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20 討伐履歴
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「それな。なかなか受けてくれるやつが居なくて、困ってるんだよな……あ、でも流石にGランクに回したりはしねえぞ」
そんな話をしている内に、買取窓口で呼ばれました。
「あ、あっちで呼ばれたんで行ってきます。ありがとうございました」
窓口を離れる時に、アシャールさんはさりげなくアイアンリザード駆除の依頼書を持って来たなど、わたしは知らなかったですよ。本当に。
応接室になっている部屋に通されて、わたしは査定の確認をした。
眼鏡のおじさまが皮紙の書類を取り出す。
「たしかに百体分、どこも欠損のない最高の状態だった。合計二十五億ダル。白金貨二千五百枚だ。問題ないなら受け取りにサインをして魔力を流してくれ」
二十五億ダルという現実身のない大金にわたしが固まっていると、アシャールさんが書類を確認して眼鏡のおじさまに一千万ダルは白金貨でなく、金貨と大銀貨、銀貨を混ぜてほしいと交渉する。
「まあ確かに白金貨じゃそうそう使い所がないな。わかった、少し待ってくれ」
眼鏡のおじさまが近くにいた女性に両替するよう声をかける。
アシャールさんはアイアンリザードの駆除依頼書をすっと出した。
「それからこちら、私達が受けてもよろしいですか」
「……アイアンリザードの倒し方は?」
おじさまの眼鏡が、キラリと光る。
アシャールさんは呆れた顔をした。
「口の中に長剣もしくは槍を突き立て、内臓を抉れと教えましたよね? もう忘れてしまいましたか」
ん? アシャールさん、この眼鏡のおじさまとお知り合い?
「相変わらずだな、アシャール神官。あんた何してんだよこんなところで。今更Gランク冒険者って何? うちの前に置いてある、あのデカい馬車もあんただろ」
「ええ、まあ。それではこちらの依頼は受けても大丈夫ですよね」
「待った。アシャール神官だけでもランクを上げておく。そうじゃないと、他の冒険者達に示しがつかない」
「Sはお断りしますよ」
「はいはい」
アシャールさんは眼鏡のおじさまに冒険者証を渡す。
わたしの視線に気づいて、アシャールさんは説明してくれた。
「彼は元冒険者で、私は何度も死の淵から彼を呼び戻したものです。お陰で今や立派なギルド長になったのですよ」
「ギルド長さんでしたか……」
眼鏡のギルド長さんが、アシャールさんに冒険者証を返す。
「Aにしといた。あと討伐履歴を確認したが、アシャール神官あんた一体もワイバーンを倒してないんだが?」
「してませんからね」
「アシャールさん、討伐履歴って?」
「冒険者証は魔導具になっていて、持ち主の名前や種族、国籍などの一般的な情報の他にも、狩ったり倒したりしたものを自動的に記録するようになっているのです。魔物駆除の証明や依頼の不正を防ぐためのものですね」
ということは、よくあるゴブリンの討伐証明に耳切り取って提出するとかないのね。良いことだわ。
「さて、じゃあ二人の討伐履歴を確認させてもらう。俺はてっきりアシャール神官がワイバーンを仕留めたと思ってたからな」
わたしと奈々美さんは素直に冒険者証を渡した。
ギルド長さんは、まず奈々美さんの討伐履歴を確認する。
「聖女……? なんだあんたアシャール神官のお弟子さんか」
奈々美さんは、え?! という顔をしたが、声には出さなかった。神殿関係者だと思われる方が都合が良いものね。
「ホーンラビットから堅実に倒していってるな。無理のない、良い成長ぶりが見えるようだ……で、ここでワイバーンを二体……二体だけか?」
ギルド長、腑に落ちない顔で、魔導具から奈々美さんの冒険者証を引き抜くと、わたしの冒険者証をセットする。
ギルド長さんなんだか渋い顔になってきたわ。
