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第一部 四季姫覚醒の巻
第四章 悪鬼邂逅 10
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十
「腹減ったから、探してきた。胡瓜、食え」
人間の姿に変身した狸宇は、両手に立派な胡瓜を抱きかかえて、運んできた。嫌そうな顔をしつつも、宵月夜の言葉を忠実に守り、榎にも差し出してくれた。
「ありがとう。……どこから持ってきたんだ?」
受け取ったものの、直前まで蔓にぶら下がっていたと思われる新鮮な胡瓜を見て、入手場所が気になった。妖怪たちが、野菜を育てているのだろうか。
「人間の畑から、持ってきた」
訊ねると、狸宇は胡瓜を美味しそうに齧りながら、さらりと言った。
「持ってきたって、盗んだのか? 人間に変身して、畑を荒らしていたのか」
榎は訝しく思い、狸宇を見つめた。人間の子供の姿をした狸宇を見つめて、榎はどこかで来た記憶があると、記憶の中を探っていた。
先日、椿と明け方に見かけた、野菜泥棒の人影に、どことなく面影が似ていると感じた。
あの泥棒は、狸宇だったのか。獣の仕業と言ってもおかしくはなかったが、相手が人並みに知恵を持った妖怪ならば、捨て置くわけにはいかない。
「駄目だぞ、農家の人たちが、頑張って育てている野菜なのに」
榎は、狸宇を咎めた。妖怪を人の法では裁けないが、いけないものはいけないのだと、人間の世界のルールを教えるくらいならできるだろうと考えた。
「いらないなら、返せ。宵月夜さまに食べてもらう」
だが、狸宇は反省する素振りもなく、榎に渡した胡瓜を取り返そうとしてきた。
子供だから分からないだけなのか、妖怪だから人間の言葉に耳を貸さないのか。榎の言葉なんて、狸宇には馬の耳に念仏だった。
「……後でちゃんと、謝りに行くんだぞ」
既に盗んでしまったものは元には戻せないし、子供を頭ごなしに叱っても、逆効果だとも分かっていた。
今は非常事態だし、説教は諦めて、後で一緒に謝りに行こうと、榎も胡瓜を齧った。
「畑から盗んできたなら、お前、山の外に出られたのか? なら、出口も近くにあるんだな?」
ふと思い、榎は訊ねた。狸宇は首を縦に振ったり横に振ったり、曖昧な態度を見せた。
「あるけど、おいらが何とか通れる、小さな穴だけ」
空気穴程度の出入り口しか、ないらしい。だが、外と繋がる、山壁の薄い部分があるだけでも、有難かった。
「小さな穴でも、あれば充分だよ。広げれば、出口は作れるから」
少し休息をとり、穴まで案内してもらおうと、榎は体を休めつつ、意気込んだ。
隣に腰を下ろした宵月夜も、無言で胡瓜を齧っていた。
妖怪が野菜を食べている姿を見ていると、榎は少し、奇妙な気分になった。
「妖怪って、普通に人間と同じものを食べるんだな」
物珍しさが勝って、思わず口に出すと、宵月夜は、横目に、榎を睨みつけてきた。
「他に、何を食えっていうんだよ」
「あんまり想像したくないけど、人とか」
悪いイメージとは思いつつも、平安絵巻などに描かれている情景が強く印象に残り、人間や牛を襲っている妖怪の姿を思い浮かべていた。
「――昔は、食う妖怪もいた。人間も家畜みんな、飢餓に苦しんでいた時代だったからな。食えるものなら、何でも食った」
宵月夜は昔の記憶を手繰り寄せる仕草で、過去を振り返っていた。
「平安時代、だよな。大変な時代だったんだ」
現代とは、生活もまったく違うのだろうなと、分からないなりに榎は納得した。
「妖怪だけでなく、人間も、人間の死肉を漁っていた」
静かに語る宵月夜の話は、とても現実味を帯びていて、榎には少し、怖く感じられた。千年も前の話なんて、現代に生きている人の話や文献から知っても、昔話程度にしかイメージを膨らませられない。
だが、宵月夜は実際に、平安の時代を生きていた妖怪なのだから、現実的な体験談として、千年前の様子を語って聞かせられた。
宵月夜から話を聞いていると、何となく、平安時代が、身近に思えた。
「人の肉を食らった人間は邪気を帯び、人間とは思えない悪行を繰り返した。やがて悪鬼に魅入られて、取り憑かれた。最後には悪鬼に身も心も食らい尽くされて、悪鬼そのものになっていった」
榎は、木蓮の話を思い出していた。悪さばかりしている人間は、悪鬼に目をつけられ、長く側にいすぎると、その人も悪鬼になってしまう――。作り話と思っている分には、何も感じなかったが、実際に悪鬼を目の当たりにし、その存在の威圧感を知った今となっては、本当に恐ろしい話だと感じた。
