伝説の後始末

世々良木夜風

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Legend 15. 氷の精霊を助けろ

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「さあ、王都に帰りましょう...大賢者様の怒りを買った以上、お父上にも報告しなければなりません。ひどく怒られるでしょうが、私からも一緒に謝りますので...」
「すまん...」
ドラムスコの一行がすごすごと広場を去っていく。

その広場では、
「大賢者様~~~~~!!」
「やっぱ、スゲ~~~~!鳥肌立った!」
「あの貴族を完膚なきまでに打ちのめしやがった!スカッとしたぜ!」
「大賢者様~~~!お美しいですわ~~~~!」

観客の賛辞の声がやまなかった。
「な、なんか恥ずかしいわね...」
居心地が悪そうなツィア。
対してハルは、
(ふふふ!さすが私のツィアさん!みんなに注目されてる!やっぱりこうでなければ!)
そう思ってツィアを見る。
相変わらず完璧なプロポーションだった。
(ちょっと待ってください!...あの着こなし、胸を強調し過ぎじゃないですか?それにローブの丈も短いし...はしたないです!私以外の前であんな格好を!!)
ハルはツィアを見て欲しいのか見て欲しくないのか分からなくなっていた。
そんな中、
「大賢者様。ありがとうございました。これでドラムスコ様も少しは懲りるでしょう...」
主催者がツィアに丁重に礼を言う。
「別に気にしなくていいわよ!...あいつ、ハルが怪我させないようにあれだけ気を使ってあげたのに、あの態度はなに?...腹が立ったからちょっと脅かしてやったわ!」
ツィアはご立腹といった感じだ。しかし、そのセリフを聞いたハルは、
「えっ?!私のため?!」
そう言って頬を染める。
「え、えっと...そ、そういう意味もあるっていうか...まあ、どっちにしても私の自己満足よね!」
ツィアは恥ずかしそうに目を逸らせたが、
「うれしいです!ツィアさん!」
ハルは満面の笑みで抱きついてくる。
「も、もう!...みんな見てるでしょ!」
困ったように周りを見回すツィア。
さすがにみんなの注目を浴びている状態では恥ずかしいようだった。
「ご、ごめんなさい!...迷惑でしたよね...」
慌てて離れるハル。その目は少し寂しそうだ。
「め、迷惑じゃないけど...ハ、ハルが誤解されちゃうでしょ!」
ツィアはハルから目を逸らしながらそんなことを言う。
「『誤解』って?」
ハルが首を傾げていると、
「こ、恋人だと勘違いされちゃったりとか...」
ツィアが顔を真っ赤にしながら口にした言葉に、
「わ、私は!」
何か言おうとしたハルだったが、
「なんでもないです...」
そうつぶやくと黙り込んでしまった。
(な、何を言おうとしたのかしら...『勘違いされてもいい』とか?...ま、まさかね!!)
ツィアがハルを見ながら考えていると、
「あ、あの...これから表彰式があるのですが...」
主催者が言いづらそうに口を挟んできた。すると、
「そ、そ、そうね!表彰式!ハルの優勝だものね!」
慌ててそう答えるツィア。
「表彰式?活躍したのはツィアさんでは...」
ハルは遠慮がちにそう言うが、
「ふふふ!ハルの頑張りは私が一番良く見てたわよ!堂々と表彰されてらっしゃい!」
「ツィアさん...」
にっこり笑って声をかけるツィアに、ハルはうれしそうにつぶやく。
(ツィアさん、見ててくれたんですね!...それが一番...うれしい!!)
そして表彰式が始まるのだった。

☆彡彡彡

表彰式の後、
「急ぐわよ!この子、危ない!」
「はい!」
ツィアとハルは街の外に向かって走っていた。
ツィアの腕の中には氷の精霊が。
春の日差しに当てられ虫の息だ。
バフを使い、走る速度を上げた二人はなんとか街の外まで辿りついた。
そして人目につかない、雑木林の中に走り込む。

「ブリザード!」
ツィアの詠唱と共に、局所的な吹雪が巻き起こり、氷の精霊を包み込む。
これは攻撃呪文だが、氷の精霊にとっては冷気系統の呪文は体力回復の効果を発揮する。

「うっ...」
さっきまでぐったりとしていた氷の精霊が意識を取り戻した。
「大丈夫ですか?」
ハルが声をかけるが、
「は、春の精霊様!ち、近くに寄らないでください!」
氷の精霊がハルから距離をとる。
ハルから発せられる春の暖気は、氷の精霊にとって体力を奪う毒のようなものなのだ。

その様子を見ながら、
「氷の精霊か...初めて見たわね...」
ツィアがつぶやいていた。

氷の精霊は人に近い姿をしている。
美しい姿をしているが、人間味はなく、むしろ彫刻に近い印象を受ける。
全身、青っぽい白。ロングの髪の毛も同じ色だ。
体には氷がレオタード状に貼り付き、それが服の代わりのようだった。
胸はふっくらと膨らんでいるが目立つほどではなかった。

ちなみに氷の精霊は精霊の中では下位に属している。
それでも魔物全体から見れば上位の力を持つが、春の精霊とは比較にならないほど弱かった。

「ひぇっ!人間!」
ツィアの姿を認めた氷の精霊が身構える。
弱っていたところを捕まえられたのだから当然だろう。
「大丈夫ですよ!この人は魔物の味方です!...捕まえられていたあなたを助けたのもこの人ですよ!」
ハルが氷の精霊を安心させるように優しく語りかける。しかし、
「本当ですか?」
そう言いながらも氷の精霊は警戒を解かない。
「本当に何もしないわ!...もう元気になったようだから魔界に帰りなさい!」
ツィアが言うと、
「氷の精霊さんたちは人間界で暮らしてるんですよ!」
ハルが説明を始めた。
「そうなの?」
ツィアが聞くと、
「はい。魔物の中には弱肉強食の魔界を嫌って、人間界の人の近づかない地で暮らす者たちがいます!氷の精霊もその一種です!」
ハルが詳しく説明してくれる。
「そうなんだ...だから滅多に遭遇しないのね!」
ツィアは納得する。
魔物の中には積極的に人の近くに現れずに、『会えたら奇跡』と呼ばれる種族が存在する。
その理由がやっと分かったのだ。
「じゃあ、あなたの住処はどこなの?」
ツィアが聞くが、
「・・・」
氷の精霊は警戒して答えない。
「そりゃそうよね!人間に話して隠れ家が襲われたら困るしね!...もう行っていいわよ!」
ツィアがそう言うと、
「...連れていって...いただけますか?」
氷の精霊は恐る恐る聞いてきた。
「えっ?!いいの?!」
ツィアが驚いていると、
「あなたは信用できそうです...春の精霊様も心を許しているようですし...それに...まだ体力が戻らず、一人で戻れそうにはありません...もしよろしければ...」
氷の精霊はそう言って頼んできた。
「そういうことなら喜んで引き受けるわ!...どこまで連れていったらいいの?」
ツィアがにっこり微笑んで尋ねると、
「あの山の山頂付近まで...そこまで行けば後は自力で帰れます...」
氷の精霊は近くにそびえる山脈の中でも一際、高い山を指差す。
春だというのに山の上の方は雪に覆われ、おそらく夏でも解けないだろう。
人も寄り付かないので確かに氷の精霊にとっては絶好の住処といえそうだった。
「ちょっと大変そうね...でもここまで来たら最後まで付き合うわ!行きましょ!ハル!」
「はい!」
こうしてツィアたちは氷の精霊を高い山の山頂まで連れていくことになったのだった。
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