バスト・バースト!

世々良木夜風

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Burst19. ワガマーマ公国

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「わ~~!見えてきた!でっかいお城だね~~!」
オトメが思わず声をあげる。
砂漠を越えてから数日、オトメたちはワガマーマ公国にたどり着こうとしていた。
「ワガマーマ公国は巨大な街、一つが国という、珍しい国です。主に観光業が盛んで、ワガマーマ公は私たちの国の貴族でもあります」
「じゃあ、貴族としての責務も果たさないといけないの?」
「責務といっても、重要な儀式に出席するくらいです。給金がない代わりに、自分の街での自治が認められ、徴税権も持っています」
「どうしてワガマーマ公は特別なの?」
「私も詳しくは知らないのですが、先祖が私たちの国の王であったことがあり、特別な功績があったとか...」
「ふ~~ん」
「それよりも私はオーパイの情報が手に入るかが気になる」
グレースが口を挟んできた。
「そうだよね。私たちはそれが目的で来たんだから」
「村長さんはワガマーマ公国で記憶が消え、次に気がついた時にはキンリンだと言っていました」
「では、ワガマーマ公国がオーパイへの入口で、キンリンが出口だと考えることもできる」
「それなら、ここで何かの情報が手に入る確率は高いよね。でも、誰に聞いたらいいんだろ...」
「そうですよね。地道に聞き込みでしょうか...」
「路地裏でお婆さんを探すとかね!」
「本当にありそうな所が恐い...」
グレースがつぶやいた。

と、近くの茂みから『オサワリー』が現れる。
グレースが何事もないかのように消し去る。
「この辺り、魔物が多いね。さっきから出会ってばかりの気がする」
「何か原因があるのでしょうか?」

そう言いながら街に近づくと、入口の門で行列ができていた。
「随分、混み合ってますね。基本的に身分証明書の提示だけで出入りできるはずですが...」
「身分証明書?!」
オトメがそんなものは無いといった顔をする。
「冒険者のライセンスカードで大丈夫ですよ。むしろ、それ以上確実な身分証明書もないでしょう」
「よかった...」

しかし、行列に近づくと、係員に声を掛けられる。
「サイズ証明書はお持ちでしょうか?」
「サイズ証明書?」
オトメたちが戸惑っていると、係員は三人の胸をチラ見してから言った。
「お持ちでなければ、あなたはここ。のこりの二人はあちらにお並びください」
「えっ!私だけ別?」
オトメは短い方の行列に、マリアとグレースは長い方の行列に並ばされた。
「決まりですので。サイズを測ったら、すぐに入国できます」
「だからサイズって何?」
見ると並んでいるのは女性ばかりだ。男性は普通に門で身分証明書を見せ、素通りしている。
そして短い方に並んでいる女性の胸は平らだった。
「どうやら、胸のサイズを測っているようですね」
「あっ!思い出した!」
オトメが突然、叫ぶ。
「何をですか?」
「前にテレビで『ワガマーマ公国で貧乳隔離政策が実施された』って言ってた」
「『貧乳隔離政策』...何か嫌な予感がします...」
行列の先はテントになっていた。その中は見えない。
しかし、短い列に並んでいる女性の顔には緊張が見てとれた。バストマッサージをしている人もいる。
「私...大丈夫かな...」
オトメは心配しながら行列に並んだ。

それから一時間、オトメの行列は二、三人しか進んでいなかった。
マリアとグレースの行列はスムーズに進み、もう二人とも街に入ったようだった。
「なんでこんなに時間がかかるの!」
オトメはイライラし始めていた。

やがて、オトメが呼ばれる。
「次の方」
「やっとか...待ってるだけで疲れちゃった...」
オトメが行列に並んでから二時間以上、経過していた。
オトメが中に入ると二人の女性が待っていた。
なんだかひどく、ぐったりしている。
「あの~~、私、急いでるんで速くしてくださいね」
オトメがそう言うと、
「あなたの協力があれば一分もかかりません。どうか、どうかよろしくお願いします!」
やけに丁寧にお願いされた。

早速、服を脱ぐように言われ、バストサイズの測定が始まる。
「あなた、ブラジャーをしていませんね。見た目からしてアンダーAですか?」
係員さんが言うが、オトメは断言した。
「Bカップです。ブラジャーは締め付けられるのが嫌なのでしていません!」
「・・・」
係員さんは無言でサイズを測る。
「アンダーAです」
するとオトメは、
「そんなはずありません!もう一度測ってください!」
と頼み込む。
係員さんは『またか』というような表情をしながら答えた。
「何度、測っても同じですよ。それに誤差の範囲じゃありませんし...」
「いえ、トップを測るとき胸が締め付けられました。もっと緩く巻いてくれないと...」
「もともと固...」
「しっ!」
係員さんがもう一人に止められる。
こう言うとかえってこじれることを知っているのだ。
係員さんはしぶしぶ測り直した。

