【完結】君と創る世界

くみた柑

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【第一章】記憶の底にある世界

動かない弟

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「そこに座って。ゲーム機はないんだけど、トランプでいい?」

 彼女が机の引き出しからトランプを取り出している間、僕は視線を部屋の隅から離せなかった。

「ねぇ、あれ、何?」

 僕が指差すと「ああ、弟」と、彼女はさらりと答えた。

 彼女が弟と言った『それ』に表情はなく、じっと体育座りをしていた。まるで精巧に作られたマネキンのようで、命が宿っているようには見えない。
 例えるならば、写真で切り取られたような、一時停止を押した映像のような。
 僕は幽霊かと思い、背筋がじわりと冷たくなった。

「今は動かないから気にしなくて大丈夫だよ。で、何しよっか。二人だとできるゲーム限られちゃうね。私、神経衰弱が得意なんだけど」 

 彼女は『弟』を気にする様子もなく、慣れた手つきでトランプを切りはじめた。
「神経衰弱でいいよ」と僕は応えた。特に目が合うわけでもない、動き出すわけでもない、そこにオブジェクトのように存在している『弟』のことは、彼女と遊んでいるうちに気にならなくなった。

 得意と言っていたように、彼女は本当に神経衰弱が強かった。初めはお互い同じような枚数を取っていたが、途中から急に彼女の独壇場となる。三度やって、三度とも圧倒的な差で負けた。
「すごいね、本当に強いんだね」と言うと、彼女は得意げに笑った。

「記憶力はいいんだ~」その無邪気な笑顔がとても誇らしげで、僕はくすっと笑ってしまう。彼女と遊んでいるととても楽しくて、僕は負けたのにあまり悔しくはなかった。
 その後に遊んだオセロも強くて勝つことができず、最後にやった人生ゲームで、やっと僕は彼女に勝利した。

 気持ちよく勝ったところでふと窓を見ると、外が真っ暗になっていた。

「いけない! 僕、もう帰らないと」

 慌ててランドセルを背負い、出口へ向かう僕に、彼女が立ち上がった。

「じゃあそこまで送るよ」

「大丈夫だよ。女の子に送ってもらうのって、なんか変じゃない?」

 彼女の家に来たのは初めてだったけど、ここから自宅までの道のりはわかるし、笑いながらそう返したけれど、再び視界に入った『弟』や、急に真っ暗になった外に少し不安を感じた。
 そんな僕の不安を感じ取ったのか、彼女が「でも、道に迷うかもしれないし。送るよ」と優しく言ってくれたので、僕は結局「やっぱり、送ってもらおうかな」と答えた。
 彼女がそっと頷くのを見て、僕は安心した。
 
 彼女が玄関を開けると、まだ太陽の日差しが家々や通りを明るく照らしていた。さっきまで部屋で感じていた不思議な暗さが嘘のように、外の景色は穏やかで明るかった。僕は首を傾げる。

「今って何時頃だろう?」
 僕が呟くと、彼女は
「五時十分くらいだよ」
 とすぐに答えた。僕は、教室で見た窓の向こうの山が消えていた光景を思い出す。
 そうか、彼女の部屋の窓から見た景色も、どこか普段と違っていたのかもしれないと、自然にそう考えた。今の僕にとっては、そんなことはもう些細なことに思えた。
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