伝説の後始末

世々良木夜風

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Legend 34. ナンシーを捜しに行こう

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「何があったの?」
ツィアが叫んでいる男性に向かって走り寄ると聞いた。
「誰だ?あんたは...」
男性に怪訝な顔をされるが、
「あっ、ごめんなさい。私はツィア!冒険者をしてたんだけど、今は別の用事で旅をしてるの!...ここに寄ったらなんか魔物が出るとかで...」
ツィアは自己紹介をして警戒を解こうとする。すると、
「...そうか...元冒険者か...それなら一つ頼まれごとをしてくれないか?」
男性はそう言った。
「なに?話の内容によるけど...」
ツィアが詳細を聞くと、
「まあ、そうだよな!...俺一人では決められないから、一緒に長老のところに来てくれ!頼む!」
男性の言葉に、
「まあ、いいけど...」
ハルと目を見合わせながら、そう答えるツィアだった。

☆彡彡彡

「えっ?!それじゃ、そのナンシーとかいう薬師さん、もう1週間も帰ってないの?」
長老の家で男性の話を聞いたツィアは驚く。
「そうなんだ。薬の材料の採取に火山の麓の森に出かけたんだが、普通は3日もしたら帰ってくるのに、今回はまだ帰ってこないんだ!」
男性が補足すると、
「最近、村の周りで魔物を見た者もおる...心配じゃ...良ければ捜してきて欲しいのじゃが...」
続けて、長老がそうお願いしてくる。
「助けてあげましょう!ツィアさん!」
ハルにもそう言われたツィアは、
「いいわ!ちょうどここに出没している魔物のことも気になってたとこだし...捜してきてあげる!」
長老に向け、そう答えた。
「すまん...報酬はできる限り用意するが、なにぶん、貧しい村なので...」
長老が報酬のことを心配するが、
「それならこの野菜のお代を無料にしてください!」
とハルが袋を見せながら言った。
「ハル!」
ツィアが恥ずかしそうにハルを注意するが、
「おお!それはこの村の...そんなもので良ければいくらでも持っていってくれ!払った金は後でわしから出しておこう!」
長老はそう言って安心したような顔をした。
「...ごめんなさい...」
ツィアが長老に謝るが、
「礼を言うのはこちらの方じゃ!本当は金貨の1枚も出さねばならんところを...すまん!」
長老は申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいわ!...お金なら困ってないし、そのナンシーって子のことも気になるしね!...ひとっ走り、行ってきてあげる!」
そんな長老に、ツィアがにっこりと笑いかけると、
「き、気になるって...もしかしてツィアさん、その薬師の女の人のことを!!」
ハルはこの世の終わりのような顔をしていた。

