ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜

天三津空らげ

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1 テンプレ勇者召喚に巻き込まれて

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 「全属性魔法スペシャルに魔獣特攻!! 素晴らしい! あなたが勇者ですね」

 周囲から歓声が上がり、わたしはとりあえず自分の手の甲をつねった。痛い。夢じゃないんだわこれ。
 ……にしても、全属性魔法スペシャルってなに? センス的にどうなのそれは。

 制服姿の若か男子が、なんか漫画で見るような、お貴族ぽい人達に囲まれている。
 おそらく彼が召喚勇者なんだろう。
 まさか、勇者召喚なんてものが本当にあるなんて。

 わたしはちらりと、勇者君達の輪から離れて、同じように呆然としている女性と目を合わせた。
 なんとなく……なんとなーくだけども、
場を仕切ってるのがお姫様って時点で、我ら女子必要ないんじゃない? という嫌な予感がする。
 向こうの彼女も、同じように感じたのか、同意の視線を送ってきた。

 にしても困ったなぁ。
 わたしはとりあえず肩にかけた鞄と大量の荷物と、大事なペットキャリーを身体に寄せる。
 今日は早朝から新幹線に乗って、東京の友人宅で新しい家族を引き取ってきたばかり。地方どころか異世界に環境が変わって、この子は大丈夫だろうか。

 さて、四十代お一人様のお太り様たるわたしと、ストレートヘアの二十代クールビューティー彼女と、召喚されし勇者の男子君は、東京駅の構内で突然光に包まれてここにいた。当然面識はなく、ただ近くに居ただけ。

 そしてお約束通り、元の世界には帰れないですって。

 「では勇者様はこちらへ。まずはお部屋に案内しますわ」

 姫は上機嫌で勇者君を連れて、この召喚の広間を出ていった。
 後には紫のローブを羽織った神経質そうな髭をつけた人物と、貴族のような男性。そして騎士が数人、わたし達の前にいた。

 「この異世界の女達は、私がいただきます。色々と実験したいことがありますので」

 なんやと?
 紫ローブがふざけたことを言い出したわ。

 「そういうわけには。魔導士長、この方々はそもそも君の召喚に巻き込まれたのだぞ。そのような非人道的なことは許されない」

 せや。せや。
 どうやら貴族の男性の方は、良識のある人みたい。

 「しかしこの勇者召喚魔導具でステータスの鑑定ができないのは、役に立たない不必要な存在ということだ。なら私の役に立ってもらう方がいいと思いませんか」

 か、なんこわくさいことゆうとんがか、このだらんまが!

 おっと、うっかり封印されしお国言葉がでてしまったわ。気をつけないと。

 でも鑑定かー、いいなぁ。
 わたしは紫ローブの持っている宝玉を見た。あれが勇者召喚魔導具なのかな? 鑑定機能付き。

 その時、わたしの目の前に《素材を採取しますか?》と書かれた文字画面が現れた。

 よし採取しよう。

 そう思った瞬間、紫ローブの手から宝玉がザラザラと砂粒になって崩れ落ちた。

 「!?」

 周囲にいた者達も驚愕のあまり……後ずさる。
 
 《採取失敗。対象が破壊されました。スキルレベルを上げてください》

 わたしは内心冷や汗をかきながら、関係ありませんよという顔で驚いているように見せ……る必要もなく驚いた。
 そうかぁ……採取失敗したら、対象は壊れるんだ……。

 実はわたしにも、スキルらしきものが与えられていた……。そう、〈素材採取〉といスキルだ。
 なんかここに来てから、頭の中で「素材採取スキルありますよー。イケてるスキルでーす。使ってよー使ってよー」と主張している。
 そもそも素材というのは、薬草だのそういうもののことをいうのだろうに、なぜいきなり他人の魔導具を素材扱いしたのかね、このスキルちゃんは。や、試しにスキル発動させてみたのは、そりゃ自分だけど。

 また文字画面が現れた。

 《神を悩ませる魔導具が破壊されました。お礼に鑑定スキルが与えられますので、神殿へおいでください》

 わたしは内心ガッツポーズした。
 帰れないならこの世界で生きる覚悟をせねばならない。鑑定スキル大歓迎だ。
 だってここの水とか食べ物が安全かとか、キャリーの中にいる子が食べて安心なものとか見分けるのに、必須スキルだよ。
 なんとかして神殿に行かねば。
 だけどなんだか、ふらふらする。
 これあれだ。きっとスキルを使ったからだ。

 「客人の具合が悪そうだ! すぐ休める部屋を用意するように!!」

 わたしの様子に気づいて、紫ローブと言い争っていた貴族らしき人が命令を出した。
 紫ローブの方は、国宝の魔導具がーとか喚いているけど、どうやら壊れた方がいい魔導具だったようなので、わたしの罪悪感も綺麗にお亡くなりになる。

 「大丈夫ですか?」
 一緒に召喚された女性が駆け寄り、わたしの手をそっと取って、身体を支えてくれる。優しい。良い人やわー。

 「ありが……と……」
 ねむい。とにかく眠い。

 彼女が、そのままわたしを支えて用意された部屋まで付き添ってくれた。

 わたしは最後の力を振り絞って、ペットキャリーを開ける。大人しく中にいた仔猫ちゃんを抱き上げて、買ったばかりのペット用の皿に仔猫用キャットフードを入れ、お水の皿と共に仔猫ちゃんをペットキャリーに入れて蓋をした。
 わたしの荷物が多かった理由である。
 そしてそのままベッドに身体を放り出して、意識を失った――――



 「いやー通快通快。この世界で生きてくのに役立つかなって与えたスキルが、まさかあんな奇跡を起こすなんて。最後の召喚異世界人が君で良かったよ」

 果てしない青い空と緑の草原。
 そこに置かれた白いテーブルと椅子に座って、わたしは目の前の片眼鏡をかけて愉快に笑っている壮年男性を見た。
 まさかと思うけど……。

 「そう、神だよ。とりあえず君の寿命伸ばしておくね」
 「わたしの猫ちゃんもこの世界で長く生きていけるようにして下さい。まだ生後二ヶ月なんです」
 「あれが噂の、異世界で大人気の猫ちゃんか! かわゆいねぇー。この世界でも種として定着できるようにしておこう。当然加護もあげちゃうよぉ」
 「わぁぁ、ありがとうございますぅぅ!!」

 神様というには余りにも威厳が……と思いつつも、猫ちゃん好きならまあ許そう。なんといっても、猫ちゃんに加護をくださるというのだから!

 多分ここは夢の中なのだろう。
 意識が現実世界のようにはっきりしているのは不思議だよね。神様の力かな。

 神様はわたしの様子に頷いて、深く笑んだ。

 「では改めて自己紹介をしよう。私はこの世界の主神ライフォート」
 「ライ様でいいですか?」
 「構わないよ。君の名は?」
 「猫柳香子(かおりこ)です」

 かおるこ、ではなく、かおりこ。この地味な違いのせいで、わたしの名を正しく呼べるものは家族以外にいなかった。

 「では香子、改めて礼を述べよう。神殿を通して勇者召喚などやめるよう神託をだしても、あの国はやめるどころか、神殿の方も神託を受けた神官を地下に閉じ込める始末。あの魔導具を壊してくれたことに感謝する」
 「いいえ、いただいたスキルのおかげです……」

 わたしが謙虚にそう言ったのに、ライ様はブフフと吹き出した。

 「いやー、普通魔導具を素材認識しないよー」
 「え? そういうメッセージが出てきたから、そういうものじゃなかったんですか」
 「スキルは使い手の認識にも左右されるんだ。香子は発想が自由なんだな」

 まじか。わたしがおかしかったんか。

 「そういうわけで、約束通り神殿で鑑定スキルを授けよう。そのついでに、神殿の地下にいる私の神官も助けてくれるなら、空間収納スキルも授けよう」

 「さすがに大盤振る舞いすぎなんでは?」

 空間収納って、ほらあれねアレ! ラノベ定番の荷物持たなくていいレアスキルでしょ?

 「遠慮しなくていい。その神官は私のお気に入りなんだよ」

 ……確かにありがたい。だけど。

 「見知らぬ神殿の地下で囚われてる、知らない人を助けるなんてどうやって……」
 「なに心配はいらない。鑑定スキルを使ってそのまま正しい道を鑑定しながら行けばいい。その後はあの召喚魔導具にやったように、囚われた神官に嵌められている魔力封印魔導具を素材採取してくれれば、後は本人がなんとかする」

 そうなん? でもなんだか大事なことの確認が抜けてる気がするけど、思い出せない。この歳になったら多いんだ。ちょっとしたことで、しようと思ったことを忘れるの。

 「さあそろそろ時間だな。神殿で待っているよ! ああそれから、一緒に召喚された女性と共に、その国からはさっさと移動した方がいい。勇者には彼の命運がある。気にせず逃げろ」

 ああ……それ。そんな気はしてたけど、ライ様からはっきり言われると、不安になるじゃないですか。

 異世界でか弱い女性二人にどうしろと?
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