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第2話『回復術師リィラ』
しおりを挟む──平和なだけの世界だった。
国民とすれ違っても挨拶をされなくなった。
俺が何を成してきたのか。
それまでも忘れてしまったらしい。
初めましての様な態度。
見た目が汚らしいからなのか、人から避けられる。
魔王を倒した魔法使いは、もう存在しない架空の人物に成り下がっているようだ。
食事は取らない。
腹が減らないから。
喉も渇かない。
吐き戻しそうだから。
街を徘徊する変質者がいると噂。
それは、俺のことだった。
目的が無いから、ふらついているだけ。
──朝も昼も夜も。
ずっと……歩き続けた。
歩き続けていると、ボロボロのローブを引っ張って呼び止める者がいた。
人に話しかけられるのは久々だ。
こいつに対して、迷惑なことでもしたんだろうか。
「──私の傭兵になりませんか」
変な誘い文句だった。
目が合った時、何かを思い出す。
「……ヒーラー!?」
ヒーラーが頭部を粉砕されたこと。
それ以前の記憶も蘇る。
共に旅をしたヒーラーの顔が一瞬だけ。
頭にふっと湧いて消えていった。
「なんでヒーラーだって分かったのよ」
「……すまない。知人に良く似ていた」
凛としていて美しい。
金髪の小娘。
ヒーラーと比べると、少し無愛想であることくらいか。
こんな亡霊になんの用があるんだ。
悪ふざけで絡んで来ている様にしか思えなかった。
「あなた……強いわよね」
「強そうに見えるのか。他を当たれ。俺は風属性の魔法使いだ」
「そんなこと分かって言っているのよ」
「馬鹿にしてるのか?」
「してない。人を探しているの」
「勝手に探せ」
「私は回復術師よ。戦える訳ないじゃない」
「誰と戦うんだよ。もう魔物なんかいないんだぞ」
「もしもの為の保険。あなたを傭兵にしたいわ」
数ある中でなんで俺なんだ。
強そうな奴は、いくらだっているじゃないか。
可哀想に見えたから声をかけたのか。
こんな小娘に同情されるほど、落ちぶれてなどいない。
それに……話していると頭が痛くなる。
関わり合いたくなかった。
仲間が死ぬところなんて、思い出したくもない。
心にしまうことにした。
「……嫌かしら」
気が変わった。
どうせすることなんて無かったからだ。
ただの暇潰し。
そう思うことにしておこう。
「……誰を探しているんだ?」
「あなたには関係の無いことよ」
「黙って護衛しろと?」
「そういうこと。返事はどうなのよ」
「分かった……行こう」
「なら決まりね。私はリィラよ。よろしくね傭兵さん」
「傭兵って呼ぶな。ウィンと呼んでくれ」
なんで断り切れなかったんだろう。
ヒーラーに似ているからなのか。
過去の罪悪感からか。
どうでもよくなってしまったのか。
何もせずに、リィラについて行くだけ。
干渉はしない。
それだけは、徹底しておこう。
リィラの方もあまり、詮索はされたくないらしい。
お互いに好都合。
国を離れることにする。
この国にいる事に、こだわり過ぎていたのかもしれない。
なんでこんな国にいたんだっけか。
それすらも忘れてしまった。
リィラの背中を見つめる。
俺は後について歩くだけ。
目的地すら分からないまま。
ひたすらに進むことにした。
なんだか、また旅に出るみたいで懐かしく思う。
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