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九章 噂と理不尽
188. 星の魔女の助言
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「ということが、あってね。リーナ私と一緒に『えーっ!!!』て叫んでくれる?」
「良いわよ」
朝練の最中、エステラとマグダリーナは一緒に叫んだ。
「えーっ!!!」の叫び声に、なぜか遠くから返事がこだまする。
とーう とーう さっとーう と。
サトウマンドラゴラ秋の陣である。
「それからこれ、リーナの腕輪をバージョンアップさせたもの。主に装飾面で」
エステラはマグダリーナの銀と透明石の腕輪を、銀と真珠がぐるりとついた腕輪に変えた。エアはいつものままだった。
「領民カードと連携もするようになってるわ」
「時計にもなるのね、便利だわ! ありがとう!」
「それからこっちはレベッカの分」
エステラは時計の部分がリボンの飾りになっている、大粒真珠のブレスレット型の腕時計を。レベッカにつける。
「素材は全部、レベッカの為にナードが選んでくれたの。流石の目利きだって、ドーラさんも感心してたわ」
レベッカはエステラに抱きついた。
「嬉しい! エステラお姉様大好き!!」
そしてナードの額にキスをする。
「ナードもありがとう。大好きよ」
くまぁ くままぁぁ
ナードもご機嫌だった。
◇◇◇
その日、騎士科の男子生徒数人、学舎の外の陰で、隠れて泣いている女生徒を見つけた。
「どうしたんだそんな所で。怪我でもしたのか」
ハンカチを握り締め、怯える女生徒はミネット・ウィーデンだった。
「す……すみません」
「中等部の子か、何かあったのか?」
「怪我じゃないなら悩みごとか?」
「とりあえず飴食べなよ。リモネ味好き?」
弱き者を守るためと、よく訓練された騎士科の先輩達は優しかった。
「私……悔しくて……自分が情けなくて……」
ミネットはぽつりぽつりと話しだす。
「うんうん」
「何があったんだ」
「大事な友達が、心ない噂に傷つけられたんです。その噂は嘘の噂だって、学生会の方も証明してくださったのに」
「あー」
どの噂か思いあたって、男子生徒達は目配せしあう。
「彼女はとても明るく優しく、そして勇敢な素敵な女の子なんです。嘘の噂で同級生やお姉様方に心無い誹謗中傷を浴びせられる中、私や仲の良いお姉様方に、巻き添えにならないよう距離を取るように言いました……でも誹謗中傷が止むと、今度はその方々、彼女を無視するようになったんです……」
男子生徒達は推し黙った。
「……やるせないよな。仲の良い友達だったんだよなぁ」
ミネットは黙って頷いた。
飴を持った男子生徒が、ミネットの手に、薄紙で一つずつ包んである、高価な飴を一掴み乗せて握らせた。
「俺たちこんなことしか出来ないけど、元気出して」
「こんな……あの……」
「良いから貰っとけ。そいつお菓子食べ過ぎだから、助けると思って」
「友達と関係が戻るよう、祈ってるよ」
「あの……聞いてくださって、ありがとうございました」
「聞くしかできなくて悪かったな」
「いいえ……いいえ……」
ミネットはお辞儀した。
騎士科の生徒達は、手を振って去って行った。
――これで良かったのだろうか……
『私に話したように、貴女の気持ちを学園の誰かに話して。できれば男子生徒がいい。騎士科あたりの』
星の魔女ことショウネシーの魔法使いに言われ、ミネットは騎士科の生徒の通りやすいここで待っていた。
優しい人達だった。手の中の飴を見て、ミネットは一粒口にする。
「酸っぱい……」
◇◇◇
ミネットと充分離れてから、騎士科の男子生徒達は喋り出した。
「やっべー、やべえよアレ。友達ってレベッカ・ショウネシーだろ? 女子のいじめの陰湿さは聞いてたけど、なんでショウネシーの令嬢に手ぇだすかな」
「青狼の団長を、一騎討ちで降参させた令嬢だわ。この件、あの団長にも伝えとく?」
「それよりお前ら二人とも、自分の婚約者がいじめ側にいないか確認しとかないと、やばいだろ」
「「それな!!」」
「なんで女は感情に走って、突いたらダメな蟻の巣突くかなぁ!」
「マゴーだのの上にあの飛行魔導具やら、ショウネシー嬢が動かしてた謎魔導具やら、武力差歴然としてんのに」
「それに家門の頭は、領地戦に軍師とたった二人で他団を完全制圧した、伝説の血塗れクラッシャーショウだぞ」
「しかもマグダリーナ・ショウネシーの方はエルロンド王国制圧してんじゃん」
「「それな!!」」
一部の家政科女子の、レベッカに対する不当な態度は、瞬く間に学園中の男子生徒に広まることになる。
◇◇◇
レベッカは家計学の授業に向かう為に、席を立った。その隣に、ミネットがすっとやってくる。
「頂き物ですけど、どうかしら? 一人では食べきれなくて……でも、とっても酸っぱいんですの」
ころりと、ミネットはレベッカの手の平に飴を置いた。
「ミネットさん……」
クラス中の視線が集まっている。ヒソヒソと何かを話す声が聞こえた。
ミネットは飴を乗せたレベッカの手を、そっと包み込む。
「もう私、こんなの我慢できませんの。どうか側に居させて。お話ししたいこと、一緒に読んで欲しい御本、他にも色々、いっぱいあるんですもの」