「あんた……大人しそうな顔して、意外と戦闘好きなのか……」
「非戦闘員です」
ぶんぶんと首を横に振る。ぶんぶん。
「なんで非戦闘員の討伐量が一番多い……なんだ、これ」
ギルド長さんはアシャールさんを見た。
「なんだ、これ! ワイバーン討伐数、五千六百九十八体?!」
「不正はなかったことが、お分かりいただけましたでしょうか」
「不正はなかったが、疑問が生まれたじゃねえか。武器なんて持ったこと無いような綺麗な手でどうやってワイバーンを……! それにこんだけワイバーンが出たら普通はどっかの国がほろ……ああ、フェイルの国境のでワイバーンが出たってことは聞いてたが、こんな大群だったのか……」
ちょうど両替にいっていた女性が戻ってきたわ。
わたしはお礼を言って、鑑定で積まれた金額に間違いない事を確認し、書類にサインして魔力を流す。
「なあアシャール神官、その駆除依頼
俺も同行していいか? ギルドとして状況を把握しておく必要かあるからな」
「ギルド長が自らですか? まあ良いでしょう。では明日の早朝こちらに迎えに来ますから」
「ああ頼む。一応武装はして」
「その必要はありませんが、場所が鉱山付近なので、念の為のギルドの通信魔導具だけ持って来てください」
「あ……ああ」
なんか話が決まったようだけど、そうするとギルド長さんも馬車に乗って貰うのかしら。猫アレルギーとかないか心配……あ、無さそうね。良かったわ。
「ねえ、アシャールさん、これだけお金があったら、土地を買って家を建てることは出来る?」
「そうですね。腕の良いドワーフに、しっかりした家の建築を依頼することが出来ますよ」
「パナマ草農園も作れる?」
「作れますね」
わたしは夢膨らませながら、馬車へ向かった。広いベッドでミケ子を侍らせながらぐっすり寝たい。猫ちゃんと一緒に寝るのはこの世の贅沢の極みなのだ。
ああ、極上の寝具を作るには、どんな素材が必要かしら。
そんなふわふわの気持ちも、馬車に近づいた途端に「キトーッ」と鳴かれて現実に戻った。
「キトキトーッ」
「キットキトーッ」
「ピホウ」
動いてる。馬車が動いてる。
待ちきれなかったキトキトコンビが寄って来たからね。クロったら、ちゃんと側に立ててた看板咥えて持って来た。
「はいはい。待っててくれてありがとうね」
クロから看板を受け取って、キトキトコンビを撫で回す。ピホはわたしの肩に乗ってご満悦だ。
わたしに一通り撫でられると、キトキトコンビは今度は奈々美さんとアシャールさんにもナデナデを要求する。
一番身体が大きいのに、一番甘えっ子だったりするのだ。
そして馬車に乗って街に移動する。目的がある買い物なら、そのまま馬車で移動すれば良いのだけど、わたし達はふらふら散策したいので、車体はアシャールさんの空間収納に仕舞った。
ミケ子はわたしの鞄に。ピホは肩の上に。ムウはシロの上に乗って、アシャールさんとわたしがいるのだから、さあ目立つ団体だ。奈々美さんに申し訳ない気もするけど、彼女も注目されるのにすっかり慣れてしまったようすだ。
冒険者の中にはテイマーもいるのか、魔物を連れているのはわたし達だけでは無かったので、少し安心した。
「こっちの通りの向こうは冒険者用の武器や防具、魔導具などのお店が多いですね。香子は食器を見たいと言ってましたよね」
「そうなの。毎日使うコップをね。どうせなら磁器の可愛いのにしたいかなって。木のコップも軽くて良いんだけど、衛生面が気になって来たから」
洗濯物のように空間収納内で乾燥させることも出来るけど、パキッとヒビとか入る可能性を考えると怖い。この世界の木の食器は消耗品なのよ。
だけどアシャールさんが、磁器はこの世界独特の不思議素材を使っていて割れにくいと言っていたので、ちょっと物欲を膨らませていたの。
グランヒューム王国の王都でもそうだったけど、ちゃんとした職人のお店は盗難防止のためか、外から気軽に商品が見える造りにはなっていない。だからなかなか入りづらかったのよね。
