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第3層 転落
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神器授与……。簡単にいうと、人に元々備わるスキルとは別に貰える、新しいスキルだ。
人間の可能性を広げる神の祝福と言われているが、俺から言わせればランダム要素の塊、いわば博打だ。
大抵は無機物の形をしていて、千差万別の能力を、手に入れた者に与える。
その姿は剣から鍋の蓋までよりどりみどりだ。
だが1番の当たりは動物だ。過去何度か動物の神器を引き当てた者達は、自分の身に宿る才能の強弱に関わらず結果を残しているからだ。
神器だけで、自分の評価が跳ね上がる。
そんな可能性を動物型神器は持っている。
神器を手に入れたあとは、最終的にステータスやスキル、神器スキルの総合評価からSからEまでで区分けされ、その場でその適正の階層に飛ばされる。
Sなら400階層、Aなら300階層とEなら1階層に飛ばされるといった具合だ。
まぁ、俺はSで確定だがな!
心の中で自らを誇る俺を尻目に、儀式は着々と進められていた。
「エリシア・アイゼンバーグ!」
「はい!」
名前を呼ばれた女性は、勢いよく手を挙げ、壇上へ向かって歩き出す。
もうかれこれ5分近く、この光景を見てきたが、一向に列が減らない。
退屈が体を蝕み、眠気という強力な重力に瞼を引っ張られながら、懸命に自分の番を待っていた。
先程呼ばれた女性に、お偉いさんは何かを手渡し、それを受け取ると壇上の奥に進む。
壇上の裏は、入口からは見ずらかったが、列に並ぶとよく見えた。
そこにはポータルと呼ばる円形の石版が置いてあり、その外縁から青白い光が天に伸びていた。
そしてそれを挟むように、5m近くある大きな扉が2つ、対になって向かい合っていた。
女性はポータルの中央に進むと、青白い光が一層強く輝き、頭上に文字やら数字を移し始める。
それはステータスだった。
筋力、魔力、耐久力、俊敏性、スキル……様々な情報が事細かに表示される。
数秒それが表示された後、どこからか機械音のような女性の声が部屋全体に響き渡る。
『総合評価……A……これより神器授与に移ります。ポータルの中央に手をかざしてください』
その声に従うようにポータルに手をかざす女性。
一体何が飛び出すのか、静寂に空間が浸されていく。
すると突然女性の腕がポータルに引き込まれる。急な出来事な不意を突かれたのか、女性の表情は動揺に染められるが、すぐに気を取り直し、力いっぱい自分の腕を引き上げる。
引き上げられた手の先には、ナイフが握られていた。
女性は疲れたのか、肩で息をしながら立ち上がる。
そして頭上に再び青白い光が、文字を刻み始め、そのナイフ型の神器の詳しいスキルが書かれ、またどこからともなく淡々とした声が響く。
『再集計…………最終総合評価……A』
そしてポータルはより強い光で、女性を照らす。
青白い光が、元の光量に戻る頃には、女性の姿は消えていた。
「次、エルメス・シュナイダー」
こんな感じて、儀式は淡々と行われていった。
最初の頃は物珍しい、気持ちで楽しめていたが、すぐに飽きが来てしまうものだ。
見知った顔のやつが、授与を受けるなら多少は楽しめるが、今のところ知らない奴ばかり。
抑揚も興奮もない退屈な光景を延々見せ続けられた俺は、とうとう睡魔に打ち負かされた。
どれくらい時間が経ったか分からないが、俺の肩を揺らしながら、申し訳なさそうにかけられた声に、俺は起こされた。
その声の方を見ると、眉を寄せた困り顔をした女性が、左から俺の顔を覗き込んでいた。
「あの~……呼ばれてますよ」
「へ!?」
気が付くと自分の列の前の人の影はどこにもなく、代わりに壇上から、お偉いさんが鋭い目線で俺を睨みつけていた。
「フォルツェ・エルドレ!前へ!」
「は、はい!」
驚きながら返事をし、壇上目指す。
俺としたことが、睡魔に屈するとは、不覚だった。
額をさすりながら、トボトボ歩く俺は、保護者達の紙を擦るような小声を耳の端で捉えてしまう。
━━あれが噂の?
