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オオカミ男に出会った
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オオカミ男に出会った。
深夜2時、ふらりとコンビニへ向かった私の前に、斜め前に、それは現れた。
彼は廃れた道祖神に背を預け座っていた。
状況からすれば現れたのは私の方か。
私は彼に話しかけた。
「ねぇオオカミ男さん。良ければ私を食べてください」
彼はうつむきがちに、あるいはうなだれるように、生気なく座り込んでいた。
噂によると彼らは人を喰うらしい。
確かに私なんて簡単に喰い殺せてしまうだろう凶悪な牙を持っていた。
しかし座り込んでいるその面影に、人を喰い殺せる活力があるようには思えない。
虚ろな目をこちらに向けることもなく、私の言葉に反応することもなく、ただ疲れたというようにそこに居続けている。
「ねぇ、オオカミ男さん。私を食べてください」
私はオオカミ男に近づき、もう一度話しかけた。
するとオオカミ男はめんどくさいと言った面持ちで口を開いた。
「俺はもう人は喰わん。不愉快だ、去ね」
身震いするような威圧感のある声だ。
本当に不愉快で追い払おうとしているように感じる。
いや、本当に不愉快で追い払おうとしているのだろう。
「お願いします、私を食べてください」
「くどいぞ貴様、喰い殺されたいか」
彼はこちらを向いた。
イラついた様にこちらを睨みつけてくる。
「えぇ、喰い殺されたい」
私はもう一度そう言った。
「何のつもりだ、気味が悪い」
「体調が悪いのですか?」
「貴様が気持ち悪いと言っている」
「私はただ、死にたいだけです」
「そうか、ではさっさと死ね」
「いえ、自ら命を断つのは怖いのです」
「贅沢な悩みだ」
「オオカミ男さんが私を食べてくれるなら、私はオオカミ男さんに抵抗しても勝てないから、私の意思で死んだのではなく殺されたってことになりますよね」
「知らん、そこにどれだけの違いがあると言うのだ」
「私の心持ちが変わります。自殺は逃げられますが、あなたが私を食べようとしたら私は逃げられませんから」
「意味がわからん。死を恐れているのか、恐れていないのか」
「死ぬのは怖いです。でも生きることのほうがもっと怖い。死のうとして生き延びてしまうのはもっと怖い」
「生きることが怖いか、なぜだ」
「理由なんてないです。生きていればお腹が空く、眠くなる、疲れる。朝は起きなきゃいけないし、幸せになるために努力しなきゃいけない。すごく面倒くさくて、それを生きている限りし続けなければならないなんて、怖い」
「、、、」
「人を食べなければオオカミ男さんは死ぬの?」
「死ぬ」
「どうしてもう人は食べないの?」
「死にたいからだ」
「、、、」
「死ぬと決めた、そして人を喰わんと決めた」
オオカミ男さんは続けた。
狼人間は不老不死だ。
正確に言えば、人を喰う限り不老不死だ。
人1人喰えば1年は死なない。
死なないし、死ねない。
傷も病もたちまちに癒える。
妻は焼かれる前に3人喰った。
3人喰って、次の日に焼かれた。
妻が喰った人間の仲間が、妻を捕まえて炎をつけた。
焼かれて、焼かれて、焼かれ続けた。
3年間、その炎は妻の身を焦がし続けた。
俺はなんとか妻の炎を消そうとした。
何度も何度も水をかけた。
砂をかけた。
血をかけた。
油をかけた。
それでも炎は消えなかった。
村人を何百人も喰った。
妻に炎をつけた者から喰った。
全て居なくなるまで喰った。
それでも、その炎は消えなかった。
死ねない苦しみの中で妻は嘆き続けた。
死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい。
俺は妻を焦がす炎に照らされて、それを聞いていることしかできなかった。
3年経ったころ、その炎は消えた。
そして妻は死んだ。
「貴様は時間も方法も自由に選んで死ぬことができる。心底妬ましい」
なるほど、だから彼は「贅沢な悩み」と言ったのか。
「私も日々が身を焼かれるほど辛い」
「分かった気になるなよ人間、焼かれてから口にしろ」
そう言うと彼は立ち上がった。
好きなところで好きに死ね、と、言葉を残して霧のように消えた。
また死ねなかった、そう思った。
