バスト・バースト!

世々良木夜風

文字の大きさ
上 下
1 / 45

Burst 1. オトメ16歳

しおりを挟む
ここは現代でも中世でもない世界。
剣と魔法もありつつ科学技術も発達しているという、作者の意図次第でどのようにでも変わる都合のよい世界。
ここで悩める少女たちの物語が始まろうとしていた。

・・・

「う~~~ん!いい朝!」
一人の少女が目覚める。
可愛いシルク生地の夜間着を着ている。
起きるとすぐに鏡をチェックする。
「あちゃ~~!ひどい寝癖!...直るかな...」
軽く櫛を通すととりあえず着替えるためにタンスを開ける。
「今日はこれ!」
白のシャツと空色のワンピースを取り出す。
着替えるとすぐに鏡の前へ。
「うん、可愛い!」
その後、一生懸命寝癖を直す。
「しつこいな~~」

その時、下から女性の声が聞こえる。
「オトメ!何してるの!もうご飯できてるわよ!」
「ちょっと待って~!」
オトメと呼ばれた少女は髪をきれいに梳かすと、リボンをつける。
「よし!できた!今日も可愛い!」
オトメは階段を下りて行った。

「オトメ!遅いわよ!みんな待ってるんだから!」
オトメのお母さんと思われる人が叱る。
「だって、女の子は身支度がたいへんなのよ!いつも可愛くしてなくちゃいけないんだから!」
「なら、もっと早く起きなさい!変なとこだけ大人なんだから!」
「は~~~い」
オトメは適当に返事をすると自分の席に座る。
テーブルには家族が四人。
お父さん、お母さん、オトメ、それに弟がいる。
「「「「いただきます」」」」
家族の食事が始まる。
その中でオトメが話題を振る。
「私、そろそろ必要だと思うの!」
「何が?」
弟が言う。オトメは恥ずかしそうに頬を両手で包み、身をくねらせながら答える。
「もう!男の人の前で言わせないで。女性の可愛い胸を守ってくれるものよ!」
「「「・・・」」」
三人は揃って目をそらせた。
「ほら、恥ずかしいでしょ?あれ?なんでお母さんまで...」
不思議そうな顔をするオトメにお母さんは言い辛そうに言う。
「そ、そうかもしれないわね。でも、もう少し様子を見てもいいんじゃないかしら?」
「でも、友達みんなもっと前からしてるよ!私だけつけてないなんて変じゃない!」
「・・・」
お母さんが言葉に詰まる。仕方ないのでお父さんが話し出す。
「オトメ。人にはいろいろ個性がある。それはとても大事なものだ。今は分からなくてもいつかきっとプライドを持てるときが...来る...といいな...」
最後の方が何か自信なさげだ。
「そうでしょ~~!私の個性って、『か・わ・い・さ』だと思うの。ブラもうんと可愛いのを...キャッ!言っちゃった!」
オトメが頬を染める。
「「「・・・」」」
三人は困ったように口を閉ざしている。
「あの...ねぇちゃんさぁ...言い辛いんだけど...」
弟が何か言おうとしたところでお母さんが遮る。
「まあ、オトメも明日で16歳だしね。いいわよ。行くだけ行ってみましょ!」
「やった~~~!!」
大喜びのオトメ。それに対しお父さんは、
(「い、いいのか?」)
お母さんに耳打ちしている。
(「もう現実を見てもいい頃だわ。お店で現実を突き付けられれば分かるでしょう。ちょっと可愛そうだけど...」)
一人楽しそうにご飯を食べているオトメを他の三人は可愛そうなものを見るような目で見つめていた。

・・・

ここは街の商店街。
その中で色鮮やかな下着が並べられている店があった。
「わぁ~~!可愛い~~!!どれ選んでもいいの?」
目を輝かせるオトメ。お母さんはどこか物憂げな表情で答えた。
「どれでもいいわよ...どうせ...な、なんでもないわ!ゆっくり選んでね!ゆっくり...」
お母さんはまるでその時を遅らせたいかのように、『ゆっくり』という言葉を強調した。

あれこれ楽しそうに見比べているオトメ。
しばらく悩んでいたが、ついに決めてしまったようだ。
「私!これにする!」
「そう...」
お母さんが物憂げな表情で店員を呼ぶ。
「これ、サイズあるかしら?」
「お嬢様のサイズは?」
「初めてだから測ってくれる?」
「承知しました」