━━鬼神よ
━━恐ろしい……
━━化け物
俺は思わず足を止めてしまう。
声の方向へ首をぐるりとまわす。
いきなり目が合い驚いた様子を浮かべる声の主達。
俺は、そいつらを鼻で笑うと、歩みを再開する。
こういうことには慣れっこだ。
強大な力には、責任と、人々からの尊敬、嫉妬、恐怖が着いてくる。
くだらねぇ。全部くだらねぇ。俺は成し遂げてやる……。
尊敬も、嫉妬も、恐怖も、塔に巣食う化け物共も、俺の力で全部薙ぎ払う。
そして馬鹿共に見せてやるんだ……本当の空を!本物の太陽を!
壇上を中央へ行き、お偉いさんと向かい合う。
「はい、これ」
唐突に手渡されたのは、手のひらに収まるか収まらないか程の長方形の石版だった。
頭に疑問を浮かべる俺に、お偉いさんは説明をする。
「スーパー・マジック・ホーリー。略してスマホだよ。自身のステータスの確認とか、まぁ色々役に立つから。それとこれ説明書ね」
そう言うと、小さな冊子を手渡される。
「じゃあ、そこのポータル乗って」
さっきまで厳しそうだったのに、急にフランクになるじゃん、と思いながら、指示の通りに、ポータルに乗る。
すると俺を囲う光が、俺の頭上にステータスを描き出す。
フォルツェ・エルドレ ♂
MP:1150
筋力:9999+5212
魔力:9999+5135
耐久力:1816
敏捷性:1937
運:5
遺伝スキル:鬼神の子
筋力、魔力共に、ステータスの上限値を越えて成長する。また筋力、魔力の数値上昇に伴い、追加で数値が上昇する。上昇値1に対して10から15の間でランダムに追加上昇値を得る。
追加上昇値は、このスキルに付随する。
筋力追加上昇値:13032
魔力追加上昇値:13056
実際に自分のステータスが、公に晒されるのは、なんというか……恥ずかしいな。
頭をかいて照れる俺を他所に、儀式進められていく。
『総合評価……S……これより神器授与に移ります。ポータルの中央に手をかざしてください』
不気味な機械音に、へいへいと頷きながら、膝をつき、ポータルに手をかざす。
しばらくの後、いきなりポータルに腕が引き寄せられる。
「うおっ!」
俺は思わず驚きの声をあげてしまった。引き込まれたことに対してでは無く、引き込まれた時に体を奇妙な感覚が沸いたからだ。
それは胸の内側に物をねじ込まれたかのよう、な苦痛を伴う閉塞感だった。
思わず片手で胸を触り、肉眼でも確認したが、特に何も変化はない。
息苦しさは続いているが、耐えられないほどではなかった。
俺は首を振り、息の詰まるような感覚を振り払い、引き込まれた腕に意識を集中する。
腕には、液体がまとわりつくような感覚が伝わってくる。
水とゼリーの丁度中間のような粘性に、ヒンヤリと冷たい温度。
この液体のどこかに神器があるのか?
かき混ぜるように腕を動かし、掴めるものを探そうとするが、その度に胸の中の異物も一緒に動き回る。
朝飯を吐き出しそうになりながら、必死に探す指先に何かが触れた。
気のせいかもしれないと思いつつ、感覚のした場所の辺りを掻き回していると、確かに液体とは違う個体の触感がある。
それを恐る恐る掴むと、それは物凄い力で握り返してきた。
胸の中の苦痛を一刻も早く取り除きたい俺は、両足で踏ん張り必死にそれを引っ張りあげた。
そして水中から何かが飛び出すような音と共に、いきなり腕は引き抜かれ、体勢を崩した俺は尻もちをつく。
目を開いた時に、そいつは現れた。
空間でコマのように前宙し続けたかと思うと、さっきまで回転は無かったように両足で着地し、こちらを見据えた。
そいつの姿は一言で言うなら異質だった。髪色は奇抜で、頭頂の髪色は、半分から右が白く、もう半分は黒い。左右に垂れるツインテールは頭頂の色とは真反対の色に染まっていた。
服装はメイド服を身にまとい、足周りは、タイツにハイヒール。そのどちらも髪色に同調するように、左右非対称の黒白に染められていた。
顔立ちは、驚く程整っていたが、瞳には光がなく、何処までも続いていそうな漆黒に塗られていた。
まるで人形のような見た目だ。
人型の神器?
