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一章 ナイナイづくしの異世界転生
5. あ、この人、毛がナイんだ…
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もしかして、エステラも同じ転生者なんだろうか。きっとそうなのだ。
マグダリーナは確信してエステラの瞳を見つめる。
エステラはふわりと笑った。
「さて」
エステラがマグダリーナとアンソニーに手を翳す。
「ととのえよ」
エステラが唱えた瞬間、三人と一スライムは、ほんの一瞬白い光に包まれた。
「わぁ……!」
驚いてマグダリーナは声を上げたが、気づけば一瞬で全身湯上がり洗いたてのように清潔で体調も良い状態に整えられた。
「傷が……!」
アンソニーの手の傷も治っていた。
しかもヨレて綻びがあった衣類まで、まるで新品のようになっている。
「これって……魔法……?」
マグダリーナは呆然と、自分の状態を確認する。なんて便利で素晴らしいのだろう、魔法とは!
「僕、魔法は初めて見ました!」
アンソニーの瞳が輝いた。
「そうなの? 貴族の人達って、もっと早くから魔法を習うのかと思ってました」
それは金貨をぽんと払える裕福な貴族のことだろう。ショウネシー子爵家には通用しない。
「うちはお金がないので、教会で魔力鑑定できません……」
しょんぼりとアンソニーは項垂れた。
ヒラがアンソニーの頭を撫でる。
「大丈夫だよぉ。魔法簡単だよぉ。教会も関係ないよぉ。ヒラもぉ、ハラやタラに教わってぇ、すぐ出来るようになったよぉ」
マグダリーナは、エステラがお母さんのお腹の中にいた時から、師匠に魔法を習ってたと言ったのを思い出す。
「魔法は女神様の恩恵……教会で魔力鑑定して初めて使えるようになる……でも、エステラさんは、そうじゃないんですよね? 確か師が優秀だったら一エルも教会に払わなくていい……?」
エステラは頷いた。
「確かに魔法は女神様からいただいた恩恵です。だから魔力の差はあれども、全ての人に自然に備わっている力です。ただ今の人達は、その使い方を知らない……そこで教会は魔力鑑定というきっかけを作って、お金を稼いでいるのです」
「え? え? それって、教会に騙されてるの?」
「んー、半分はそうとも云えないかもですね。ずっと昔から教会はその方法が正しいと信じてやってきてるので、教会員の人達も自分達が詐欺をしてるって意識はないと思います。私のお師匠は聖エルフェーラ教が出来るよりずっと前の生まれだったので、本当の魔法の使い方を知っていて、エルフェーラ様は過去の偉人で本当の女神様は別にいらっしゃると知っていたので、自分の寿命が近いとわかったときに、私を弟子にして全て伝授していったんです」
聖エルフェーラ教はこの世界の全土で信仰されている宗教だ。その本部は聖エルフェーラ教国という国にまでなっている。
けれども本当の女神様は、別にいる……
これは歴史のあるあるだから、まあいいとして。
「でも、本当は魔法が使えると言われても、どうすればいいかわからないわ」
アンソニーもマグダリーナに同意して頷く。
「魔法を使うのは技能の一種です。そうですね……歌を歌うようなもの、といえば分かり易いですかね? 例えば家族の中によく歌を歌う人が居れば、自然とその歌を覚えて口ずさむようなものです。家族ではなくても、どこからか毎日同じ歌が聴こえてきたら、覚えることもあるでしょう。師に付いて学べば、より多くの歌を覚えられます。でも身近に歌う人やきっかけが無ければ、きっと普通の人は歌って見ようとは思わないでしょう。教会の魔力鑑定は、鑑定者の属性を調べるものらしいです。魔力鑑定を受けた人が次にするのは、その属性の魔法が使える先生を探すことです。ですがこの属性も、貴方が歌い易いのはこの歌ですよくらいの目安に過ぎません。別にオススメの歌じゃなくても、覚えれば歌うことはできます」
なるほど、VIOまできっちり全身脱毛出来る魔法を開発するエステラは、魔法使い界のシンガーソングライターと言えるだろう。
自分で曲を作って歌っちゃう人。
そこまでの域には才能が必要かも知れないが、カラオケならマグダリーナにもできそうだし、自分の属性が演歌だったとしてもK-POPが歌えないわけではないということだ。
マグダリーナの中で、金貨二枚分の気持ちが軽くなった瞬間だった。
だとしたら、ここは勇気を出すべきところだろう。マグダリーナは真剣な眼差しでエステラを見た。
「エステラさん、私達に先程のととのえるの魔法を教えて下さい!」
「残念だけど、それは無理だよ」
涼風のような若い男性の声が聞こえた。
マグダリーナが声の方角へ振り返ると、魔法の光を纏い、長い白金の髪を靡かせた人とは思えぬような美貌の青年が現れた。
彼の髪からのぞく耳は、長く尖っている。
(エルフだわ……!!)
