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11.幸せの象徴
2人の会話を聞いたあとの記憶がない。気がつけばバルザックの腕の中で、微睡んでいた。
いつもと変わらない優しいバルザックに先程の会話は悪い夢だったのではと思いたかったが。
だが、バルザックが時折呟く、私の番という言葉に現実に引き戻される。
優しく抱かれれば抱かれるほど震えが止まらなかった。バルザックの優しさが私を苦しめた。
罪人として堕とされ、順番に回される公妾としてでなく、本来の王女の身分で出逢っていれば彼と深い仲になる機会はなかっただろう。
しかし彼の奥さんになる人が羨ましい。母が亡くなった時、意地を張らずに帝国の祖父の元に戻っていたら……。
そんな、どうしようもないことまでも頭に浮かんでは消えた。
「あなたの奥さんは幸せね。」
と思わず漏れた呟きは、バルザックの蕩けるような微笑みとともに。
「妻を世界一幸せにすると誓うよ。」という残酷すぎる答えで返ってきた。
感情が枯れ果てて、もはや涙すら出なかった。
愛されているのではと錯覚するくらい熱い夜と引き換えに心は凍えていく。
「アリア、仕立て屋が来るから好きなドレスを選んで置いて。」
公妾への手切れ金代わりなのか。たくさんの素晴らしいドレスが運ばれてきた。
その中に一着、どうしても気になるものがあった。
昔、母が私に遺したウェディングドレスに似たそれから目が離せなかった。
母が亡くなった後、側妃が真っ先に私から取り上げたのがそのドレスだった。
私の幸せの象徴。引き寄せられるようにドレスに近寄った。
「着てみられますか?」
ウェディングドレスを着る資格がないのだと断ろうとして、声をかけてくれたお針子を見て驚いた。
マリー。有無を言わせず試着室に連れて行かれた。
「マ…」
しいっ。唇に指を当てたマリーの指示通りに口を噤む。
「お嬢様、こちらにお着替えを」
テキパキと着替えを手伝ってくれながらマリーが囁いた。
「アリア様、遅くなりました。私が手助けします。逃げましょう」
こっそり耳元で囁くマリーに聞き返す。
「一体どこに?」
母国レジオンには戻れないし、絶対に戻りたくない。
「私はお母様の母国帝国からのスパイです。お祖父様の元に参りましょう。遅くなりましたが、準備は整っています。」
厳しいが私に甘い祖父の姿が思い浮かんだ。そう。それも良いかもしれないわ。
ただ、もう少しだけバルザックの元にいたい。
エスメラルダと帝国は緊張関係にある。今、帝国へ足を踏み入れれば、二度とこの地を踏めないだろう。
「考えさせて。」
今すぐ、逃げるべきなのにバルザックへの未練を断ち切れなかった。
「では、また参ります。」
マリーは心配そうに帰っていった。
いつもと変わらない優しいバルザックに先程の会話は悪い夢だったのではと思いたかったが。
だが、バルザックが時折呟く、私の番という言葉に現実に引き戻される。
優しく抱かれれば抱かれるほど震えが止まらなかった。バルザックの優しさが私を苦しめた。
罪人として堕とされ、順番に回される公妾としてでなく、本来の王女の身分で出逢っていれば彼と深い仲になる機会はなかっただろう。
しかし彼の奥さんになる人が羨ましい。母が亡くなった時、意地を張らずに帝国の祖父の元に戻っていたら……。
そんな、どうしようもないことまでも頭に浮かんでは消えた。
「あなたの奥さんは幸せね。」
と思わず漏れた呟きは、バルザックの蕩けるような微笑みとともに。
「妻を世界一幸せにすると誓うよ。」という残酷すぎる答えで返ってきた。
感情が枯れ果てて、もはや涙すら出なかった。
愛されているのではと錯覚するくらい熱い夜と引き換えに心は凍えていく。
「アリア、仕立て屋が来るから好きなドレスを選んで置いて。」
公妾への手切れ金代わりなのか。たくさんの素晴らしいドレスが運ばれてきた。
その中に一着、どうしても気になるものがあった。
昔、母が私に遺したウェディングドレスに似たそれから目が離せなかった。
母が亡くなった後、側妃が真っ先に私から取り上げたのがそのドレスだった。
私の幸せの象徴。引き寄せられるようにドレスに近寄った。
「着てみられますか?」
ウェディングドレスを着る資格がないのだと断ろうとして、声をかけてくれたお針子を見て驚いた。
マリー。有無を言わせず試着室に連れて行かれた。
「マ…」
しいっ。唇に指を当てたマリーの指示通りに口を噤む。
「お嬢様、こちらにお着替えを」
テキパキと着替えを手伝ってくれながらマリーが囁いた。
「アリア様、遅くなりました。私が手助けします。逃げましょう」
こっそり耳元で囁くマリーに聞き返す。
「一体どこに?」
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「私はお母様の母国帝国からのスパイです。お祖父様の元に参りましょう。遅くなりましたが、準備は整っています。」
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ただ、もう少しだけバルザックの元にいたい。
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「考えさせて。」
今すぐ、逃げるべきなのにバルザックへの未練を断ち切れなかった。
「では、また参ります。」
マリーは心配そうに帰っていった。
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