今までない経験に、会場も俺自身も困惑する中、その女はイタズラな笑みを浮かべると、膝丈程のスカートの端を摘み、少しだけ持ち上げながらお辞儀をした。
「はじめまして、ご主人様♡ 私、オセロ、と申します♪ 以後お見知り置きを」
そう言うと、また顔をあげフフッと笑った。
俺は喜びに打ち震えた。
決して神器が可愛い女の子で、テンションが上がった訳では無い。
俺は直感した。間違いなくこの神器は、常識を塗り替えるほどの、能力を持っていることを。
元々評価がSと、確定していた身。神器など、何でも良かった。ハズレを引こうがなんだろうが評価は揺るぎないからだ。
だが大当たりを引いたとなると話は別だ。
最初は、人形の神器を引いたのかとも思っていたが、こいつは自分の意志を持って喋った。
この神器は、人間だ。
人類で初めて、人の神器を俺は引いた。
どのようなスキルを持っているかは知らないが、間違いなく動物型神器に匹敵する……いやそれ以上の能力を持っているだろう。
体の奥底から笑いが込み上げるのを、押さえつけ、これから得るであろう名声と栄誉を頭の中で描きまくった。
『再集計…………』
頭の上で、声が鳴る。あれ程不気味な音もここまで来ると心地いい。
クツクツと口から笑いをこぼす俺。
『最終総合評価……』
高揚は最高潮まで高まる。
だ……駄目だ まだ笑うな……こらえるんだ……。
『E……』
その瞬間、俺の時間止まった。
自分の身に起きたとが、正確に把握出来なかった。
身体中の筋肉が硬直し思うように動かせない。
眉間の辺りからツーンとした冷たい痛みが頭全体に広がり、さっきまで描いていた空想を真っ白に染め上げていく。
「何が……起きたんだ」
固まって満足に動かない首を無理やり回し、頭上に表示されたステータスを確認する。
フォルツェ・エルドレ ♂
MP:1150
筋力:-9999 -854
魔力:-9999 -979
耐久力:1816
敏捷性:1937
運:5
遺伝スキル:子の神鬼
筋力、魔力共に、ステータスの下限値を越えて衰退する。また筋力、魔力の数値下昇に伴い、追加で数値が下昇する。下昇値1に対して10から15の間でランダムに追加下昇値を得る。
追加下昇値は、このスキルに付随する。
筋力追加下昇値:-13032
魔力追加下昇値:-13056
神器オセロ Lv1
神器スキル:逆転する黒白「コクビャク」
遺伝スキルをひっくり返す。
『1階層に転送します』
身に起きた不幸を全て理解した俺を、容赦なく光が照らした。
人間の可能性を広げる神の祝福と言われているが、俺から言わせればランダム要素の塊、いわば博打だ。
大抵は無機物の形をしていて、千差万別の能力を、手に入れた者に与える。
その姿は剣から鍋の蓋までよりどりみどりだ。
だが1番の当たりは動物だ。過去何度か動物の神器を引き当てた者達は、自分の身に宿る才能の強弱に関わらず結果を残しているからだ。
神器だけで、自分の評価が跳ね上がる。
そんな可能性を動物型神器は持っている。
神器を手に入れたあとは、最終的にステータスやスキル、神器スキルの総合評価からSからEまでで区分けされ、その場でその適正の階層に飛ばされる。
Sなら400階層、Aなら300階層とEなら1階層に飛ばされるといった具合だ。
まぁ、俺はSで確定だがな!
