四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~

幹谷セイ

文字の大きさ
271 / 336
第三部 四季姫革命の巻

第二十二章 封鬼強奪 4

しおりを挟む
 四

 松明を灯し、榎たちは洞窟の中へと足を踏み入れた。
 かなり奥深くまで、道が続いていそうだ。前方は真っ暗で、向こう側に何があるのか、まったく分からない。
 足元の水路を流れる水の音だけが、岩の壁に反響していた。
 しばらく道なりに進んでいくと、分かれ道に差し掛かった。二股くらいなら、道を間違えても引き返すなりして対処できそうだが、目の前の分岐路は、六つにも別れて広がっていた。
 適当に入り込みでもすれば、迷子は確実だ。
「やけに、入り組んだ通路ですね」
「うーん、参ったな。こんなに脇道があるとは」
 榎だけではなく、夏までもが腕を組んで途方に暮れている。
「まさか、道が分からないんですか?」
 夏はこの洞窟を逆から抜けて京を脱出してきたといっていたから、てっきり中の道は網羅しているものと思っていたが。
「こちらにやってくるときは、一本道にしか見えなかったからねぇ」
 夏にも道が分からないのなら、どこをどうやって進めばいいのだろう。
 立ち尽くしていると、夏は腰に挿していた、指揮棒くらいの木の枝を抜き取り、地面に突き立てた。
「ここはひとつ、神様のお導きを信じようではないか」
 夏は真剣な表情で枝の先端を見つめる。榎も凝視して、息を呑んだ。
 夏が手を離すと、枝は支えを失って地面に倒れる。その枝が指した洞窟の道を指差し、夏は頷いた。
「よし、この道を行こう」
「すごい! その棒、陰陽師の使う道具か何かですか!?」
 鮮やかに進む道を見出だした夏に、榎は感嘆の声をあげる。これが、本物の陰陽師の力なのか。
 だが、夏は涼しげな顔をして、肩を竦めた。
「いいや、さっき外で拾った、ただの木の枝」
「それって、ただの当てずっぽうっていうんじゃ……」
 子供がよくやる、どの方向に進むかを決める遊びと同じだ。
 夏はいたずらを楽しむ子供みたいな無邪気な顔で、にへらと笑っていた。
「まあ、何とかなるさー。先に進もう」
 何の根拠もないのに、軽い足取りで自信満々に進んでいく。
「思ったより、いい加減な人だな……」
 夏はもっと冷静で、思慮深い人物だと思っていたのだが、何だか違う気がしてきた。
 榎は呆れた半面、少し夏に親近感が湧いた。

 * * *

 適当に進んだ割に、行き止まる様子もなく、まっすぐ道は続いていた。正しい道かは分からないが、少なくともどこかの出口には通じていそうだ。
 松明の明かりだけを頼りに黙々と足を進める榎は、ふと気になって夏に訊ねた。
「ところで、さっきの戦い方からして、夏さんは入り口に式神がいると知っていたのですか?」
 夏は笑顔で頷いた。
「京へ出入りできる多くの道は、〝おきな〟が式神を配置して、厳重に守護している。恐らく、我々を侵入者と見なして、出てくるとは思っていた」
「翁というのは?」
「現在、京で一番の力を持つ陰陽師だ。私も、そのお方に命を救われ、京を生きて出てこられた。悪鬼の血の力を持て余していた我々に、鬼閻を封印する儀式を教えてくださったお方も、翁だよ」
 四季姫や、伝師一族よりも強い力を持つ、陰陽師。翁と呼ぶからには、そうとう歳をとった老人だろうか。
「もしかして、その翁という人が、夏さんの脱出を助けてくれた……?」
 ふと思い、榎は訊ねる。夏は「ご名答」と笑って頷いた。
「翁は現在、迫りくる妖怪や悪鬼から京を守るため、大事な儀式を進めておられる。その儀式を行う祭壇にも、この通路は通じている。だから、より式神による警備も厳重になっているのだ」
「じゃあ、この洞窟の中は今、その翁さんが一人で陣取っているわけですか」
「そうとも限らない。鬼を使役できる者なら、自由に行き来は可能だからね。それに、伝師の一族の系統の中には、悪鬼と化した鬼の血を直接受け継いでいる者たちもいるから、そういう者は入れる。翁は、前者だがね」
 だとすると、鬼に縁のある力を持つ者なら、割と簡単に、この洞窟を行き来できることになる。
 そう考えると、平安京もそれほど安全な場所とは言えないのではないだろうか。
 洞窟内だって、何が飛び出してくるか分からない。もっと気を引き締めないと。
「紬姫が引き継いでいる悪鬼の血にも、鬼のものが混ざっているのでしょうか」
「そう言われているな。本家の血筋は特別だ。何が混ざっているか、すべてを把握している者はいないだろう」
 榎の脳裏に、かたりの姿が浮かぶ。
 もし、紬姫が鬼の血を引いているのなら、語にも同じ血が流れているはず。
 語もこの時代にやって来ているとして、京の外にいるとすれば、この洞窟の存在を知って、利用するかもしれない。
 早く、語を見つけられるといいのだけれど。
 希望を頭に過ぎらせながら、榎は夏と並んで通路を進んだ。
 不意に、夏が立ち止まる。
 どうしたのかと聞こうとした直前、榎にも感じ取れた。
 奇妙な気配が、洞窟の奥で蠢いている。
 初めて感じる気配。その中に微かに、見知った気配も、いくつか混じっている。
 一つは、さっき入口で戦った、式神とよく似たもの。
 そしてもう一つは、忘れもしない。
 ―—語の気配だ。
「気が、乱れているな。式神が暴れているのか?」
 夏もその気配を敏感に察知したらしく、神経を研ぎ澄ませて探っていた。
「――いや、違うな。翁が式神を操っているのだ。だが、儀式に式神は必要ないはずだが」
 訝しげに、夏は眉を顰める。やがて、何らかの結論に達したらしく、表情には焦りを浮かべた。
「翁が、何者かに襲われているらしい」
 夏と榎の予感が、一致した。
 間違いない。
 翁という陰陽師と、語が戦っている。
「急ぎましょう、その陰陽師を助けないと!」
 榎たちは頷き合い、暗闇の向こうへ全力疾走した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...