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七章 腹黒妖精熊事件
144. バーナードとドミニクの契約
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ドミニク・オーブリーは、大人しい囚人だった。
決めれた時間に寝起きし、決められた労働をこなす。
労働は彼の得意とする魔法ではなく肉体労働ではあったが、苦にはならなかった。
彼の願いを叶えるには、体力はあった方がいい。
ひたすら模範的な囚人となり、あわよくば刑期が短縮されるのを狙っていた。
というのに。
「出ろ、ドミニク・オーブリー」
今ドミニクの牢屋の扉は、第二王子であるバーナードにより開け放たれた。
「えー、やだよ。脱走なんてしたら罪状増えちゃうじゃん」
無精髭の可愛くない成人男性が、唇を尖らせてそっぽをむいた。
看守も周りの囚人も、ドミニク以外はバーナードが連れ去ってきたマゴーの魔法で眠らされていた。
「子供の遊びに付き合って、終身刑や死刑になったら割に合わねぇよ」
そう言って、ドミニクはゴロンと粗末なベッドに横になる。
彼は王宮魔法師団長をしていた時と違って、随分と砕けた口調になっていた。
バーナードはヴェリタスを思い出し、こっちが普段の彼かも知れないと思った。
「うむ、今回のことは俺が責任を取る! 何がなんでもアルミラージの角が必要なんだ。力を貸してくれ!!」
「なんで、私が?」
「五百人の国民の命がかかっているんだぞ!」
ドミニクはすっと熱のない目で、バーナードを見た。
「私には関係ないね」
「……っな、アルミラージはずっとオーブリーの家門が、密かに繁殖地を管理していたんだろう!」
バーナードは以前、兄である第一王子のエリックが「王領とその近辺に出没する魔獣図鑑」を一緒に見ながら、そう言っていたのを思い出す。
こりゃあかんとドミニクは首を振った。
「坊や、何の権限も持たない君が、私と交渉するのは役者不足もいいとこだ。セドリック王となら話を聞かなくもないがね」
「ダメだ。一国の王たる父上が、罪人であるお前と交渉するなどあってはならない。だが私ならまだ最悪廃嫡で済む。ここから出て私を手伝うことを、お前の罪にはさせない。それからこれは」
バーナードは懐から、可憐な花の入った小瓶を取り出した。
「これはお前が欲しがってた、ショウネシーの新年の花だ。新年の魔法は切れているが、珍しい素材であることには変わるまい。俺が差し出せるのは、これだけだ」
それでもドミニクは首を横に振った。
「いくら珍しい素材でも、ここじゃあどうしようもできねぇよ」
ぎりりと、バーナードは唇を噛んだ。
ドミニクは腐っても元宮廷魔法師団長だった男だ。交渉ごとでは圧倒的に不利だったが、ここで諦めては全てが無駄になる。
バーナードはずっと神殿でマゴマゴ放送を観ていた。
マグダリーナの願いも。
ライアンやレベッカの覚悟も。
素材を掻き集めてくれたものの労力も。
(ここで、この男の一番欲しいものを与えないとだめだ。全てを無駄になど、させるものか)
「ではお前が手伝い、必要数アルミラージの角が手に入った場合、俺の名においてお前に恩赦を与えよう。ことが終わったら、お前は自由だ。さあ、これなら文句はあるまい、早くこの手を取るがいい!!」
ドミニク・オーブリーは、目も口も三日月にして笑んだ。
そしてバーナードの手を握る。
「確と。確と約束したぞ! バーナード第二王子ぃ! この契約の破棄は命で贖われる」
バーナードとドミニクが青い光に包まれた。
「契約魔法か?!」
「このくらい当然! さて、さてさて早く行くぞ。道中何が起こってるのかも洗いざらい話してもらおう」
にちゃりとドミニクは不気味な笑みをこぼす。
バーナードの心には、既に後悔の嵐が吹き荒れていた。
◇◇◇
「腹黒妖精熊ねぇ。私はあまり魔獣は興味ねぇんだ。あのクソ親父が魔獣に興味津々だったからな」
ドミニクの言葉に、バーナードは顔色をなくした。
「まさか……お前、アルミラージのことは……」
本当は何も知らないのではないだろうか……この男を外に出したのは失策だったかと不安になったが、ドミニクはキヒヒと笑った。
「それは安心するが良いさ。アルミラージを大事にしてた祖父ちゃんが、絶対親父にはアルミラージを任せられねぇって、全部私に引き継いでったからな」
「そうか、良かった……」
罪人の収容所から、ドミニクの指示で転移したのは、元オーブリー領と王領の境に位置する森だった。
「さぁって、第二王子坊ちゃん、アルミラージはどんな魔獣か知ってるかい?」
「その呼び方はやめろ。バーナードでいい」
ここまでの事をしたのだ。この件が片づけば、自分は廃嫡されるかもしれない、そうなると王族ではなくなるのだから、王子と呼ばれる筋はない。
次代の王には兄上がなる。自分には国を背負うなど到底無理だ。だから何が何でも兄上の命を、将来国を支える者たちの命を救わねばならない。
バーナードはなけなしの知識を総動員して、ドミニクに答える。
「アルミラージは角兎の王と呼ばれている、額に黒い一本角を持つ角兎の上位種で、最終進化形態……そしてリーン王国にしか存在しない希少種だと文献にあった」
ドミニクはまたキヒヒと笑う。
「バーナード坊ちゃん、その文献にアルミラージの絵はあったかい?」
「あったぞ。黒い大型の角兎の絵が」
「だったら坊ちゃんは今日、一つ賢くなるぜ。文献、歴史書、形に残る書物には、誰かの作為が隠されてるかもってな」
決めれた時間に寝起きし、決められた労働をこなす。
労働は彼の得意とする魔法ではなく肉体労働ではあったが、苦にはならなかった。
彼の願いを叶えるには、体力はあった方がいい。
ひたすら模範的な囚人となり、あわよくば刑期が短縮されるのを狙っていた。
というのに。
「出ろ、ドミニク・オーブリー」
今ドミニクの牢屋の扉は、第二王子であるバーナードにより開け放たれた。
「えー、やだよ。脱走なんてしたら罪状増えちゃうじゃん」
無精髭の可愛くない成人男性が、唇を尖らせてそっぽをむいた。
看守も周りの囚人も、ドミニク以外はバーナードが連れ去ってきたマゴーの魔法で眠らされていた。
「子供の遊びに付き合って、終身刑や死刑になったら割に合わねぇよ」
そう言って、ドミニクはゴロンと粗末なベッドに横になる。
彼は王宮魔法師団長をしていた時と違って、随分と砕けた口調になっていた。
バーナードはヴェリタスを思い出し、こっちが普段の彼かも知れないと思った。
「うむ、今回のことは俺が責任を取る! 何がなんでもアルミラージの角が必要なんだ。力を貸してくれ!!」
「なんで、私が?」
「五百人の国民の命がかかっているんだぞ!」
ドミニクはすっと熱のない目で、バーナードを見た。
「私には関係ないね」
「……っな、アルミラージはずっとオーブリーの家門が、密かに繁殖地を管理していたんだろう!」
バーナードは以前、兄である第一王子のエリックが「王領とその近辺に出没する魔獣図鑑」を一緒に見ながら、そう言っていたのを思い出す。
こりゃあかんとドミニクは首を振った。
「坊や、何の権限も持たない君が、私と交渉するのは役者不足もいいとこだ。セドリック王となら話を聞かなくもないがね」
「ダメだ。一国の王たる父上が、罪人であるお前と交渉するなどあってはならない。だが私ならまだ最悪廃嫡で済む。ここから出て私を手伝うことを、お前の罪にはさせない。それからこれは」
バーナードは懐から、可憐な花の入った小瓶を取り出した。
「これはお前が欲しがってた、ショウネシーの新年の花だ。新年の魔法は切れているが、珍しい素材であることには変わるまい。俺が差し出せるのは、これだけだ」
それでもドミニクは首を横に振った。
「いくら珍しい素材でも、ここじゃあどうしようもできねぇよ」
ぎりりと、バーナードは唇を噛んだ。
ドミニクは腐っても元宮廷魔法師団長だった男だ。交渉ごとでは圧倒的に不利だったが、ここで諦めては全てが無駄になる。
バーナードはずっと神殿でマゴマゴ放送を観ていた。
マグダリーナの願いも。
ライアンやレベッカの覚悟も。
素材を掻き集めてくれたものの労力も。
(ここで、この男の一番欲しいものを与えないとだめだ。全てを無駄になど、させるものか)
「ではお前が手伝い、必要数アルミラージの角が手に入った場合、俺の名においてお前に恩赦を与えよう。ことが終わったら、お前は自由だ。さあ、これなら文句はあるまい、早くこの手を取るがいい!!」
ドミニク・オーブリーは、目も口も三日月にして笑んだ。
そしてバーナードの手を握る。
「確と。確と約束したぞ! バーナード第二王子ぃ! この契約の破棄は命で贖われる」
バーナードとドミニクが青い光に包まれた。
「契約魔法か?!」
「このくらい当然! さて、さてさて早く行くぞ。道中何が起こってるのかも洗いざらい話してもらおう」
にちゃりとドミニクは不気味な笑みをこぼす。
バーナードの心には、既に後悔の嵐が吹き荒れていた。
◇◇◇
「腹黒妖精熊ねぇ。私はあまり魔獣は興味ねぇんだ。あのクソ親父が魔獣に興味津々だったからな」
ドミニクの言葉に、バーナードは顔色をなくした。
「まさか……お前、アルミラージのことは……」
本当は何も知らないのではないだろうか……この男を外に出したのは失策だったかと不安になったが、ドミニクはキヒヒと笑った。
「それは安心するが良いさ。アルミラージを大事にしてた祖父ちゃんが、絶対親父にはアルミラージを任せられねぇって、全部私に引き継いでったからな」
「そうか、良かった……」
罪人の収容所から、ドミニクの指示で転移したのは、元オーブリー領と王領の境に位置する森だった。
「さぁって、第二王子坊ちゃん、アルミラージはどんな魔獣か知ってるかい?」
「その呼び方はやめろ。バーナードでいい」
ここまでの事をしたのだ。この件が片づけば、自分は廃嫡されるかもしれない、そうなると王族ではなくなるのだから、王子と呼ばれる筋はない。
次代の王には兄上がなる。自分には国を背負うなど到底無理だ。だから何が何でも兄上の命を、将来国を支える者たちの命を救わねばならない。
バーナードはなけなしの知識を総動員して、ドミニクに答える。
「アルミラージは角兎の王と呼ばれている、額に黒い一本角を持つ角兎の上位種で、最終進化形態……そしてリーン王国にしか存在しない希少種だと文献にあった」
ドミニクはまたキヒヒと笑う。
「バーナード坊ちゃん、その文献にアルミラージの絵はあったかい?」
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