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第六章 断罪
49 聖女お披露目式
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王座には、ミラリア国国王の代理として、王子のローランが座っていた。燃えるような赤毛混じりの黄金色の髪の上には、宝石で彩られた王冠がのる。柔和な顔に切れ長の緑碧の目で広間の客たちを観察する様は、理知的な知性の片鱗を窺わせた。
(ローランの奴、何を企んでやがる? 城でオレたちを出迎えた時も、ゆっくり話せなかった。)
ローランの隣に座ってるのは、ノワールだ。真っ白な聖女の衣装には到底似合わない派手な装飾物をたくさん身につけている。オレンジのウェーブの髪を綺麗に整え笑みを浮かべてる姿は、自分が今日の主役だとでも思ってンだろうな。
オレは、2人の背後に座り機嫌良さそうにしてるモーヴェ子爵を見た。なにしろこれから彼の養女が『聖女』であり『妃候補』であると、城から正式にお墨付きを得る日なのだから。首までキッチリと詰めた襟のシャツと不健康そうな顔のチグハグさが印象的だ。
ローランは立ち上がると、広間にいる客に向かいよく響く声をとどかせた。
「皆、よく来てくれた。今日はわがミラリア国の建国記念日に、光となる聖女を紹介しよう。」
客の間から一斉に歓声があがる。最近瘴気が増えてっから、害を無毒化させる聖女の誕生は皆心待ちにしてンのは分かる。聖女がノワールでさえなけりゃ、オレだって素直に喜びたいが。
「そしてもう1つ。本日結婚式を執り行う。」
(はぁ?結婚式??? 何考えてンだ。ノワールと本気で結婚するつもりか?)
これには皆一様に驚きを隠せない。単なる婚約者のお披露目式だと思っていたから。
「ローラン王子~! 嬉しい~! 私、王女になったらがんばりますね~!」
ノワールがネットリと絡みつくような目でローランを見ながら、甘えた声を出した。モーヴェ子爵も満足気な顔をしている。
「まずは祝いの舞いだ。皆、楽しんでくれ。」
王子の言葉に、3人組の旅芸人が王座の前に跪いたのを客たちは見た。彼等は深い礼をした後、広間の中央へと進みでる。ドカッとあぐらで床に座ったのは、茶のローブを被った長身の男。ローブを深く被り顔の見えない女性の舞手は、手を顔の前にかざし完全に顔を隠した。そして異国風の衣装を来た少年は笛を口に当て、立ったまま静かなメロディーを奏で始めた。
笛の軽やかな音色に合わせ、あぐらをかいた男はウードと呼ばれる弦楽器を奏でながら色気のある声で唄を唄う。このミステリアスな男が弦を弾くたびに、音の余韻が聴く者の耳を酔いしれさせ会場の令嬢たちをも魅了していく。
美しい唄と音色が広間の客を十分に惹きつけた時、中央にいた舞手のローブがバサッと外された。薄紫の衣をベールのように顔に纏ったまま、白くて細い指についた小さなシンバルを、シャンシャンッタカッタカッとリズミカルに鳴らしながら舞い始める。
ベールの奥には、くびれた腰、すらっと伸びた腕のシルエットがはっきりと見てとれ官能的な姿をさらしていた。腕を使って滑らかに波のように体を動かしながら、ウードの幻想的な音色とともに優雅で細やかな踊りだ。
(こんなに大勢の人がいンのにリーチェの姿しか目に入らねぇ。)
トクンッと胸の奥が鳴った。頭の奥が痺れ、内から湧き出る想いが声に乗り妖艶な響きとなる。この国では誰もが知る昔から語り継がれてきた愛の歌だ。
笛を吹くテオが余興の風魔法を繰り出し、サーッと流れるその風に乗りながらリーチェは床をタンッと蹴り上げた。肩に巻いた透け感のある布を空中で大きく扇のように広げクルリッと回転をする。
静から動への華やかでダイナミックな舞への転換に、見ていた聴衆から大きな拍手と歓声が湧き上がった。
「綺麗だわ。」
「うっとりしちゃう。」
「いいぞ!最高!」
「俺の女になれ!」
(最後に野次とばした野郎、後でぶっとばしてやる)
音もなく床に降り立ったリーチェが、舞の最後に王子であるローランの前に再度跪いた時、顔を覆っていた薄い紫のベールがパラリと外れ落ちた。
流れるような銀の髪を1つに結い上げ、皆の前に晒されたのは長いまつ毛をふせたリーチェの顔。しっとり濡れた白い肌と朱に色づいた唇は見る者を誘惑するような魅力さえ醸し出していた。
「リーチェリア~?」
甲高い声が上がり、驚きでガタッと椅子から立ち上がったノワールの顔には険しく毒々しい眼差しがあった。
(笑っていてもいつも裏で何考えてんだか分かンねぇ表情してっから、こー言う顔の方が分かりやすくていーのに。)