「歪んだ人間の数だけ、悪鬼も増えた。増えた悪鬼たちは、腹を満たすために妖怪を食った。俺たちは、人間からも、悪鬼からも、身を守らなくてはならなかった」
食われてなるかと、力のある妖怪たちは、妖力を抑える技術を身につけ、山奥で人知れず、ひっそりと暮らす習慣を覚えたと、宵月夜は説明した。
「けっこう、妖怪も苦労しているんだな。仲間以外を、極端に拒絶する理由も、分かった気がする」
妖怪たちにとって、何が敵なのか、まったく分からない状態が長く続いたのかもしれない。だから、信じられると確信できる、数少ない仲間を大事に思い、共に支えあって暮らそうとしているのだと、榎は理解した。
「仲間を思いやれる気持ちがあるのなら、案外お前たちも、悪い連中ではないんだろうな。だからこそ、人間との間にも諍いが起こるのかもしれない」
妖怪たちは、安全な住処を守るために、縄張りを侵す人間を攻撃していた。榎たちは、妖怪が人間を傷つけるから、妖怪を倒してきた。今まではずっと、人間側の意見を尊重して考えてきたが、妖怪たちの立場になって考えてみれば、今までの行いは本当に正しいのだろうかと、複雑な気持ちになった。
「……夏姫さまにも、同じ言葉をかけられた」
宵月夜がいきなり、懐かしそうな声で囁いた。
「何だよ、いきなり〝さま〟付けなんて。気持ち悪いな」
「お前の話じゃねえよ。お前の前世――かつての夏姫だ」
「前世の、あたしかぁ。知り合いだったのか? どんな人だったんだ?」
興味深そうな話に、榎は身を乗り出して食いついた。
「手当たり次第に妖怪を狩ろうとする人間たちの中で、四季姫さまたちだけが俺たちを受け入れ、理解してくださった。屋敷にかくまってくれたり、倒したふりをして逃がしてくださったり」
意外だった。平安時代の陰陽師は、強い力を駆使して、もっと手当たり次第に、妖怪を退治しているのだと思っていた。
「妖怪が悪さをすれば退治して罰し、人間に非があると知れば、人にも罰を与え、妖怪を救ってくださる時もあった。人間と妖怪の間に立ち、常に平等な立場で物事を見据えておられた。俺たちにとって、おぞましい世界で唯一、信じられる存在だった」
四季姫とは、立派な人たちだったのだと思った。世の中の理や、善悪の正しい区別がつかなければ、決してできない行いだった。
榎は本当に、そんな立派な人の生まれ変わりなのだろうかと、現実を疑った。
「四季姫を信頼していたわりには、随分とあたしたちに敵意を向けてくるよな」
話をする雰囲気からでも、分かった。宵月夜たちは、平安時代に生きていた四季姫を、間違いなく慕っていた。
だが、現代でも同じ忠義を持っているかと言われると、全然違う気がした。
榎が訊ねると、宵月夜はつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「お前らは、俺の知る四季姫とは似て非なる存在だ。同じ誠意など、持てるはずがない」
やっぱり、宵月夜たちの目から見ても、榎たちと前世の四季姫は、全然違うらしい。
別に、榎たちは榎たちなのだから、前世の姫君たちと同じである必要はないし、そっくりになれるはずもない。ただ、榎なりに、妖怪退治という行為の真意を考える上で、過去の人々の行いにとても関心があった。
「それに、結局、最後には裏切られたしな。姫さまたちは、俺たちを騙して、黒神石に封じ込めた」
宵月夜は遠い目をして、声のトーンを落とした。
「俺が封印されたせいで、多くの妖怪たちが成す術もなく、人間たちに狩られた。悪鬼に食われた。あの時、俺が騙されていなければ、みんなを救えたかもしれないのに……!」
悔しげな言葉が、榎の心を打った。
人を信じ、人に裏切られた。宵月夜の苦しみが伝わってきて、胸が痛かった。
「俺は再び、仲間を集める。生き延びた、もしくは新たに生まれた妖怪たちと共に、安心して暮らせる場所を見つける。そうして、力をつけて、いつか必ず――」
宵月夜は決意を固めていた。力強く断言していたが、最後のほうで口を噤み、黙り込んだ。
「必ず、何だよ?」
「何でもねえよ。お前には関係のない話だ」
訊ねると、宵月夜は突っ撥ねる口調で返してきた。
会話が途切れ、しばらく沈黙が続いた。
静かな行動の中に、突然、呻き声が鈍く響いた。声の方角を見ると、狸宇が低く唸りながら、蹲っていた。
「狸宇? どうしたんだ? 具合が、悪いのか?」
胡瓜に中ったのだろうか。宵月夜が心配そうに狸宇の背中を擦った。
狸宇は体を震わせて、俯いたままだった。
「宵月夜、離れろ。様子が変だ」
瞬間、榎は嫌な気配を感じ、宵月夜の手を狸宇から引き剥がした。
