供養のためのショートショート群

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「私達のために死んでくれないか?」と言われた次の日

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「私達のために死んでくれないか?」
……。
…………。
「……?え?」
何を言われたのか全く理解出来ませんでした。
言い間違いですか?それとも聞き間違いですか?
死んでくれないか?って、日本語で合ってますか?
それは僕に言っているんですか?
「君1人犠牲になれば、全世界が救われる。君は地球を救うんだ」

ある所に地球という星がありました。
その星は神様が特に力を入れてお創りになられた力作。
美しく神秘的で、最高傑作でした。
神様は大層地球を気に入り、育てていくことに決めたそうです。
ですが育てていくうちに、地球には人間と呼ばれる悪い菌のようなものが繁殖していきました。
神様のお気に入りの星を荒し回ると、そこに文明を築き、神様に向かってこう言いました。
「神様よ、地球は我々のものだ。干渉するな。観察するな。邪魔をするな」
図々しいことこの上ない物言いに、神様は堪忍袋の緒が切れてしまいます。
神様は人々に向けてこう言いました。
「愚かなる人間どもよ、貴様らにはほとほと愛想が尽きた。地球はくれてやる、好きにするがいい」
そう言うと神様は、スーッと消えて無くなってしまいました。

その日から、"偶然"という言葉がなくなりました。
"運"や"神頼み"という言葉もなくなりました。
全ては必然で、在るべくして在り、天の気まぐれは介在しなくなりました。
人々はそれを、一時的には喜びました。
努力量と結果は等しく結びつき、誰でも平等にチャンスを与えられた世界。
魅力的に聞こえるのは仕方の無いことです。

それに初めて気付いたのは、産婦人科医でした。
ある日を境に子供が全く産まれなくなったのです。
ある日とは、あの日。
神様が人間を見限った日。
ひとっこ1人産まれてこなくなったのです。
偉い学者さんはこのように言います。
「子供は神様からの贈り物。神様が居なくなれば、子供も産まれなくなる」
植物も動物も、同じように子孫を残せないようでした。
それが分かった次の日、世界はパニックに陥りました。
責任の追求が連日連夜行われ、神様に直談判を行った人が死刑になりました。
それでも問題が解決したわけではありません。
神様は今更戻ってきてはくれないでしょう。
地球上の全人類が協力して解決策を探すことになりました。
地球を滅ぼさないために。

「その解決策というのが、僕が死ぬことなんですか…?」
10人の学者さんが僕を囲んでいます。
代表して僕の正面に座っている1人が話し始めました。
「神様がいなくなったことが原因なんだ。故に神様を作ればいい。君は神様になって地球を救う、名誉なことだろう」
だ、そうです。
昨日まで呑気に生きてきて、今日になって突然呼び出され、訳の分からないまま死ねと言われ。
僕の人生は一体なんなんでしょうか。
「私達は擬似的に神様を作り出す技術を発明した。しかしこの技術には生贄が必要なのだ」
その生贄というのが僕なのでしょうか。
「なぜ僕なんですか?」
「理由はない。しかし必然ではある。君は神様になるために産まれたのだ」
必然なのですね。
偶然がないのだから当然、必然になってしまうのでしょう。
必然ならばきっと、断ることも出来ないのでしょう。
あぁ、やだなぁ。
やだなぁ。
「明日の午前0時に君には神様になってもらう。それまでは好きにすごしてくれたまえ」
あと半日くらいです。
なにができるというのでしょうか。

親に会いに行きました。
一人暮らしでしたのでなかなか会う機会もなく、久しぶりに里帰りです。
今日あったことを話しました。
生贄にされることも含めて。
「まぁ、なんて名誉あることなのでしょう。素晴らしい、貴方は一族の誇りよ!」
母は喜んでくれました。
「まさかお前が神様になるとはなぁ。お父さんも鼻が高いよ」
父も喜んでくれました。
なんなんでしょう、この気持ちは。
少し怖いです。

友人に会いに行きました。
僕は地元を離れていて、友人は地元に残っていたのでしばらく会えていませんでした。
久しぶりに会った友人にも、同じように今日のことを話しました。
「素晴らしいことじゃないか!君は俺たちの英雄だよ!」
喜んでくれました。
父や母と同様に。
僕は死ぬのです。
喜ばないでください。
みんな、おかしくなってしまっているのでしょう。
気が狂っているとしか思えません。

最後に恋人に会いに行きました。
地元を離れてから遠距離恋愛でしたが、それでも隙を見ては遊びに来てくれる、そんな恋人です。
少し迷いましたが、同様に話をすることにしました。
「……え、?やだ、やだ…」
恋人は話を聞くと青ざめて、目に涙を浮かべると膝から崩れ落ちました。
「なんで、なんで君なの…?やだよ…」
そうですね、僕も嫌です。
でももう、決まってしまったことなのです。
あぁでも、そういう風に悲しまれると少し、寂しいですね。
「ごめんね、愛しているよ。神様になっても君を見守り続けるよ」
と口にしたら、なんだか急に現実味が湧いてきたもので。
途端に涙が零れてきました。
恋人もワンワン泣いています。
あぁ、寂しいな。
切ないな…。

「準備はいいですか?」
学者さんは僕の前に立つとそう聞いてきました。
よくないですと言えば待ってくれるのですか?
そんな訳はないですよね。
「僕の恋人に、お金と土地をお与えください。僕の願いはそれだけです」
学者さんは頷くと
「わかりました。一生困らず生活出来るだけのお金と、広大な土地を用意致します。安らかにお逝きください」
そう言って部屋を出て行きました。
全人類のことや地球のことなんてどうでもいいけれど、恋人が幸せでいてくれるなら、僕は命を投げ出せます。
唯一僕の死を悲しんでくれた恋人よ。
君の生きる地球は、僕が守りますね。



こうして、新たな神様が誕生し、地球には偶然が戻ってきたのでした。
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