供養のためのショートショート群

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君>私

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セミが遠くで鳴いている、ように聞こえる。
実際は窓のすぐ外の桜の木に止まっているんだろう。
窓1枚隔てただけで、まるで別世界だ。
手を伸ばしても届かないし、温度もまるで違う。
ノットイコール?いや不等式。
「ワケわかんない、ははは」
知ってるよ、君にはわからないと思う。
私にしかわからないもの。
君はあちら側だから。

その指が好きだ。
数学のノートに、よくわからない数式が連ねられていく。
「習ったよ、ここは」
そう指差すそれ、長くしなやかで、でも男っぽくゴツゴツしてて。
ペン回しとかするよね。
あれも、実は好き。
「で、ここに代入して……。なぁ、聞いてる?」
聞いてませんでした。
数学は苦手なもんでして。
「人がせっかく教えてやってんのによぉ…」
ごめんなさいね。
でも、ちょっとわざとだったり。
だって君、私が数学できるようになったらこうして教えてくれたりしないもの。
だからちょっと、苦手な数学に感謝してみたりなんかして。
「こんなんじゃいつまでたっても夏休みの宿題終わらんよ」
そうだね。
終わらなければいいなぁ。
宿題も、夏休みも。
君とのこの時間も。

「国語ってつまんねぇよなぁ…。作者の考えとかどーでもよくね?」
ふふふ、君は人の気持ちを考えるの苦手だもんね。
らしいなぁ、わかる、君っぽい。
だってほら、私の気持ちにだって気付けてないもの。
そんな問題解く前に私を解きなさいよ、なんてね。
こっちの方が簡単なのにね。
でも君のことだ、きっと論理的にしか解釈できない。
数式とか出されたらたまったもんじゃない。
女の子はもっと柔らかくて可愛いもので出来ているのですよ。
「…こんな問題集解いても国語力なんて上がんねぇって…」
そんなことないと思う。
それに、私は好きだし。
問題に使われてる作品とか、表現が美しいんだもん。
盆土産とか、未だに覚えてるもんね。
しゃおってね。
えんびフライね。
「なつかしっ!よく覚えてんなぁ、そんなの」
そんなのとは失礼な。

「あの桜がまた咲いたら、もう卒業なんだなぁ」
「ふふ、ずいぶん詩的な表現するんだね」
「うっせぇな」
「いいじゃん、かっこいいよ」
「うざ…。まぁいいさ、あと半年の我慢だ」
「私とのお別れを喜ばないで頂きたいのですが」
「大喜びさ、踊り出したいくらいだね」
「"あの桜がまた咲いたら、もう卒業なんだなぁ"」
「マネすんな!」
「もう卒業なんだね、私は寂しいよ」
「卒業式泣きそうだよな、お前」
「卒業式の前に泣きそうだよ」
「そんなに楽しかったかぁ?泣くほどでもなくね?」
「うん、まぁね。でも悲しくなるじゃん」
「そんなもんかねぇ…」
「そんなもんだよ」

「まぁ俺も、お前に数学教えてやれなくなるの寂しいけどなぁ」
……。
あぁ、泣きそう。
寂しくなるなぁ、そんなこと言われたら余計に。
なんでそういうことをポロッと言うのでしょうかね。
はぁ…。
すきだなぁ…。

もっと早くこの気持ちに気付いていれば、なんて、そんなふうに思えない。
きっと君は私を振るし。
成功しても、君の志望校は私じゃ届かないし。
この関係が壊れるのも嫌だし。
はぁ…。
せめて。
せめて、あのセミが鳴き終わるまでは。
それまでは、なんてね。
なーんてね。
長生きしろよ、このやろう。
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