではなかったのに……。
でも、アズラン以外の魔力を欲しいとは思えない。アズラン以外に触れられたくなどない。
低級淫魔のくせに無駄に高い矜持のせいでこれから生きてゆくすべてなどない。
このまま消えてしまいたい。
ルシアは儚げにため息をついた。
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