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16 胸の高鳴り
しおりを挟む「ジェラリアたちが行っていたという川辺のボートを調べに行こう。」
ユオンの言葉に皆、同じ疑問が口をついて出る。
『ボートを調べに???』
今さらボートを調べたところで何かあるのだろうか? けれど、ユオンの表情は、そんな疑問をものともしないぐらい意志に満ちているように見えた。
「ああ、確かめたいことがある。」
ユオンは私たちの顔を見渡すと、大きく頷く。
(そもそも、ユオンはどうしてこんなに一生懸命真犯人を探そうとしてくれているのかしら? )
最初はたんに正義感が強い人なんだなくらいにしか思わなかった。でも、考えてみれば、彼は最初から、私が犯人ではないと信じていた。それまで私たちは、城内で何度か顔を合わせたことはあったかもしれないけど、特に話したりとかそんなことはなかったはずなのに••••••••••。いくら考えても答えの出ない疑問を、とりあえず今は胸にしまう。
「ナイール、あなた、私たちを案内してくれるかしら?」
わが家所有のボートがどこにあるかぐらいは私も知っている。でも、あの日、ナイールがジェラリアにどういう道を辿り案内したかぐらいは確認しておきたい。
「もっちろんだよっ! うふふっっ!!! 懐かしいなぁ! ねっ、アネラっ!!!!」
ナイールは、いつもはまん丸の金糸雀色の瞳を細めて、グフフッ!! と奇妙にニヤニヤと笑う。
(あなた、せっかくの整った顔が、台無しよっ!!! すっごく嫌な予感がする。ここは、聞かなかったことに••••。)
「懐かしいって、何が•••?」
ユオンが話の流れで特に意味もなく聞いただけだろうけど、、、。ナイールのあの表情っ••••ぜったい、何か変なこと思い出したのでしょっ!!!
「んっっーーー~? あの辺は、僕、昔、アネラとよく行ってたんだ!! キヌの実を食べたがってる僕のために、アネラはいっつも無茶ばかりしてさ!! 一度、ワンピースが木に引っかかって身動きできなくなった時、いきなり自分からワンピース破き始めたから僕びっくりしちゃったよっ!君ってほんっとたくましいよねっ!!!」
「!?!••••••••ナ、ナイール•••?!? そんな事思いださなくて結構よっ!!! いつの話をしてるのよっ!!! 木登りとか、もう、してないんだからっ!」
(どうして、イマ、ココで、そんな話をするのよっ??? )
だってあの時は、どうやってあの状況を打破しようか必死だったものっ!!! まさか、下着が見えるほどに破けてしまうなんて思わなかったのよっ!!! ほんっっと、ナイールといると、深刻にしてるのがバカらしくなる。
「ナイール様ッ、アネラ様はこう見えても由緒あるバイオレット家のご令嬢。そんな過去の恥部を明るく披露しないでくださいませっ。」
「えっ???」
私は思わず、間の抜けた顔でクレールを見る。確かに、いくら子どもとは言え、はしたなかったかもしれないけど、、。ここはもう少し、フォローして欲しかったわよっ、クレールっ!!!
「ーーーックク••••••プフフッッッーーーーーーーーーーーーーー。」
(んっっ??? ユオンっ!!!! )
突然の笑い声に目を向けると、ユオンがこちらから顔を背けて、お腹を抱えている!!! 必死で笑うのを堪えようとしてくれてはいるのだろうけど、、笑い声が漏れてるわ!笑いすぎて涙目になって、肩まで震わせてる。
「~~っ笑いすぎよっ、ユオンっ!! 早く行かないと日が暮れてしまうわ。」
まだ顔を赤くして、笑いを堪えている。
(仮にも年頃の女性に対してその態度は、ちょっと酷すぎやしないかしらっ!!!)
