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十三章 女神の塔
264. 町にスライムもやって来た。
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「慌てずぅ、ゆっくりふーふーして食べてねぇ」
『皆んな、順番に並んで』
リィンの町の役所横公園広場。
ヒラの展開した巨大な錬成空間の前で、木の食器を持ったドワーフ達が数列に並ぶ。
配っているのは、マンドラゴンが育てた栄養と魔力たっぷり野菜と、ダンジョン産お肉と卵が入った、ヒラ特製胃腸に優しいふわとろお米のお粥だ。
お肉は小さく少量。錬成空間の中で圧力をかけて、お年の召した方にも、小さな子供にも食べやすくなっている。
ヒラとモモ、二匹がかりで列を捌いていた。
その少し横では、マンドラゴン達がお肉を焼いて食べている。
マンドラゴン達の肉焼きを、美味しそうに見ているドワーフの青年に、パイパーはピシャリと言った。
「ダメですよ。貴方達、食事は与えられていたとはいえ、ずっとスープだけだったんでしょう? いきなり固いお肉なんて食べて、胃を痛めるつもり?」
「うう……」
正論過ぎて、青年は項垂れた。
そして現在進行形で食器とスプーンを量産しているハラの周りを、木工職人達が取り囲んでいる。
「良い形だ。飾りっ気はないが、姿が美しく、使いやすい。引っかかりもなく、綺麗に仕上げられてる」
「魔法って便利なもんだな」
ハラは手を休めずに答えた。
「ドワーフは物作りのための魔法は使えるはずだから、そのうち皆んなも出来るようになるの」
「本当か?!」
「ダンジョンでスキルが貰えれば、手っ取り早いなの」
……そうして、食後にパンツ一丁こと、「パン一」でダンジョンアタックするもの達が現れたのだった。
帰って来たパイパーから、パン一のことと次第を聞いて、マグダリーナは、遠い目をして「そう……」としか言えなかった。
次にでた言葉は「ヒラとハラとモモは親切よね……」だ。
パイパーも深く頷く。
思えば初めて会った時も、ヒラとハラはマグダリーナとアンソニーに美味しい食事を作ってくれた。主人によく似て、優しく親切なスライム達なのだ。
ドワーフ達の食事はマンドラゴン達に任せてきたが、食器までは気が回らなかった。きっと見かねて三匹でお世話をしてくれたのだろう。エステラにもお礼を言わないと。
パン一をひとまず思考の横に置き、エステラとスライム達に感謝の念を送る。
「それから、大量のスライムが町にやって来ました。ハラ様、ヒラ様の子分だそうです」
「え?」
「ダンジョンで鍛えるためだそうです」
マグダリーナは、首を傾げた。
「従魔の子分って、どういう扱いになるのかしら?」
パイパーも首を傾げる。
「従魔のスライムに呼ばれて、エステラ様もいらっしゃったのですが、流石に呆けていらっしゃいました。子分達の入町料を、従魔様達がお支払いになりましたので、マンドラゴン達は特に問題にせず、お客様扱いしております」
まじか……。魔獣民だけでなく、魔獣客も来るのかぁ。決めなきゃ行けないことが増えそう……。
ショウネシー領は隣のバンクロフト領との取り決めで、二つの領間での通行税は取っていない。これまでショウネシー領を行き来するのは、バンクロフト領の商人くらいだったし、領地の門でも入領税は取っていない。今のところショウネシー領の収入は、領民の所得税と農産物の輸出収入、冒険者ギルドの収入、リオ・ローラとディオンヌ商会からの税収入でやりくりしている。
リィンの町の入場門の番人達は、領民以外から入町料を取る気満々なので、合わせて領の税金を見直す必要があるかも知れない。これに関しては領主のハンフリーと相談が必要だろう……よし、ここの調整は、せっかくだからライアン兄さんを頼ろう。
「お客のスライム分、訪問者カードを発行したの?」
「既に銀行カードをお持ちでいらしたので、そこに訪問者権限を付与しておりました。皆様ある程度鍛えると、また大陸中に仲間を増やしに旅立たれるそうです」
「そう……。そうだとしても、普通……もう、そう呼べないかもしれないけど、普通のスライムが銀行カードを持って、どこで使うの……」
「私も気になったので聞いてみましたが、ヒラ様とハラ様でディオンヌ銀行の機構を利用して、スライム間の情報交換を素早く出来るようにしたそうなのです。ですから、主な使用目的はお金のやり取りではなく、位置情報や通信などに利用されるようです」
「なるほど」
銀行カードはお財布機能付きスマートフォンのようなもの……。現在、人もそういう使い方をしているが、ディオンヌ商会では個人情報は守られるよう、魔法が構築されている。だけど利用者が子分スライムに限って、ハラとヒラに情報が渡るようになっているのだろう。
(スライム保護活動かしら?)
