供養のためのショートショート群

リコピンブラウザー

文字の大きさ
17 / 19

オオカミ男に出会った

しおりを挟む
オオカミ男に出会った。
深夜2時、ふらりとコンビニへ向かった私の前に、斜め前に、それは現れた。
彼は廃れた道祖神に背を預け座っていた。
状況からすれば現れたのは私の方か。
私は彼に話しかけた。
「ねぇオオカミ男さん。良ければ私を食べてください」

彼はうつむきがちに、あるいはうなだれるように、生気なく座り込んでいた。
噂によると彼らは人を喰うらしい。
確かに私なんて簡単に喰い殺せてしまうだろう凶悪な牙を持っていた。
しかし座り込んでいるその面影に、人を喰い殺せる活力があるようには思えない。
虚ろな目をこちらに向けることもなく、私の言葉に反応することもなく、ただ疲れたというようにそこに居続けている。
「ねぇ、オオカミ男さん。私を食べてください」
私はオオカミ男に近づき、もう一度話しかけた。
するとオオカミ男はめんどくさいと言った面持ちで口を開いた。
「俺はもう人は喰わん。不愉快だ、去ね」
身震いするような威圧感のある声だ。
本当に不愉快で追い払おうとしているように感じる。
いや、本当に不愉快で追い払おうとしているのだろう。
「お願いします、私を食べてください」
「くどいぞ貴様、喰い殺されたいか」
彼はこちらを向いた。
イラついた様にこちらを睨みつけてくる。
「えぇ、喰い殺されたい」
私はもう一度そう言った。

「何のつもりだ、気味が悪い」
「体調が悪いのですか?」
「貴様が気持ち悪いと言っている」
「私はただ、死にたいだけです」
「そうか、ではさっさと死ね」
「いえ、自ら命を断つのは怖いのです」
「贅沢な悩みだ」
「オオカミ男さんが私を食べてくれるなら、私はオオカミ男さんに抵抗しても勝てないから、私の意思で死んだのではなく殺されたってことになりますよね」
「知らん、そこにどれだけの違いがあると言うのだ」
「私の心持ちが変わります。自殺は逃げられますが、あなたが私を食べようとしたら私は逃げられませんから」
「意味がわからん。死を恐れているのか、恐れていないのか」
「死ぬのは怖いです。でも生きることのほうがもっと怖い。死のうとして生き延びてしまうのはもっと怖い」
「生きることが怖いか、なぜだ」
「理由なんてないです。生きていればお腹が空く、眠くなる、疲れる。朝は起きなきゃいけないし、幸せになるために努力しなきゃいけない。すごく面倒くさくて、それを生きている限りし続けなければならないなんて、怖い」
「、、、」
「人を食べなければオオカミ男さんは死ぬの?」
「死ぬ」
「どうしてもう人は食べないの?」
「死にたいからだ」
「、、、」
「死ぬと決めた、そして人を喰わんと決めた」
オオカミ男さんは続けた。

狼人間は不老不死だ。
正確に言えば、人を喰う限り不老不死だ。
人1人喰えば1年は死なない。
死なないし、死ねない。
傷も病もたちまちに癒える。
妻は焼かれる前に3人喰った。
3人喰って、次の日に焼かれた。
妻が喰った人間の仲間が、妻を捕まえて炎をつけた。
焼かれて、焼かれて、焼かれ続けた。
3年間、その炎は妻の身を焦がし続けた。
俺はなんとか妻の炎を消そうとした。
何度も何度も水をかけた。
砂をかけた。
血をかけた。
油をかけた。
それでも炎は消えなかった。
村人を何百人も喰った。
妻に炎をつけた者から喰った。
全て居なくなるまで喰った。
それでも、その炎は消えなかった。
死ねない苦しみの中で妻は嘆き続けた。
死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい。
俺は妻を焦がす炎に照らされて、それを聞いていることしかできなかった。
3年経ったころ、その炎は消えた。
そして妻は死んだ。

「貴様は時間も方法も自由に選んで死ぬことができる。心底妬ましい」
なるほど、だから彼は「贅沢な悩み」と言ったのか。
「私も日々が身を焼かれるほど辛い」
「分かった気になるなよ人間、焼かれてから口にしろ」
そう言うと彼は立ち上がった。
好きなところで好きに死ね、と、言葉を残して霧のように消えた。
また死ねなかった、そう思った。
好きなところで好きに死のう、そう決めてコンビニに向けて歩き出した。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

兄になった姉

廣瀬純七
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...