「割れ物を扱うお店だし、皆んなには一旦神殿に戻ってもらう方が良いかしら……」
「シロ、クロ、ここに来る途中に小さな森があったのを覚えていますか」
「キト」
「キトキト」
「私達が買い物をしている間、そこでしばらく皆んなで遊んでいて下さい」
アシャールさんはキトキトコンビの首にそれぞれマジックバッグをかけてやる。わたしはその中に、パナマ草を入れる。
「お腹が空いたら、皆んなで分けて食べるのよ。ピホ、よろしくね」
ミケ子をクロに乗せて、ピホを撫でで空へと放った。森のたまご仲間の中では、一番小さなピホがしっかりしてるのよ。その後を、ミケ子とムウを乗せたキトキトコンビが飛んで行く。
なんだか子供の初めてのお使いを見送るような気持ちになってきたわ……。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。皆、主の加護をいただいていますから滅多なことはありませんよ」
そんなことは心配していないの。何か変なもの拾って来ないか心配なのよ……たまごとかね。
などとは口に出さず、わたし達は磁器工房のお店に入った。
「おや、アシャール神官いらっしゃい」
お店に入ると、品の良いおばあさまが出迎えてくれた。どうやらアシャールさんが贔屓にしているお店のようだ。
「今日はどんな品が御入用なのかしら」
「磁器のカップを見せていただいても?」
「だったら、そちらの棚になりますよ」
案内されながら、チラチラと他の商品も眺める。
無地のもの、色を付けただけのシンプルなもの、絵付けをされたもの……。
絵付けは皆手描きなんだけど、花柄とかに混ざって、お皿の縁を鳥を狩って血抜きして解体して……食卓に並ぶまでの過程を精密に描かれたものがある。それならまだしも、騎士が決闘をして……みたいなのも。
絵は芸術的だし、金彩の豪華な装飾もしてあり、物語性があっておもしろいんだけど、食事のお供にこの戦闘物語はいいの? 敵将の首とかも描かれてるけど。売れるのかしら……?
「お気に召しましたか?」
「すみません、物語になっているようで、つい珍しくて見入ってしまいました」
「ふふ、お客様の足を止めさせたのですから、うちの絵付け職人もきっと喜びますわ。カップにも彼が絵付けをしたものがあるんですよ」
まずい。カップの側面にぐるりとホーンラビットを狩って解体するまでの絵が描いてあったりしたらどうしよう……うっかりノリで買って後悔する未来しか見えないわ。
嫌いじゃないけど、パナマ茶で一服する癒しのひとときには、もっと他の可愛いのがいい! 冷静にならなきゃ。
「こちらにあるのがそうですわ」
「……!!! 手にとってみても?」
「ええ、どうぞ」
形はがっしりしたマグカップ。
上部と取手に綺麗な泡のような形が細かく細工され、その下に金彩の縁取り。そして美しい青と緑と桜色で。
一面に花の咲いたパナマ草が描かれていた。
「パナマ草って、こんなかわいい花が咲くの?!」
「まあ、博識でいらっしゃるのね。その草がパナマ草という名前だというのも、私は職人に聞くまで知らなかったのですよ」
他のカップを見ていたアシャールさんと奈々美さんも覗きにきた。
「これは……リガル叔父上の絵付けですね」
「そうそう、流石一目で分かるのね。とても美しく出来てるのに、皆んな『乞食草』の絵は嫌だって売れ残ってるのよね」
雑草の他に乞食草なんて呼ばれてるんだ……。
「同じものはありますか? 私もお揃いにしたいので」
「ええ、その柄で確か二つ作ったのよ」
おばあさまは棚の下の引き出しを確認する。
「奈々美さんはどう、良いのあった?」
「はい、これがすごく可愛くて……」
別の職人さんの絵付けだろう。雰囲気が明るくて優しい。森が描かれているのだけど、実の成る樹々の間からホーンラビットがチラチラ見え隠れするように描かれている。これは確かにかわいい!