好きなところで好きに死のう、そう決めてコンビニに向けて歩き出した。
深夜2時、ふらりとコンビニへ向かった私の前に、斜め前に、それは現れた。
彼は廃れた道祖神に背を預け座っていた。
状況からすれば現れたのは私の方か。
私は彼に話しかけた。
「ねぇオオカミ男さん。良ければ私を食べてください」
彼はうつむきがちに、あるいはうなだれるように、生気なく座り込んでいた。
噂によると彼らは人を喰うらしい。
確かに私なんて簡単に喰い殺せてしまうだろう凶悪な牙を持っていた。
しかし座り込んでいるその面影に、人を喰い殺せる活力があるようには思えない。
虚ろな目をこちらに向けることもなく、私の言葉に反応することもなく、ただ疲れたというようにそこに居続けている。
「ねぇ、オオカミ男さん。私を食べてください」
私はオオカミ男に近づき、もう一度話しかけた。
するとオオカミ男はめんどくさいと言った面持ちで口を開いた。
「俺はもう人は喰わん。不愉快だ、去ね」
身震いするような威圧感のある声だ。
本当に不愉快で追い払おうとしているように感じる。
いや、本当に不愉快で追い払おうとしているのだろう。
「お願いします、私を食べてください」
「くどいぞ貴様、喰い殺されたいか」
彼はこちらを向いた。
イラついた様にこちらを睨みつけてくる。
「えぇ、喰い殺されたい」
私はもう一度そう言った。
「何のつもりだ、気味が悪い」
「体調が悪いのですか?」
「貴様が気持ち悪いと言っている」
「私はただ、死にたいだけです」
「そうか、ではさっさと死ね」
「いえ、自ら命を断つのは怖いのです」
「贅沢な悩みだ」
「オオカミ男さんが私を食べてくれるなら、私はオオカミ男さんに抵抗しても勝てないから、私の意思で死んだのではなく殺されたってことになりますよね」
「知らん、そこにどれだけの違いがあると言うのだ」
「私の心持ちが変わります。自殺は逃げられますが、あなたが私を食べようとしたら私は逃げられませんから」
「意味がわからん。死を恐れているのか、恐れていないのか」
「死ぬのは怖いです。でも生きることのほうがもっと怖い。死のうとして生き延びてしまうのはもっと怖い」
「生きることが怖いか、なぜだ」
「理由なんてないです。生きていればお腹が空く、眠くなる、疲れる。朝は起きなきゃいけないし、幸せになるために努力しなきゃいけない。すごく面倒くさくて、それを生きている限りし続けなければならないなんて、怖い」
「、、、」
「人を食べなければオオカミ男さんは死ぬの?」
「死ぬ」
「どうしてもう人は食べないの?」
「死にたいからだ」
「、、、」
「死ぬと決めた、そして人を喰わんと決めた」
オオカミ男さんは続けた。
狼人間は不老不死だ。
正確に言えば、人を喰う限り不老不死だ。
人1人喰えば1年は死なない。
死なないし、死ねない。
傷も病もたちまちに癒える。
妻は焼かれる前に3人喰った。
3人喰って、次の日に焼かれた。
妻が喰った人間の仲間が、妻を捕まえて炎をつけた。
焼かれて、焼かれて、焼かれ続けた。
3年間、その炎は妻の身を焦がし続けた。
俺はなんとか妻の炎を消そうとした。
何度も何度も水をかけた。
砂をかけた。
血をかけた。
油をかけた。
それでも炎は消えなかった。
村人を何百人も喰った。
妻に炎をつけた者から喰った。
全て居なくなるまで喰った。
それでも、その炎は消えなかった。
死ねない苦しみの中で妻は嘆き続けた。
死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい。
俺は妻を焦がす炎に照らされて、それを聞いていることしかできなかった。
3年経ったころ、その炎は消えた。
そして妻は死んだ。
「貴様は時間も方法も自由に選んで死ぬことができる。心底妬ましい」
なるほど、だから彼は「贅沢な悩み」と言ったのか。
「私も日々が身を焼かれるほど辛い」
「分かった気になるなよ人間、焼かれてから口にしろ」
そう言うと彼は立ち上がった。
好きなところで好きに死ね、と、言葉を残して霧のように消えた。
また死ねなかった、そう思った。
好きなところで好きに死のう、そう決めてコンビニに向けて歩き出した。
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