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第3話『綺麗な地獄』
しおりを挟む──歩くことには、慣れていた。
一年以上も歩いて、魔王城を目指していたからだ。
どうやら、リィラはあまり慣れていないらしい。
小休憩を取り歩き出す。
何度も繰り返した。
三日ほど歩く頃。
そろそろ目的地に到着するとのことだった。
今日はとても珍しい。
夜中だっていうのにリィラは歩みを止めない。
普段なら泣き言を呟いている。
食事を取り寝る時間でもある。
そんなに会いたい奴がいるのか。
顔色一つ変えず、淡々と歩を進める。
「次に着く村でお別れかもね」
そうか、とだけ返事をした。
興味は微塵もない。
指示に従うだけのこと。
目的があるってのは、案外大事なのかもしれない。
リィラにそう教えられているようで虚しくなった。
──行動の果て。
リィラは何を思い、何を感じるのか。
見届けようと思う。
目的の村に着いた。
深夜だけあって、灯りすら灯っていない。
普通の人間ならもう寝ている時間だ。
到着するなり、リィラは道具の準備をする。
女子の荷造りを見物するのは、流石に無粋だ。
あまりジロジロと見ないようにした。
「ウィン……ここまでありがとう」
「別に何もしていないぞ」
「一人じゃこんなところまで来れなかった」
「軟弱なんじゃないか?」
「ウィンの体力が化け物なだけよ」
「慣れているからな」
「……まぁいいわ。私はこれから村に入るけどウィンは待機してくれる?」
「一人で行動するのか。緊急の時はどうするんだよ」
「その時はちゃんと呼ぶわ。駆けつけてね」
了解の旨を伝えた。
リィラは俺の元を去る。
それから、一時間。
二時間、三時間。
時が流れていく。
リィラからの返事は無い。
きっと上手くやっているのだろう。
俺の役目もおしまいだ。
日が昇ったら、返事の有無を問わず、この村から立ち去ろう。
そう思っていた矢先のこと。
村の民家に火が上がった。
一軒や二軒の話しではない。
それは、村全体を巻き込むほどの出火。
次第に炎が一つの塊となる。
村は、大規模な火災に見舞われた。
──人々の叫声。
──人体が焼けるエグい匂い。
──地獄を連想するような惨状。
只事ではない。
リィラの身に危険が迫っている可能性もある。
火焔が舞う村へ侵入することにした。
捜索していると案外すぐに見つかった。
何やら、リィラは笑っている。
一体、何が起こったんだ。
「怪我は……ないか?」
「ウィン……来ちゃったんだ。うん、怪我はないよ」
「何で村が焼かれているんだ」
「あぁ……そんなことどうでもいいじゃない」
「どうでもいいって何だよ……」
「それより見てよウィン。綺麗でしょ!?」
無邪気に、一切の曇りなく言い放つ。
──全てを理解した。
リィラが村に火を放ち、焼き払っている。
何百もの人間を殺し、リィラは笑うのだ。
──狂っていた。
旅の目的はこの村に来ることではなく、村人を全員殺すことだったのだから。
普通なら、こんなことは間違っている。
勇者だったら……。
また思い出しそうだからやめることにした。
もし、最初から目的を聞いていたら俺はこの旅をしていただろうか。
そんなタラレバを考える。
「────綺麗だ」
本心から出た言葉だった。
この炎の中で人間が焼けて死んでいく。
真っ赤に燃え上がる景色がとにかく美しい。
「ふぅーん、ウィンにもこの炎の良さが分かるんだ」
「人が命を燃やしている。神秘的だ」
「なんで私を止めなかったの。道具見てたでしょ」
「別に誰を殺そうが興味ないからな。止める理由もない」
「特別になぜこの村を焼いたかウィンに教えてあげる」
リィラが狂った訳。
知る必要があるのか。
このままでも良いんじゃないか。
この地獄を綺麗だと言った。
そんな俺も充分に狂っているのも分かっている。
共感してしまったんだ。
リィラのことがもっと知りたい。
そう思った。
「私の家族……盗賊に皆殺しにされちゃったの」
「盗賊はちゃんと殺せたのかよ」
「──盗賊は殺せなかった。だから、とりあえず盗賊たちの故郷を潰してから殺そうかなってところだね」
「気は済んだか?」
「全くよ……まだ足りない。私はもっと人を殺すわ。関係ない人も殺す。最後には絶望して死んで貰わなきゃ」
狂っていたのではない。
リィラは、もうすでに壊れていた。
善悪なんてない。
ただひたすらに復讐を。
リィラの留守中に、盗賊どもはリィラの家族を殺した。
──優しかった父。
──甘えさせてくれる母。
──ちょっとドジな妹。
たった十分ほどだったらしい。
リィラは、全てを奪われた。
──悲しみ。
──怒り。
──復讐心。
それら全てが要因となり、人間として壊れた。
──復讐の鬼。
「やるなら徹底的よ。そうじゃないと……大切なもの全部奪われてしまうから」
「それはちゃんとやれそうか?」
「分かんないよそんなこと。行動するしかないんだから。そうだ、ウィンに提案があるの」
「……どんな提案だ」
「──わたしと一緒に世界を滅ぼしてみない?」
魅力的だった。
王都に帰って、一度は考えたことがあったから。
こんなクソったれな世界なら。
守った意味が無い世界なら。
別に無くなってしまっても構わないだろ。
「俺ならリィラの何百倍でも人を殺せる」
「それって……」
「一緒に滅ぼすぞ……この世界」
心が死んだのだと思っていた。
結局、それは違うのだと気づく。
心が壊れていたのは、俺も同じだったんだ。
村人が死んでも心は動かない。
何人殺されていようとも何も痛まない。
快楽の様に、人間を殺すリィラが羨ましいかったんだ。
「さすがは魔王を討ち取った魔法使いね」
「……知ってて誘ったんだな」
「当たり前よ。こんな適任いないじゃない」
世界を滅ぼすことが現実味を帯びてきた。
一人でなく、二人なら。
実際のところは、中身も希薄。
具体的にどうするかなんて決まってない。
「どうやって世界を滅ぼすんだ?」
「ウィンが魔王を倒したのだから、今度はあなたが魔王になればいいじゃない」
「──魔王……か」
「不服かしら?」
「それも良いかもしれないな」
「わたしは魔王様の側近ね」
「何が側近だ。幹部すらいないんだぞ」
魔王を討ち取った魔法使い。
その魔法使いが魔王となる。
それもよっぽどの皮肉だった。
──なれるだろうか。
──世界を滅ぼす魔王とやらに。
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