「あったわ同じパナマ草柄!」
「ではこれも合わせてお願いします」
お店に入る前に、今回わたしが支払うので遠慮はなしと宣言しておいた。
「二時間程待ってくれたら、この底の部分にお名前入れますよ」
もちろん、名入れを頼みましたよ。
ついでにココット型を十個購入。早速スキルちゃんに蓋造りをお願いする。
そのあとは名入れが終わるまで街を見回る。
アシャールさんは旅の間に手に入らなかった野菜類や香辛料を補充し、わたしも砂糖と蜂蜜を買う。
柑橘系の果物は素材収納の中にあるから、これでまたスポーツドリンクが作れるわ。
そんな話をしている内に、買取窓口で呼ばれました。
「あ、あっちで呼ばれたんで行ってきます。ありがとうございました」
窓口を離れる時に、アシャールさんはさりげなくアイアンリザード駆除の依頼書を持って来たなど、わたしは知らなかったですよ。本当に。
応接室になっている部屋に通されて、わたしは査定の確認をした。
眼鏡のおじさまが皮紙の書類を取り出す。
「たしかに百体分、どこも欠損のない最高の状態だった。合計二十五億ダル。白金貨二千五百枚だ。問題ないなら受け取りにサインをして魔力を流してくれ」
二十五億ダルという現実身のない大金にわたしが固まっていると、アシャールさんが書類を確認して眼鏡のおじさまに一千万ダルは白金貨でなく、金貨と大銀貨、銀貨を混ぜてほしいと交渉する。
「まあ確かに白金貨じゃそうそう使い所がないな。わかった、少し待ってくれ」
眼鏡のおじさまが近くにいた女性に両替するよう声をかける。
アシャールさんはアイアンリザードの駆除依頼書をすっと出した。
「それからこちら、私達が受けてもよろしいですか」
「……アイアンリザードの倒し方は?」
おじさまの眼鏡が、キラリと光る。
アシャールさんは呆れた顔をした。
「口の中に長剣もしくは槍を突き立て、内臓を抉れと教えましたよね? もう忘れてしまいましたか」
ん? アシャールさん、この眼鏡のおじさまとお知り合い?
「相変わらずだな、アシャール神官。あんた何してんだよこんなところで。今更Gランク冒険者って何? うちの前に置いてある、あのデカい馬車もあんただろ」
「ええ、まあ。それではこちらの依頼は受けても大丈夫ですよね」
「待った。アシャール神官だけでもランクを上げておく。そうじゃないと、他の冒険者達に示しがつかない」
「Sはお断りしますよ」
「はいはい」
アシャールさんは眼鏡のおじさまに冒険者証を渡す。
わたしの視線に気づいて、アシャールさんは説明してくれた。
「彼は元冒険者で、私は何度も死の淵から彼を呼び戻したものです。お陰で今や立派なギルド長になったのですよ」
「ギルド長さんでしたか……」
眼鏡のギルド長さんが、アシャールさんに冒険者証を返す。
「Aにしといた。あと討伐履歴を確認したが、アシャール神官あんた一体もワイバーンを倒してないんだが?」
「してませんからね」
「アシャールさん、討伐履歴って?」
「冒険者証は魔導具になっていて、持ち主の名前や種族、国籍などの一般的な情報の他にも、狩ったり倒したりしたものを自動的に記録するようになっているのです。魔物駆除の証明や依頼の不正を防ぐためのものですね」
ということは、よくあるゴブリンの討伐証明に耳切り取って提出するとかないのね。良いことだわ。
「さて、じゃあ二人の討伐履歴を確認させてもらう。俺はてっきりアシャール神官がワイバーンを仕留めたと思ってたからな」
わたしと奈々美さんは素直に冒険者証を渡した。
ギルド長さんは、まず奈々美さんの討伐履歴を確認する。
「聖女……? なんだあんたアシャール神官のお弟子さんか」
奈々美さんは、え?! という顔をしたが、声には出さなかった。神殿関係者だと思われる方が都合が良いものね。
「ホーンラビットから堅実に倒していってるな。無理のない、良い成長ぶりが見えるようだ……で、ここでワイバーンを二体……二体だけか?」
ギルド長、腑に落ちない顔で、魔導具から奈々美さんの冒険者証を引き抜くと、わたしの冒険者証をセットする。
ギルド長さんなんだか渋い顔になってきたわ。
「あんた……大人しそうな顔して、意外と戦闘好きなのか……」
