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海見猫
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その猫は、今日も来た。
ここ最近ずっとである。
塀をよじ登って俺の部屋の窓を横切ると、その先に見える海を眺める。
ジロジロと、まるで何かを確認するように。
しばらくすると満足したように鼻を鳴らし、ひょこひょこと帰っていく。
俺が猫に気づいたのが、だいたい1週間くらい前のことだが、
おそらくはそれよりもずっと前から来ているのだろう。
朝の香りと磯の香りが入り交じるここまで、トコトコとやって来るのだ。
今日もその猫が来た。
この頃は暑くなってきたので窓が開け放たれているのだが、
そんな事はチラリとも気にすることなく進んでいく。
俺は、聞いてみた。
「なぁ、お前は毎朝なにを見に来てるんだ?」
...。
当然なにか返ってくるわけもない。
猫はまた何かを確認するように海を眺めると、帰っていった。
「ってなことが最近あるんだよ」
その日の夜、友人を家に招いて2人で酒盛りをしていると、ポロポロっと零すようにその猫の話していた。
「へー、かわいいじゃん」
興味があるような、ないような、そんな曖昧な顔で相づちを打つものだから、深堀するかも悩ましい。
そんな気を使うほどの相手でもないのだけれど。
いや、深堀するほどの話題でもないのだけれども。
俺はツマミのカルパスを口に放り込んだ。
すると、友人はツマミのよっちゃんイカを口に入れたまま聞いてきた。
「明日は来んのかねぇ、その猫ちゃんわ」
開け放たれた窓にチラリと視線だけ送る友人に、俺もならうように視線を向けた。
部屋の明るさで窓の外は黒塗りされたように真っ暗だ。
友人はよっちゃんイカを飲み込むとそのまま横になって、問の答えも待たず、すぐに寝てしまった。
「来んのかね、明日は」
雨雲のおかげで月明かりもない海へそう呟いて、窓を閉めた後、しばらくしたら俺も眠っていた。
翌朝、雨音に目が覚めた。
シトシトと軽い音が部屋の中を満たしている。
「降ってんなぁ、来ねぇかー今日わ」
友人もちょうど起きたようだ。
そうだな、と友人に返事をしようとしたその時。
件の猫が、来た。
雨にヒゲを濡らし、時折鬱陶しそうに体を振って水を飛ばし。
それでもいつもと変わらぬ足取りで、トコトコと、現れた。
窓を横切って、いつものように海を眺めている。
「なぁ、あれか?」
友人が指をさしながら聞いてくる。
あれか?とはきっと、昨日話していた猫か?ということだろう。
「うん、あれ」
「俺、あいつが何考えてるか、何を見に来てるのかわかるぜ」
友人は猫の背中から目を離さない。
いや猫ではなく、猫と同じく海を見ているのだろうか。
俺は友人が話すのを待った。
しばらくすると、猫と同調したように、ゆっくりとこう言った。
「あぁ、今日も海は1つかぁ」
「ぶふっ、なんだそりゃ!」
俺は思わず笑った。
だが案外と、事実はそんなものかもしれない。
笑う俺達を横目に、猫は満足した様子で鼻を鳴らし、ひょこひょこと帰って行った。
ここ最近ずっとである。
塀をよじ登って俺の部屋の窓を横切ると、その先に見える海を眺める。
ジロジロと、まるで何かを確認するように。
しばらくすると満足したように鼻を鳴らし、ひょこひょこと帰っていく。
俺が猫に気づいたのが、だいたい1週間くらい前のことだが、
おそらくはそれよりもずっと前から来ているのだろう。
朝の香りと磯の香りが入り交じるここまで、トコトコとやって来るのだ。
今日もその猫が来た。
この頃は暑くなってきたので窓が開け放たれているのだが、
そんな事はチラリとも気にすることなく進んでいく。
俺は、聞いてみた。
「なぁ、お前は毎朝なにを見に来てるんだ?」
...。
当然なにか返ってくるわけもない。
猫はまた何かを確認するように海を眺めると、帰っていった。
「ってなことが最近あるんだよ」
その日の夜、友人を家に招いて2人で酒盛りをしていると、ポロポロっと零すようにその猫の話していた。
「へー、かわいいじゃん」
興味があるような、ないような、そんな曖昧な顔で相づちを打つものだから、深堀するかも悩ましい。
そんな気を使うほどの相手でもないのだけれど。
いや、深堀するほどの話題でもないのだけれども。
俺はツマミのカルパスを口に放り込んだ。
すると、友人はツマミのよっちゃんイカを口に入れたまま聞いてきた。
「明日は来んのかねぇ、その猫ちゃんわ」
開け放たれた窓にチラリと視線だけ送る友人に、俺もならうように視線を向けた。
部屋の明るさで窓の外は黒塗りされたように真っ暗だ。
友人はよっちゃんイカを飲み込むとそのまま横になって、問の答えも待たず、すぐに寝てしまった。
「来んのかね、明日は」
雨雲のおかげで月明かりもない海へそう呟いて、窓を閉めた後、しばらくしたら俺も眠っていた。
翌朝、雨音に目が覚めた。
シトシトと軽い音が部屋の中を満たしている。
「降ってんなぁ、来ねぇかー今日わ」
友人もちょうど起きたようだ。
そうだな、と友人に返事をしようとしたその時。
件の猫が、来た。
雨にヒゲを濡らし、時折鬱陶しそうに体を振って水を飛ばし。
それでもいつもと変わらぬ足取りで、トコトコと、現れた。
窓を横切って、いつものように海を眺めている。
「なぁ、あれか?」
友人が指をさしながら聞いてくる。
あれか?とはきっと、昨日話していた猫か?ということだろう。
「うん、あれ」
「俺、あいつが何考えてるか、何を見に来てるのかわかるぜ」
友人は猫の背中から目を離さない。
いや猫ではなく、猫と同じく海を見ているのだろうか。
俺は友人が話すのを待った。
しばらくすると、猫と同調したように、ゆっくりとこう言った。
「あぁ、今日も海は1つかぁ」
「ぶふっ、なんだそりゃ!」
俺は思わず笑った。
だが案外と、事実はそんなものかもしれない。
笑う俺達を横目に、猫は満足した様子で鼻を鳴らし、ひょこひょこと帰って行った。
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