ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
13 / 285
一章 ナイナイづくしの異世界転生

13. まだ何の役にも立てナイ

しおりを挟む
 ショウネシー領に入って明くる朝、マグダリーナはとても爽やかな目覚めを迎えた。

(昨日の騒ぎが嘘のよう)

 だが、窓を開けると、いる。

 コッコことコッコカトリス達が。


 領主館の庭園ではころころとメスのコッコ達がカミツレ草の芝生で転がりながら、微笑ましく朝の散歩をしている。

 甘く爽やかな匂いのするカミツレ草は、昨日マグダリーナ達がハンフリーを救出している間に、エステラが試しに女神の森から採取して魔法で増やしたそうだ。

 元々茂っていた雑草達も、実は薬草であったらしく、どうやらある程度魔力のある薬香草などは、土地の魔力に負けることなく生えるらしいことがわかった。

 薬香草は薬の材料として貴重だ。雑に生えている薬香草達の種類と効能を調べて栽培することも視野には入れるが、やはり主食たる作物を自領で栽培したいというのがハンフリーの願いだ。


 更に外側の菜園ではオスのコッコが畑の警備をしているようだ。

 整った庭園も、畑も、ついでに大きな温室も、昨日ハンフリーを迎えに行くまでは無かった。

 お隣の家もだ。

(魔法使いって、本当なんでもできるのね)

 ハンフリーを連れて帰って来れば、既に館の中も外も整えられ、温室も畑もコッコ達の小屋も出来上がり、隣にはエステラとニレルの家もあった。

 コーディ村の家共々引越して来たのだ。

 そして使用人の代わりにと、小さな魔導人形……いわゆるゴーレムを数十体置いてくれた。

 たぶんこのゴーレム達が一番の超高度魔法なんだろう……
 
 外見は大根くらいの直径の根菜に手足がついている。頭に実の様なものと葉っぱもあり、背中に番号がついていた。
 質素な目と口もあって喋るし、歌うし、魔法も使うし、何よりコッコ(オス)に負けずに戦闘もしていた。

 なんでもマンドラゴラという植物型の魔獣素材を使って作った魔導人形らしく、マゴーと命名されていた。ヒラに。
 

 不満は全くないが、驚きはある。

 それ以上に感謝でいっぱいだったが、父やハンフリーの様子を見ていると、魔法や魔法使いの基準を、彼女達に合わせると多分ダメかもと薄々感じはじめていた。


 ドアをノックされ「どうぞ」と返事をする。

 エプロンをしたマゴー4号と5号が洗いたてのタオルやドレスを持って、朝の身支度の手伝いにやってきた。

 ちょうど良いぬるま湯を用意されて洗顔し、花の香りのする化粧水とオイルで肌を整えられる。
 シンプルで動きやすいが品のあるドレスに着替えさせてくれて、髪を丁寧にとかしリボンで結ぶ……こんな風にお世話されるのは、どれくらいぶりだろうか。

 ドレスは見たことない新しいものだった。

「このドレスどうしたの?」
「マゴー制作班が作りました」
「でも布地や糸は……」
「それも作りました」

(一晩で? どうやって? とか色々つっこまない方がいいのよね、きっと)

 まるで心を読んだかのように、マゴー4号と5号は頷いた。


 全員が揃ってしっかりお肉も野菜もパンもあるまともな食事をし、今日の予定を確認し合う。

 貴族の食卓に野菜は並ばないものだが、そんなくだらないことを気にする者は一人も居なかった。

 午後からはエステラとニレルも呼んで、領地の今後など色々と話し合うことが決まっていた。
 これにはマグダリーナとアンソニーも参加する。ダーモットが頼りないのもあるが、いずれこの領地を背負っていかないといけないのだ。今から学んで行った方がいい。

 午前はダーモットとアンソニーが、コッコの研究と観察。
 ハンフリーは書類仕事。
 ケーレブはマゴー達の上司になるので、彼らの現状確認と雑務だ。

 マグダリーナはハンフリーの執務室の惨状を思い出して、彼の手伝いをする事にした。前世は事務職だったのだから、書類の整理はお手のもの。

 と、思っていたのだが、書類の整理は執務室の掃除のついでにマゴー達が終わらせており、マグダリーナがしたのは子爵家の印が必要な書類に淡々と印を押していくことだった。
 それでもかなりハンフリーからは感謝されたが。

 会議や勉強となると紙と筆記用具が欲しいところ。
 筆記用具はともかく、紙はそのままだとダーモットの妖精のいたずらで破られる可能性が高い。

 ダーモットを無職にする妖精のいたずらは、本などの綴じられた状態のものには起こらないことがわかっている。
 それもあって、彼は本の虫だったのだろう。

 紙が高価なこともあるせいか、ハンフリーの執務室で見た書類はどれも小さな字で紙の端までびっしり書き込まれていて、とても読み難くかった。

 彼の本体が眼鏡になったのも頷ける。

 とりあえずノートやメモパッドの様にダーモットでも扱えるものを作り、やがては見やすい書式で領内の書類は統一したい。


 昨晩軽く家族会議をし、マグダリーナが自力で魔法が使えない状態であることは話したが、ダーモットもハンフリーもマグダリーナのことを傷物扱いする事はなかった。

 ダーモットは学園では苦労するだろうけど、無理だったら途中で退学しても構わないし、結婚せずに領地でくらすのも、結婚したい相手ができて、それが平民でも構わないと言ってくれた。

 何かあったら、その時皆んなで話し合って、協力していこうと。


 その時マグダリーナは、決めた。

 たとえ辛くても、しっかり学園で知識を身につけると。

 それが今は何も持たない、何の役にも立てない自分の出来る事だから。


 因みに寝る前にになんとなく、マゴーにノートやメモパッドを作れるかと聞くと、「何冊必要でしょうか?」と作れる前提の返答が返ってきた。頼もしい。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~

結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』 『小さいな』 『…やっと…逢えた』 『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』 『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』 地球とは別の世界、異世界“パレス”。 ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。 しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。 神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。 その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。 しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。 原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。 その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。 生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。 初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。 阿鼻叫喚のパレスの神界。 次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。 これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。 家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待! *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈ 小説家になろう様でも連載中です。 第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます! よろしくお願い致します( . .)" *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

処理中です...