「迎えに来たよ、エステラ」
突然現れた顔の良いエルフの青年は、穏やかに微笑んでエステラに声をかける。
年齢は二十代前半から半ば程に見えるが、エルフは長命種なので外見通りの年齢ではないはずだ。
その肩から、黄色いスライムのハラが飛び出して、エステラの肩に飛び移る。
「ハラ、お使いありがとう」
エステラに褒められて、ハラは満足気にぷるぷるスライムボディーを弛ませた。
「こんにちは、迷子たち。僕はニレル。エステラの……今は保護者みたいなものかな」
美貌の青年に優雅な物腰で語りかけられ、マグダリーナもアンソニーも頬を赤らめ、辛うじて名乗った。
「マグダリーナ・ショウネシーです」
「アンソニー・ショウネシーです」
(まるで物語に出てくる精霊か天使みたいな人……)
中世的に見えるようで、しっかりと青年であるとわかる絶妙な美男子具合だ。
そしてどこか神秘的な雰囲気さえある。艶のある美しいお肌のせいだろうか。
ここでマグダリーナは、気づいてしまった。
――あ、この人、毛がないんだ!! VIOの……っ!!!!!!
予想外に顔の良い男子がエステラにツルツルにされていた事実に、マグダリーナは衝撃を受ける。
この人なら、ツルツルでも許されるだろう。誰に。きっと女神にだ。
とりあえず、マグダリーナも許すことにした。
「君たちの事は、領主を通してショウネシー子爵家に連絡してもらうよう、頼んであるから大丈夫だよ。迎えが来るまで僕たちの家で泊まるといい」
ニレルが泊まるといいと、言い終わる前に景色が変わる。
全員古めかしいが掃除の行き届いた、香草の香りのする家の中にいた。
その木と漆喰で建てられた家は、マグダリーナの中の理奈にはどこか懐かしさを感じさせた。
場所は食堂だろうか、素朴な木のテーブルと椅子が置いてある。
壁際の棚には野花が活けてある小さな花瓶。綺麗な鉱石たち。エステラに似た笑顔の美しい大人の女性と、凛とした表情の耳が長く尖った老女が並ぶ絵が飾ってあった。
きっと昨年亡くなったと言うエステラの母親と、魔法のお師匠なのだろう。
「ここ……エステラさんの家? さっきまで森に居たのに……」
「転移魔法だよ。最近は暗くなるのが早くなって来たからね。夜は魔獣達も活発になるし、時間短縮をさせて貰った。驚かせたかな」
ヒラとハラが素早く動き出し、それぞれマグダリーナとアンソニーの椅子を運んで来てくれた。
「ヒラ、リーナの寝床用意してくるぅ」
「ハラはアンソニーの」
二匹がそう言って食堂を出て行くのを見て、マグダリーナは我に帰る。
「あの、助けていただき、何から何までお世話になって……本当にありがとうございます」
「ありがとうございます」
アンソニーもマグダリーナに続いて礼をした。
ニレルが二人に座ってと促す。
エステラが台所から人数分のお茶を持って来て配った。
爽やかな香りのハーブティーだ。ご自由にと蜂蜜の入った小さなジャーを、マグダリーナとアンソニーのカップの横に置く。
「僕たちはのんびり暮らしてるから、たまにこういう刺激があると丁度いい」
「狭い家でごめんね。でも村長様や領主様のお屋敷だと、せっかく村に来たのにきっと何も体験することなく帰ることになると思ったの」
うん、全く知らない貴族の家より、エステラさんと居る方がいいし、そんなこと気にしてほしくない。
「いいえ、お気になさらず……素敵な家ですし、できれば言葉使いも普段通りで接して貰えると嬉しいわ」
アンソニーも同意して頷いた。
ニレルがふわりと笑む。
マグダリーナの心臓が飛び跳ねそうになった。
(やばい……この人顔面兵器だわ……この村の女の子達大丈夫かしら……)
「ありがとう。僕たち“原初の魔法使い”は、誰かに仕えたりしないから、あまり人の身分とか気にしなくてね。そう云ってもらえると助かるよ」
「「原初の魔法使い??」」
マグダリーナとアンソニーの声が重なる。
エステラが答えた。
「んーとね、創世の女神が伝授した、この世界で一番古い魔法を使う魔法使いのことだよ」
創世の女神と言うのが、エステラの話にあった本当の女神様のことなんだろう。
アンソニーが立ち上がった。
「もしかして、ニレルさんとエステラさんは、ハイエルフなんですか!?」
(はい……?)
