1 / 26
1.やってきた妖精は、おっさんでした。
しおりを挟む
この世界の子供達は、五歳の誕生日を迎える時に、一生で一度の素敵な出逢いを果たす。
誕生日の夜、遠い遠い場所にある国から、妖精――ファーメリーがやってくるのだ。
ファーメリーは子供の良きパートナーとして、相棒である子供を守る。
ファーメリーを得た子供は自分のパートナーに多くのことを教え、また自らも学ぶ。
そうしてお互いに成長して、強く、立派な大人になるのだった。
僕も、五歳の誕生日を迎える前から、ファーメリーとの出逢いに夢と期待を膨らませていた。
たった一人の小さな、可愛い友達に、会いたくて会いたくてたまらなかった。
「もうすぐ、ディースのところにもファーメリーが来るのね。どんな子かしら、楽しみだわ」
姉のルーシーが、一緒に出迎えの準備をしてくれる。二つ年上の姉さんの側には、二年前にやってきた可愛い女の子のファーメリー、ソフィアが飛んでいる。
掌にちょこんと乗れるくらい、小さな妖精だ。
透き通った綺麗な羽を軽やかに動かして、幸せそうに姉さんの側にくっついていた。
僕の側にも、もうすぐこんなファーメリーがやって来るんだ。
考える度に、待ち遠しくて体がざわついた。
ようやく、五歳の誕生日。
誕生日ケーキも、みんなからのプレゼントもそっちのけで、僕はファーメリーだけを待ちわびていた。日が暮れてからもずっとずっと、ファーメリーの到着を待ち続けた。
しかし、その日、ファーメリーはやってこなかった。
次の日も、また次の日も。
ずっと待っていたけれど、ファーメリーはこなかった。
「ねえ、ぼくのファーメリーは、いつくるの?」
両親に、何度も何度も訪ねた。
ファーメリーは「ギフト」と呼ばれる、人間とファーメリーとの仲立ちを行う職業に就いた者が連れてくることになっていた。
その人物の何らかの都合で、到着が遅れているのだと、説明された。
必ずくると信じて、僕は待ち続けた。
一週間経った。
まだ、ファーメリーは来ない。
「ファーメリーは、いつくるの?」
この一週間の間に、何度その言葉を口から吐き出したか。
それはもう、数え切れないほど。
親たちも、いい加減うんざりしていただろう。
だが、しつこく食いついて疎ましく思われるよりも、ファーメリーがやってこないことのほうが、当時の僕にとっては深刻で、恐ろしかった。
そして、一ヶ月目。
やってきた。僕の、ファーメリーが。
僕は心を躍らせながら、家の前にやってきたファーメリーを出迎えた。
その姿を見た瞬間、頭が真っ白になった。
ファーメリーの年齢は相棒となる人間の子供と同じ。まだ妖精の力を持たないため、〝幼精〟と表現される。
これから長い時間をかけて、二人で力を合わせて、一緒に成長していくのだ。
そう聞いていた、はずだったのだが――。
目の前に連れてこられた〝それ〟は、どこかおかしかった。
確かに、とっても小さくて、背中には薄くて綺麗な羽が生えている。
ファーメリーには、間違いない。
だが、そのファーメリーは赤い顔をしていた。口の周りには髭が生え、偉そうに胡坐あぐらを掻いている。
手には茶色い小瓶を握りしめていた。それを口に付け、グビグビと中身を飲む。飲み干すと、下品なげっぷをした。すると周囲に酒の臭いが広がった。
目の前にいる、僕のところにやってきたファーメリーは、僕と同じ歳とは思えない。
見ればすぐにわかる。こいつは子供ではない。
おっさんだ。
どこからどう見ても。
しかも、飲んだくれのアルコール中毒の。
僕の頭の中に広がっていた、ファーメリーの愛らしいイメージが、音を立てて崩れた。
そして、これから訪れるはずだった、ファーメリーとの楽しい生活も、まるで陽炎のごとく揺らめいて、蜃気楼のように消えていった。
ファーメリーには、ギルバートという名前が付いていた。
本来、ファーメリーは名前がなく、パートナーの子供がつけるのが通常だ。
とまあ、それだけの相違点が揃い踏みすれば、子供の僕でも気付けたわけだ。
「こんなのちがう! ぼくのファーメリーじゃないよ!」
僕は目の前の嘘を、即座に見破った。
僕の幼いなりの観察力に、両親も観念したようで、ゆっくりと諭すように、本当のことを教えてくれた。
このファーメリーは、父さんのファーメリーだった。
とっくに、人間の世界での修行を終えて、自分の国へ帰っていたが、父さんが呼び戻したらしい。
そして、僕が成人して大人になるまで、ここにいるそうだ。
僕はそれを聞いた上で、もう一度尋ねた。
「じゃあ、ぼくのファーメリーは、いつくるの?」
それに対する回答は、とうとう返ってこなかった。
それからというもの、僕は自分なりに必死で考えて、その疑問の答を出した。
きっと、ギルバートは「代わり」なのだと。
何らかの理由で、到着が大幅に遅れている僕のファーメリーが、ここへやってくるまでの間の。
だからきっと、僕のファーメリーはいつか必ず、やってくる。
そう信じた。
その日から、僕の「待ち続ける」日々が始まった。
誕生日の夜、遠い遠い場所にある国から、妖精――ファーメリーがやってくるのだ。
ファーメリーは子供の良きパートナーとして、相棒である子供を守る。
ファーメリーを得た子供は自分のパートナーに多くのことを教え、また自らも学ぶ。
そうしてお互いに成長して、強く、立派な大人になるのだった。
