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31 青の石は、その「意思」を示す、、、

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「~っとに•••、、あの人はっ•••」
気づくと、頭や顔に血が集まり熱を持ってくる•••

•••つい先ほどのことは•••あまりにも現実感が薄い••••ベッドで目を覚ましたら、姫さまがオレに抱きついていて、一瞬パニックになった•••しかも、いつもより胸元の開いたドレスを着ていたせいで、、•••その姿で腕をオレの首に回しながら、力一杯抱きついてるせいでっ、、•••肌のはだけた部分が、衣服を介さずあの人の肌とオレの肌が直接触れ合っていたから、、•••


•••ッ‼︎•••しっとりと吸い付くようで柔らかかった•••••••妙に生々しい感触を思い出し、オレは頭を抱える•••考えすぎると平常心でいられる自信がない•••

•••無防備すぎる••••身体の奥底から熱が湧き上がってくるようで、どうにも落ち着かない•• 絶対、あの人、無自覚だろ•••? 

「どうぞ、カイル!召し上がれ•••!」
そう言いながら、スプーンを差し出してくれた姫さまが純粋に心配をしてくれていただけなのは、分かっている•••分かってはいるがっ、、•••

あんな風に不器用でも、一生懸命に何かをしてくれようとしたのはすごく嬉しいし、、感謝もしている、、••••がっ、、•••疲れていたからなのか、、眠かったせいなのか、、目をトロンとさせ、オレの口元を凝視する顔を、間近で見てしまったっ•••!!! ~あぁっもうっ•••

「アーシャ、カイルが今晩眠れなくなるから、もうその辺で勘弁してあげて。」

•••フェンリルに、見透かされていたようで悔しい•••

オレは火照った身体の熱を逃すことができず、毛布を頭からかぶる。医師には休めと言われているが、稽古でもすれば気が紛れるだろうか•••今なら夜通し稽古できそうだ•••


現実感が薄いもう一つの理由•••『蒼の騎士』•••本当に自分がそんな凄いものになったのか、自覚がない•••


•••『蒼の騎士』自体に特に憧れがあったわけじゃない。でも、姫さまを一番そばで支えたい、守りたい、と思った日から、どうすればそれができるかを考えてきた•••

だから姫さまが凛とした声で、オレに蒼の騎士を望むかと問いかけた時、迷わなかった。名誉だとか地位だとかそんなことよりも、ずっとそばで、護ることができる可能性があるなら、こんなオレの全てをかけてもいいと本気で思った。

ずっと笑顔でいて欲しい。
いつもまっすぐに言葉を届けてくれるあの人に救われたから、、•••だから、もしいつか姫さまが立ち止まった時には、一番にそばで支えたい。そしてあの人が居るこの国ごと、騎士として護れるなら、オレはこんなちっぽけな自分の全てを捧げよう•••!!

今回、毒で死にかけたオレのために、隣国のエドゥアルト王子から解毒薬を貰ってきてくれたと聞いた•••何でもないように言ってたけど、•••あの滅多なことでは動揺しない、騎士団長のシルヴィオの顔が強張っていたから、、••••••きっとすごい無茶をしたんだろう•••うん、何か手に取るようにわかるな•••


「我、『蒼の石』の意思を問う」
そう言った姫さまは、少し震えていた•••

多分青の石が、オレを選ばないかもしれないと心配してくれたんだろう•••でもオレは仮に選ばれなくても、そんなことはどうでもよかったんだ。オレを騎士として望んでくれた•••! その事実だけで十分だ。例えずっと従者のままでも、地位が上がらなくても構わなかった。そばにさえいられるのなら•••

あの人がオレの心を守ってくれたように、オレもあの人の心を守りたい。
姫さまが真っ直ぐすぎて不器用で、だからこそ、もし道を踏み外しそうになったら、オレは彼女の心を守るために、それを全力で止める。そして彼女がずっと安心していられるように、この国も守る。一人で何ができるかは分からない。でもせめて、手の届く範囲だけでも、、•••。

青の石の『意思』を問う時、剣を受けとる時、剣を乱暴に動かしてしまうと姫さまを驚かせてしまうかもしれないから•••だから、少しでも驚かせないように、少しでも安心して欲しくて、出来るだけ優しく、自分の手を差し出した•••

あの人がオレに向けた剣が、なぜだかその時は、とても大切な宝物みたいで、大事にしたくて、壊したくないと思ってしまった•••だからゆっくりとそっと自分の口元まで引き寄せ、目を閉じその感触を味わうように唇を触れさせた•••目を閉じる直前、光が反射した刃には、姫さまの姿が映っていて•••なんか、あの人に口付けをするようだなと心の隅で思いながら•••


•••オレが青の剣に口付けをした途端、刃の虹の光がますますその輝きを増し、剣を持つ姫さまの手の甲、そして刃を持つオレの手の甲に、『蒼の騎士』の紋章が現れた••• 自分が『蒼の騎士』になるという実感は当然ながらまだ全然なかったけれど、その時は•••これから先もずっとそばに居れるということが嬉しかった•••。これからもそばで守れるんだ•••!!

姫さまもその紋章が手の甲に浮かんだ時、一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに嬉しそうな顔をしてくれた••!!

やっと••やっとここまで来れた•••!! 
フローレンの川辺でまた逢おうという約束は、あの時は果たせなかった。でも、記憶を取り戻した今、遅くなってしまったが、あの時の約束を果たすために、あなたの元に本当の意味で戻ってこれた•••!!



手の甲に現れた紋章の印を見届けた姫さまは、最後に、水音のような声を響かせた。

「我、汝を騎士に任命す。」

この瞬間を胸に刻もうと、顔を上げた。そして、薄桃色の神秘的な瞳と綺麗な顔に浮かぶ穏やかな笑みを目に焼き付ける。

『蒼の騎士』にとオレを望んでくれた•••ずっと守りたいと望んでいた人に、望まれた••! だからこそ、オレは全力を尽くしあの人を、そしてこの国を守ろう。

これはオレの最初で最後の『誓い』だ。
必ず守り通す。何があろうとも。
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