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3.あなたのファーメリーは
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僕の父さんは、このクラブ村の村長だ。
つまり僕は村長の息子ということになる。よって、村一番の大きな家に住んでいるというのも、納得がいくだろう。
村長は村の治安を守るとともに、もう一つ大きな役割を持っている。
それが、ギフトだ。
ギフトは人間とファーメリーとの間の仲立ちをするために作られた組織で、子供のところにファーメリーを連れてきたり、ファーメリーにまつわるトラブルを解決したりするのが主な仕事だ。
ギフトを取り仕切り、困難な仕事を続けている父親を立派だとは思うけれど、それだけすごい職に就ける技量があるんだったら、せめて自分のファーメリーの酒癖を改善するくらいはしておいてほしかったものだが。
その点においてだけは、ちょっと尊敬しきれない。
ギフトの責任者的な立場にある両親は、国中を飛び回ってギフトの仕事を行っている。村にいることは滅多にない。
なので現在、村のギフトを取り締まっているのは、僕の姉さんだ。
僕の家は二階が居住区になっていて、一階がギフト専用の事務所となっている。
ここで住民からの依頼を受けたり斡旋したり、ギフトの一員として働く人たちの世話をしている。
僕も早くギフトの一員になって、村の外で活躍したいと思うわけだが、ギフトに入るための資格は、僕には越えられない壁そのものだった。
それなりの力を持ったファーメリーを連れていることが、第一条件だからだ。
今の僕にはとうてい、不可能だった。
でもでも。
もうじき僕のファーメリーがやってきて、一緒に訓練とかして、想像を絶するスピードで成長して、一気にギフトの仲間入りを果たす!
僕の夢は達成間近だ。なんだかワクワクする。
と、高揚する気分を押さえながら、僕は姉さんについて事務所へとやってきた。
そこは応接間のような間取りになっていて、中央にテーブルがあり、椅子が四つ、置かれている。今はそのどれもが手持ち無沙汰といった様子で、誰にも座られることなく、寂しげだ。
さらに奥に、責任者用の机が置かれている。本来なら父さんの座るべき場所だが、今は姉さんが代わりに使用している。
机に腰を下ろし、姉さんは僕に机の前に立つように目で指示した。
「ディース。あなたももう十五歳です。お父様やお母様は、大人になるまで黙っているようにと仰っていましたが、私はもう、あなたに本当のことを話してもよいと考えています」
僕が定位置に着くと、姉さんはゆっくりと口を開いた。
「何の話?」
僕は首を傾ける。姉さんは背後の本棚に埋まっている金庫を、ダイヤルを回して空けた。
その中から取り出した、小さな箱を机の上に置き、開いて見せた。
僕やソフィア、ギルバートは、箱の中を覗き込む。
「これって、ファーメリーの羽じゃないの?」
ソフィアが言った。
薄くて透明で、枝分かれした木みたいな綺麗な筋の入った、鱗のようなもの。
たしかに、それはソフィアやギルバートの背中にあるものと、よく似ている。
それよりも小さく、途中で千切れていたが。
「これは十年前に、この村を訪れたギフトの方が持ってきたものです」
姉さんが語り出す。僕は静かに、耳を傾けた。
「あれは、あなたの五歳の誕生日のこと。ファーメリーの到着を心待ちにしていたあなたのために、お父様は村の外までギフトの方を迎えに行かれました。覚えていますか?」
「覚えている。でも、結局その日は来なかった。父さんは一人で戻ってきた」
「ええ。ですがその時、お父様はギフトの方と会ったのです。そして、そのギフトの方が、ファーメリーを連れて来れなかった事実を知ったのです」
「それは、どうして……?」
胸がざわついた。
嫌な予感、とでも言うのだろうか。
聞いたらもう、後戻りはできない。そんな感じがした。
でも、聞かずにはいられなかった。
「ここへ向かう旅の途中、ファーメリーを狙う輩に襲われたのだそうです。その人はファーメリーを安全な場所へと逃がしました。何とか敵を撃退し、逃がしたファーメリーをすぐに探したそうですが、どこにも姿はなく、この羽だけが落ちていたそうです」
僕は息をすることすら、一瞬忘れていた。
ただ心臓が激しく打つ音だけが、やけに頭を震わせた。
「その後も虱潰に探したそうですが、結局見つからず、その人だけが報告にとクラブ村へやってきたのです。その経緯から察するに……」
姉さんは目を伏せた。僕と目を合わせないように、必死になっている。
「……あなたのファーメリーは、もうこの世にいないでしょう」
僕は、ぽかんと口を開けて立ち尽くし、頭の中が一瞬真っ白になった。
今、何て言った? 姉さんは何て言ったんだ?