☆彡彡彡

「なんだ、そう言う意味だったんですか!」
ナンシーの向かった火山のある北の方面に向かいながら、ハルがホッとした顔をしていた。
「もう!名前を聞いただけの子を私が好きになるわけないでしょ!」
ツィアが呆れたように言うと、
「ご、ごめんなさい...捨てられると思って...」
ハルが悲しそうな顔をする。
「そんなことするわけないでしょ!ハルは可愛いんだから自信、持って!」
ツィアが励ますと、
「か、か、可愛いって!!...あの...その...ツィ、ツィアさんはどんな女の子が好みなんですか?」
ハルが真っ赤になりながらそんなことを聞いてくる。
「えっ?!...あっ...こ、好みって...」
それを聞いたツィアは顔を染めながら口ごもってしまう。
「・・・」
しかし、ハルはじっと答えを待っている。
(答えないわけには...いかない...よね...)
そう思ったツィアは口を開く。
「あの...可愛くて...家事が得意で...買い物上手な...女の子...かな?」
(まずい!さすがに直球過ぎたかしら...バレた...よね...)
そう思いながら、恐る恐るハルの様子を窺うと、
「私!頑張ります!...もっと可愛くなって、もっと家事の腕も上げて、もっとお買い物も上手になってみせます!」
ハルは決意を込めた目でそう言った。
「・・・」
ツィアは思う。
(バレて...ないみたい...)
ホッとしたような寂しいような複雑な気持ちになる。次いで、
(えっ?!...でも『ハルが私の好みの女の子になりたい』ってことは...その...つまり...)
何かに気づいたツィアは心臓がドキドキするのを感じる。その時、ハルが言った。
「だから...私のこと...お願い...しますね!」
(末永く...ずっと...)
ハルは頬を染めながらそう口にしたが、
(そっか...そういう意味か...『魔界まで連れていってもらう』ために頑張るって言ってるのね!...そんなこと気にしなくていいのに...)
ツィアはドキドキしていた自分が滑稽に思えてくる。
(考えてみれば当たり前よね...ハルが私なんかのこと...でも、私はハルを魔界に連れていってあげることはできる!!...それで...ハルが喜ぶのなら...)
そう思ったツィアはハルの言葉に答えた。
「分かってるわ...行かせて...あげるから...」
(ちょっと!何、しんみりした声で言ってるのよ!!)
ツィアは反省していた。
『ハルが魔界に帰ってしまう』...そう考えたら、自然と声が小さくなってしまっていた。
それを聞いたハルは、
「イかせるって!!」
顔をこれ以上ないほど真っ赤にしながら慌てている。
(ツィアさん、あからさま過ぎます!!...で、でも...わざわざそんな言葉を口にしたということは...)
ハルは一生懸命、考える。ツィアがそんなはしたない言葉を使ったのには理由があるはずだ。
(わ、私に覚悟を迫っている?...全てを差し出す覚悟を...もちろん、私は!!)
「私はいつでも!!」
「ん?」
ハルが突然、叫んだのでツィアがいぶかしげな顔をすると、ハルはふと気づく。
(その顔!それに...)
ハルは村までの道中でツィアと交わした会話を思い出していた。
『そ、それだけはダメ!!』
寝る時にくっついてもいいか聞いた時にツィアが答えた言葉。
(つ、つまり、今の私にはその権利がないと...もっと...『ツィアさんのお役に立てるように頑張れ』ということですね!)
「わ、分かってます!!もっと頑張りますのでその時は!!」
ハルは覚悟を決めた顔で補足した。
「ふふふ!そんなに頑張らなくてもいいのよ!」
ツィアはハルの真面目な顔に、微笑ましく思いながらそう言うが、
「ツィアさんはそうかも知れませんが、私にとっては大事なことなんです!!」
ハルは相変わらず真剣な顔をしている。
(もう!ハルったら...真面目なんだから!...でもそういうところも...好きだったりして...)
そっと頬を染めるツィア。そして、
(ツィアさんにとってはどうでもいいことかもしれないですけど、私にとってツィアさんは運命の人!このチャンス、のがせないんです!!)
決意を込めた眼差しのハルがいた。

しばらく後、ツィアは話題を変えようと、村に出没する魔物についてハルに聞いた。
「ねぇ!ハルは村に現れてる魔物はなんだと思う?」
するとハルは即答する。
「『火に覆われた人型の魔物』といえば、『火の精霊』が真っ先に思い浮かびますが...」
「そうよねぇ...でもなんで?...氷の精霊みたいに村の様子が気になって、覗きに来たのかしら...」
その答えはツィアも予想していたようだ。そう問いかける。
「でも、なんの変哲もない村に見えましたが...『催し物』とやらもしてないようですし...」
しかし、ハルはその推測には懐疑的なようだった。
「そっか...でも村に被害が出てないということは、悪い魔物じゃないと思うのよね...」
ツィアがそう口にした時、

「お前!人間だな!...ちょっとこっちに来てくれないか!」
全身、火に覆われた凛々しい女性の魔物から声をかけられた。
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