ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜

天三津空らげ

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29 タダで貰っていいんですか?!

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 「フハハハハ! このように醜い身体で顔すら布で隠さねばならぬ女が、貴様の妻か! 国一番の美男の嫁ならばと期待したが、言うほどのこともない。てんで女を見る目が無いではないか! フハハハハ!!」

 皇帝さんは上機嫌に、わたしとアシャールさんをこき下ろしている。
 ワァ……めっちゃ、気持ち良さそうだわ。

 ご丁寧にね、謁見の間に貴族達も侍らせて一緒に笑っているのよ。なんだこれ。
 初対面のわたしにすら、めっちゃアシャールさんに劣等感持ってますから、こんなことでしかマウント取れませんって教えてくれてるの、態度で。親切なの?

 こんなことになったのは、宮廷に着いた途端にアシャール神官とその妻は来られたしと呼び出しがかかったからで、奈々美さんに馬車とミケ子とたまご仲間達を任せて、身だしなみを整える間もなく連れて来られたから。

 「我が妻の魅力は、私の瞳にしか映らぬ特別なものなのです。皆様方にお見せ出来ないのは残念ですが、陛下も満足されたようですし、ティグノルの地を妻にいただきたい」

 わたしは虫の垂れ衣の中で、目も口も開いて驚いた。うっかり茶でも飲んでたら、吹き出したとこよ?

 買うんじゃなかったの? 買うんじゃなかったの?
 アシャールさんの中ではもう、愉悦させてやったから、タダで寄越せよになったのね!

 そして笑い声に満ちていた謁見の間が静まりかえった。

 皇帝さんの口元がひくつく。
 だが皇帝さんの後ろに控える二十人の女性の中で、一際輝いてみえる美貌の皇妃さんの、顳顬のひくつきの方が目に入ってくる。両隣の美女と共に、ずっとわたしに心配と申し訳なさの瞳を向けていたので。
 きっとあの人達がアシャールさんのお姉さんと姪御さんね。

 「フッ、己ではなく、妻にと言ったことは褒めてつかわそう。随分と謙虚になったものよ。しかしティグノルの地など使い物にならぬ土地、愛妻に与えてどうする」
 「使い物にならぬ土地でしたら、無主地にされても構わないでしょう」
 「無主地? 貴様そこを拠点に我が国に反旗を翻す気か!」

 興奮して立ち上がった皇帝さんを、アシャールさんはやれやれといった顔で見た。

 「そんな面倒なことに興味はありませんよ。それにわざわざティグノルを拠点にする必要もないでしょう。やるなら、アオリハでやりますよ。ティグノルを無主地にしたいのは、ただの税金対策です」

 そんなことも理解できないのかというアシャールさんの空気に、皇帝さんもヒートアップする。

 「そもそも貴様らフェイ族は、ティグノルには入れぬであろう! 己の翼を半分もゼルヴァスヘルベインに喰われたのを忘れたか、この愚か者!!」

 ゼル……なに?

 「では魔族、そして他の種族はティグノルに入れるのですか?」
 「……っ、そこまで言うならくれてやろう! ただし我が国では無くなるのだ。何かあっても援助は一切せぬ。貴様もこの国から籍を抜く。後で後悔しても遅いぞ!」

 アシャールさんはニヤリと笑うと、優雅に頭を下げた。
 「陛下のご温情に感謝いたします。では早速宰相殿、手続きと、私達がこの国に立寄った際に関しての取り決めを行いましょう」

 ちょっと展開が早すぎて、ついてけないわ。

 えーと、アシャールさんが皇帝さんを煽って、買い取るつもりだった土地をうまくタダでせしめて、しかも無主地……? 国に所属しない土地にしたってこと? ただの私有地? そんなことってありえるの? いや異世界なら法も違うだろうしありえるん?

 気がつけば皇帝さんも、貴族達も退席して行く。わたし今回、アシャールさんのただのおまけだったわ。

 「アシャール、貴方が宰相と話をしてる間に、貴方の妻は私達が預かるわ。構わないわよね」

 皇妃の中でも一際目立つ一団だった三人美女に囲まれて、わたしはわけもわからず離宮に連れていかれたのだ。
 背後にアシャールさんの、すぐに迎えに行きますの声を聞きながら。



 「私は第四皇妃リリーティア。アシャールの姉です。そしてこの子達は私の娘のセシリアとマリーシェラ。共に第五皇妃と第六皇妃です」
 「初めまして。香子(かおりこ)です。アシャールさんにはとてもお世話になっています」

 わたしはなるべく失礼にならないよう気を使いながら、お辞儀した。

 アシャールさんが迎えに来られるように、後宮ではなく離宮のリリーティアさんの使用している部屋で、質の良いソファに腰掛けるよう勧められた。

 「ごめんなさいね。アシャールのせいで、陛下が貴女を傷つけるようなことを……陛下も普段は為政者として威厳と温情ある姿を見せる方なのですが……」
 「それは……アシャールさんと相性が悪いんですね……」

