ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜

天三津空らげ

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37 スマホ販売します!

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 金の日、予定通りわたしとアシャールさんはアオリハにいた。

 説明はまとめて手短に済ませたいと、アシャールさんは今後の予定も聞かずに、大神官様とリガルさんを連れて冒険者ギルドに来て、そのまま眼鏡のギルド長さんを捕まえた。
 そして今冒険者ギルドの応接室で眼鏡が光っていた。

 「何台買える?」

 光る眼鏡を一瞥して、アシャールさんはゼニアス大神官様に微笑んだ。

 「どうしますか大神官様。私達が神殿に売って、それを冒険者ギルドに売ることも出来ますよ」
 「そうさのう。その場合にはいくら上乗せするのが適切かのう」
 「どうぞ、お好きなだけ」
 「フフフ、相変わらずお主は悪よのう」
 「ちょ、待って! 神殿通さなきゃダメ? 奥さんから直接買えないの?」

 「え? なにこの映像……! ピホくんにいきなり歌わされたと思ったら…… ……あ、……あぁ! リコちゃんこれ、ゼルヴァスヘルベイン!! え? リコちゃんやっつけちゃったの? う……うえぇぇん」

 あっ、あっ、リガルさん泣き出しちゃった。

 それを見て、地図アプリや電卓アプリばかり見てた大神官様とギルド長さんも、慌ててライトモを開く。
 わたしはリガルさんにハンカチを渡した。キンマユガの糸をガーゼにして、縁にピコレースのついた作ったばかりのお気に入りだが、ハンカチはいつも最低二枚携帯してるので問題なし。

 「あ、この『ネコノメ(公式)』っていうやつです『猫の目』は冒険者パーティ用なので投稿はこれからですね」
 「どこの国にも属さない私有地〈ネコノメ〉の平和的な生活を発信。所有者夫婦とその仲間たちが暮らしてます? 奥さんあんたらシュベルクランに行ったんじゃなかったのか?」
 「購入しようと思ったシュベルクランの土地を、どういうわけかアシャールさんがタダで貰っちゃって……」
 「……ああ、わかった。深く聞かねぇよ」

 その間も、うえんうえん泣いてる、実年齢最高齢者のリガルさんをチラ見して、ギルド長さんはなんとかしろよとアシャールさんを見る。もちろんアシャールさんは清々しいほど関係ない顔している。
 これが見た目通りの十三歳位の少年だったら、飴やチョコでもあげるのだが、残念ながらそんな嗜好品は持たない。今後はクッキーでも焼いて持ち歩くようにしようかな……。

 「リコちゃぁぁん」
 「はい」
 「アシャールと一緒に居てくれて、ありがとぉぉ」
 「はい、どういたしまして」

 すっかりぐずぐずに目を腫らしてしまっているリガルさんに、スキルちゃんに即席で作ってもらった、冷たいおしぼりを渡す。
 リガルさんはちょっと落ち着いてきたようなので、スマホ販売について話を再開するよ。

 「随分と楽しそうだな」
 大神官様はネコノメの投稿を見て微笑む。

 投稿の殆どがピホのものなので、わたしがレイエスと変な会話をしていた時の様子や、キンマユガと片手をタッチしながら挨拶を交わしている投稿もある。

 「この魔物達も奥さんの? アンデットのレイエスもいるけど」
 「いえいえ、ネコノメに住む素材提供者やご近所さんです」
 「いや、わけわからんわ。ご近所の魔物とか普通は脅威だろ」
 「キンマユガさんは大人しく友好的で、会えば物々交換し合う仲です」
 「キンマユガ……!! もしかして、奥さんあれ持ってる?!」
 「これですか?」

 わたしはキンマユガの、手持ちの中で一番大きな真珠を取り出した。ギルド長さんの眼鏡がギラリと光る。

 「いくらだ?」

 わたしはにっこり微笑むと、そのまま大神官様に渡した。

 「ライフォート様の神像の飾りにご使用下さいませ」
 「これはこれは。主も大いにお喜びになりましょうぞ」
 「奥さん~」
 「美しいものを見て、まずその美しさに感嘆するより、金額に換算するようではダメですよー」
 「くっそぉ」

 「ぐす……リコちゃんこのハンカチ、すっごく肌触り良いね。ごめんね、高価なものなのに、おいらくしゃくしゃにしちゃった……」

 ぱんぱんの目をしてそんなこと言うので、わたしはおしぼりを交換して冷え冷えのを渡す。

 「なーんですよ。お洗濯は得意なので気にしないで下さいね。それにそのハンカチはスキルちゃんが作ってくれたので、高価でもないんです」
 「リコちゃん……リコちゃんのスキルはめちゃくちゃレベルが高いから、それで作ったものはもう、それだけですごい価値なんだよ! このハンカチ、何で出来てるの?」
 「えーと、キンマユガの繭の糸から……」
 「ほら! このハンカチはもうリコちゃんじゃないと作れないものだよ! リコちゃんは自分の価値をわかってない! このままじゃきっと眼鏡をかけた悪いやつに騙されちゃうよ。こんなの放っておけない! 心配だから、おいらもネコノメで暮らす!」