「町中のスライムは、攻撃しないよう呼びかけて、マンドラゴンにも注意してて貰うとして、ダンジョン内の魔物と間違って攻撃されないようにしてあげないと……どうしようかしら……」
「それは心配ありません。スライム用のマントを配っておいででしたから。ドワーフ達も、腕のリハビリだと、マント作りを手伝っておりました」
……抜かりなかった。
「まあ、銀行カードも持ってるなら、ダンジョンアタック後に素材売ったお金で、食べるものくらいは買うわよね、スライムでも。よく食べるって言ってたし。ならお客様ね」
となればあとは、明日のロイヤル三人組みのダンジョン調査が無事に済めば、一安心。
「今日は遅くまでありがとう、パイパー。ゆっくり休んでちょうだい。あとの雑用はマゴーにお願いするから」
パイパーは一礼して退室した。
ああそうだった。ダンジョンの入場権の貸金制度。まず具体的にどうするか決めないと。
ダンジョンの入り口近くに窓口を作ろう。貸した金額の回収は、ダンジョンの番人のマンドラゴン達が上手くしてくれるだろう。明日相談してみよう。
それに各階のホールに、買取窓口兼売店があれば便利かもしれない。回復薬や水や食べ物……あと武器や防具もあれば、無事に帰ってくる人も増えるだろう。
ここら辺は、階層上部を周回しているエステラ達より、ダーモットやドワーフ達の意見も聞いてみよう。
マグダリーナは万年筆を走らせ、ノートにまとめる。
ボス部屋まで行かなくても、一階のスライムドロップ品を、エントランスホールで買い取れるようにしてしまえば、初心者でも貸金の返済をしつつ、次の入場権を購入することも可能なはず。そして何より必要なのは、魔法収納鞄だと思う。ドロップ品を回収して持ち歩きながら魔物倒すって普通にしんどい……これもいくつか用意して、エントランスホールで有料貸出、回収を検討しよう。最悪持ち逃げされることも考慮して、そんなに質の良いものでなくていい。
それくらいの品なら、エステラに頼らなくても、ドミニクが作れるだろう、たぶん。だって、元宮廷魔法師団長だったんでしょ? 国の魔法使いのトップよね。
マグダリーナはノートを閉じて、マゴーの淹れてくれたハーブティーを飲む。
緊張が解けると、瞼が一気に重くなった。
「今日は、色々ありすぎたわ……」
「明日、リィンの町には転移魔法でお送りいたしますので、ゆっくりお休みになってくださいー」
ティーカップを片付けながら、秘書マゴーはマグダリーナを労った。
『皆んな、順番に並んで』
リィンの町の役所横公園広場。
ヒラの展開した巨大な錬成空間の前で、木の食器を持ったドワーフ達が数列に並ぶ。
配っているのは、マンドラゴンが育てた栄養と魔力たっぷり野菜と、ダンジョン産お肉と卵が入った、ヒラ特製胃腸に優しいふわとろお米のお粥だ。
お肉は小さく少量。錬成空間の中で圧力をかけて、お年の召した方にも、小さな子供にも食べやすくなっている。
ヒラとモモ、二匹がかりで列を捌いていた。
その少し横では、マンドラゴン達がお肉を焼いて食べている。
マンドラゴン達の肉焼きを、美味しそうに見ているドワーフの青年に、パイパーはピシャリと言った。
「ダメですよ。貴方達、食事は与えられていたとはいえ、ずっとスープだけだったんでしょう? いきなり固いお肉なんて食べて、胃を痛めるつもり?」
「うう……」
正論過ぎて、青年は項垂れた。
そして現在進行形で食器とスプーンを量産しているハラの周りを、木工職人達が取り囲んでいる。
「良い形だ。飾りっ気はないが、姿が美しく、使いやすい。引っかかりもなく、綺麗に仕上げられてる」
「魔法って便利なもんだな」
ハラは手を休めずに答えた。
「ドワーフは物作りのための魔法は使えるはずだから、そのうち皆んなも出来るようになるの」
「本当か?!」
「ダンジョンでスキルが貰えれば、手っ取り早いなの」
……そうして、食後にパンツ一丁こと、「パン一」でダンジョンアタックするもの達が現れたのだった。
帰って来たパイパーから、パン一のことと次第を聞いて、マグダリーナは、遠い目をして「そう……」としか言えなかった。
次にでた言葉は「ヒラとハラとモモは親切よね……」だ。
パイパーも深く頷く。
思えば初めて会った時も、ヒラとハラはマグダリーナとアンソニーに美味しい食事を作ってくれた。主人によく似て、優しく親切なスライム達なのだ。
ドワーフ達の食事はマンドラゴン達に任せてきたが、食器までは気が回らなかった。きっと見かねて三匹でお世話をしてくれたのだろう。エステラにもお礼を言わないと。
パン一をひとまず思考の横に置き、エステラとスライム達に感謝の念を送る。
「それから、大量のスライムが町にやって来ました。ハラ様、ヒラ様の子分だそうです」