それから15分。
「違います!メジャーはこう使うんです!」
「それじゃ、胸に当たってないどころか垂れてるじゃないですか!きちっと胸に当てないと!」
「でも、それじゃ変な値が出るんです!」
「それがあなたのトップサイズだと何度言ったら...」
「せ、せめてAに...ちょっと見間違えたことにして...」
「不正は重罪です!あなただけじゃなく私たちも罰せられるんです!」
「お願い!せめてもう一度...」
「いい加減にしてください!」

「鬼!悪魔!」
オトメが測定所を出たのは30分後だった。
手には『アンダーA』の証明書が...
残された係員さんたちは口を利く元気もないようだった。
しかし、その眼は明らかに訴えていた。
『あなたこそが鬼』だと...

オトメがサイズ証明書を手に門をくぐろうとすると、門番に止められた。
「サイズ証明書は?」
オトメはアンダーAの証明書を見せる。
すると、
「お前の入口はあっちだ。ここはBカップ以上の女性しか認められていない」
そう言われた。
オトメが門番の指さす先を見ると、小さな勝手口のようなものが見えた。
オトメは不思議に思いながらもその勝手口から街の中に入っていった。

・・・

その頃、マリアとグレースは、
「オトメさん、なかなか来ませんね...」
「ああ、列は向こうの方がすいていたのだがな」
なかなか入ってこないオトメを待っていた。
すると、不審に思ったのか、警備員に声を掛けられた。
「誰か待っているのか?」
そこでマリアが代表して答えた。
「はい。一緒に来た子を待っているのですが、なかなか入ってこなくて...」
「もしかして、胸が小さいのではないか?」
「それが何の関係があるんだ?」
グレースが聞く。
「わが国では最近、『貧乳隔離政策』が導入された。Aカップ以下の女性とBカップ以上の女性は同じ敷地を踏むことは許されない。もし、待っている娘がAカップならば、あのフェンスの向こうにいるはずだ」
警備員から出たのは衝撃の事実だった。
マリアとグレースは慌てて、フェンスの元へと走った。

オトメが勝手口を入った後、途方に暮れていると、
「オトメさ~~ん!」
マリアの声が聞こえた。
「マリアちゃん!グレースちゃんも!」
オトメは二人の姿を認めるとフェンスの元へと走る。
「これ、どういうこと?」
オトメが尋ねると、
「見ての通りだ。どうやらこの国ではAカップ以下の女性とBカップ以上の女性はフェンスで分けられているらしい...」
グレースが答えた。
「そんな!じゃあ、二人とは離れ離れってこと?!」
「私も胸が張り裂けそうです...オトメさんと一時でも離れるなんて...何とかならないのでしょうか?」
マリアも泣きそうだ。
「ちょっと私が聞いてみる...すまん!そこの人!」
グレースがさっきの警備員に呼びかける。
「なんだ?」
警備員が歩いてきた。
「このフェンスを行き来する方法はないのか?」
グレースが聞くが、警備員の答えは残酷なものだった。
「16才以上の女性は行き来することができない。もしこちらから向こうへ渡れば禁固三年。向こうからこっちに入ってきたら懲役十年だ」
「そんな!」
オトメが絶望の声をあげる。
「仕方ありません。何か方法を考えましょう。それと同時に、私とグレースさんはこちらでオーパイの情報も集めます。オトメさんはそちらで情報を探ってみてください。明日12時にここで会いましょう」
「そうだね。むしろ、両方で情報を集められるチャンスかも!私、頑張る!」
オトメは気丈に振る舞った。しかし、その表情には不安がありありと浮かんでいる。
「オトメさん、場合によっては、ここを早々に立ち去ることもやむを得ません。なんなら今すぐにでも...」
「大丈夫!せっかくここまで来たんだもん!きっと私がオーパイの情報をつかんでみせる!」
そう言ってオトメは元気に手を振って離れていった。
「オトメさん...」
「マリア師匠、元気出せ!オトメに負けてられないな!私たちも頑張ろう!」
「はい...」
こうして、オトメとマリアは出会ってから初めて別行動をすることになったのだった。
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