「宵月夜さま……助けて」
狸宇の形相が、歪んだ。榎の背筋に悪寒が走った。
嫌な気配は一気に広がり、坑道中に広がった。
間違いない。悪鬼の、気配だった。
「腹減ったから、探してきた。胡瓜、食え」
人間の姿に変身した狸宇は、両手に立派な胡瓜を抱きかかえて、運んできた。嫌そうな顔をしつつも、宵月夜の言葉を忠実に守り、榎にも差し出してくれた。
「ありがとう。……どこから持ってきたんだ?」
受け取ったものの、直前まで蔓にぶら下がっていたと思われる新鮮な胡瓜を見て、入手場所が気になった。妖怪たちが、野菜を育てているのだろうか。
「人間の畑から、持ってきた」
訊ねると、狸宇は胡瓜を美味しそうに齧りながら、さらりと言った。
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榎は訝しく思い、狸宇を見つめた。人間の子供の姿をした狸宇を見つめて、榎はどこかで来た記憶があると、記憶の中を探っていた。
先日、椿と明け方に見かけた、野菜泥棒の人影に、どことなく面影が似ていると感じた。
あの泥棒は、狸宇だったのか。獣の仕業と言ってもおかしくはなかったが、相手が人並みに知恵を持った妖怪ならば、捨て置くわけにはいかない。
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榎は、狸宇を咎めた。妖怪を人の法では裁けないが、いけないものはいけないのだと、人間の世界のルールを教えるくらいならできるだろうと考えた。
「いらないなら、返せ。宵月夜さまに食べてもらう」
だが、狸宇は反省する素振りもなく、榎に渡した胡瓜を取り返そうとしてきた。
子供だから分からないだけなのか、妖怪だから人間の言葉に耳を貸さないのか。榎の言葉なんて、狸宇には馬の耳に念仏だった。
「……後でちゃんと、謝りに行くんだぞ」
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今は非常事態だし、説教は諦めて、後で一緒に謝りに行こうと、榎も胡瓜を齧った。
「畑から盗んできたなら、お前、山の外に出られたのか? なら、出口も近くにあるんだな?」
ふと思い、榎は訊ねた。狸宇は首を縦に振ったり横に振ったり、曖昧な態度を見せた。
「あるけど、おいらが何とか通れる、小さな穴だけ」
空気穴程度の出入り口しか、ないらしい。だが、外と繋がる、山壁の薄い部分があるだけでも、有難かった。
「小さな穴でも、あれば充分だよ。広げれば、出口は作れるから」
少し休息をとり、穴まで案内してもらおうと、榎は体を休めつつ、意気込んだ。
隣に腰を下ろした宵月夜も、無言で胡瓜を齧っていた。
妖怪が野菜を食べている姿を見ていると、榎は少し、奇妙な気分になった。
「妖怪って、普通に人間と同じものを食べるんだな」
物珍しさが勝って、思わず口に出すと、宵月夜は、横目に、榎を睨みつけてきた。
「他に、何を食えっていうんだよ」
「あんまり想像したくないけど、人とか」
悪いイメージとは思いつつも、平安絵巻などに描かれている情景が強く印象に残り、人間や牛を襲っている妖怪の姿を思い浮かべていた。
「――昔は、食う妖怪もいた。人間も家畜みんな、飢餓に苦しんでいた時代だったからな。食えるものなら、何でも食った」
宵月夜は昔の記憶を手繰り寄せる仕草で、過去を振り返っていた。
「平安時代、だよな。大変な時代だったんだ」
現代とは、生活もまったく違うのだろうなと、分からないなりに榎は納得した。
「妖怪だけでなく、人間も、人間の死肉を漁っていた」
静かに語る宵月夜の話は、とても現実味を帯びていて、榎には少し、怖く感じられた。千年も前の話なんて、現代に生きている人の話や文献から知っても、昔話程度にしかイメージを膨らませられない。
だが、宵月夜は実際に、平安の時代を生きていた妖怪なのだから、現実的な体験談として、千年前の様子を語って聞かせられた。
宵月夜から話を聞いていると、何となく、平安時代が、身近に思えた。
「人の肉を食らった人間は邪気を帯び、人間とは思えない悪行を繰り返した。やがて悪鬼に魅入られて、取り憑かれた。最後には悪鬼に身も心も食らい尽くされて、悪鬼そのものになっていった」
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「歪んだ人間の数だけ、悪鬼も増えた。増えた悪鬼たちは、腹を満たすために妖怪を食った。俺たちは、人間からも、悪鬼からも、身を守らなくてはならなかった」
