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第二部 四季姫進化の巻
第十六章 伝記顛覆 9
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九
突然現れた月麿の姿に、みんな驚いた。
「月麿? あなた、なぜ四季が丘に……」
奏が唖然として声を掛けると、月麿は深々と頭を下げた。
「失礼つかまつった。今朝から、奏姫の様子が尋常ではなかった故、後をつけさせていただいた。実は以前から、四季姫たちの禁術の歪みと、四季が丘を流れる地脈について色々と調べに来ておりましてな。先ほどのお話で、ようやく合点がいきました。伝師一族は、地脈の支流を歪めて合流点を作り、その場所から力を吸い取っておったのですな」
月麿は頑張って短い手を後で組み、トコトコと榎たちの座る席の側を行ったり来たりし始めた。
「ですが、その吸い上げた力を人に操れる物に変えて使用するとなると、並大抵の器では不可能でしょう。神通力の扱いに長けた者の助力が必要不可欠かと」
「その通りですわ。今は長である、わたくしたちの母―?伝師 瞳(ひとみ)を柱として、地脈の力を変換して伝師の繁栄を支えております。母は他の一族のものに比べて、飛びぬけて悪鬼の力を受け継いでいるため、そのような芸当が可能なのです」
月麿の問いに、奏はより詳しく、地脈の力を手に入れる方法を説明し始めた。
「ただ、地脈の力を長く人の手で管理するとなると、心身に受ける負担は想像以上に大きいものです。母の体は、地脈の力を受け続けてきて、既に限界なのです。母を負担から解放するためには、早急に後継者が必要でした」
「その後継者が、綴さん……?」
榎が呟くと、奏は頷いた。
「ええ。兄はあの通り、伝師の血を濃く強く受け継いでおります。地脈の力を吸い出して操る素質は、充分過ぎるほどにあるのです。ただ、体が弱いですから、伝師の長として母の後を継ぐのは成人してから、と条件も付いておりました。ですが、母の体調との兼ね合いも考慮して、十八歳の誕生日を迎えると同時に、継承の儀式が行われる手筈になっていたそうです」
綴は、長と約束を取り付けたと言っていた。十八歳になると同時に、長となる、と。
長としての使命を全うしようと意気込む理由は、居場所を確保するだけではなく、母親の身を案じてなのだろうか。
「でも、どうしても兄の虚弱体質だけが心配だったみたいで、わたくしたちの両親は、兄一人に地脈の管理を任せる行為に抵抗があったのです。そんな時に上った話題が、四季姫の転生でした。現代に蘇った四季姫を再び覚醒させ、その力を地脈の安定に活用できれば、お兄さまに大きな負担をかけずに、より効率的に力を得られる。父たちは、そう考えていたみたいです」
話に区切りをつけると、奏は暗い表情で俯いた。
「ですが、その救済策は、「四季姫さえいれば、お兄さまは必要ない」という誤解を生み出してしまいました」
榎の心が、痛んだ。
四季姫の力を利用しようと企んだ伝師の意志は、綴を思っての策だったのか。
綴のためにと思って考えられた計画が、逆に綴の居場所を奪い、苦しめた。悲しい悪循環だ。
「その案が出たから、綴さんは用済みになると思って、四季姫を憎んだ――」
「兄は、皆さんに大事な使命を、生まれてきた意味さえも、奪われると思ったのでしょう。ですから、なりふり構わず、榎さんに酷い行いを……」
奏はまた、謝ろうとしたが、榎はすかさず制止した。もう、誰が悪いとか、責任を問うて物事が決着する段階ではない。
「結果的に、四季姫は用済みになって、綴はんは長になられる。全て綴はんの思い通りになったわけですけど、実際はどうなんどすか? 綴はんお一人で、地脈の力を制御できそうなんどすか?」
「恐らく、無理だろう。先に綴の体が潰れる」
楸の核心を突いた問いかけに、奏が返答しようとしたところで、また別の声が割り込んできた。
顔を上げると、月麿の隣に、スーツ姿の壮年の男性が立っていた。
「あなたは、確か……」
榎は、その男性に見覚えがあった。
以前、綴の病室を訪ねてきた人だ。一度だけ、出入り口ですれ違った。
奏が、父だと言っていた男だ。
「お父さま!? お父さままで、なぜ四季が丘に……」
驚いた表情で、奏は自身の父親の顔を見上げる。
「実は麿は、殿の護衛も仰せつかってきたでごじゃる。殿がどうしても、四季姫たちに会いたいと申されるのでな」
月麿が、円滑に説明を加える。男性は榎たちを見渡して、軽く頭を下げた。
「綴、奏、語の父、伝師 護(まもる)です。この度は、伝師一族のために大変な迷惑をお掛けして、申し訳なかった」
榎たちも、一人ずつ自己紹介をした。
挨拶は手短に済ませて、本題に入る。
「あたしたちに会いたいとは、どういった理由で……?」
「先ほど、奏からも説明があったと思うが、綴一人の力では、地脈の力の制御は難しい。そこで、君たちが持つ四季姫の陰陽師としての力を、我らの一族に譲渡していただきたい」
突然の申し出に、榎たちはざわついた。