 あっ、それ、唯の言い訳ですね。本音は単にネコノメに来たいんですね。

 「えーと、リガルさん、工房のお仕事どうするんですか? 絵の具とかそういうのも、ネコノメでは手に入りませんよ?」
 「そんなのピホ君と買い物に行けばいいだけだよ! おいらちょっと工房に行ってくるから待ってて!」

 あっという間にリガルさんは出ていく。良いの?
 わたしはアシャールさんを見た。

 珍しくアシャールさんは、深いため息を吐いていた。

 「あれは止めても無駄です。隣にアトリエと寝る場所を作って、高い家賃を取りましょう」

 持ち込んだスマホ百台は大神官様に渡すと、そのまま三割増の値段で冒険者ギルドが買い取った。そして大神官様から代金を受けるわたし達なのであった。



 シュベルクランの皇宮では、マリーシェラの報告を受けて、皇帝グレンドが眉間に皺を寄せていた。その場には、皇帝の他にその息子二人と宰相、そしてリリーティア妃と奈々美がいた。

 「リエンダー領から、ティグノルの黒い霧が晴れたと報告がありましたが、まさか本当にゼルヴァスヘルベインを……?」

 第一皇子のカランが、マリーシェラを見た。マリーシェラはただ頷く。
 リエンダー領は今はネコノメなティグノルの隣領地。お陰で魔物の出現率が高く、いつでもゼルヴァスヘルベインがティグノルから出てリエンダー領まで来ないかと警戒していた。

 皇帝は悔しげに奥歯を噛み締める。

 「一体どうやって倒したというのだ……いや、元々そういう算段があったのだな。我ともあろうものが、アシャールめにまんまと嵌められたわけか……っ!」
 「いいえ、あれは陛下の英断だったのですわ」

 マリーシェラはにっこりと笑った。

 「おかげでカオリコさんは、とくにこの国に敵意もなく、ネコノメの暮らしを楽しんでいますもの」
 「カオリコ? ああ、アシャールの妻か。あの女がどうしたと言うのだ」
 「アシャール叔父様はそれはそれはカオリコさんを大切になさってますの。家を持って農園を作るのがカオリコさんの望みでしたので、もし土地を与えなかったら、この国は大変な損失を被っていましたわ。こちらをご覧下さいませ」

 マリーシェラが出した魔導具を見て、宰相が目を見張らせた。

 「それは、スマホ!!」
 「ええそうです」

 「なんだスマホとは?」
 「陛下、これはすごく多機能な通信魔導具なのです。私は今回、製作者のカオリコさんから二百台預かり、販売するお仕事をいただきましたの。これが今回のご報告の全てですわ。カオリコさんに害が無ければ、アシャール叔父様も大人しいのですわ。多分」
 「多分……か、まあ彼奴も結婚して、多少は落ち着いたようだな」
 「はい。ですから陛下、私に監視員としての報酬を下さいませ。それと監視は今回までにさせていただきますわ」
 「うむ。後宮に戻ってくるか」

 皇帝にとっても、セシリア妃とマリーシェラには実の娘ほどの気持ちはあった。血の繋がりのある子が男子ばかりなので、尚のことだ。勢いでアシャールと一緒に行かせたが、未開の土地の生活は不便ではないかなど、密かにやきもきしていたのだった。

 「いいえ。これから真剣にネコノメの仕事に取り組みたいんですの。報告に寄る暇が惜しいのですわ」
 「な……なるほど、真面目なそなたらしいな。しかしネコノメは周囲に森か山しかなかろう。生活するには不便ではないか?」
 「いいえ、全く」

 マリーシェラの様子に、皇帝もこれは止められぬと理解した。

 「わかった……そなたの今までの品位維持費の残額を持っていくが良い」
 「ありがとう存じます」

 マリーシェラは優雅なお辞儀をして、皇帝にスマホの入った箱を渡した。

 「こちら陛下に献上するよう、預かってきたものです」
 「ほう、夫に似ず、気の利く女性であったか! ……あのように大勢の前で見せ物にしてしまったというのに……」

 最後の言葉は、ポツリと呟かれた。

 「まさかシアンヌが皇宮の妃達ばかりか、あのように大勢の貴族を集めてくるとは思わなんだ……詫びと言ってはなんだが、シュベルクランはネコノメを取り上げるようなことはせぬ。安心して暮らすよう伝えてくれ。くれぐもアシャールのやつに知られぬようにな」

 「かしこまりました」
 皇帝の言葉にマリーシェラは微笑んだ。

 「しかしシアンヌにも困ったものよ……いくら公爵家から嫁いだ正妃とて、近頃は影で目に余るようなことばかりしでかしておる……正妃の責務がなんたるかも理解しておらん」

 皇帝はスマホを手に取って、無意識にライトモを開いた。
 現時点で一番動いているネコノメ(公式)アカウントが目に入った。

 「なるほど、彼奴の妻はこんな顔をしておったのか……いかにもあの男に騙されるような、素朴で人の良さそうな女性であるな……」

 そこには、神獣:猫ちゃんたるミケ子を抱いて、やわとろに微笑む香子の素顔があった。
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