食われてなるかと、力のある妖怪たちは、妖力を抑える技術を身につけ、山奥で人知れず、ひっそりと暮らす習慣を覚えたと、宵月夜は説明した。
「けっこう、妖怪も苦労しているんだな。仲間以外を、極端に拒絶する理由も、分かった気がする」
妖怪たちにとって、何が敵なのか、まったく分からない状態が長く続いたのかもしれない。だから、信じられると確信できる、数少ない仲間を大事に思い、共に支えあって暮らそうとしているのだと、榎は理解した。
「仲間を思いやれる気持ちがあるのなら、案外お前たちも、悪い連中ではないんだろうな。だからこそ、人間との間にも諍いが起こるのかもしれない」
妖怪たちは、安全な住処を守るために、縄張りを侵す人間を攻撃していた。榎たちは、妖怪が人間を傷つけるから、妖怪を倒してきた。今まではずっと、人間側の意見を尊重して考えてきたが、妖怪たちの立場になって考えてみれば、今までの行いは本当に正しいのだろうかと、複雑な気持ちになった。
「……夏姫さまにも、同じ言葉をかけられた」
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興味深そうな話に、榎は身を乗り出して食いついた。
「手当たり次第に妖怪を狩ろうとする人間たちの中で、四季姫さまたちだけが俺たちを受け入れ、理解してくださった。屋敷にかくまってくれたり、倒したふりをして逃がしてくださったり」
意外だった。平安時代の陰陽師は、強い力を駆使して、もっと手当たり次第に、妖怪を退治しているのだと思っていた。
「妖怪が悪さをすれば退治して罰し、人間に非があると知れば、人にも罰を与え、妖怪を救ってくださる時もあった。人間と妖怪の間に立ち、常に平等な立場で物事を見据えておられた。俺たちにとって、おぞましい世界で唯一、信じられる存在だった」
四季姫とは、立派な人たちだったのだと思った。世の中の理や、善悪の正しい区別がつかなければ、決してできない行いだった。
榎は本当に、そんな立派な人の生まれ変わりなのだろうかと、現実を疑った。
「四季姫を信頼していたわりには、随分とあたしたちに敵意を向けてくるよな」
話をする雰囲気からでも、分かった。宵月夜たちは、平安時代に生きていた四季姫を、間違いなく慕っていた。
だが、現代でも同じ忠義を持っているかと言われると、全然違う気がした。
榎が訊ねると、宵月夜はつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「お前らは、俺の知る四季姫とは似て非なる存在だ。同じ誠意など、持てるはずがない」
やっぱり、宵月夜たちの目から見ても、榎たちと前世の四季姫は、全然違うらしい。
別に、榎たちは榎たちなのだから、前世の姫君たちと同じである必要はないし、そっくりになれるはずもない。ただ、榎なりに、妖怪退治という行為の真意を考える上で、過去の人々の行いにとても関心があった。
「それに、結局、最後には裏切られたしな。姫さまたちは、俺たちを騙して、黒神石に封じ込めた」
宵月夜は遠い目をして、声のトーンを落とした。
「俺が封印されたせいで、多くの妖怪たちが成す術もなく、人間たちに狩られた。悪鬼に食われた。あの時、俺が騙されていなければ、みんなを救えたかもしれないのに……!」
悔しげな言葉が、榎の心を打った。
人を信じ、人に裏切られた。宵月夜の苦しみが伝わってきて、胸が痛かった。
「俺は再び、仲間を集める。生き延びた、もしくは新たに生まれた妖怪たちと共に、安心して暮らせる場所を見つける。そうして、力をつけて、いつか必ず――」
宵月夜は決意を固めていた。力強く断言していたが、最後のほうで口を噤み、黙り込んだ。
「必ず、何だよ?」
「何でもねえよ。お前には関係のない話だ」
訊ねると、宵月夜は突っ撥ねる口調で返してきた。
会話が途切れ、しばらく沈黙が続いた。
静かな行動の中に、突然、呻き声が鈍く響いた。声の方角を見ると、狸宇が低く唸りながら、蹲っていた。
「狸宇? どうしたんだ? 具合が、悪いのか?」
胡瓜に中ったのだろうか。宵月夜が心配そうに狸宇の背中を擦った。
狸宇は体を震わせて、俯いたままだった。
「宵月夜、離れろ。様子が変だ」
瞬間、榎は嫌な気配を感じ、宵月夜の手を狸宇から引き剥がした。
「宵月夜さま……助けて」
狸宇の形相が、歪んだ。榎の背筋に悪寒が走った。
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間違いない。悪鬼の、気配だった。
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