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第二部 四季姫進化の巻
第十三章 秋姫進化 6
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六
土曜日。
楸は起きてすぐに、足の状態を確認した。
週末まではテーピングを万全に施して、なんとか痛みに悩まされずに学校に通えた。
毎日、湿布で冷やして念入りに手当をしてきたから、腫れもすっかり引いた。走り回っても大丈夫そうだ。
しばらく、妖怪の調査もできず仕舞いだったから、この週末には遅れを取り戻したい。
「周ちゃん、ご飯にしましょうか。準備、手伝っておくれやす」
部屋の外から、英の声がした。楸はすぐに返事をして、食堂へ向かった。
朝食の用意をして、席につく。純和風な食事を、いつも通りに摂った。
いつも、朝は忙しない英だが、今日は稽古事が全て休みの日なので、のんびりしている。
「最近、あの大きい烏はん、庭に来なくなったねぇ」
味噌汁を啜り、ふと、英が呟いた。
楸は驚いて、米粒で喉を詰まらせそうになる。何とかお茶で飲み下して、呼吸を整えた。
「お母はん、庭に烏がおると、知っておったんどすか?」
大きい烏とは、間違いなく八咫だ。八咫は妖怪だが、野生動物の要素が強くあり、普通の人間にも見える体質をしている。一般には、ただの烏として認識されていた。
庭で堂々と生活はしていたが、できるかぎり人目に触れず、慎ましく暮らせと指示をしておいたから、英は気づいていないと思っていた。
「一時、頻繁に縁側で羽休めしておったからねぇ。人懐っこい子やったし、お菓子あげたりもしたんよ。周が連れて来たんでしょう?」
お菓子まで負担させていたとは。楸もかなり八咫たちに食糧をあげていたが、足りなかったか。
英にも迷惑を掛けていたと知り、反省した。
「住処を失って、困っておりましたんで、しばらく世話をしておったんどす。黙っておって、すんまへん。動物が、お嫌いかと思うておりました」
今までにペットを飼おうなんて話題にも上らなかったから、全然興味がないのだと、勝手に判断していた。烏を嫌がらないところからしても、意外と動物の世話には理解があるのかと感じた。
「野生は、危ないから気をつけんとあかんけどね。でもあの烏は、毛並みも綺麗やったし、お行儀もよかったよ。誰かが飼っとるペットやないかしら」
まあ、宵といつも一緒にいるから、ペットと呼んでも差し支えはない気がする。
「今は、ちゃんと飼い主のところに戻って、幸せに暮らしておられます」
説明していると、庭先で感じ慣れた気配がした。
窓から外を見ると、植木の茂みから八咫が顔を出していた。
食事を片付けて、楸は庭に出た。
「お久しぶりである、楸どの!」
「八咫はん。噂をすれば、どすな」
楸が秋姫の正体を明かして、妖怪がこの家を去ってからは、滅多に寄り付かなくなっていた。少し、懐かしさを感じた。
「待っておくれやす。茶菓子くらい、すぐに出せますさかい」
戸棚から、来客用の煎餅を取り出して差し出した。
「いやいや、かたじけない」
八咫は嬉しそうに、煎餅をボリボリと嘴で砕いていた。
「で、何かご用どすか?」
はんなりと尋ねると、八咫は我に返った様子で煎餅を落とした。
「違うのである! 呑気に菓子を食うておる場合ではなく! 楸どの、そのぅ、実に、言い難いのだが」
勢いよく、何かを話しはじめたかと思えば、急にばつが悪そうに口篭った。
様子がおかしい八咫を、楸は不審に思って見つめた。
「どうか、なさったんどすか?」
八咫はギリギリまで戸惑っていたが、やがて意を決して、楸に大きな嘴を開いた。
「よ、宵月夜様が、その、妖怪に襲われて、お怪我を……」
楸の血の気が、一気に引いた。
「襲った妖怪は、狐どすか?」
無意識に、断定した問いかけをしていた。八咫は最初、唖然としていたが、すぐに体を震わせた。
「その通りである、狐の妖怪である!」
楸の体から、血の気が引いていく感覚がした。一番恐れていた出来事が、現実になった。
「宵はんは、了封寺どすな!?」