「非戦闘員です」
ぶんぶんと首を横に振る。ぶんぶん。
「なんで非戦闘員の討伐量が一番多い……なんだ、これ」
ギルド長さんはアシャールさんを見た。
「なんだ、これ! ワイバーン討伐数、五千六百九十八体?!」
「不正はなかったことが、お分かりいただけましたでしょうか」
「不正はなかったが、疑問が生まれたじゃねえか。武器なんて持ったこと無いような綺麗な手でどうやってワイバーンを……! それにこんだけワイバーンが出たら普通はどっかの国がほろ……ああ、フェイルの国境のでワイバーンが出たってことは聞いてたが、こんな大群だったのか……」
ちょうど両替にいっていた女性が戻ってきたわ。
わたしはお礼を言って、鑑定で積まれた金額に間違いない事を確認し、書類にサインして魔力を流す。
「なあアシャール神官、その駆除依頼
俺も同行していいか? ギルドとして状況を把握しておく必要かあるからな」
「ギルド長が自らですか? まあ良いでしょう。では明日の早朝こちらに迎えに来ますから」
「ああ頼む。一応武装はして」
「その必要はありませんが、場所が鉱山付近なので、念の為のギルドの通信魔導具だけ持って来てください」
「あ……ああ」
なんか話が決まったようだけど、そうするとギルド長さんも馬車に乗って貰うのかしら。猫アレルギーとかないか心配……あ、無さそうね。良かったわ。
「ねえ、アシャールさん、これだけお金があったら、土地を買って家を建てることは出来る?」
「そうですね。腕の良いドワーフに、しっかりした家の建築を依頼することが出来ますよ」
「パナマ草農園も作れる?」
「作れますね」
わたしは夢膨らませながら、馬車へ向かった。広いベッドでミケ子を侍らせながらぐっすり寝たい。猫ちゃんと一緒に寝るのはこの世の贅沢の極みなのだ。
ああ、極上の寝具を作るには、どんな素材が必要かしら。
そんなふわふわの気持ちも、馬車に近づいた途端に「キトーッ」と鳴かれて現実に戻った。
「キトキトーッ」
「キットキトーッ」
「ピホウ」
動いてる。馬車が動いてる。
待ちきれなかったキトキトコンビが寄って来たからね。クロったら、ちゃんと側に立ててた看板咥えて持って来た。
「はいはい。待っててくれてありがとうね」
クロから看板を受け取って、キトキトコンビを撫で回す。ピホはわたしの肩に乗ってご満悦だ。
わたしに一通り撫でられると、キトキトコンビは今度は奈々美さんとアシャールさんにもナデナデを要求する。
一番身体が大きいのに、一番甘えっ子だったりするのだ。
そして馬車に乗って街に移動する。目的がある買い物なら、そのまま馬車で移動すれば良いのだけど、わたし達はふらふら散策したいので、車体はアシャールさんの空間収納に仕舞った。
ミケ子はわたしの鞄に。ピホは肩の上に。ムウはシロの上に乗って、アシャールさんとわたしがいるのだから、さあ目立つ団体だ。奈々美さんに申し訳ない気もするけど、彼女も注目されるのにすっかり慣れてしまったようすだ。
冒険者の中にはテイマーもいるのか、魔物を連れているのはわたし達だけでは無かったので、少し安心した。
「こっちの通りの向こうは冒険者用の武器や防具、魔導具などのお店が多いですね。香子は食器を見たいと言ってましたよね」
「そうなの。毎日使うコップをね。どうせなら磁器の可愛いのにしたいかなって。木のコップも軽くて良いんだけど、衛生面が気になって来たから」
洗濯物のように空間収納内で乾燥させることも出来るけど、パキッとヒビとか入る可能性を考えると怖い。この世界の木の食器は消耗品なのよ。
だけどアシャールさんが、磁器はこの世界独特の不思議素材を使っていて割れにくいと言っていたので、ちょっと物欲を膨らませていたの。
グランヒューム王国の王都でもそうだったけど、ちゃんとした職人のお店は盗難防止のためか、外から気軽に商品が見える造りにはなっていない。だからなかなか入りづらかったのよね。
「割れ物を扱うお店だし、皆んなには一旦神殿に戻ってもらう方が良いかしら……」
「シロ、クロ、ここに来る途中に小さな森があったのを覚えていますか」
「キト」
「キトキト」