「譲渡って、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。伝師の技術をもってすれば、君たちの体から、陰陽師として使役できる全ての力を吸い出せる。君たちの力の全てを、綴のために渡してやって欲しいのだ」
突然現れた月麿の姿に、みんな驚いた。
「月麿? あなた、なぜ四季が丘に……」
奏が唖然として声を掛けると、月麿は深々と頭を下げた。
「失礼つかまつった。今朝から、奏姫の様子が尋常ではなかった故、後をつけさせていただいた。実は以前から、四季姫たちの禁術の歪みと、四季が丘を流れる地脈について色々と調べに来ておりましてな。先ほどのお話で、ようやく合点がいきました。伝師一族は、地脈の支流を歪めて合流点を作り、その場所から力を吸い取っておったのですな」
月麿は頑張って短い手を後で組み、トコトコと榎たちの座る席の側を行ったり来たりし始めた。
「ですが、その吸い上げた力を人に操れる物に変えて使用するとなると、並大抵の器では不可能でしょう。神通力の扱いに長けた者の助力が必要不可欠かと」
「その通りですわ。今は長である、わたくしたちの母―?伝師 瞳(ひとみ)を柱として、地脈の力を変換して伝師の繁栄を支えております。母は他の一族のものに比べて、飛びぬけて悪鬼の力を受け継いでいるため、そのような芸当が可能なのです」
月麿の問いに、奏はより詳しく、地脈の力を手に入れる方法を説明し始めた。
「ただ、地脈の力を長く人の手で管理するとなると、心身に受ける負担は想像以上に大きいものです。母の体は、地脈の力を受け続けてきて、既に限界なのです。母を負担から解放するためには、早急に後継者が必要でした」
「その後継者が、綴さん……?」
榎が呟くと、奏は頷いた。
「ええ。兄はあの通り、伝師の血を濃く強く受け継いでおります。地脈の力を吸い出して操る素質は、充分過ぎるほどにあるのです。ただ、体が弱いですから、伝師の長として母の後を継ぐのは成人してから、と条件も付いておりました。ですが、母の体調との兼ね合いも考慮して、十八歳の誕生日を迎えると同時に、継承の儀式が行われる手筈になっていたそうです」
綴は、長と約束を取り付けたと言っていた。十八歳になると同時に、長となる、と。
長としての使命を全うしようと意気込む理由は、居場所を確保するだけではなく、母親の身を案じてなのだろうか。
「でも、どうしても兄の虚弱体質だけが心配だったみたいで、わたくしたちの両親は、兄一人に地脈の管理を任せる行為に抵抗があったのです。そんな時に上った話題が、四季姫の転生でした。現代に蘇った四季姫を再び覚醒させ、その力を地脈の安定に活用できれば、お兄さまに大きな負担をかけずに、より効率的に力を得られる。父たちは、そう考えていたみたいです」
話に区切りをつけると、奏は暗い表情で俯いた。
「ですが、その救済策は、「四季姫さえいれば、お兄さまは必要ない」という誤解を生み出してしまいました」
榎の心が、痛んだ。
四季姫の力を利用しようと企んだ伝師の意志は、綴を思っての策だったのか。
綴のためにと思って考えられた計画が、逆に綴の居場所を奪い、苦しめた。悲しい悪循環だ。
「その案が出たから、綴さんは用済みになると思って、四季姫を憎んだ――」
「兄は、皆さんに大事な使命を、生まれてきた意味さえも、奪われると思ったのでしょう。ですから、なりふり構わず、榎さんに酷い行いを……」
奏はまた、謝ろうとしたが、榎はすかさず制止した。もう、誰が悪いとか、責任を問うて物事が決着する段階ではない。
「結果的に、四季姫は用済みになって、綴はんは長になられる。全て綴はんの思い通りになったわけですけど、実際はどうなんどすか? 綴はんお一人で、地脈の力を制御できそうなんどすか?」
「恐らく、無理だろう。先に綴の体が潰れる」
楸の核心を突いた問いかけに、奏が返答しようとしたところで、また別の声が割り込んできた。
顔を上げると、月麿の隣に、スーツ姿の壮年の男性が立っていた。
「あなたは、確か……」
榎は、その男性に見覚えがあった。
以前、綴の病室を訪ねてきた人だ。一度だけ、出入り口ですれ違った。
奏が、父だと言っていた男だ。
「お父さま!? お父さままで、なぜ四季が丘に……」
驚いた表情で、奏は自身の父親の顔を見上げる。
「実は麿は、殿の護衛も仰せつかってきたでごじゃる。殿がどうしても、四季姫たちに会いたいと申されるのでな」
月麿が、円滑に説明を加える。男性は榎たちを見渡して、軽く頭を下げた。
「綴、奏、語の父、伝師 護(まもる)です。この度は、伝師一族のために大変な迷惑をお掛けして、申し訳なかった」
榎たちも、一人ずつ自己紹介をした。
挨拶は手短に済ませて、本題に入る。
「あたしたちに会いたいとは、どういった理由で……?」
「先ほど、奏からも説明があったと思うが、綴一人の力では、地脈の力の制御は難しい。そこで、君たちが持つ四季姫の陰陽師としての力を、我らの一族に譲渡していただきたい」
突然の申し出に、榎たちはざわついた。
「譲渡って、どういう意味ですか?」
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