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第二部 四季姫進化の巻
第十八章 夏姫進化 1
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一
榎たちは祭壇を背に向けて立ち、武器を構えた。
目の前からは、ゆっくりとした動きで、四つん這いの鬼閻が前進してくる。
「簡単に任せい言うたものの、どないする? まっすぐ祭壇に向かってきとるで」
柊が指示を求めて、視線を送ってくる。
「一か八か、禁術をぶつけてみるか? 運がよければ、一撃でケリが着くかもしれんで」
「運任せの攻撃は、せんほうがええどす。私たちの実力では、禁術を一発放てば、全ての力を浪費して動けなくなります。鬼閻の生命力がどれほど強いか分からんうちは、下手に動くと命取りになるどす」
楸は慎重に鬼閻の様子を観察しつつ、四季姫たちの攻撃をぶつけた時に与えられるダメージを計算していた。今の状況では鬼閻を仕留められる確率は低いと考え、柊を制止させた。
「そうね。鬼閻に向かって流れていく地脈は、完全に止まったわけじゃないもの。少しずつだけど、確実に力を吸い取られている。鬼閻は、傷を負っても、いくらでも回復できるかもしれないわ」
「まずは、麿に陣の制御を取り戻してもらわなくちゃならない。あたしたちで、鬼閻が祭壇に近付かないように、足止めするんだ」
「鬼閻の力の供給源を完全に絶ってから、一気に決着をつけましょう」
再び、迫り来る鬼閻を睨みつけ、榎たちは武器を構えた。
柊が、榎たちから距離を取って間合いを広げ、薙刀を頭上で振り回し始めた。
「足止めやったら、氷らせるんが最適やろ。〝氷柱の舞〟!」
薙刀を振りかざした遠心力によって起こった風が、冷気を帯び始める。切っ先を下へと振り降ろすと、冷気の渦は旋風となって、勢いよく、鬼閻めがけて飛んで行った。
冷風を受けた鬼閻の足に霜が纏わり付き、凍り付いて動かなくなった。徐々に全身を凍てつかせ、やがて完全に動かなくなった。
だが、鬼閻の体が氷像みたいに固まっていた時間は、ほんの数秒だった。すぐに腕に纏わりついた氷が砕け、上半身が動き出す。
おどろおどろしい奇声を上げながら体をよじると、足元の氷もあっけなく粉々になった。柊が舌を打つ。
「普通の技じゃ、足止めは無理やな」
「ちまちまと防いでおっても、あの悪鬼は止まりまへん。全員で力を合わせて、正面から押し返すどす!」
楸の合図で、榎たちは呼吸を揃えて各々の技を、一斉に繰り出した。
すべての攻撃は鬼閻に直撃したが、それほど効いているとは思えなかった。ほとんど苦しむ様子も見せず、同じペースで近付いてくる。
こんな調子では、鬼閻が榎たちの目の前に迫ってくるまで、そう時間はかからないだろう。
鬼閻はいったん立ち止まり、榎たちに向かって長い爪の伸びた腕を振りかざした。
榎たちは武器を翳して攻撃を受け止めた。軽い一撃だったにも拘わらず、凄まじい衝撃が襲い、みんな一斉に後ろに吹き飛ばされた。
鬼閻の攻撃が生み出した、いくつもの小さな衝撃波が、榎たちの顔や腕を切り裂いた。
何とか倒れずに踏ん張るが、痛みが走り、あらゆる場所から血が吹き出す。
「あんな攻撃を食らい続けたら、うちらも五体満足では、おられへんかもしれんで!」
それでも、この場所は絶対に離れられない。榎たちが攻撃を避ければ、背後にいる月麿たちや、陣に直撃して大打撃を被ってしまう。
攻撃を受け止めるしか、道はない。
すぐ背後から笛の音が響き、温かな風が榎たちの体を包み込んだ。同時に傷が癒える。
春姫の、癒しの術だ。
「椿はん、後ろで回復の補助をお願いします。春姫はんの治癒の力で傷を癒しながら戦えば、攻撃を受け止めても死なん限りは大丈夫どす」