言葉は聞こえた。しかし、意味がなかなか理解できない。理解すまいと、僕の頭が頑張っているみたいだ。
そんな僕の様子を察してか、姉さんはもう一度、ゆっくりと、かみしめるように言った。
「あなたのファーメリーは、ここへやってくる前に、死んでしまったのです」
「う、嘘だ……。嘘だ、そんなの!」
頭が正常に働いて、言葉の意味が理解できた。
その瞬間、僕は一歩後ずさり、必死で否定の言葉を吐き出していた。
「千切れた羽があるということは、何者かに襲われたと考えて間違いないです。まだ何の力も持たない、幼精であるファーメリーが、それに対抗できるとは思えません。仮にその時に生き延びたとしても、とても一人で、ここまで辿り着けるとは……」
「そんなの、そんなの……」
僕は拳を握りしめていた。同時に、目には大量に涙がたまっていた。
俯くと、涙が堰せきを切って流れ出した。顔を上げられなかった。
僕は、ずっと待っていた。
ファーメリーは必ずやってくると、信じて疑わなかった。
なのに、それは信じるだけ無駄だったのか。
僕の計算も考えも、すべて机上の空論だったというのか?
期待だけを支えに、目標に生きてきた僕は、僕は――。
「だったら、僕はこれから、どうすればいいんだよ!」
僕は踵を返して、掛けだしていた。
姉さんが背後で呼び止める声がしたが、無視して部屋を飛び出した。
つまり僕は村長の息子ということになる。よって、村一番の大きな家に住んでいるというのも、納得がいくだろう。
村長は村の治安を守るとともに、もう一つ大きな役割を持っている。
それが、ギフトだ。
ギフトは人間とファーメリーとの間の仲立ちをするために作られた組織で、子供のところにファーメリーを連れてきたり、ファーメリーにまつわるトラブルを解決したりするのが主な仕事だ。
ギフトを取り仕切り、困難な仕事を続けている父親を立派だとは思うけれど、それだけすごい職に就ける技量があるんだったら、せめて自分のファーメリーの酒癖を改善するくらいはしておいてほしかったものだが。
その点においてだけは、ちょっと尊敬しきれない。
ギフトの責任者的な立場にある両親は、国中を飛び回ってギフトの仕事を行っている。村にいることは滅多にない。
なので現在、村のギフトを取り締まっているのは、僕の姉さんだ。
僕の家は二階が居住区になっていて、一階がギフト専用の事務所となっている。
ここで住民からの依頼を受けたり斡旋したり、ギフトの一員として働く人たちの世話をしている。
僕も早くギフトの一員になって、村の外で活躍したいと思うわけだが、ギフトに入るための資格は、僕には越えられない壁そのものだった。
それなりの力を持ったファーメリーを連れていることが、第一条件だからだ。
今の僕にはとうてい、不可能だった。
でもでも。
もうじき僕のファーメリーがやってきて、一緒に訓練とかして、想像を絶するスピードで成長して、一気にギフトの仲間入りを果たす!