でも、まあ、そう言えば、ユオンには、窓から忍び込んでいたのを見つかったのが、最初の出会いだったのだわ。普通、恋愛するとき、女性って、可愛さとか、淑やかさとか、一応、そういう感じが求められるんじゃなかったかしら??? 別に敢えて取り繕おうとか、そこまでは思わないけど、、だからって、ユオンには私が無茶をしてるところばかり知られるのはどうなの????
(なんだか私、悟りを開けそうーーーーーー。)
「••••••ああ、出かけよう。」
ユオンがやっと立ち上がる。笑いすぎて、妙にスッキリした顔が少し腹立たしいっ!! そして私に手を差し出し、立たせてくれるが、今、レディ扱いされるのも何とも居心地が悪い。
ユオンの横顔をチラリと見ながら胸がチクリとする。ユオンは私のこと、どう思ってるのかしら? どうして私は今、彼の気持ちがこんなに気になるの?
◇ ◇ ◇
コテージのすぐ近くのボート乗り場へは、皆で向かった。白くて丸い小石を敷き詰め、歩きやすいように整えられた道のそばには、真っ赤な実をつけたキヌの木々が連なる。
初夏のほんの一時期にのみ、実をつけるキヌの木々の葉は、今の時期だけ真っ白だ。青空の下、この時期だけの綿菓子のような葉に、熟れた赤い実が付いている様は、まるでお菓子の国を歩いているような気分になる。歩いているうちに気分も晴れ、ホゥ~と、うっとりとしてしまう。
ナイールは、一つに結えた水色の髪をあちらこちらに揺らして、スキップでもしそうな勢いで、先へ先へとどんどん進んでいく。クレールは、放っておくと、どこかへ迷い込んでしまいそうな少年を、心配半分、呆れ半分で、その後を見守るように追いかけていた。
私はユオンに手を引かれて一番最後を歩いていく。念のため、比較的歩きやすいワンピースとヒールの低い歩きやすい靴に替えてはきたけれど•••。
「綺麗だ•••。」
ユオンの呟きに、私も空に映える木々を見上げながら、首を小さく縦に振り頷く。
「アネラ、あなたのことですよ。」
!?
驚いてユオンを見ると、彼の移り変わる美しい空のような瞳が、私の姿を真っ直ぐ映していた。周囲の鮮やかな色彩の景色の中で、純白の騎士服を着た彼は、キラキラして見えた。
嬉しい気持ちの反面、自分が監視されている立場なのは忘れちゃいけないわ、とも思う。
それに、こんなに容姿端麗の人だからこそ、、「••••••ユオンは、私といるのは、女性避けのためにとも言っていたけれど、随分と慣れている感じね。」と、ポロッと思わず本音が出てしまった。別に責めてるつもりはないのよ。ただ、甘い言葉を誰にでも言ってるのかしら??? なんて下らない嫉妬よね。
「本当にそう見える?」
ユオンは立ち止まると、繋いでいた私の手をそのまま自分の胸に持っていった!?
逞しい胸板に触れると、トクトクトクッと彼の胸の鼓動が、熱を通して伝わってくる。彼の想いまで直接伝わってくるようで、顔が熱くなってくるのが自分でも分かる。少しでも手を動かすと、彼に全てを絡め取られてしまいそうな錯覚に陥り、自分から動かすことができない。
「オレはあなたといる時は、いつも平常心ではいられないんですよ。」
私が身動きできずにいると、星空のような声が上から降ってきた。見上げると、フフッと少し照れた顔に、ときめいてしまう。この人はどうしてこんなに私に優しくしてくれるの? ユオンの言葉は、まるで私があなたの特別だと言ってるみたいじゃない??? 期待してしまう自分はおかしい??
どうしてかしら。ついこの間、会ったばかりだと言うのに、そんな気がしないのは•••。
「さあ、行きましょう。」
手を握り直し、はにかんだ笑顔で颯爽と私をエスコートしながら、歩きだすユオンの後を追いながら、私は、トクトクッと自分の胸が高鳴っていることに気づいていた。
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