「しょうがないですわね……」
レベッカは涙を我慢して、笑った。
「良いわよ」
朝練の最中、エステラとマグダリーナは一緒に叫んだ。
「えーっ!!!」の叫び声に、なぜか遠くから返事がこだまする。
とーう とーう さっとーう と。
サトウマンドラゴラ秋の陣である。
「それからこれ、リーナの腕輪をバージョンアップさせたもの。主に装飾面で」
エステラはマグダリーナの銀と透明石の腕輪を、銀と真珠がぐるりとついた腕輪に変えた。エアはいつものままだった。
「領民カードと連携もするようになってるわ」
「時計にもなるのね、便利だわ! ありがとう!」
「それからこっちはレベッカの分」
エステラは時計の部分がリボンの飾りになっている、大粒真珠のブレスレット型の腕時計を。レベッカにつける。
「素材は全部、レベッカの為にナードが選んでくれたの。流石の目利きだって、ドーラさんも感心してたわ」
レベッカはエステラに抱きついた。
「嬉しい! エステラお姉様大好き!!」
そしてナードの額にキスをする。
「ナードもありがとう。大好きよ」
くまぁ くままぁぁ
ナードもご機嫌だった。
◇◇◇
その日、騎士科の男子生徒数人、学舎の外の陰で、隠れて泣いている女生徒を見つけた。
「どうしたんだそんな所で。怪我でもしたのか」
ハンカチを握り締め、怯える女生徒はミネット・ウィーデンだった。
「す……すみません」
「中等部の子か、何かあったのか?」
「怪我じゃないなら悩みごとか?」
「とりあえず飴食べなよ。リモネ味好き?」
弱き者を守るためと、よく訓練された騎士科の先輩達は優しかった。
「私……悔しくて……自分が情けなくて……」
ミネットはぽつりぽつりと話しだす。
「うんうん」
「何があったんだ」
「大事な友達が、心ない噂に傷つけられたんです。その噂は嘘の噂だって、学生会の方も証明してくださったのに」
「あー」
どの噂か思いあたって、男子生徒達は目配せしあう。
「彼女はとても明るく優しく、そして勇敢な素敵な女の子なんです。嘘の噂で同級生やお姉様方に心無い誹謗中傷を浴びせられる中、私や仲の良いお姉様方に、巻き添えにならないよう距離を取るように言いました……でも誹謗中傷が止むと、今度はその方々、彼女を無視するようになったんです……」
男子生徒達は推し黙った。
「……やるせないよな。仲の良い友達だったんだよなぁ」
ミネットは黙って頷いた。
飴を持った男子生徒が、ミネットの手に、薄紙で一つずつ包んである、高価な飴を一掴み乗せて握らせた。
「俺たちこんなことしか出来ないけど、元気出して」
「こんな……あの……」
「良いから貰っとけ。そいつお菓子食べ過ぎだから、助けると思って」
「友達と関係が戻るよう、祈ってるよ」
「あの……聞いてくださって、ありがとうございました」
「聞くしかできなくて悪かったな」
「いいえ……いいえ……」
ミネットはお辞儀した。
騎士科の生徒達は、手を振って去って行った。
――これで良かったのだろうか……
『私に話したように、貴女の気持ちを学園の誰かに話して。できれば男子生徒がいい。騎士科あたりの』
星の魔女ことショウネシーの魔法使いに言われ、ミネットは騎士科の生徒の通りやすいここで待っていた。
優しい人達だった。手の中の飴を見て、ミネットは一粒口にする。
「酸っぱい……」
◇◇◇
ミネットと充分離れてから、騎士科の男子生徒達は喋り出した。
「やっべー、やべえよアレ。友達ってレベッカ・ショウネシーだろ? 女子のいじめの陰湿さは聞いてたけど、なんでショウネシーの令嬢に手ぇだすかな」
「青狼の団長を、一騎討ちで降参させた令嬢だわ。この件、あの団長にも伝えとく?」
「それよりお前ら二人とも、自分の婚約者がいじめ側にいないか確認しとかないと、やばいだろ」
「「それな!!」」
「なんで女は感情に走って、突いたらダメな蟻の巣突くかなぁ!」
「マゴーだのの上にあの飛行魔導具やら、ショウネシー嬢が動かしてた謎魔導具やら、武力差歴然としてんのに」
「それに家門の頭は、領地戦に軍師とたった二人で他団を完全制圧した、伝説の血塗れクラッシャーショウだぞ」
「しかもマグダリーナ・ショウネシーの方はエルロンド王国制圧してんじゃん」
「「それな!!」」
一部の家政科女子の、レベッカに対する不当な態度は、瞬く間に学園中の男子生徒に広まることになる。
◇◇◇
レベッカは家計学の授業に向かう為に、席を立った。その隣に、ミネットがすっとやってくる。
「頂き物ですけど、どうかしら? 一人では食べきれなくて……でも、とっても酸っぱいんですの」
ころりと、ミネットはレベッカの手の平に飴を置いた。
「ミネットさん……」
クラス中の視線が集まっている。ヒソヒソと何かを話す声が聞こえた。
ミネットは飴を乗せたレベッカの手を、そっと包み込む。
「もう私、こんなの我慢できませんの。どうか側に居させて。お話ししたいこと、一緒に読んで欲しい御本、他にも色々、いっぱいあるんですもの」
「しょうがないですわね……」
レベッカは涙を我慢して、笑った。
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