絵本で泣いたソムリエの死体

柊 真詩

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2,ブルーハワイのクリスマス

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 お空の上にいる魔法使いは、ごはんを食べるためにフォークとナイフを作りました。

 仲良しなナイフとフォークは、魔法使いのごはんの時間をいっしょうけんめいに手伝います。

「お肉を切るから、しっかり押さえてるんだよ」
「もちろんさ。さあ、しっかり切るんだよ。あんまり大きいと、魔法使いがのどに詰まらせてしまう」
「おやおや、そいつは大変だね」
「ああ、大変さ」

 それはふたりにとっても、とても楽しい時間でした。
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 シャンデリアの光が、小さなガラスの装飾に反射している。淡い光が、テーブルの上に置かれた肉料理の脂を輝かせた。
 高層ビルの十二階に建てられた店内からは、夜空のような町並みが見えた。
 新宿のクリスマスは、人も明かりも多い。下が明るすぎるからか、星が一つも見えない。

 周りの客に目をやると、三十代のスーツを着た男性や、貴婦人のようなドレスを着た女性などで満席になっている。
 大学生という身分でも気負わないような店を選んだつもりだが、十分、気後れしてしまいそうだ。

龍樹たつきー、よそ見してるでしょ」

 正面に座った心音が、俺の事を睨んでいる。

「ダメだよ、目の前に美味しい料理があるのに」

 心音は、スペアリブのコンフィを口に運ぶ。
 脂に濡れた紅い唇にグラスを近づけ、安物のメルローワインをゆっくりと飲みこんだ。脂とグロスの跡が残ったグラスが、テーブルの上に置かれる。

「うんっ、美味しい! やっぱり、龍樹の選んだ料理は外れないね」

 彼女は顔を綻ばせながら笑い、グラスの跡を指で拭った。
 グラスに口紅やグロスの跡を付けたり、それを指で拭くのは、あまり良いマナーではない。
 だが、彼女はそんなことを気にもせず、目の前の料理に夢中になっているようだ。
 気後れしている自分が、間抜けに見えてくる。

 五か月前に彼女と交際を始めたが、心音は今まで付き合ってきた誰よりも不思議な女性だった。
 彼女は産まれてから二十二年間、男を好きになったことがないらしい。というよりも、誰かに恋愛感情を抱いたことがないようだ。

 俺が告白した時も、困ったような表情で頷いてくれた。
 なぜ付き合ってくれるのか、と質問をする。
 あなたと食べるご飯がいつもより美味しいから、と彼女は言った。

 俺と心音は、映画館や遊園地といったアミューズメント施設に行くことはほとんどなかった。
 もちろん、これまでの女のように、長いウインドウショッピングに時間を消費する事もない。歩くとしても、大抵は公園や市街地の中だ。
 二人で歩いていると、彼女は必ず食べ物を見つけて寄り道をする。
 嬉しそうにアイスやケーキ、パンなんかを頬張る彼女は、見ていて退屈しなかった。
 美味しい料理のために出かけて、適当に外を歩き、たまに体を重ねる。
 それが俺たちのデートだ。

 クリスマスの日も同じだった。
 フレンチレストランを楽しんだ俺たちは、冷えた外路を照らす電飾を見ながら、目的もなく歩いた。
 新宿中央公園の近くを歩いていると、カップルの姿が多くなってくる。

「見て見て、イルミネーションイベントだって!」

 心音は細い指で、俺の服を引っ張りながら目を輝かせた。

「珍しいな。花より団子だと思ってた」
「ドリンク買ってあるから、大丈夫」

 心音はカフェで買った、チョコのかかったフラペチーノを掲げて見せた。

 俺たちは園内をぐるりと見て回り、ライトブルーにライトアップされた水の広場を背景にして写真を撮った。

「すごーいっ、真っ青! ブルーハワイみたい!」
「冬にかき氷の話すんなよ、寒くなる」
「ホントだ。冷たいね」

 心音は小さな手を重ね合わせて、俺の手を包み込んだ。

「どうする? 今夜」
「帰りの時間は?」
「決まってないよ」

 俺はなるべく綺麗なホテルを選び、心音を連れて行った。
 彼女は部屋に入ると、黒のダッフルコートを脱ぎ捨ててベッドに腰かける。
 俺は心音を押し倒し、彼女が食事をするように、華奢な体を味わった。二人でシャワーを浴びてから、もう一度彼女を抱いた。
 心音は自分の白く細い指で、俺の口内を愛撫するのが好きだった。今までの女と違い、甲高い声を出さずに、俺の体に噛みつく癖があった。

「なんていうかさ、食事と似てるよね。これ」

 産まれたままの格好で、あどけなく微笑む姿は、いつまでも俺の脳裏に焼き付いていた。
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