僕の夢は達成間近だ。なんだかワクワクする。
と、高揚する気分を押さえながら、僕は姉さんについて事務所へとやってきた。
そこは応接間のような間取りになっていて、中央にテーブルがあり、椅子が四つ、置かれている。今はそのどれもが手持ち無沙汰といった様子で、誰にも座られることなく、寂しげだ。
さらに奥に、責任者用の机が置かれている。本来なら父さんの座るべき場所だが、今は姉さんが代わりに使用している。
机に腰を下ろし、姉さんは僕に机の前に立つように目で指示した。
「ディース。あなたももう十五歳です。お父様やお母様は、大人になるまで黙っているようにと仰っていましたが、私はもう、あなたに本当のことを話してもよいと考えています」
僕が定位置に着くと、姉さんはゆっくりと口を開いた。
「何の話?」
僕は首を傾ける。姉さんは背後の本棚に埋まっている金庫を、ダイヤルを回して空けた。
その中から取り出した、小さな箱を机の上に置き、開いて見せた。
僕やソフィア、ギルバートは、箱の中を覗き込む。
「これって、ファーメリーの羽じゃないの?」
ソフィアが言った。
薄くて透明で、枝分かれした木みたいな綺麗な筋の入った、鱗のようなもの。
たしかに、それはソフィアやギルバートの背中にあるものと、よく似ている。
それよりも小さく、途中で千切れていたが。
「これは十年前に、この村を訪れたギフトの方が持ってきたものです」
姉さんが語り出す。僕は静かに、耳を傾けた。
「あれは、あなたの五歳の誕生日のこと。ファーメリーの到着を心待ちにしていたあなたのために、お父様は村の外までギフトの方を迎えに行かれました。覚えていますか?」
「覚えている。でも、結局その日は来なかった。父さんは一人で戻ってきた」
「ええ。ですがその時、お父様はギフトの方と会ったのです。そして、そのギフトの方が、ファーメリーを連れて来れなかった事実を知ったのです」
「それは、どうして……?」
胸がざわついた。
嫌な予感、とでも言うのだろうか。
聞いたらもう、後戻りはできない。そんな感じがした。
でも、聞かずにはいられなかった。
「ここへ向かう旅の途中、ファーメリーを狙う輩に襲われたのだそうです。その人はファーメリーを安全な場所へと逃がしました。何とか敵を撃退し、逃がしたファーメリーをすぐに探したそうですが、どこにも姿はなく、この羽だけが落ちていたそうです」
僕は息をすることすら、一瞬忘れていた。
ただ心臓が激しく打つ音だけが、やけに頭を震わせた。
「その後も虱潰に探したそうですが、結局見つからず、その人だけが報告にとクラブ村へやってきたのです。その経緯から察するに……」
姉さんは目を伏せた。僕と目を合わせないように、必死になっている。
「……あなたのファーメリーは、もうこの世にいないでしょう」
僕は、ぽかんと口を開けて立ち尽くし、頭の中が一瞬真っ白になった。
今、何て言った? 姉さんは何て言ったんだ?
言葉は聞こえた。しかし、意味がなかなか理解できない。理解すまいと、僕の頭が頑張っているみたいだ。
そんな僕の様子を察してか、姉さんはもう一度、ゆっくりと、かみしめるように言った。
「あなたのファーメリーは、ここへやってくる前に、死んでしまったのです」
「う、嘘だ……。嘘だ、そんなの!」
頭が正常に働いて、言葉の意味が理解できた。
その瞬間、僕は一歩後ずさり、必死で否定の言葉を吐き出していた。
「千切れた羽があるということは、何者かに襲われたと考えて間違いないです。まだ何の力も持たない、幼精であるファーメリーが、それに対抗できるとは思えません。仮にその時に生き延びたとしても、とても一人で、ここまで辿り着けるとは……」
「そんなの、そんなの……」
僕は拳を握りしめていた。同時に、目には大量に涙がたまっていた。
俯くと、涙が堰せきを切って流れ出した。顔を上げられなかった。
僕は、ずっと待っていた。
ファーメリーは必ずやってくると、信じて疑わなかった。
なのに、それは信じるだけ無駄だったのか。
僕の計算も考えも、すべて机上の空論だったというのか?
期待だけを支えに、目標に生きてきた僕は、僕は――。
「だったら、僕はこれから、どうすればいいんだよ!」
僕は踵を返して、掛けだしていた。
姉さんが背後で呼び止める声がしたが、無視して部屋を飛び出した。
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