心の中で自らを誇る俺を尻目に、儀式は着々と進められていた。
「エリシア・アイゼンバーグ!」
「はい!」
名前を呼ばれた女性は、勢いよく手を挙げ、壇上へ向かって歩き出す。
もうかれこれ5分近く、この光景を見てきたが、一向に列が減らない。
退屈が体を蝕み、眠気という強力な重力に瞼を引っ張られながら、懸命に自分の番を待っていた。
先程呼ばれた女性に、お偉いさんは何かを手渡し、それを受け取ると壇上の奥に進む。
壇上の裏は、入口からは見ずらかったが、列に並ぶとよく見えた。
そこにはポータルと呼ばる円形の石版が置いてあり、その外縁から青白い光が天に伸びていた。
そしてそれを挟むように、5m近くある大きな扉が2つ、対になって向かい合っていた。
女性はポータルの中央に進むと、青白い光が一層強く輝き、頭上に文字やら数字を移し始める。
それはステータスだった。
筋力、魔力、耐久力、俊敏性、スキル……様々な情報が事細かに表示される。
数秒それが表示された後、どこからか機械音のような女性の声が部屋全体に響き渡る。
『総合評価……A……これより神器授与に移ります。ポータルの中央に手をかざしてください』
その声に従うようにポータルに手をかざす女性。
一体何が飛び出すのか、静寂に空間が浸されていく。
すると突然女性の腕がポータルに引き込まれる。急な出来事な不意を突かれたのか、女性の表情は動揺に染められるが、すぐに気を取り直し、力いっぱい自分の腕を引き上げる。
引き上げられた手の先には、ナイフが握られていた。
女性は疲れたのか、肩で息をしながら立ち上がる。
そして頭上に再び青白い光が、文字を刻み始め、そのナイフ型の神器の詳しいスキルが書かれ、またどこからともなく淡々とした声が響く。
『再集計…………最終総合評価……A』
そしてポータルはより強い光で、女性を照らす。
青白い光が、元の光量に戻る頃には、女性の姿は消えていた。
「次、エルメス・シュナイダー」
こんな感じて、儀式は淡々と行われていった。
最初の頃は物珍しい、気持ちで楽しめていたが、すぐに飽きが来てしまうものだ。
見知った顔のやつが、授与を受けるなら多少は楽しめるが、今のところ知らない奴ばかり。
抑揚も興奮もない退屈な光景を延々見せ続けられた俺は、とうとう睡魔に打ち負かされた。
どれくらい時間が経ったか分からないが、俺の肩を揺らしながら、申し訳なさそうにかけられた声に、俺は起こされた。
その声の方を見ると、眉を寄せた困り顔をした女性が、左から俺の顔を覗き込んでいた。
「あの~……呼ばれてますよ」
「へ!?」
気が付くと自分の列の前の人の影はどこにもなく、代わりに壇上から、お偉いさんが鋭い目線で俺を睨みつけていた。
「フォルツェ・エルドレ!前へ!」
「は、はい!」
驚きながら返事をし、壇上目指す。
俺としたことが、睡魔に屈するとは、不覚だった。
額をさすりながら、トボトボ歩く俺は、保護者達の紙を擦るような小声を耳の端で捉えてしまう。
━━あれが噂の?
━━鬼神よ
━━恐ろしい……
━━化け物
俺は思わず足を止めてしまう。
声の方向へ首をぐるりとまわす。
いきなり目が合い驚いた様子を浮かべる声の主達。
俺は、そいつらを鼻で笑うと、歩みを再開する。
こういうことには慣れっこだ。
強大な力には、責任と、人々からの尊敬、嫉妬、恐怖が着いてくる。
くだらねぇ。全部くだらねぇ。俺は成し遂げてやる……。
尊敬も、嫉妬も、恐怖も、塔に巣食う化け物共も、俺の力で全部薙ぎ払う。
そして馬鹿共に見せてやるんだ……本当の空を!本物の太陽を!
壇上を中央へ行き、お偉いさんと向かい合う。
「はい、これ」
唐突に手渡されたのは、手のひらに収まるか収まらないか程の長方形の石版だった。
頭に疑問を浮かべる俺に、お偉いさんは説明をする。
「スーパー・マジック・ホーリー。略してスマホだよ。自身のステータスの確認とか、まぁ色々役に立つから。それとこれ説明書ね」
そう言うと、小さな冊子を手渡される。
「じゃあ、そこのポータル乗って」
さっきまで厳しそうだったのに、急にフランクになるじゃん、と思いながら、指示の通りに、ポータルに乗る。
すると俺を囲う光が、俺の頭上にステータスを描き出す。
フォルツェ・エルドレ ♂
MP:1150
筋力:9999+5212
魔力:9999+5135
耐久力:1816
敏捷性:1937
運:5
遺伝スキル:鬼神の子
筋力、魔力共に、ステータスの上限値を越えて成長する。また筋力、魔力の数値上昇に伴い、追加で数値が上昇する。上昇値1に対して10から15の間でランダムに追加上昇値を得る。
追加上昇値は、このスキルに付随する。
筋力追加上昇値:13032
魔力追加上昇値:13056
実際に自分のステータスが、公に晒されるのは、なんというか……恥ずかしいな。
頭をかいて照れる俺を他所に、儀式進められていく。
『総合評価……S……これより神器授与に移ります。ポータルの中央に手をかざしてください』
不気味な機械音に、へいへいと頷きながら、膝をつき、ポータルに手をかざす。
しばらくの後、いきなりポータルに腕が引き寄せられる。
「うおっ!」
俺は思わず驚きの声をあげてしまった。引き込まれたことに対してでは無く、引き込まれた時に体を奇妙な感覚が沸いたからだ。
それは胸の内側に物をねじ込まれたかのよう、な苦痛を伴う閉塞感だった。
思わず片手で胸を触り、肉眼でも確認したが、特に何も変化はない。
息苦しさは続いているが、耐えられないほどではなかった。
俺は首を振り、息の詰まるような感覚を振り払い、引き込まれた腕に意識を集中する。
腕には、液体がまとわりつくような感覚が伝わってくる。
水とゼリーの丁度中間のような粘性に、ヒンヤリと冷たい温度。
この液体のどこかに神器があるのか?