「え?」
「ダンジョンで鍛えるためだそうです」
マグダリーナは、首を傾げた。
「従魔の子分って、どういう扱いになるのかしら?」
パイパーも首を傾げる。
「従魔のスライムに呼ばれて、エステラ様もいらっしゃったのですが、流石に呆けていらっしゃいました。子分達の入町料を、従魔様達がお支払いになりましたので、マンドラゴン達は特に問題にせず、お客様扱いしております」
まじか……。魔獣民だけでなく、魔獣客も来るのかぁ。決めなきゃ行けないことが増えそう……。
ショウネシー領は隣のバンクロフト領との取り決めで、二つの領間での通行税は取っていない。これまでショウネシー領を行き来するのは、バンクロフト領の商人くらいだったし、領地の門でも入領税は取っていない。今のところショウネシー領の収入は、領民の所得税と農産物の輸出収入、冒険者ギルドの収入、リオ・ローラとディオンヌ商会からの税収入でやりくりしている。
リィンの町の入場門の番人達は、領民以外から入町料を取る気満々なので、合わせて領の税金を見直す必要があるかも知れない。これに関しては領主のハンフリーと相談が必要だろう……よし、ここの調整は、せっかくだからライアン兄さんを頼ろう。
「お客のスライム分、訪問者カードを発行したの?」
「既に銀行カードをお持ちでいらしたので、そこに訪問者権限を付与しておりました。皆様ある程度鍛えると、また大陸中に仲間を増やしに旅立たれるそうです」
「そう……。そうだとしても、普通……もう、そう呼べないかもしれないけど、普通のスライムが銀行カードを持って、どこで使うの……」
「私も気になったので聞いてみましたが、ヒラ様とハラ様でディオンヌ銀行の機構を利用して、スライム間の情報交換を素早く出来るようにしたそうなのです。ですから、主な使用目的はお金のやり取りではなく、位置情報や通信などに利用されるようです」
「なるほど」
銀行カードはお財布機能付きスマートフォンのようなもの……。現在、人もそういう使い方をしているが、ディオンヌ商会では個人情報は守られるよう、魔法が構築されている。だけど利用者が子分スライムに限って、ハラとヒラに情報が渡るようになっているのだろう。
(スライム保護活動かしら?)
「町中のスライムは、攻撃しないよう呼びかけて、マンドラゴンにも注意してて貰うとして、ダンジョン内の魔物と間違って攻撃されないようにしてあげないと……どうしようかしら……」
「それは心配ありません。スライム用のマントを配っておいででしたから。ドワーフ達も、腕のリハビリだと、マント作りを手伝っておりました」
……抜かりなかった。
「まあ、銀行カードも持ってるなら、ダンジョンアタック後に素材売ったお金で、食べるものくらいは買うわよね、スライムでも。よく食べるって言ってたし。ならお客様ね」
となればあとは、明日のロイヤル三人組みのダンジョン調査が無事に済めば、一安心。
「今日は遅くまでありがとう、パイパー。ゆっくり休んでちょうだい。あとの雑用はマゴーにお願いするから」
パイパーは一礼して退室した。
ああそうだった。ダンジョンの入場権の貸金制度。まず具体的にどうするか決めないと。
ダンジョンの入り口近くに窓口を作ろう。貸した金額の回収は、ダンジョンの番人のマンドラゴン達が上手くしてくれるだろう。明日相談してみよう。
それに各階のホールに、買取窓口兼売店があれば便利かもしれない。回復薬や水や食べ物……あと武器や防具もあれば、無事に帰ってくる人も増えるだろう。
ここら辺は、階層上部を周回しているエステラ達より、ダーモットやドワーフ達の意見も聞いてみよう。
マグダリーナは万年筆を走らせ、ノートにまとめる。
ボス部屋まで行かなくても、一階のスライムドロップ品を、エントランスホールで買い取れるようにしてしまえば、初心者でも貸金の返済をしつつ、次の入場権を購入することも可能なはず。そして何より必要なのは、魔法収納鞄だと思う。ドロップ品を回収して持ち歩きながら魔物倒すって普通にしんどい……これもいくつか用意して、エントランスホールで有料貸出、回収を検討しよう。最悪持ち逃げされることも考慮して、そんなに質の良いものでなくていい。
それくらいの品なら、エステラに頼らなくても、ドミニクが作れるだろう、たぶん。だって、元宮廷魔法師団長だったんでしょ? 国の魔法使いのトップよね。
マグダリーナはノートを閉じて、マゴーの淹れてくれたハーブティーを飲む。
緊張が解けると、瞼が一気に重くなった。
「今日は、色々ありすぎたわ……」
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