王冠を頭に載せたローランは、隣で驚くノワールには一切構わず、広間を見渡し穏やかな笑みでゆったりと言葉を紡いだ。
「さあ、皆に聖女を紹介しよう。」
(ローランの奴、何を企んでやがる? 城でオレたちを出迎えた時も、ゆっくり話せなかった。)
ローランの隣に座ってるのは、ノワールだ。真っ白な聖女の衣装には到底似合わない派手な装飾物をたくさん身につけている。オレンジのウェーブの髪を綺麗に整え笑みを浮かべてる姿は、自分が今日の主役だとでも思ってンだろうな。
オレは、2人の背後に座り機嫌良さそうにしてるモーヴェ子爵を見た。なにしろこれから彼の養女が『聖女』であり『妃候補』であると、城から正式にお墨付きを得る日なのだから。首までキッチリと詰めた襟のシャツと不健康そうな顔のチグハグさが印象的だ。
ローランは立ち上がると、広間にいる客に向かいよく響く声をとどかせた。
「皆、よく来てくれた。今日はわがミラリア国の建国記念日に、光となる聖女を紹介しよう。」
客の間から一斉に歓声があがる。最近瘴気が増えてっから、害を無毒化させる聖女の誕生は皆心待ちにしてンのは分かる。聖女がノワールでさえなけりゃ、オレだって素直に喜びたいが。
「そしてもう1つ。本日結婚式を執り行う。」
(はぁ?結婚式??? 何考えてンだ。ノワールと本気で結婚するつもりか?)
これには皆一様に驚きを隠せない。単なる婚約者のお披露目式だと思っていたから。
「ローラン王子~! 嬉しい~! 私、王女になったらがんばりますね~!」
ノワールがネットリと絡みつくような目でローランを見ながら、甘えた声を出した。モーヴェ子爵も満足気な顔をしている。
「まずは祝いの舞いだ。皆、楽しんでくれ。」
王子の言葉に、3人組の旅芸人が王座の前に跪いたのを客たちは見た。彼等は深い礼をした後、広間の中央へと進みでる。ドカッとあぐらで床に座ったのは、茶のローブを被った長身の男。ローブを深く被り顔の見えない女性の舞手は、手を顔の前にかざし完全に顔を隠した。そして異国風の衣装を来た少年は笛を口に当て、立ったまま静かなメロディーを奏で始めた。
笛の軽やかな音色に合わせ、あぐらをかいた男はウードと呼ばれる弦楽器を奏でながら色気のある声で唄を唄う。このミステリアスな男が弦を弾くたびに、音の余韻が聴く者の耳を酔いしれさせ会場の令嬢たちをも魅了していく。
美しい唄と音色が広間の客を十分に惹きつけた時、中央にいた舞手のローブがバサッと外された。薄紫の衣をベールのように顔に纏ったまま、白くて細い指についた小さなシンバルを、シャンシャンッタカッタカッとリズミカルに鳴らしながら舞い始める。
ベールの奥には、くびれた腰、すらっと伸びた腕のシルエットがはっきりと見てとれ官能的な姿をさらしていた。腕を使って滑らかに波のように体を動かしながら、ウードの幻想的な音色とともに優雅で細やかな踊りだ。
(こんなに大勢の人がいンのにリーチェの姿しか目に入らねぇ。)
トクンッと胸の奥が鳴った。頭の奥が痺れ、内から湧き出る想いが声に乗り妖艶な響きとなる。この国では誰もが知る昔から語り継がれてきた愛の歌だ。
笛を吹くテオが余興の風魔法を繰り出し、サーッと流れるその風に乗りながらリーチェは床をタンッと蹴り上げた。肩に巻いた透け感のある布を空中で大きく扇のように広げクルリッと回転をする。
静から動への華やかでダイナミックな舞への転換に、見ていた聴衆から大きな拍手と歓声が湧き上がった。
「綺麗だわ。」
「うっとりしちゃう。」
「いいぞ!最高!」
「俺の女になれ!」
(最後に野次とばした野郎、後でぶっとばしてやる)
音もなく床に降り立ったリーチェが、舞の最後に王子であるローランの前に再度跪いた時、顔を覆っていた薄い紫のベールがパラリと外れ落ちた。
流れるような銀の髪を1つに結い上げ、皆の前に晒されたのは長いまつ毛をふせたリーチェの顔。しっとり濡れた白い肌と朱に色づいた唇は見る者を誘惑するような魅力さえ醸し出していた。
「リーチェリア~?」
甲高い声が上がり、驚きでガタッと椅子から立ち上がったノワールの顔には険しく毒々しい眼差しがあった。
(笑っていてもいつも裏で何考えてんだか分かンねぇ表情してっから、こー言う顔の方が分かりやすくていーのに。)
王冠を頭に載せたローランは、隣で驚くノワールには一切構わず、広間を見渡し穏やかな笑みでゆったりと言葉を紡いだ。
「さあ、皆に聖女を紹介しよう。」
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