八咫の返事を待つ間も惜しい。楸は勢いよく立ち上がり、外に飛び出した。
土曜日。
楸は起きてすぐに、足の状態を確認した。
週末まではテーピングを万全に施して、なんとか痛みに悩まされずに学校に通えた。
毎日、湿布で冷やして念入りに手当をしてきたから、腫れもすっかり引いた。走り回っても大丈夫そうだ。
しばらく、妖怪の調査もできず仕舞いだったから、この週末には遅れを取り戻したい。
「周ちゃん、ご飯にしましょうか。準備、手伝っておくれやす」
部屋の外から、英の声がした。楸はすぐに返事をして、食堂へ向かった。
朝食の用意をして、席につく。純和風な食事を、いつも通りに摂った。
いつも、朝は忙しない英だが、今日は稽古事が全て休みの日なので、のんびりしている。
「最近、あの大きい烏はん、庭に来なくなったねぇ」
味噌汁を啜り、ふと、英が呟いた。
楸は驚いて、米粒で喉を詰まらせそうになる。何とかお茶で飲み下して、呼吸を整えた。
「お母はん、庭に烏がおると、知っておったんどすか?」
大きい烏とは、間違いなく八咫だ。八咫は妖怪だが、野生動物の要素が強くあり、普通の人間にも見える体質をしている。一般には、ただの烏として認識されていた。
庭で堂々と生活はしていたが、できるかぎり人目に触れず、慎ましく暮らせと指示をしておいたから、英は気づいていないと思っていた。
「一時、頻繁に縁側で羽休めしておったからねぇ。人懐っこい子やったし、お菓子あげたりもしたんよ。周が連れて来たんでしょう?」
お菓子まで負担させていたとは。楸もかなり八咫たちに食糧をあげていたが、足りなかったか。
英にも迷惑を掛けていたと知り、反省した。
「住処を失って、困っておりましたんで、しばらく世話をしておったんどす。黙っておって、すんまへん。動物が、お嫌いかと思うておりました」
今までにペットを飼おうなんて話題にも上らなかったから、全然興味がないのだと、勝手に判断していた。烏を嫌がらないところからしても、意外と動物の世話には理解があるのかと感じた。
「野生は、危ないから気をつけんとあかんけどね。でもあの烏は、毛並みも綺麗やったし、お行儀もよかったよ。誰かが飼っとるペットやないかしら」
まあ、宵といつも一緒にいるから、ペットと呼んでも差し支えはない気がする。
「今は、ちゃんと飼い主のところに戻って、幸せに暮らしておられます」
説明していると、庭先で感じ慣れた気配がした。
窓から外を見ると、植木の茂みから八咫が顔を出していた。
食事を片付けて、楸は庭に出た。
「お久しぶりである、楸どの!」
「八咫はん。噂をすれば、どすな」
楸が秋姫の正体を明かして、妖怪がこの家を去ってからは、滅多に寄り付かなくなっていた。少し、懐かしさを感じた。
「待っておくれやす。茶菓子くらい、すぐに出せますさかい」
戸棚から、来客用の煎餅を取り出して差し出した。
「いやいや、かたじけない」
八咫は嬉しそうに、煎餅をボリボリと嘴で砕いていた。
「で、何かご用どすか?」
はんなりと尋ねると、八咫は我に返った様子で煎餅を落とした。
「違うのである! 呑気に菓子を食うておる場合ではなく! 楸どの、そのぅ、実に、言い難いのだが」
勢いよく、何かを話しはじめたかと思えば、急にばつが悪そうに口篭った。
様子がおかしい八咫を、楸は不審に思って見つめた。
「どうか、なさったんどすか?」
八咫はギリギリまで戸惑っていたが、やがて意を決して、楸に大きな嘴を開いた。
「よ、宵月夜様が、その、妖怪に襲われて、お怪我を……」
楸の血の気が、一気に引いた。
「襲った妖怪は、狐どすか?」
無意識に、断定した問いかけをしていた。八咫は最初、唖然としていたが、すぐに体を震わせた。
「その通りである、狐の妖怪である!」
楸の体から、血の気が引いていく感覚がした。一番恐れていた出来事が、現実になった。
「宵はんは、了封寺どすな!?」
八咫の返事を待つ間も惜しい。楸は勢いよく立ち上がり、外に飛び出した。
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