ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
4 / 285
一章 ナイナイづくしの異世界転生

4. 妖精の悪戯

しおりを挟む
 魔法の存在するこの世界には、魔獣の他に、精霊と妖精という神秘に分類される存在がいる。
 気位の高い精霊と違って、妖精達は悪戯好きで、好奇心旺盛だ。

 妖精が人に行う行動は、一様に《妖精のいたずら》と呼ばれている。

 その中でも一番多く伝承に残っているのが、花やキノコ、そして石などで真円を描き、中に踏み込んだ者を別の場所に一方的に飛ばすというものだ。

 エステラからそう説明されて、マグダリーナは心当たりしかなく、頭を抱えた。

 アンソニーは父と同じく読書家だったので、妖精のいたずらの知識はあり、マグダリーナを止めようとして巻き込まれてしまったのだ。

 落ち込むマグダリーナの膝の上に、エステラの肩の上からぽよよんと青っぽい輝きのスライム、ヒラが飛び乗った。
 そして大人の拳程の大きさから、小型犬程の大きさに変わる。重さは殆ど感じない。

「大丈夫ぅ? ヒラのこと揉むぅ?」

 可愛い上目遣いで言われては、逆らえない。

「揉む……」

 スライム優しい……そう思いながら、マグダリーナは遠慮なく、スライムボディを揉んだ。

 ――っ、なにこれ、想像以上に気持ちいい!

 ふわんと優しくマグダリーナの手を受け入れながらも、むちっと極上の弾力をもって返して来る。

 つるつるすべすべでありながら肌にぺとつくこともなく、さらりと気持ちいい。
 宝石のような表面の光沢は揉まれることにより、多彩な輝きと色彩の変化を見せてくる。

 そしてふわんふわんと光の粒が弾ける……触感と視覚を虜にする魅惑のスライムボディだ。癒しはここにあった。

 うっとりとヒラを揉むマグダリーナを、羨ましそうに見つめるアンソニーの視線に気づき、ヒラは触手のように腕(?)を出してアンソニーの所まで伸ばす。
 アンソニーは恐る恐る小さな手でヒラの手に触れると、直ぐに無心に揉み出した。

「こうやってヒラのぉ、可愛さを堪能出来るからぁ、妖精のいたずらも悪いことばかりじゃぁないよぉ」

 スライム優しい……

「タラもぉ、おかあさんが妖精のいたずらで、おばあちゃんと出会ったからぁ、産まれたんだよねぇ?」
 タラはエステラの愛称らしい。

「おかあさんとおばあちゃんが……?」
 この異世界、同性同士で子供が出来る……の???

 マグダリーナの顔を見て、エステラは首を横に振った。

「私がお腹の中にいるときに、母は妖精のいたずらで、遠くの国からこの国に飛ばされて来たのです。運良く長命種の魔法使いの女性に助けられ、衣食住の面倒を見る交換条件として、私は母のお腹にいる時から魔法使いの弟子になりました」
「お腹の中にいた時から弟子入りなんて可能なの?!」

 エステラは少し遠くを見るような顔をして、それから頷いた。

「色々規格外な人でしたから」

 マグダリーナは重要なことに気づいて、顔を上げた。

「それじゃあ、教会に金貨を払わなくても魔法が使えるようになるの?!」
「はい、魔法は師が優秀だと、教会に一エルも支払う必要はありません」
「いちエル……」

 満足してヒラの手を離したアンソニーが、そっと教えてくれる。

「お姉さまは令嬢なので誰もお教えしてないと思いますが、お金の単位です」

 それが聞こえて、エステラも目を瞬かせる。

「えっと、私は平民だから、貴族の教育について知らないのですけど、女の子はお金の事を教えてもらえないの……ですか?」

 マグダリーナは頷いた。
「令嬢のうちは、お金のことを口にするのは、はしたない事だと言われています」

「そうだとしても、何も知らなかったら大人になってから苦労しちゃうわ……これは村長様や領主様に預けておく場合じゃないわね……マグダリーナさん、アンソニーさん、ご不便でしょうが村にいる間は、私の家で過ごしませんか? 昨年師匠と母が亡くなって、私の保護者になってくれた師匠の甥と二人で暮らしてます。彼も長命種で長く生きているので、世情には私より詳しいです。色々お教えできることがあるかも知れません。アッ、ご安心を! ご令嬢に手を出すようなこともしません。既に私が彼の身体を全身脱毛したので!」
「は?」
「どこもかしこもツルッツルです! ムダ毛は一つもありません! VIOまで完璧に仕上げたんです!! でもまだ世間では受け入れられないみたいで……」

(待って、それいらない情報ぅぅ!!!)

 これからしばらく顔を合わせるその人を見るたびに、あ、この人、生えてないんだ。って思ってしまう。

……思ってしまうよ! 気まずい。

「あの……」
 アンソニーが、こてんと首を傾げて聞いた。
「脱毛って、身体の毛を無くす事ですか? お父さまの腕の毛みたいな? 何でそんなことをされたんですか? それにぶいあいおーとは何ですか?」

 エステラも真剣な顔をした。
「大人の女性の身だしなみの一つに、体毛の処理があります。一般的なのは刃物や薬での処理ですが、それでは肌を痛めてしまうので、より安全で確実、そしてより美しい仕上がりの魔法を私は開発しました。彼はその魔法の効果を確認するのに、貢献してくれたのです。あ、VIOは生殖器周辺の毛が生える範囲のことです。アンソニーさんは生殖器ってわかりますか? まだご存知なかったら、大人になるにつれ理解できると思いますので、自然に任せてください」

(ちょ……っ、天使の顔でなんてこと言うの?!)

 あれ? 異世界でもVIOなんて言うの?

 マグダリーナがそう考えていると、エステラの綺麗な顔が近付いて、そっとマグダリーナに囁いた。
「マグダリーナさん、この世界には、天使、という概念はありません」

 マグダリーナはハッとしてエステラを見た。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...