 リリーティアさんがため息をついた。
 「それはもう……。あの子は同性に嫌われるタイプでしょう?」
 「なんとなくわかります」

 わたしの両隣で、セシリア妃とマリーシェラ妃がくすくす笑う。
 上品だけど胸元が開いた女性らしさを強調する衣装の、とびきりの美女に囲まれて、おじさんのように夢心地になってしまうのだけど。

 「ふふふ。カオリコさんの腕とても抱き心地が良いわ。それに良い匂いがします。お化粧品? ううん、髪や衣類からも」
 「えへへ。うちでは洗濯も身体を洗うのも同じ薬草を基本に、香りが喧嘩しないように作った洗剤を使ってますから。毎日洗浄しても肌や髪、繊維を傷めない自慢の品です」

 わたしは良い気分で、とん、とん、と洗剤のボトルを出していく。

 「それからこちらの化粧水とクリームは、保水と保湿、そして日光による炎症や虫刺されを防いでくれます」

 本当はそれだけじゃなく美白や小皺を消したりもしてくれるけど、この人達そこまで必要なさそうだから省いた。

 「アシャールさんのご家族は女性が多いと聞いていたので用意しておいたのです。良ければお納めください」
 「あら嬉しい! ありがとうカオリコさん」

 セシリア妃はとても喜んでくれたが、マリーシェラ妃は驚きで固まっている。あ、この方、鑑定スキルお持ちなのね。品質に驚いているんだわ。

 そしてリリーティア妃は微笑んでいるものの、少し青ざめて具合が悪そう。流出期間なのだわ。

 「リリーティア妃様、わたしに構わずに楽な姿勢になさってください」
 「あらやだ。客人に気遣わせるなんて……」
 「初対面のわたしに、それだけ心を砕いて下さって感謝します。よろしければこちらのお茶をお試し下さい。女性の不調に良く効くと身内に評判のものなのです」

 リリーティア妃の大きな瞳が見開かれた。

 「昔から子宮を損なうものはあっても、癒す薬は無いと言われているのよ……」

 わたしは侍女さんにお願いして人数分のカップを用意してもらうと、ヴァレ茶を注ぐ。ミルクピッチャーも用意した。
 まず鑑定スキルをもつマリーシェラ妃が一口飲んで頷くと、他の二人も口をつける。
 わたしもヴァレ茶の香りを楽しんで、ミルクを足した。

 「お茶にミルクを入れるんですの?」

 マリーシェラ妃が驚いた顔をしたので、この世界でお茶にミルクは入れて飲まれてないことに、初めて気がついた。
 アシャールさんは特に何も言わずに、パナマ草茶を時々ミルクティーにするわたし達に付き合ってたので。

 「はい、わたしの故郷での楽しみ方の一つです。好みや気分、お茶請けに合わせてお茶にミルクを入れます。砂糖や蜂蜜なんかも入れれば、幼い子でもとても飲みやすくなるんですよ」
 「ミルクはどのくらい入れるんですの?」
 「お好みでお好きなだけ」

 どうやらマリーシェラ妃は好奇心が旺盛な方らしい。

 ヴァレ茶を出したところで、奈々美さんを思い出した。

 「失礼して仲間に連絡を入れさせていただいて良いでしょうか? きっと心配してると思うので……」
 「ええどうぞ。通信魔導具は必要かしら」

 セシリア妃が気を利かせてくれる。

 「手持ちがありますので、大丈夫です。あとこちらのテーブルの様子を写真に撮らせていただいても宜しいですか?」
 「写真? 映像ということ? テーブルの様子くらいでしたら大丈夫よ」

 感謝を述べてスマホで撮影すると、ライトモのグループトークに、土地が手に入ったこと、アシャールさんが手続きを済ませるまでわたしが皇妃様達に保護されていることを、テーブルの写真付きで送信した。

 「まあ、初めて見る通信方法ですわ!」
 「音声ではなく文字なのですね。映像もつけたら、確かに証拠となりますね」

 娘皇妃さん達は、両脇から興味津々に覗き込んだ。既読が二件表示された。

 『りょうかい。ピホ みんな まもる。ナナミも ねかせた。あんしん』

 まさかのピホから返信が来た。しかも、ミケ子がマジックバックからパナマ草を取り出して、皆んなに食べさせている動画付きで。てらかわゆす!! ピホ、グッジョブ! わたしは♡を付ける。

 「まあ! こんな可愛いらしい魔物達は見たことないわ! ねえ、お母様」

 リリーティア妃はソファに横になって、すやすや眠っていた。

 わたしが言うより、実際見てもらった方がいいだろうと、鑑定アプリを起動して、セシリア妃にみてもらう。

 「疲労を癒すための睡眠状態。およそ半刻後に一旦起きる予定……そう……そうですわよね……お母様いつも気を張っていらっしゃるから」

 セシリア妃とマリーシェラ妃はそれぞれクッションと膝掛けでリリーティア妃が楽なようにとお世話をすると、またわたしの両脇に戻ってきた。

 「この魔導具、鑑定機能も付いてますの? 製作したのは叔父様?」
 「いいえ、わたしのスキルちゃんです。アシャールさんには最終確認をお願いしました。こちらその時の試作機です。触ってみられますか?」
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