かき混ぜるように腕を動かし、掴めるものを探そうとするが、その度に胸の中の異物も一緒に動き回る。
朝飯を吐き出しそうになりながら、必死に探す指先に何かが触れた。
気のせいかもしれないと思いつつ、感覚のした場所の辺りを掻き回していると、確かに液体とは違う個体の触感がある。
それを恐る恐る掴むと、それは物凄い力で握り返してきた。
胸の中の苦痛を一刻も早く取り除きたい俺は、両足で踏ん張り必死にそれを引っ張りあげた。
そして水中から何かが飛び出すような音と共に、いきなり腕は引き抜かれ、体勢を崩した俺は尻もちをつく。
目を開いた時に、そいつは現れた。
空間でコマのように前宙し続けたかと思うと、さっきまで回転は無かったように両足で着地し、こちらを見据えた。
そいつの姿は一言で言うなら異質だった。髪色は奇抜で、頭頂の髪色は、半分から右が白く、もう半分は黒い。左右に垂れるツインテールは頭頂の色とは真反対の色に染まっていた。
服装はメイド服を身にまとい、足周りは、タイツにハイヒール。そのどちらも髪色に同調するように、左右非対称の黒白に染められていた。
顔立ちは、驚く程整っていたが、瞳には光がなく、何処までも続いていそうな漆黒に塗られていた。
まるで人形のような見た目だ。
人型の神器?
今までない経験に、会場も俺自身も困惑する中、その女はイタズラな笑みを浮かべると、膝丈程のスカートの端を摘み、少しだけ持ち上げながらお辞儀をした。
「はじめまして、ご主人様♡ 私、オセロ、と申します♪ 以後お見知り置きを」
そう言うと、また顔をあげフフッと笑った。
俺は喜びに打ち震えた。
決して神器が可愛い女の子で、テンションが上がった訳では無い。
俺は直感した。間違いなくこの神器は、常識を塗り替えるほどの、能力を持っていることを。
元々評価がSと、確定していた身。神器など、何でも良かった。ハズレを引こうがなんだろうが評価は揺るぎないからだ。
だが大当たりを引いたとなると話は別だ。
最初は、人形の神器を引いたのかとも思っていたが、こいつは自分の意志を持って喋った。
この神器は、人間だ。
人類で初めて、人の神器を俺は引いた。
どのようなスキルを持っているかは知らないが、間違いなく動物型神器に匹敵する……いやそれ以上の能力を持っているだろう。
体の奥底から笑いが込み上げるのを、押さえつけ、これから得るであろう名声と栄誉を頭の中で描きまくった。
『再集計…………』
頭の上で、声が鳴る。あれ程不気味な音もここまで来ると心地いい。
クツクツと口から笑いをこぼす俺。
『最終総合評価……』
高揚は最高潮まで高まる。
だ……駄目だ まだ笑うな……こらえるんだ……。
『E……』
その瞬間、俺の時間止まった。
自分の身に起きたとが、正確に把握出来なかった。
身体中の筋肉が硬直し思うように動かせない。
眉間の辺りからツーンとした冷たい痛みが頭全体に広がり、さっきまで描いていた空想を真っ白に染め上げていく。
「何が……起きたんだ」
固まって満足に動かない首を無理やり回し、頭上に表示されたステータスを確認する。
フォルツェ・エルドレ ♂
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筋力:-9999 -854
魔力:-9999 -979
耐久力:1816
敏捷性:1937
運:5
遺伝スキル:子の神鬼
筋力、魔力共に、ステータスの下限値を越えて衰退する。また筋力、魔力の数値下昇に伴い、追加で数値が下昇する。下昇値1に対して10から15の間でランダムに追加下昇値を得る。
追加下昇値は、このスキルに付随する。
筋力追加下昇値:-13032
魔力追加下昇値:-13056
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