5 / 132
【第一章】記憶の底にある世界
動かない弟
しおりを挟む
「そこに座って。ゲーム機はないんだけど、トランプでいい?」
彼女が机の引き出しからトランプを取り出している間、僕は視線を部屋の隅から離せなかった。
「ねぇ、あれ、何?」
僕が指差すと「ああ、弟」と、彼女はさらりと答えた。
彼女が弟と言った『それ』に表情はなく、じっと体育座りをしていた。まるで精巧に作られたマネキンのようで、命が宿っているようには見えない。
例えるならば、写真で切り取られたような、一時停止を押した映像のような。
僕は幽霊かと思い、背筋がじわりと冷たくなった。
「今は動かないから気にしなくて大丈夫だよ。で、何しよっか。二人だとできるゲーム限られちゃうね。私、神経衰弱が得意なんだけど」
彼女は『弟』を気にする様子もなく、慣れた手つきでトランプを切りはじめた。
「神経衰弱でいいよ」と僕は応えた。特に目が合うわけでもない、動き出すわけでもない、そこにオブジェクトのように存在している『弟』のことは、彼女と遊んでいるうちに気にならなくなった。
得意と言っていたように、彼女は本当に神経衰弱が強かった。初めはお互い同じような枚数を取っていたが、途中から急に彼女の独壇場となる。三度やって、三度とも圧倒的な差で負けた。
「すごいね、本当に強いんだね」と言うと、彼女は得意げに笑った。
「記憶力はいいんだ~」その無邪気な笑顔がとても誇らしげで、僕はくすっと笑ってしまう。彼女と遊んでいるととても楽しくて、僕は負けたのにあまり悔しくはなかった。
その後に遊んだオセロも強くて勝つことができず、最後にやった人生ゲームで、やっと僕は彼女に勝利した。
気持ちよく勝ったところでふと窓を見ると、外が真っ暗になっていた。
「いけない! 僕、もう帰らないと」
慌ててランドセルを背負い、出口へ向かう僕に、彼女が立ち上がった。
「じゃあそこまで送るよ」
「大丈夫だよ。女の子に送ってもらうのって、なんか変じゃない?」
彼女の家に来たのは初めてだったけど、ここから自宅までの道のりはわかるし、笑いながらそう返したけれど、再び視界に入った『弟』や、急に真っ暗になった外に少し不安を感じた。
そんな僕の不安を感じ取ったのか、彼女が「でも、道に迷うかもしれないし。送るよ」と優しく言ってくれたので、僕は結局「やっぱり、送ってもらおうかな」と答えた。
彼女がそっと頷くのを見て、僕は安心した。
彼女が玄関を開けると、まだ太陽の日差しが家々や通りを明るく照らしていた。さっきまで部屋で感じていた不思議な暗さが嘘のように、外の景色は穏やかで明るかった。僕は首を傾げる。
「今って何時頃だろう?」
僕が呟くと、彼女は
「五時十分くらいだよ」
とすぐに答えた。僕は、教室で見た窓の向こうの山が消えていた光景を思い出す。
そうか、彼女の部屋の窓から見た景色も、どこか普段と違っていたのかもしれないと、自然にそう考えた。今の僕にとっては、そんなことはもう些細なことに思えた。
彼女が机の引き出しからトランプを取り出している間、僕は視線を部屋の隅から離せなかった。
「ねぇ、あれ、何?」
僕が指差すと「ああ、弟」と、彼女はさらりと答えた。
彼女が弟と言った『それ』に表情はなく、じっと体育座りをしていた。まるで精巧に作られたマネキンのようで、命が宿っているようには見えない。
例えるならば、写真で切り取られたような、一時停止を押した映像のような。
僕は幽霊かと思い、背筋がじわりと冷たくなった。
「今は動かないから気にしなくて大丈夫だよ。で、何しよっか。二人だとできるゲーム限られちゃうね。私、神経衰弱が得意なんだけど」
彼女は『弟』を気にする様子もなく、慣れた手つきでトランプを切りはじめた。
「神経衰弱でいいよ」と僕は応えた。特に目が合うわけでもない、動き出すわけでもない、そこにオブジェクトのように存在している『弟』のことは、彼女と遊んでいるうちに気にならなくなった。
得意と言っていたように、彼女は本当に神経衰弱が強かった。初めはお互い同じような枚数を取っていたが、途中から急に彼女の独壇場となる。三度やって、三度とも圧倒的な差で負けた。
「すごいね、本当に強いんだね」と言うと、彼女は得意げに笑った。
「記憶力はいいんだ~」その無邪気な笑顔がとても誇らしげで、僕はくすっと笑ってしまう。彼女と遊んでいるととても楽しくて、僕は負けたのにあまり悔しくはなかった。
その後に遊んだオセロも強くて勝つことができず、最後にやった人生ゲームで、やっと僕は彼女に勝利した。
気持ちよく勝ったところでふと窓を見ると、外が真っ暗になっていた。
「いけない! 僕、もう帰らないと」
慌ててランドセルを背負い、出口へ向かう僕に、彼女が立ち上がった。
「じゃあそこまで送るよ」
「大丈夫だよ。女の子に送ってもらうのって、なんか変じゃない?」
彼女の家に来たのは初めてだったけど、ここから自宅までの道のりはわかるし、笑いながらそう返したけれど、再び視界に入った『弟』や、急に真っ暗になった外に少し不安を感じた。
そんな僕の不安を感じ取ったのか、彼女が「でも、道に迷うかもしれないし。送るよ」と優しく言ってくれたので、僕は結局「やっぱり、送ってもらおうかな」と答えた。
彼女がそっと頷くのを見て、僕は安心した。
彼女が玄関を開けると、まだ太陽の日差しが家々や通りを明るく照らしていた。さっきまで部屋で感じていた不思議な暗さが嘘のように、外の景色は穏やかで明るかった。僕は首を傾げる。
「今って何時頃だろう?」
僕が呟くと、彼女は
「五時十分くらいだよ」
とすぐに答えた。僕は、教室で見た窓の向こうの山が消えていた光景を思い出す。
そうか、彼女の部屋の窓から見た景色も、どこか普段と違っていたのかもしれないと、自然にそう考えた。今の僕にとっては、そんなことはもう些細なことに思えた。
1
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
見上げた空は、今日もアオハルなり
木立 花音
青春
──私の想いは届かない。私には、気持ちを伝えるための”声”がないから。
幼馴染だった三人の少年少女。広瀬慎吾(ひろせしんご)。渡辺美也(わたなべみや)。阿久津斗哉(あくつとおや)。そして、重度の聴覚障害を抱え他人と上手くうち解けられない少女、桐原悠里(きりはらゆうり)。
四人の恋心が激しく交錯するなか、文化祭の出し物として決まったのは、演劇ロミオとジュリエット。
ところが、文化祭の準備が滞りなく進んでいたある日。突然、ジュリエット役の桐原悠里が学校を休んでしまう。それは、言葉を発しない彼女が出した、初めてのSOSだった。閉ざされた悠里の心の扉をひらくため、今、三人が立ち上がる!
これは──時にはぶつかり時には涙しながらも、卒業までを駆け抜けた四人の青春群像劇。
※バレンタイン・デイ(ズ)の姉妹作品です。相互にネタバレ要素を含むので、了承願います。
※表紙画像は、ミカスケ様にリクエストして描いて頂いたフリーイラスト。イメージは、主人公の一人悠里です。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる