ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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三章 女神教

56. ぴゅん

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 まだ奇跡の余韻に浸りながらも、ショウネシー領に帰る。

 転移先は自然と公園の噴水だ。
 夜の帷が下りて来たが、噴水の周りはいつも仄かに明るい。
 女神像を眺めながら、先程の情景を思い出していると、ヴェリタスがぽつりぽつりと話出した。


「うちは……っていうか、元うちなんだけどさ。代々宮廷魔法師を輩出してる家柄なんだ。でも俺はちっとも魔法を使いたいとは思わなかった。侯爵の魔法も、宮廷魔法師の魔法も、魔法を使ったら、そこからなんか黒い涙みたいなのがポタポタ落ちてくみたいに見えたから……でも、ショウネシー領に来てから見る魔法は、どれもキラキラして見える。黒いのが全然ないんだよ」

 ヴェリタスは魔法が苦手とは言っていたが、やっぱり才能がなかったわけではないんだとマグダリーナは思った。

「エステラ、俺が見ていた黒いのは何なんだ? 何でエステラ達の魔法にはそれがないんだ?」

 エステラは少し考え込んだ。

「多分、ヴェリタスの見てた黒いのって、無理矢理消費された小精霊の死骸だと思う」
「小精霊って、今もそこらでふわふわしてるやつ?」

 ショウネシー領内ではすっかり小精霊を見かけるのが珍しくなくなってきた。

「私達の原初魔法は、魔法の構造自体が、自身の魔力と精霊の助力とで相互に力を強め合う構成になってるの。何故なら、世界に影響を及ぼすには精霊の力が必要不可欠だから。でも今伝わってる魔法は……もちろんそうじゃないやり方の人も居るけど、無理矢理精霊に言うこときかせようって構造なのね、そうすると高位の精霊は協力なんかしないから、生まれたばかりのふわふわした小精霊が訳もわからず命令通りに存在以上の力を使って死んでいくの……」

「…………エステラ、俺が今まで熊師匠達に使ってた魔法も、そういうやり方だったのか?」
「……安心して、そうじゃない。ヴェリタスはトニーやアーベルの魔法を見て、自分の魔法の参考にしていってたでしょ? 二人とも使ってるのは原初魔法だもの」

「トニーの魔法は原初魔法なのか?!」
「はい! 僕はエステラとニレルに魔法を教わったので」

 ヴェリタスは噴水の前でしゃがみこんだ。

「よかった……」

 マグダリーナもしゃがんで、ヴェリタスの背中を撫でた。アンソニーも反対側でそうした。

「俺、原初魔法っていうの? キチンと習いたい」
「うん、じゃあ覚悟して」

 エステラはヴェリタスを立たせると、額に手を当てた。
 パチリと静電気のような光が弾けとぶ。

「これで原初魔法に必要な、精素感知を伝授しました。多分明日の朝練からアーベルが容赦しなくなるからね。それから」

 もう一度パチリと光が弾けとぶ。

「これは記憶保存の魔法。簡単に云うと見たもの聞いたものをいつでも思い出せる魔法。学園の勉強と両立するのに役立つから」
「助かる! ありがとう」

 アンソニーが手を挙げた。
「はい! 僕まだその魔法伝授してもらってません!」

 マグダリーナも同じく。
「エステラ先生、私もその魔法使えるようになりたいです!」

 アンソニーもパチリとしてもらう。

「リーナはそろそろ腕輪の人工精霊ナビゲート機能を起動させていい状態だから、まず腕輪に話しかけてみて」
「えっと……もしもし?」

『マスターからの召喚に応えます。名前をつけて下さい』

「えっ……あ……」

 腕輪から突然声が聞こえ始めて、焦る。

『了解しました。私の名前は《エア》です。マスターマグダリーナ、よろしくお願いしますぴゅん』

(ぴゅん?)

 ぽん、と腕輪の近くに、小さくぷくっとした青い小鳥が現れて、ふわふわ浮かぶと、肩に止まった。

「エア?」

『はいマスター、ご用件をどうぞぴゅん』

 エステラが「記憶保存魔法起動って云って」と言う。

「記憶保存魔法起動」

『かしこまりました。今晩マスターの就寝中に準備し、明日の朝から使える状態にしますぴゅん』

「なんで語尾にぴゅんって付いてるの?」
 エステラに聞く。

「なんでだろ? 持ち主の魔力と名前で外見とかの個性が作られる設定にしたから、運命?」

 エステラは可愛いらしく、首を傾げた。
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