初めて聞く言葉の連続と、その話題についていけてる弟を見る。興奮して頬が紅潮していた。
マグダリーナは確信してエステラの瞳を見つめる。
エステラはふわりと笑った。
「さて」
エステラがマグダリーナとアンソニーに手を翳す。
「ととのえよ」
エステラが唱えた瞬間、三人と一スライムは、ほんの一瞬白い光に包まれた。
「わぁ……!」
驚いてマグダリーナは声を上げたが、気づけば一瞬で全身湯上がり洗いたてのように清潔で体調も良い状態に整えられた。
「傷が……!」
アンソニーの手の傷も治っていた。
しかもヨレて綻びがあった衣類まで、まるで新品のようになっている。
「これって……魔法……?」
マグダリーナは呆然と、自分の状態を確認する。なんて便利で素晴らしいのだろう、魔法とは!
「僕、魔法は初めて見ました!」
アンソニーの瞳が輝いた。
「そうなの? 貴族の人達って、もっと早くから魔法を習うのかと思ってました」
それは金貨をぽんと払える裕福な貴族のことだろう。ショウネシー子爵家には通用しない。
「うちはお金がないので、教会で魔力鑑定できません……」
しょんぼりとアンソニーは項垂れた。
ヒラがアンソニーの頭を撫でる。
「大丈夫だよぉ。魔法簡単だよぉ。教会も関係ないよぉ。ヒラもぉ、ハラやタラに教わってぇ、すぐ出来るようになったよぉ」
マグダリーナは、エステラがお母さんのお腹の中にいた時から、師匠に魔法を習ってたと言ったのを思い出す。
「魔法は女神様の恩恵……教会で魔力鑑定して初めて使えるようになる……でも、エステラさんは、そうじゃないんですよね? 確か師が優秀だったら一エルも教会に払わなくていい……?」
エステラは頷いた。
「確かに魔法は女神様からいただいた恩恵です。だから魔力の差はあれども、全ての人に自然に備わっている力です。ただ今の人達は、その使い方を知らない……そこで教会は魔力鑑定というきっかけを作って、お金を稼いでいるのです」
「え? え? それって、教会に騙されてるの?」
「んー、半分はそうとも云えないかもですね。ずっと昔から教会はその方法が正しいと信じてやってきてるので、教会員の人達も自分達が詐欺をしてるって意識はないと思います。私のお師匠は聖エルフェーラ教が出来るよりずっと前の生まれだったので、本当の魔法の使い方を知っていて、エルフェーラ様は過去の偉人で本当の女神様は別にいらっしゃると知っていたので、自分の寿命が近いとわかったときに、私を弟子にして全て伝授していったんです」
聖エルフェーラ教はこの世界の全土で信仰されている宗教だ。その本部は聖エルフェーラ教国という国にまでなっている。
けれども本当の女神様は、別にいる……
これは歴史のあるあるだから、まあいいとして。
「でも、本当は魔法が使えると言われても、どうすればいいかわからないわ」
アンソニーもマグダリーナに同意して頷く。
「魔法を使うのは技能の一種です。そうですね……歌を歌うようなもの、といえば分かり易いですかね? 例えば家族の中によく歌を歌う人が居れば、自然とその歌を覚えて口ずさむようなものです。家族ではなくても、どこからか毎日同じ歌が聴こえてきたら、覚えることもあるでしょう。師に付いて学べば、より多くの歌を覚えられます。でも身近に歌う人やきっかけが無ければ、きっと普通の人は歌って見ようとは思わないでしょう。教会の魔力鑑定は、鑑定者の属性を調べるものらしいです。魔力鑑定を受けた人が次にするのは、その属性の魔法が使える先生を探すことです。ですがこの属性も、貴方が歌い易いのはこの歌ですよくらいの目安に過ぎません。別にオススメの歌じゃなくても、覚えれば歌うことはできます」
なるほど、VIOまできっちり全身脱毛出来る魔法を開発するエステラは、魔法使い界のシンガーソングライターと言えるだろう。
自分で曲を作って歌っちゃう人。
そこまでの域には才能が必要かも知れないが、カラオケならマグダリーナにもできそうだし、自分の属性が演歌だったとしてもK-POPが歌えないわけではないということだ。
マグダリーナの中で、金貨二枚分の気持ちが軽くなった瞬間だった。
だとしたら、ここは勇気を出すべきところだろう。マグダリーナは真剣な眼差しでエステラを見た。
「エステラさん、私達に先程のととのえるの魔法を教えて下さい!」
「残念だけど、それは無理だよ」
涼風のような若い男性の声が聞こえた。
マグダリーナが声の方角へ振り返ると、魔法の光を纏い、長い白金の髪を靡かせた人とは思えぬような美貌の青年が現れた。
彼の髪からのぞく耳は、長く尖っている。
(エルフだわ……!!)
「迎えに来たよ、エステラ」
突然現れた顔の良いエルフの青年は、穏やかに微笑んでエステラに声をかける。
年齢は二十代前半から半ば程に見えるが、エルフは長命種なので外見通りの年齢ではないはずだ。
その肩から、黄色いスライムのハラが飛び出して、エステラの肩に飛び移る。
「ハラ、お使いありがとう」
エステラに褒められて、ハラは満足気にぷるぷるスライムボディーを弛ませた。
「こんにちは、迷子たち。僕はニレル。エステラの……今は保護者みたいなものかな」
美貌の青年に優雅な物腰で語りかけられ、マグダリーナもアンソニーも頬を赤らめ、辛うじて名乗った。
「マグダリーナ・ショウネシーです」
「アンソニー・ショウネシーです」
(まるで物語に出てくる精霊か天使みたいな人……)
中世的に見えるようで、しっかりと青年であるとわかる絶妙な美男子具合だ。
そしてどこか神秘的な雰囲気さえある。艶のある美しいお肌のせいだろうか。
ここでマグダリーナは、気づいてしまった。
――あ、この人、毛がないんだ!! VIOの……っ!!!!!!
予想外に顔の良い男子がエステラにツルツルにされていた事実に、マグダリーナは衝撃を受ける。
この人なら、ツルツルでも許されるだろう。誰に。きっと女神にだ。
とりあえず、マグダリーナも許すことにした。
「君たちの事は、領主を通してショウネシー子爵家に連絡してもらうよう、頼んであるから大丈夫だよ。迎えが来るまで僕たちの家で泊まるといい」
ニレルが泊まるといいと、言い終わる前に景色が変わる。
全員古めかしいが掃除の行き届いた、香草の香りのする家の中にいた。
その木と漆喰で建てられた家は、マグダリーナの中の理奈にはどこか懐かしさを感じさせた。
場所は食堂だろうか、素朴な木のテーブルと椅子が置いてある。
壁際の棚には野花が活けてある小さな花瓶。綺麗な鉱石たち。エステラに似た笑顔の美しい大人の女性と、凛とした表情の耳が長く尖った老女が並ぶ絵が飾ってあった。
きっと昨年亡くなったと言うエステラの母親と、魔法のお師匠なのだろう。
「ここ……エステラさんの家? さっきまで森に居たのに……」
「転移魔法だよ。最近は暗くなるのが早くなって来たからね。夜は魔獣達も活発になるし、時間短縮をさせて貰った。驚かせたかな」
ヒラとハラが素早く動き出し、それぞれマグダリーナとアンソニーの椅子を運んで来てくれた。
「ヒラ、リーナの寝床用意してくるぅ」
「ハラはアンソニーの」
二匹がそう言って食堂を出て行くのを見て、マグダリーナは我に帰る。
「あの、助けていただき、何から何までお世話になって……本当にありがとうございます」
「ありがとうございます」
アンソニーもマグダリーナに続いて礼をした。
ニレルが二人に座ってと促す。
エステラが台所から人数分のお茶を持って来て配った。
爽やかな香りのハーブティーだ。ご自由にと蜂蜜の入った小さなジャーを、マグダリーナとアンソニーのカップの横に置く。
「僕たちはのんびり暮らしてるから、たまにこういう刺激があると丁度いい」
「狭い家でごめんね。でも村長様や領主様のお屋敷だと、せっかく村に来たのにきっと何も体験することなく帰ることになると思ったの」
うん、全く知らない貴族の家より、エステラさんと居る方がいいし、そんなこと気にしてほしくない。
「いいえ、お気になさらず……素敵な家ですし、できれば言葉使いも普段通りで接して貰えると嬉しいわ」
アンソニーも同意して頷いた。
ニレルがふわりと笑む。
マグダリーナの心臓が飛び跳ねそうになった。
(やばい……この人顔面兵器だわ……この村の女の子達大丈夫かしら……)
「ありがとう。僕たち“原初の魔法使い”は、誰かに仕えたりしないから、あまり人の身分とか気にしなくてね。そう云ってもらえると助かるよ」
「「原初の魔法使い??」」
マグダリーナとアンソニーの声が重なる。
エステラが答えた。
「んーとね、創世の女神が伝授した、この世界で一番古い魔法を使う魔法使いのことだよ」
創世の女神と言うのが、エステラの話にあった本当の女神様のことなんだろう。
アンソニーが立ち上がった。
「もしかして、ニレルさんとエステラさんは、ハイエルフなんですか!?」
(はい……?)
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