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1,心音の絵本
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鋭い痛みを感じて、勢いよく上体を起こす。
白いシャツの左胸部分には、一円玉くらいの穴が空いている。穴の周りには、赤黒いシミと、鮮やかな赤いシミが二重にできていた。
俺はキッチンの床に倒れていた。
割れたワイングラスの破片が床に飛び散っている。
手元には、ステーキナイフが落ちていた。刃の先端が、乾いた血で一センチほど汚れている。
眩暈がして、頭の奥が悲鳴を上げる。
足元には半分ほど空いたルビーポートがあった。
冷蔵庫とワインセラーが唸っている。鈍い稼動音が、アルコールに毒された頭に響いた。
スマホの液晶画面が光る。時刻は午後十時。
職場からの「不在着信」が並んでいた。
カウンター式のキッチンと、リビングは一部屋に繋がっている。
リビングには四角形のテーブルと、そこに向かい合うように二つの椅子が置かれている。テーブルには銀の刺繡が施された赤いクロスが敷かれていて、その隅にティッシュボックスが置いてある。
出窓には二枚の写真が飾ってある。
どちらも、俺と心音のツーショット写真だ。
一枚は大学四年生のクリスマスに撮った写真。もう一枚は、今年の春に撮った写真だ。
二つの写真の間には、三年間の時間が流れている。
だが、お互いに大した変化はない。
背が無駄に高いだけで、冴えない目をしている俺は、三年間で僅かにまぶたが細くなって、さらに冴えない顔立ちになった。
一方で、背が低く丸っこい目をした心音は、華奢な体つきで胸も小ぶりだった。
だが、彼女にはひよこのような外見にそぐわない不思議な包容力があった。けれど、その柔らかさも、バストサイズも三年間で変わってはいない。
三年前と今では、何も変わっていないのだ。
ならば、三年前と同じ別れ方をするのも、不思議な事ではないのだろう。
俺はルビーポートのボトルに口を付ける。水を飲むように、胃に酒を流し込んで喉を潤した。
葡萄の香りが鼻から抜け、甘い後味が残った。
それくらいしか分からない。
だが、もう気にする必要もないだろう。
俺はスマホをキッチンに残し、ルビーポートを持って寝室へと向かった。
ダブルベッドに崩れるように倒れこむ。
顔面をシーツに押し付けて、大きく息を吸う。少し埃臭いような臭いはしたが、期待した香りは残っていなかった。
顔を離して、ベッドに座り直す。ワインボトルを、寝台の側にある低い棚に置くために手を伸ばす。
その時、一冊の絵本が棚の上に置いてあることに気が付いた。
俺は慌ただしくボトルを置き、震える手で本を開く。
それは、心音の書いた絵本だった。
白いシャツの左胸部分には、一円玉くらいの穴が空いている。穴の周りには、赤黒いシミと、鮮やかな赤いシミが二重にできていた。
俺はキッチンの床に倒れていた。
割れたワイングラスの破片が床に飛び散っている。
手元には、ステーキナイフが落ちていた。刃の先端が、乾いた血で一センチほど汚れている。
眩暈がして、頭の奥が悲鳴を上げる。
足元には半分ほど空いたルビーポートがあった。
冷蔵庫とワインセラーが唸っている。鈍い稼動音が、アルコールに毒された頭に響いた。
スマホの液晶画面が光る。時刻は午後十時。
職場からの「不在着信」が並んでいた。
カウンター式のキッチンと、リビングは一部屋に繋がっている。
リビングには四角形のテーブルと、そこに向かい合うように二つの椅子が置かれている。テーブルには銀の刺繡が施された赤いクロスが敷かれていて、その隅にティッシュボックスが置いてある。
出窓には二枚の写真が飾ってある。
どちらも、俺と心音のツーショット写真だ。
一枚は大学四年生のクリスマスに撮った写真。もう一枚は、今年の春に撮った写真だ。
二つの写真の間には、三年間の時間が流れている。
だが、お互いに大した変化はない。
背が無駄に高いだけで、冴えない目をしている俺は、三年間で僅かにまぶたが細くなって、さらに冴えない顔立ちになった。
一方で、背が低く丸っこい目をした心音は、華奢な体つきで胸も小ぶりだった。
だが、彼女にはひよこのような外見にそぐわない不思議な包容力があった。けれど、その柔らかさも、バストサイズも三年間で変わってはいない。
三年前と今では、何も変わっていないのだ。
ならば、三年前と同じ別れ方をするのも、不思議な事ではないのだろう。
俺はルビーポートのボトルに口を付ける。水を飲むように、胃に酒を流し込んで喉を潤した。
葡萄の香りが鼻から抜け、甘い後味が残った。
それくらいしか分からない。
だが、もう気にする必要もないだろう。
俺はスマホをキッチンに残し、ルビーポートを持って寝室へと向かった。
ダブルベッドに崩れるように倒れこむ。
顔面をシーツに押し付けて、大きく息を吸う。少し埃臭いような臭いはしたが、期待した香りは残っていなかった。
顔を離して、ベッドに座り直す。ワインボトルを、寝台の側にある低い棚に置くために手を伸ばす。
その時、一冊の絵本が棚の上に置いてあることに気が付いた。
俺は慌ただしくボトルを置き、震える手で本を開く。
それは、心音の書いた絵本だった。
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