僕も、五歳の誕生日を迎える前から、ファーメリーとの出逢いに夢と期待を膨らませていた。
たった一人の小さな、可愛い友達に、会いたくて会いたくてたまらなかった。
「もうすぐ、ディースのところにもファーメリーが来るのね。どんな子かしら、楽しみだわ」
姉のルーシーが、一緒に出迎えの準備をしてくれる。二つ年上の姉さんの側には、二年前にやってきた可愛い女の子のファーメリー、ソフィアが飛んでいる。
掌にちょこんと乗れるくらい、小さな妖精だ。
透き通った綺麗な羽を軽やかに動かして、幸せそうに姉さんの側にくっついていた。
僕の側にも、もうすぐこんなファーメリーがやって来るんだ。
考える度に、待ち遠しくて体がざわついた。
ようやく、五歳の誕生日。
誕生日ケーキも、みんなからのプレゼントもそっちのけで、僕はファーメリーだけを待ちわびていた。日が暮れてからもずっとずっと、ファーメリーの到着を待ち続けた。
しかし、その日、ファーメリーはやってこなかった。
次の日も、また次の日も。
ずっと待っていたけれど、ファーメリーはこなかった。
「ねえ、ぼくのファーメリーは、いつくるの?」
両親に、何度も何度も訪ねた。
ファーメリーは「ギフト」と呼ばれる、人間とファーメリーとの仲立ちを行う職業に就いた者が連れてくることになっていた。
その人物の何らかの都合で、到着が遅れているのだと、説明された。
必ずくると信じて、僕は待ち続けた。
一週間経った。
まだ、ファーメリーは来ない。
「ファーメリーは、いつくるの?」
この一週間の間に、何度その言葉を口から吐き出したか。
それはもう、数え切れないほど。
親たちも、いい加減うんざりしていただろう。
だが、しつこく食いついて疎ましく思われるよりも、ファーメリーがやってこないことのほうが、当時の僕にとっては深刻で、恐ろしかった。
そして、一ヶ月目。
やってきた。僕の、ファーメリーが。
僕は心を躍らせながら、家の前にやってきたファーメリーを出迎えた。
その姿を見た瞬間、頭が真っ白になった。
ファーメリーの年齢は相棒となる人間の子供と同じ。まだ妖精の力を持たないため、〝幼精〟と表現される。
これから長い時間をかけて、二人で力を合わせて、一緒に成長していくのだ。
そう聞いていた、はずだったのだが――。
目の前に連れてこられた〝それ〟は、どこかおかしかった。
確かに、とっても小さくて、背中には薄くて綺麗な羽が生えている。
ファーメリーには、間違いない。
だが、そのファーメリーは赤い顔をしていた。口の周りには髭が生え、偉そうに胡坐あぐらを掻いている。
手には茶色い小瓶を握りしめていた。それを口に付け、グビグビと中身を飲む。飲み干すと、下品なげっぷをした。すると周囲に酒の臭いが広がった。
目の前にいる、僕のところにやってきたファーメリーは、僕と同じ歳とは思えない。
見ればすぐにわかる。こいつは子供ではない。
おっさんだ。
どこからどう見ても。
しかも、飲んだくれのアルコール中毒の。
僕の頭の中に広がっていた、ファーメリーの愛らしいイメージが、音を立てて崩れた。
そして、これから訪れるはずだった、ファーメリーとの楽しい生活も、まるで陽炎のごとく揺らめいて、蜃気楼のように消えていった。
ファーメリーには、ギルバートという名前が付いていた。
本来、ファーメリーは名前がなく、パートナーの子供がつけるのが通常だ。
とまあ、それだけの相違点が揃い踏みすれば、子供の僕でも気付けたわけだ。
「こんなのちがう! ぼくのファーメリーじゃないよ!」
僕は目の前の嘘を、即座に見破った。
僕の幼いなりの観察力に、両親も観念したようで、ゆっくりと諭すように、本当のことを教えてくれた。
このファーメリーは、父さんのファーメリーだった。
とっくに、人間の世界での修行を終えて、自分の国へ帰っていたが、父さんが呼び戻したらしい。
そして、僕が成人して大人になるまで、ここにいるそうだ。
僕はそれを聞いた上で、もう一度尋ねた。
「じゃあ、ぼくのファーメリーは、いつくるの?」
それに対する回答は、とうとう返ってこなかった。
それからというもの、僕は自分なりに必死で考えて、その疑問の答を出した。
きっと、ギルバートは「代わり」なのだと。
何らかの理由で、到着が大幅に遅れている僕のファーメリーが、ここへやってくるまでの間の。
だからきっと、僕のファーメリーはいつか必ず、やってくる。
そう信じた。
その日から、僕の「待ち続ける」日々が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。
魔王乱立の時代。
王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。
だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。
にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。
抗議はしない。
訂正もしない。
ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。
――それが、誰にとっての不合格なのか。
まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる