ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜

天三津空らげ

文字の大きさ
9 / 44

9 猫の目

しおりを挟む
 アシャールさんほど顔の良い男は、未だこの異世界でお目にかかったことはなかった。

 これってヤバくない?
 目立たず生きたいと思っても、この人が側にいる限り絶対無理ってことよね。
 今めちゃくちゃ注目されているのは、アシャールさんのせいやよね?

 決してわたしがリアカーで引かれてるからじゃないがやよ。誰かそう言って!

 わたしはドナドナと冒険者ギルドまでリアカーで連行されていますよ。
 よくよく考えれば、アシャールさんだけじゃなく、男装してる奈々美さんも美人だし、その中にお太り様のおばさんが混ざってるのは、人々の印象に残る組み合わせじゃないかしら……?

 いやでも、イケメンリアカーが一番ダメじゃない?!


 「冒険者登録か? こちらの魔導具に手を翳して魔力を流してくれ」

 冒険者ギルドの受付で。
 わたし達は順番に、言われた通り手を翳していく。登録料はアシャールさんが払ってくれた。

 そしてそのまま三人でパーティ登録するのだが……、

 「パーティ名?」
 「どうしますか?」
 「ミケ子とゆかいな仲間達、じゃダメ?」
 「ミケ子さんの下僕、でも良いんじゃないですか?」

 お。奈々美さん、良いアイデア。文字数が短くなったね!

 「もう少しシンプルな方が良いですね。依頼契約時にパーティ名を記入することもありますので」

 なるほど……。ついでに気になってたことも聞いとこう。

 「アシャールさんとミケ子は同じ目の色をしてますが、それってライ様の加護か何か?」
 「ええ、主の加護の証です」
 「じゃあ、猫の目、なんてどう?」

 「意義なしです」
 奈々美さんも賛同してくれた。

 「では登録して来ますね」

 アシャールさんが手続きをしてくれてる間、わたしは素材の買取をしてもらえるか聞いてみる。

 「解体は必要か?」
 「いえ、全て解体済みのものです」

 わたしはホーンラビット数匹分の素材と、いくつか薬草の束を取り出す。
 奈々美さんが、掲示板から対応する依頼書をいくつか持って来てくれた。薬草の他にも、ホーンラビットがあったので、それも。

 「パーティ登録が終わったら、パーティでの依頼完了にしてもらえますか?」
 「わかった。それにしても、どれも状態がいいな……」

 そうでしょうとも、そうでしょうとも。
 わたしははじめてこの世界で、正当なお金を得られそうで、ちょっと嬉しい。

 この世界のお金の単位はダルという。
 薬草は基本、一本百ダルで買い取っている。ホーンラビットは毛皮や骨や内臓も合わせた丸々一匹分の素材で一万ダルになった。状態が良いとのことで、少し色をつけてくれたらしいの。
 何せ初心者がまず一番初めに狩るのが、このホーンラビットで、武器で何度も刺されたり魔法で焼かれたりと、綺麗に仕留められることがなかった。実際は素材に出来る部分が少ないらしい。

 「あ、包み紙は返して貰っても良いですか?」

 パナマ草茶の茶殻をすりつぶして繊維にして作った紙に品質保存の魔法を付与してある。しかも使い回しがきくスキルちゃん達自慢の逸品だ。包んでよし、紙袋にしてもよしで、わたしも多いに助かっている。

 「わかった。ちょっと待っててくれ」

 お兄さんは素材を持って一旦奥にいって、代金と包み紙を持って帰ってきた。

 「問題なければ、この依頼完了書類と買取証にパーティ名を書いて魔力を流してくれ」

 なるほど。短いパーティ名にして良かったー。わたしが書類を書き込んでいる間に、奈々美さんが銀貨を数えて、間違いないことを確認してくれてる。
 そしてアシャールさんは掲示板を眺めている。あれは依頼を受けるためじゃなくて、情報収集だなと思いますのよ。

 因みにわたし達が教わった鋳造貨幣(コイン)の価値はこんな感じ。

 小銅貨 一ダル 
 半銅貨 五ダル 
 銅貨  十ダル 
 小銀貨 百ダル 
 半銀貨 五百ダル
 銀貨 千ダル
 大銀貨 一万ダル
 金貨 十万ダル
 大金貨 百万ダル
 白金貨 一千万ダル

 わたしが手にしたのは、ちょうど大銀貨十二枚。パナマ草と共に、薬草も大量採取していたのです。
 四枚ずつ均等に分けようとしたが、アシャールさんは遠慮した。教会から強奪した慰謝料、どんだけあったんだろう?

 奈々美さんも遠慮しようとしたが、わたしは手続きを手伝ってもらったのでと渡す。アシャールさんが受け取らなかった分は、パーティの共通費用として貯金しておく事にした。空間収納スキルの中に。紙袋に猫の目貯金とラベリングしてお金を入れておいた。

 しかし疲れたわ。これから旅に出るってことは、毎日疲れちゃうのね……。少しでも対策しなくちゃ。

 今日森で採取した素材に、良いものがあったらしく、スキルちゃんがららん。と働いている。体力的に疲労してても、魔力的にはそうじゃないものなのね……。精神的疲労ともまた別枠なのかしら魔力って。謎だわ。

 《別じゃないよー。魔力を過剰に消費しても疲労するから。でも安心してー。スキルちゃん達は本体有りきの存在なので、本体の健康には留意するの。本体のレベルが上がってスキルちゃんのレベルも上がって、魔力消費の効率化がぐんぐん進んでますー。ららん》

 なるほど、そうよね。アシャールさんも魔力枯渇状態で……あれ、でもそこそこ元気そうよね。

 《お陰様で、普通の人族よりちょっと多いくらいの魔力量まで回復してます。スキルちゃん達から妻の愛(余剰魔力)をいただいているので。とても素晴らしい愛です。……それに本体は元々体力はある方なので、普通の活動には支障ありません》

 アシャールさんの魔力ちゃんが、すっかりスキルちゃん達にお世話されてるのだわ。
 騙し討ちの結婚の意図がそれだとしたら、納得だわ。あの人かなり衰弱してるもの。
 まあいいか。こっちもお世話して貰ってるから、良い協力関係を目指しましょ。

 《このたまご温めてー。るるん》

 卵? 十中八九魔物の卵よね。いいの? ……ま、いっか。スキルちゃんのすることだもの、何か考えがあるに違いない。

 そっとミケ子の鞄に二つの卵を入れる。思ったより大きい卵ね。鞄が一気に膨れたわ。ミケ子は特に気にする様子もなく、卵を抱えてゴロゴロいっている。気に入ったのかな?

 冒険者ギルドを出て、そのまま町を出た。今回のわたし達はそう、歩き&リアカー。
 ホーンラビット以外は自動採取していいと言われて、スキルちゃんはタップダンスをしている。

 「これ涼しくて良いですね。それに市女笠みたいで、テンション上がります」
 「だよね。だよね!」

 まずスキルちゃんが造ってくれてたのが、菅笠だ。染料になる葉で綺麗な藍色に染めてある。ちょっとこだわって、市女笠のように虫の垂れ衣をつけた。長時間お外にいるなら、紫外線対策に必要だろう。ちゃんと紫外線カットも付与してある。

 そしてペットケージ。これは……森で材木と樹液をいただいていたらしく、おトイレや水入れも置ける。上に手すり、下に車輪とストッパーがついて移動も可能だ。
 さっそくミケ子には、卵と共にそちらに移ってもらう。上下の運動が可能な高さと足場もあるので、運動不足の心配は無くなった。そんでもって車輪はしっかりしたゴムタイヤでサスペンションも付いていて、さらに振動を軽減する魔法が付与されている。
 サスペンション用の素材、どこで採取してたの?

 《ゴミ捨て場からー。あの森にあったのー》
 なるりょ。使えなくなった武器とかかな。

 「この卵、どうされたのですか?」

 薄布越しだとアシャールさんの超絶美形も軽減されるかと思ったけど、そうじゃなかった。ふいに布の奥から現れた時が危険だった。そう、今のように。うむ。顔がいい。

 「スキルちゃん達が採取してました。〈森のたまご 森のような魔力のある場所に突然発生し、希少な魔物や植物を生むたまご〉どんな素材が生まれるか楽しみにしているようです」
 「ああ、やっぱり『森のたまご』でしたか。高位の魔物が生まれる確率が高いので、普通は見つけたらすぐに壊してしまうものなのですよ。誰かに見られて、要らぬ諍いが起こっても困りますから、こちらは鞄の中で大事に仕舞っておいてくださいね」
 「はあい」

 注意をうけて、わたしは素直に卵を鞄に仕舞う。するとミケ子がするりとゲージから出て、一緒に鞄の中に潜りこんだ。

 「え?!」
 「あれ……ミケ子ちゃん上段の方にいましたよね? いったいどうやって出たんでしょう?」

 奈々美さんが言いたいこと全部言ってくれた。
 わたしは鞄の中を覗いて、ミケ子を見た。おっとりとしたお顔でミケ子もわたしを見ている。そしてわたしの頭の中に文字が現れた。

 「ええと……《ミケ子は、「飼い主の元に絶対帰還スキル」を発動しました。どこに閉じ込められても自由に出て、一瞬で香子の側に戻ることができます》……?! ケージ造っても無駄だったってこと?!」

 がっくりと肩を落とすわたしに、奈々美さんが慰める。

 「でも迷子の心配がなくなる、良いスキルですよ! ねっ、アシャールさんもそう思いますよね?」
 「ええ、ミケ子さんが香子さんと一緒にいると決めたからこそ、目覚めたスキルだと思いますよ」

 奈々美さん優しい……。そしてアシャールさん……ミケ子にとってわたしは、突然うちの子だと親元から連れ去った女……。突然初対面で結婚してきたアシャールさんと同類じゃない……。なのにこんなわたしを受け入れてくれたというの?!
 なんて……なんて器の大きい猫ちゃんなのか!! ミケ子最高では?!

 「ミケ子、尊い……」
 わたしは、ミケ子を抱きしめて嬉し涙した。
 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。
 わたしの腕の中で小さな幸福の音が、響いていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...