ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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十章 マグダリーナとエリック

196. お目が高いのではなく、理想が高すぎる

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「まあ、噂のショウネシーの魔法使いで星の魔女様は、エリックお兄様の意思を曲げるほど、美しいの? 決闘の時はフードであまり良くお顔がわからなかったわ」
 アグネス王女は興味津々でマグダリーナに聞いて来た。

 エリック王子はショウネシー領からの帰り際に「学園のサロンで」と囁いて去った。
 ので、今日の昼食と昼休みは、やんごとなき方々とサロンにいた。

 マグダリーナは深く頷く。
「初めて会った時は、天から舞い降りてきた精霊かと思ったほどです。スライムと一緒に光り輝いていました」

 その言葉にエリックも深く頷いた。
 間髪入れずにマグダリーナは釘を刺す。

「エリック王子、彼女はハイエルフです。寿命がうんと長いので、妃にすると国を乗っ取られますよ」

「…………っ、せっかく理想の少女に出会えたと思ったのに」
 エリック王子は項垂れた。

 マグダリーナが王子に刺した釘を、レベッカが金槌で打つ。

「エステラお姉様が理想だなんて、それはとんでもなく夢見がちで高すぎる理想なのですわ。人族の女性がハイエルフの美貌に敵うわけないのですから、もっと現実をご覧になって? それでも諦められないのでしたら、鏡をよくご覧になって。王子は確かに整ったお顔立ちですけど、ハイエルフの男性には、到底敵いませんわ」

 ヴェリタスとライアンは苦笑いを張り付けたままだ。

 そこにドロシー王女がトドメを刺した。
「大体リーナちゃんで自分では御しきれないと思ったんだから、エステラちゃんはもっと無理よ。やらかしのスケールが違うんですもの」

 その言葉に、ショウネシーに属する者だけでなく、バーナード第二王子も深く頷いた。


「あ、それでこれが脱毛をはじめとする、美健魔法施術のパンフレットです。王弟殿下にお渡し下さい」

 マグダリーナはパンフレットをエリック王子に差し出した。

「いや、マグダリーナ嬢、私が言いたいのは」
「大丈夫です。男性の脱毛実績もありますので、ご安心下さい」
「そうではなく」
「エリック王子もご一緒に脱毛されたいと? いいんじゃないでしょうか。もうじき成人の祝いもありますし」
「マグダリーナ嬢!」

「エリック王子、人の心を弄るような魔法を、私の魔法使いにさせたくありません」

 エリックはハッとして、マグダリーナを見た。

「すまない……だが叔父上の場合は……」
「お気持ちはわかりますけど、王子の時のように寄生スライムがいたとか、物理的な原因があれば兎も角、そうでないなら、まず脱毛しましょう」

「……なぜ毛にこだわる……」
「え? タマちゃんがそれで悩んでるって言ってたので。それにそれなら、私の取れる責任の範囲内ですしね」

 エリック王子は根負けした。
「わかった。私の成人祝いの舞踏会には、叔父上も出席させないわけにはいかない……なんとか体裁を保てるようにしてくれ」

「王弟殿下がどういった状態なのか、私達は知らないのですが、お伺いしても構いませんか?」
 マグダリーナはアグネス王女に聴いた。

「そうね……明るくて冒険好きの叔父様だったわ。剣の腕も強くて、ダンジョンアタックは叔父様の趣味でしたのよ。ダンジョンアイテムは国の資金にもなりましたし、お父様も特にそれを諌めることなどしませんでしたわ。ところが三年程前にあるダンジョンから帰ったあと、叔父様の態度がすっかり変わってしまいましたの」

 ドロシー王女も頷いた。
「自分は女性だとおっしゃって、女性用のドレスや宝飾品を身につけるようになりましたの。そして心の状態がとても不安定におなりでしたわ。時々叔父様のお部屋から、泣き声や叫び声が聞こえますの」

 エリック王子が溜息を吐いた。
「そんな状況だから、仕事にも公の場に出す訳にも行かない……母上は落ち着くまで見守ろうとおっしゃるが、叔父上が会うのは母上とアスティン侯爵だけになってしまって、父上も内心気が気ではないのだ」

(聞くんじゃなかった……)

 マグダリーナは後悔した。思ったより重い話だった。
 ダーモットから話を聞いた時は、いわゆるオネエのような明るいイメージを持ったが、あれは話したのが、のんびりしてるダーモットだったからだろう。果たして、泣き叫ぶ人が大人しく脱毛に応じてくれるだろうか……



◇◇◇



 領に帰ると、ショウネシーのいつものサロンではなく、マグダリーナ達はアスティン家のサロンに集まった。
 施術をお願いするエステラと、ニレルとイラナ、エデンが同席していた。

 事情を話すと、シャロンは穏やかに頷いた。
「きっとブロッサム王妃が説得してくれると思うわ。だからエステラちゃん、彼女をうんと綺麗にしてあげて欲しいの」

 エステラは少し考えて頷いた。
「ヴァイオレットさんを連れて行って、衣装は考えて貰うわ。請求は王宮で良いのかしら」
「エリック王子宛にしてちょうだい」
 マグダリーナは答えた。

 それからエステラは、アーベルに頼んで、現在のダンジョンで出現する魔物について調べて貰った結果を話す。

「精神攻撃系の魔物でも、幻視や幻惑を使う魔物はいても、精神そのものを別人のようにしてしまう魔物は確認されてないそうよ。そのかわり、まれにボス部屋の宝箱で、開けると肉体の性別を変えてしまう罠があるらしいわ」

 マグダリーナは思案した。
「それって……でも王弟殿下のお身体は男性のままなのよね……」

 ヴェリタスはハッとする。
「……確か、王と王弟は母親が違っていて、お二人で王位を争っていたって……そうだよな、母上」

 シャロンは困った顔で頷いた。
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