「私達が買い物をしている間、そこでしばらく皆んなで遊んでいて下さい」
アシャールさんはキトキトコンビの首にそれぞれマジックバッグをかけてやる。わたしはその中に、パナマ草を入れる。
「お腹が空いたら、皆んなで分けて食べるのよ。ピホ、よろしくね」
ミケ子をクロに乗せて、ピホを撫でで空へと放った。森のたまご仲間の中では、一番小さなピホがしっかりしてるのよ。その後を、ミケ子とムウを乗せたキトキトコンビが飛んで行く。
なんだか子供の初めてのお使いを見送るような気持ちになってきたわ……。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。皆、主の加護をいただいていますから滅多なことはありませんよ」
そんなことは心配していないの。何か変なもの拾って来ないか心配なのよ……たまごとかね。
などとは口に出さず、わたし達は磁器工房のお店に入った。
「おや、アシャール神官いらっしゃい」
お店に入ると、品の良いおばあさまが出迎えてくれた。どうやらアシャールさんが贔屓にしているお店のようだ。
「今日はどんな品が御入用なのかしら」
「磁器のカップを見せていただいても?」
「だったら、そちらの棚になりますよ」
案内されながら、チラチラと他の商品も眺める。
無地のもの、色を付けただけのシンプルなもの、絵付けをされたもの……。
絵付けは皆手描きなんだけど、花柄とかに混ざって、お皿の縁を鳥を狩って血抜きして解体して……食卓に並ぶまでの過程を精密に描かれたものがある。それならまだしも、騎士が決闘をして……みたいなのも。
絵は芸術的だし、金彩の豪華な装飾もしてあり、物語性があっておもしろいんだけど、食事のお供にこの戦闘物語はいいの? 敵将の首とかも描かれてるけど。売れるのかしら……?
「お気に召しましたか?」
「すみません、物語になっているようで、つい珍しくて見入ってしまいました」
「ふふ、お客様の足を止めさせたのですから、うちの絵付け職人もきっと喜びますわ。カップにも彼が絵付けをしたものがあるんですよ」
まずい。カップの側面にぐるりとホーンラビットを狩って解体するまでの絵が描いてあったりしたらどうしよう……うっかりノリで買って後悔する未来しか見えないわ。
嫌いじゃないけど、パナマ茶で一服する癒しのひとときには、もっと他の可愛いのがいい! 冷静にならなきゃ。
「こちらにあるのがそうですわ」
「……!!! 手にとってみても?」
「ええ、どうぞ」
形はがっしりしたマグカップ。
上部と取手に綺麗な泡のような形が細かく細工され、その下に金彩の縁取り。そして美しい青と緑と桜色で。
一面に花の咲いたパナマ草が描かれていた。
「パナマ草って、こんなかわいい花が咲くの?!」
「まあ、博識でいらっしゃるのね。その草がパナマ草という名前だというのも、私は職人に聞くまで知らなかったのですよ」
他のカップを見ていたアシャールさんと奈々美さんも覗きにきた。
「これは……リガル叔父上の絵付けですね」
「そうそう、流石一目で分かるのね。とても美しく出来てるのに、皆んな『乞食草』の絵は嫌だって売れ残ってるのよね」
雑草の他に乞食草なんて呼ばれてるんだ……。
「同じものはありますか? 私もお揃いにしたいので」
「ええ、その柄で確か二つ作ったのよ」
おばあさまは棚の下の引き出しを確認する。
「奈々美さんはどう、良いのあった?」
「はい、これがすごく可愛くて……」
別の職人さんの絵付けだろう。雰囲気が明るくて優しい。森が描かれているのだけど、実の成る樹々の間からホーンラビットがチラチラ見え隠れするように描かれている。これは確かにかわいい!
「あったわ同じパナマ草柄!」
「ではこれも合わせてお願いします」
お店に入る前に、今回わたしが支払うので遠慮はなしと宣言しておいた。
「二時間程待ってくれたら、この底の部分にお名前入れますよ」
もちろん、名入れを頼みましたよ。
ついでにココット型を十個購入。早速スキルちゃんに蓋造りをお願いする。
そのあとは名入れが終わるまで街を見回る。
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