再会した年下幼馴染が豹変してしまっていた

三郷かづき

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進歩

朝食の席で

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 目を覚ますと、また足が冷たかった。仰向けの拓海に半分被さるように寝ている龍臣を起こさないようそっとベッドから抜け出る。

 ひんやりとする床から片足ずつ離して擦り合わせながらパンが焼けるのを待っていると、龍臣が起きてきた。

 目を糸のように細めながらゆらゆらと歩いてくる。いつものようにソファで二度寝でもするのだろうかという拓海の予想に反して、龍臣は拓海の後ろに回ってもたれかかるようにうとうとし始めた。背中がじんわり暖かいが、肩に顎が食い込んで痛い。ただその挙動は最近実家で飼い始めた猫のようで、肩の痛みも気にならず拓海は口元が緩んだ。

 しばらくそうして動かなかった龍臣だが、だんだんと眠気が覚めてきたようでようやく顎が肩から離れた。腹に腕が回って拓海を緩く抱きながら龍臣が口を開く。

「拓海、昨日のことなんだけど…」
「昨日?」

 昨日自分が何かしただろうか?見当がつかず拓海は首を傾けた。

「は?覚えてないの」

 耳元で聞こえる龍臣の声が鋭さを増す。

 きのう、昨日…と考えて昨夜の龍臣が乱れる姿を思い出してしまい、顔が熱くなるのを感じた。咄嗟に顔を伏せた拓海の反応を見て、覚えていないと受け取った龍臣は無言で拓海の腹をつねって離れていってしまう。

 龍臣がつねっていった箇所がじんじんと痛むが、自分が覚えていなかったことが悪い。
 緊張感が漂うキッチンに、チンと場違いに明るいトースターの音が響いた。

「ごめん、俺なんか言ったっけ?」

 ダイニングの椅子の上で大きな体を体操座りにしてむくれている龍臣にそう尋ねる。

「昨日、」
「昨日?」

「二人でどっか行こうって言ってたじゃねえか」

「……ごめん」

 自分で言ったことを忘れて龍臣を悲しませた。込み上げる罪悪感の中で、二人で遠出する予定を龍臣が不機嫌になるほど楽しみにしてくれていた事実が胸を打つ。途端に目の前の不機嫌な龍臣が可愛く見え始めて、そんな場にそぐわない思考を首を軽く振ることで追い払った。

「もういいよ」
「よくない、本当に悪かった」

 椅子に座る龍臣の足元に跪く。こんな風に自分が無意識に龍臣の機嫌を損ねてしまい、慌てて謝ることが子供時代にもあった。

「どこに行こうか」

「…特に行きたいところは、ない」

 龍臣がパンを食べ始めたため、自分も席について味噌汁をすする。

「それじゃあ何か食べたいとか、見たいとかは? それぐらいあるだろ」

「……あ、ラーメン食べたい」
「いいな!じゃあそうしよう。確か中原がおすすめのラーメン屋があるって話してたんだ。ちょっと遠いけどレンタカーを借りればいいし…」

「中原さん?誰それ」

 機嫌が直っていたはずの龍臣の眉間に皺が寄った。今度はどこの地雷を踏んでしまったのか、龍臣の怒りのポイントが全く分からない。

「俺の会社の同僚だよ。彼女とよく旅行してるらしくて、おいしい店とか詳しいんだよな」

 そう説明すると龍臣は「ふうん」と相づちを打ちながらパンを噛った。眉間の皺は消えていて怒りの色は見えない。

 怒っていると思っていたのは自分の勘違いだったのか。首をひねりながらも、とにかく楽しいお出かけにしようと拓海は意気込んでパンに噛りついた。
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