「任せて! 絶対に、みんなを守るから!」
椿は意気込んで笛を構える。
普通の攻撃が効かないならば、楸の言う方法で時間稼ぎをするしか、他に道はない。
榎たちは示し合わせて、頷きあった。
鬼閻は、攻撃を与えればダメージは負わなくとも、一瞬、動きを止める。間髪入れずに三人で攻撃を繰り返せば、理論上の足止めは可能だった。
だが、榎たちの動きが止まる一瞬の隙を突いて、鬼閻も強烈な攻撃を繰り出してくる。その攻撃だけは避けるわけにはいかず、甘んじて受けた。大きな傷を負う羽目になったが、その都度、椿が素早く回復して、傷を癒してくれた。
ひたすら、この動作を繰り返した。
「すごい攻撃だな。前に戦った時とは、感じが違う」
「鬼蛇の力が、大きく作用しておるのでしょう。あいつ単体でも、かなりの力を持っていますからな」
こんな攻撃を何度も喰らっていたら、椿の補助がなければ、すぐにお陀仏だったろう。
もし、椿でも治癒しきれない致命傷を負ってしまったら。回復が、間に合わなかったら――。
想像すると、恐怖が全身を痺れさせた。
「大変でも、やるしかないんや! 行くで!」
どれだけ怖くても、他に道はない。ひたすら、鬼閻の攻撃を防ぎつつ、受け止めるしかない。
榎は怯えを振り払い、己に喝を入れた。
何度も何度も、攻撃しては鬼閻の動きを止め、攻撃を受けては回復してもらって、を繰り返した。
どのくらい、時間を稼げただろう。途方もない時間、戦い続けている気がしたが、実際は、ほんの僅かしか経っていないのかもしれない。
とにかく、月麿から合図があるまでは、足止めを続けなければ。
更に気合いを入れて、剣を振り上げた時。
椿の笛の音が、突然止まった。同時に、何かが激しく吹き出す音が、背後から聞こえてくる。
嫌な予感がして、反射的に振り返った。
直後、榎は固まって、声を上擦らせた。
椿が全身から血を吹き出して、倒れる瞬間が視界に焼き付いた。
榎たちは祭壇を背に向けて立ち、武器を構えた。
目の前からは、ゆっくりとした動きで、四つん這いの鬼閻が前進してくる。
「簡単に任せい言うたものの、どないする? まっすぐ祭壇に向かってきとるで」
柊が指示を求めて、視線を送ってくる。
「一か八か、禁術をぶつけてみるか? 運がよければ、一撃でケリが着くかもしれんで」
「運任せの攻撃は、せんほうがええどす。私たちの実力では、禁術を一発放てば、全ての力を浪費して動けなくなります。鬼閻の生命力がどれほど強いか分からんうちは、下手に動くと命取りになるどす」
楸は慎重に鬼閻の様子を観察しつつ、四季姫たちの攻撃をぶつけた時に与えられるダメージを計算していた。今の状況では鬼閻を仕留められる確率は低いと考え、柊を制止させた。
「そうね。鬼閻に向かって流れていく地脈は、完全に止まったわけじゃないもの。少しずつだけど、確実に力を吸い取られている。鬼閻は、傷を負っても、いくらでも回復できるかもしれないわ」
「まずは、麿に陣の制御を取り戻してもらわなくちゃならない。あたしたちで、鬼閻が祭壇に近付かないように、足止めするんだ」
「鬼閻の力の供給源を完全に絶ってから、一気に決着をつけましょう」
再び、迫り来る鬼閻を睨みつけ、榎たちは武器を構えた。
柊が、榎たちから距離を取って間合いを広げ、薙刀を頭上で振り回し始めた。
「足止めやったら、氷らせるんが最適やろ。〝氷柱の舞〟!」
薙刀を振りかざした遠心力によって起こった風が、冷気を帯び始める。切っ先を下へと振り降ろすと、冷気の渦は旋風となって、勢いよく、鬼閻めがけて飛んで行った。
冷風を受けた鬼閻の足に霜が纏わり付き、凍り付いて動かなくなった。徐々に全身を凍てつかせ、やがて完全に動かなくなった。
だが、鬼閻の体が氷像みたいに固まっていた時間は、ほんの数秒だった。すぐに腕に纏わりついた氷が砕け、上半身が動き出す。
おどろおどろしい奇声を上げながら体をよじると、足元の氷もあっけなく粉々になった。柊が舌を打つ。
「普通の技じゃ、足止めは無理やな」
「ちまちまと防いでおっても、あの悪鬼は止まりまへん。全員で力を合わせて、正面から押し返すどす!」
楸の合図で、榎たちは呼吸を揃えて各々の技を、一斉に繰り出した。
すべての攻撃は鬼閻に直撃したが、それほど効いているとは思えなかった。ほとんど苦しむ様子も見せず、同じペースで近付いてくる。
こんな調子では、鬼閻が榎たちの目の前に迫ってくるまで、そう時間はかからないだろう。
鬼閻はいったん立ち止まり、榎たちに向かって長い爪の伸びた腕を振りかざした。
榎たちは武器を翳して攻撃を受け止めた。軽い一撃だったにも拘わらず、凄まじい衝撃が襲い、みんな一斉に後ろに吹き飛ばされた。
鬼閻の攻撃が生み出した、いくつもの小さな衝撃波が、榎たちの顔や腕を切り裂いた。
何とか倒れずに踏ん張るが、痛みが走り、あらゆる場所から血が吹き出す。
「あんな攻撃を食らい続けたら、うちらも五体満足では、おられへんかもしれんで!」
それでも、この場所は絶対に離れられない。榎たちが攻撃を避ければ、背後にいる月麿たちや、陣に直撃して大打撃を被ってしまう。
攻撃を受け止めるしか、道はない。
すぐ背後から笛の音が響き、温かな風が榎たちの体を包み込んだ。同時に傷が癒える。
春姫の、癒しの術だ。
「椿はん、後ろで回復の補助をお願いします。春姫はんの治癒の力で傷を癒しながら戦えば、攻撃を受け止めても死なん限りは大丈夫どす」
「任せて! 絶対に、みんなを守るから!」
椿は意気込んで笛を構える。
普通の攻撃が効かないならば、楸の言う方法で時間稼ぎをするしか、他に道はない。
榎たちは示し合わせて、頷きあった。
鬼閻は、攻撃を与えればダメージは負わなくとも、一瞬、動きを止める。間髪入れずに三人で攻撃を繰り返せば、理論上の足止めは可能だった。
だが、榎たちの動きが止まる一瞬の隙を突いて、鬼閻も強烈な攻撃を繰り出してくる。その攻撃だけは避けるわけにはいかず、甘んじて受けた。大きな傷を負う羽目になったが、その都度、椿が素早く回復して、傷を癒してくれた。
ひたすら、この動作を繰り返した。
「すごい攻撃だな。前に戦った時とは、感じが違う」
「鬼蛇の力が、大きく作用しておるのでしょう。あいつ単体でも、かなりの力を持っていますからな」
こんな攻撃を何度も喰らっていたら、椿の補助がなければ、すぐにお陀仏だったろう。
もし、椿でも治癒しきれない致命傷を負ってしまったら。回復が、間に合わなかったら――。
想像すると、恐怖が全身を痺れさせた。
「大変でも、やるしかないんや! 行くで!」
どれだけ怖くても、他に道はない。ひたすら、鬼閻の攻撃を防ぎつつ、受け止めるしかない。
榎は怯えを振り払い、己に喝を入れた。
何度も何度も、攻撃しては鬼閻の動きを止め、攻撃を受けては回復してもらって、を繰り返した。
どのくらい、時間を稼げただろう。途方もない時間、戦い続けている気がしたが、実際は、ほんの僅かしか経っていないのかもしれない。
とにかく、月麿から合図があるまでは、足止めを続けなければ。
更に気合いを入れて、剣を振り上げた時。
椿の笛の音が、突然止まった。同時に、何かが激しく吹き出す音が、背後から聞こえてくる。
嫌な予感がして、反射的に振り返った。
直後、榎は固まって、声を上擦らせた。
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