何度も測りなおして困った顔の店員にオトメが話しかける。
「私のサイズは?C?D?もしかして...」
「アンダーAです...」
店員が申し訳なさそうに言う。
「ん?アンダーA?なにそれ...」
「当店では在庫はございません。それに...恐れながら着用する必要がないのではと...」
「どういう意味?私、分かんない...」
店員に困った顔で見つめられたお母さんは意を決して言う。
「あなたのその胸。膨らんでる?」
そう言われたオトメは、
「ち、ちょっとは膨らんでるよ」
と言うが、お母さんが間髪入れずに言う。
「どのくらい?持ち上げることができる?」
「む、無理すれば...」
「そう、無理をすればね。ブラが必要な胸とはこういう胸よ」
お母さんがシャツのボタンを外し、ブラのホックも外す。
そこには立派な胸があった。
「友達もみんな服の上から分かるくらい膨らんでるでしょ?そのくらいにならないとブラは必要ないのよ」
「・・・」
この世界ではAカップに満たない胸にはブラは必要ないとされていた。
よって、店にも置いていないし、そういう胸のことを『アンダーA』と呼んでいた。
「で、でも私、可愛い下着をつけるのが夢で、女の子はみんなブラをつけるものだと思ってて...」
オトメの目から涙がこぼれる。お母さんはブラをつけ直すのも忘れて抱きしめる。
「ごめんなさいね...でも代わりに可愛いショーツ買ってあげるから...」
「いや!信じない!私はこういう下着の似合う可愛い女の子になるんだもん!」
オトメは服を着直すと、泣きながら店を飛び出していった。
「オトメ...」
お母さんは呆然と立ち尽くしていた。

・・・

オトメは商店街を行く当てもなくとぼとぼと歩いていた。
(私だって、もしかしてって思ってた。でも...つけることも許されないなんて...私、女の子じゃなかったのかな...)
「お嬢さん、何かお悩みかな?」
突然、オトメにしわがれた声がかけられた。
「えっ?」
声の方を見ると、一人の老婆が道に腰掛けていた。
「な、なんでもないの。ちょっとイヤなことがあっただけ!」
オトメは悩みを知られるのが恥ずかしかったので強がってみせた。
「恥ずかしがることはない。この世には一見、不可能に見えることでも変える術が存在するものじゃ...例えば...生まれ持った体の一部を変えるとか...」
「ホント!!」
その言葉を聞いてオトメは反射的に老婆に詰め寄る。
「ほっ、ほっ、ほっ。わしが聞いた話では、とある街でさる姫君が大きすぎる胸を小さくしてもらったという...」
「さよなら」
立ち去ろうとするオトメを老婆が必死で引き留める。
「待て!早まるでない!ものの例えじゃ!その街では神殿で試練を受けると胸の大きさを自分の好きなように変えられるそうじゃ!」
「えっ!じゃあ小さい胸を大きくしてもらうことも!!」
そこまで言ってオトメは恥ずかしくなり、顔が赤くなってしまう。
「もちろんじゃ。詳しく知りたくはないかな?」
「その話。本当なの...」
「さぁてのぉ。信じる信じないはお主次第じゃ。ただ、僅かでも可能性があるのならかけてみる気はないかの?何もしなければそのままじゃぞ」
「...分かった。聞かせて」
「その街の名は『オーパイ』。誰も詳しい場所を知らない伝説の街じゃ」
「名前からして嘘くさいよね...」
そう言いながらも根掘り葉掘り老婆から情報を聞きだすオトメであった。

・・・

「ハッピバ~スデ~トゥユ~♪ハッピバ~スデ~トゥユ~♪」
翌日はオトメの16歳の誕生日。
朝からささやかなパーティが開かれていた。
「おめでとう!オトメ!今日から大人の仲間入りだな!」
お父さんが祝福する。
ちなみにこの世界では16歳から成人だ。
結婚もできるし、仕事もこの年から始めることが多い。
「おめでとう!オトメがここまで育ってくれてうれしいわ!そろそろ仕事をしつつ、お相手を見つけないとね!」
「そうだな。まだ結婚は早いと思うが、とりあえずはお父さんの仕事を手伝って...」
将来設計を練る両親をよそに、オトメは断言した。
「私!冒険者になる!」
「「「え~~~~!!」」」
オトメの爆弾発言に家族が大混乱になるのだった。
しおりを挟む

処理中です...